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王子視点 

<ラルフリード・オーガスクレメン>


 婚約者候補を平等に選定する為に、爵位の高い人物からお茶会を開催。

 まず最初に声を掛けたのは公爵令嬢のニルヴァーナ・キャステン。

 爵位のみで考えれば彼女が私の婚約者として一番の有力候補。


「不正?」


 学園入学事前試験において少数の教師と貴族によって不正が行われたことが発覚。

 そこで令嬢も巻き込まれ、貴族として不名誉なFクラスと判定された。

 オーガスクレメン学園は生徒の能力でクラスが決定される。

 学園に通う者は制度を理解しているので貴族平民関係なく上位クラスを目指し、Fクラスの生徒に対しては


『努力を怠った者』


 と周囲から評価されてしまう。

 ニルヴァーナ・キャステンもその一人だった。

 だが令嬢のFクラスは実力ではなく、他者の策略により不名誉を押し付けられていた事が判明。

 令嬢は不当な扱いを受けていたにも関わらず学園に抗議することなく受け入れ、その後の試験で本来の彼女の能力が明らかにし自身の立場を実力で覆した。

 だが、それは彼女が受けてきた不当な扱いの極一部に過ぎず、彼女を注視していくと人格否定の噂や公爵家での振る舞いに関する噂には疑問を持たざるを得なかった。

 令嬢を知れば知るほど不遇な立場で育ったのではないか? と深読みしてしまう。


「婚約者候補の一人として時間を取る」


 それは建前。

 令嬢を誘えるなら、なんでも良い。

 私が王子でも都合によっては断られる事もあるのを念頭にお茶会に招待した。

 だが、内心は断られることは無いと思っている。

 多数の生徒が行き交う廊下で、後ろ姿を見ただけで他の貴族令嬢とは違う気品漂う彼女を見つけてしまった。


「……二……ニルヴァーナ・キャステン公爵令嬢」


 令嬢の名前を呼ぶだけで緊張してしまった。

 声が震えていたのに気付かれただろうか?


「……なんでしょうか?」


「少し話せないだろうか?」


 心臓の音が煩く声が震えてしまう。


「……それはどのような件でしょうか? 誤解を招くような行動は控えたいと思っておりますので、用件によっては私の他に別の令嬢も一緒に同席していただきたいのですが」


 令嬢の今の言葉は拒絶なんだろうか?


「ふぅっ。警戒心が強いんですね。私が令嬢に声を掛けたのは婚約者候補の一人と一度ゆっくり話してみたいからです」


 一呼吸して落ち着かせてから『私の婚約者候補の一人として』と王族を盾に誘った。


「……婚約者……候補?」


 令嬢はパーティーに参加したことがなく、貴族社会に疎い。

 もしかしたら私が『王族』であるのを知らないのかもしれない。


「あっ、令嬢にはまだ名乗っていなかったな。私はラルフリード・オーガスクレメンだ」


「ラル……オーガス……クレメ……王子ぃ? 大変失礼いたしました。ニルヴァーナ・キャステンと申します」


 やはり令嬢は私が王子であるのを知らず、更には自身が王子である私の婚約者候補と言うのも公爵から知らされていなかったようだ。


「いやっ、いいんだ。名乗っていなかった私の失態だ」


 その事実が分かると、自然と表情が緩んでしまう。


「王子とは知らず、先日の無礼な発言申し訳ありませんでした」


「対応に関しては問題ないが、内容には問題がある」


「……はぃ」


「王族が認定した学園でどのようなことがあっても不正は許されない」


「……申し訳ありません……あの時は動揺してしまって……」


 厳しく突き放したような言葉に令嬢が俯いてしまう。

 そんな顔をさせたかったんじゃなく、ただ会話を続けたいという思いから間違ってしまった。


「令嬢について調べさせてもらった」


「……はぃ」


 令嬢を前にすると言葉が上手く出てこない。


「令嬢一人を個人的に調査したわけではなく、私の婚約者候補全員を身辺調査させてもらっている」


 誤解されたくなくて伝える言葉はどうしても言い訳がましくなってしまう。


「……そうですか……あの……婚約者候補というのは……」


「あぁ、令嬢は知らないか。王族主催のパーティーで発表したんだが、私にはまだ婚約者が居ない。だが、そろそろ婚約者を決定する時期に来ている。条件として伯爵家以上の婚約者がいない者は全員が候補となり、学園に通っている三年間を目安としている」


「そう……ですか……それでは、私を候補から除外していただけませんでしょうか?」


 そんなっ…

 私の『婚約者候補』と突然伝えられても困惑させてしまうとは思っていたが、辞退されるとは思っていなかった。


「それは……難しい。なんの接点もなくして候補から除外したとなれば後々異論が出る。そうならない為にも、婚約者候補とは必ず時間を取る事となっている。候補を絞るのはその後となっているので、他者を呼ぶことは出来ないし私とのお茶会を日を改める事はあっても欠席する事は出来ない」


 令嬢の言葉に動揺したが、生まれて初めてじゃないかと思うくらい脳が無駄なく働いた。

 実際には婚約者候補達に対する事は私に一任されているので最低限の条件を満たしていない令嬢を除外することは事前に許可されている。

 私が苦し紛れに説明したような話は一切無いが、尤もらしいことを言い令嬢を強制的にでも引き留める事には成功した。


「こ……れから令嬢の時間を頂けるか?」


 今すぐにでも約束しないと令嬢が逃げてしまうと感じた。


「……はぃ、分かりました」


「ここでは人目もある。移動しようか」


「……はい」


 令嬢の姿をみて、やはり時間を置いたら私とのお茶会は果たされなかっただろう。

 移動中も極端に距離を置く令嬢に、突然消失するのではないかと不安に思いながら何度も確認しつつ歩いた。

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