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お茶会

 既に準備の整った部屋へ案内された。

 断られるという考えは微塵もないのだろう。

 席を勧められ座ると、タイミングを見計らった優秀な使用人により紅茶とケーキが運ばれる。


「令嬢はケーキが好きだと聞いた。喜んでもらえたら嬉しい」


「……ありがとうございます」


 『令嬢』とは私個人の事なのか、令嬢一般を示しているのどちらだろう?

 もし、私がケーキが好きだと思っているなら誰からの情報?

 以前参加したお茶会の時にケーキに関する会話をした。

 それを居合わせた令嬢の誰かが王子に世間話として話したのだろうか?

 それとも、あの中に王子と繋がっている人間がいたとか?


「そんなに警戒しなくても紅茶やケーキに何も入っていない」


 情報源を考えているのを、ケーキや紅茶に毒でも入っているのではないかと疑っていると思われたらしい。

 そんな心配はしていなかった。


「……いえ、そのような心配はしていません」


「そうか」


 王子は私に見せつけるよう紅茶を口にした。

 このまま手を付けないのも失礼かと思い、私も紅茶を頂く。

 何故か王子の口角が上がった気がした。

 まさか、本当に毒が?

 急いで口を放し、カップの紅茶を眺める……

 何も……起きない?

 毒は入ってない?

 

「試験での不正疑惑が晴れ、令嬢と同じクラスになることを期待していたが残念だ」


 ん?

 今なんて?

 毒の事で頭がいっぱいだったよ。

 えっと……同じクラスになるとか言った?

 確か再試験を受けた時に


『Aクラスへの異動も考えている』


 先生方は話していたが、密室での会話だ。

 誰かが漏らさない限りあの場にいた者以外知らないはず。

 聞き耳立ててたの?

 ……それはないか。

 権力を使ったのだろう。

 不正は許さないが、自分への特別扱いは許すと言うことか?

 結局王子は自分に甘い人間だというのを理解していない。

 過去の私は盲目的に彼に縋り付いていたが、今はもうなんの魅力も感じない。


「私のような人間がAクラスだなんて烏滸がましいですから」


 本音は、『貴方と同じクラスはお断りです』よ。

 もしそうなったら、ローレルが煩いもの。

 今の快適なFクラスを手放すわけがない。


「そんな事はないっ。クラスは実力で……決まるもの……だ……本来は……」


 王子は勢いよく熱く語るかと思えば、尻すぼみになり最後には消え入りそうに訴える。

 不正により本来のクラスではないクラスで受けている生徒は数名いる。

 その全てがFクラスに集結。

 今回の調査で分かった事。


「例外はあります……何事も」


 以前彼が知りたがっていた『例外』の答えがここにあると私は思う。


「……私も知らなかった……令嬢の件があって現状を知った……」


 王子としては不正を否定したかったのに、不正が立証されてしまった。

 『皮肉ですね』と喉まで来たが堪えた。

 不正を行ったのは教師であり王子ではない。

 それに、王子は今年入学したばかりで不正に気付くことは難しいだろう……

 ん? 

 なんで私はこの男を擁護しているんだ?

 バカらしい…


「光あれば影が出来るように、どこにでも犯罪は有ります」


 貴方がいずれ治めるこの国に、決して犯罪は無くならない。

 何故なら一方の意見しか聞かない貴方が次期国王だから。


「……なくならないと?」


 王子が何をそんなに傷ついているのか私には理解できない。

 もしかしたら王子は皆が事前に準備し汚いものを排除した世界が本物だと本気で思い込んでいるの?

 過去周囲の言葉を疑うことなく簡単に信じていたように、大多数が準備したものが真実なんだと疑わないのだろうな……


『一度死んだら価値観変わりますよ。一度死んでみてはいかがです?』


 こんな言葉しか思い浮かばない私が必死に『婚約者候補から除外してください』とお願いしなくても選ばれることはないわね。

 こんな私を選ぶようじゃ、人を見る目無さ過ぎだもの。

 深刻に考えていたのがバカらしくなり、目の前のケーキに手を伸ばす。


「令嬢は……今の立場を変えたいとは思わないのか? 令嬢の母は決して娼婦などでは……僕と婚約すれば……」


 今、婚約と言った?

 この男は弱い立場の者を守ることで自身が頼りになる存在なんだと浸りたいの?

 過去、私に虐げられていると吹聴した義妹の言葉を鵜呑みにして私を断罪したくせに……

 あんたなんか、頼る訳ないでしょ。


「お断りいたします。王子にはどう見えているのか存じませんが、これは私の戦いなのです。お関わりにならないよう願います」


 私は王子の虚栄心を満たすために利用されるつもりは無い。

 あなたの存在は私にとって『邪魔』でしかないと宣言し、はっきりと婚約者になることは『ない』と完全にお断りした。

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― 新着の感想 ―
いっぺん死んでみる?
彼女の母親が亡くなってから父親だけでなく、母親の実家も彼女を孫ではなく、大事な娘を殺した敵認定しているのかしらね。やり直し前でも関わっていなかったようだし。 そして義兄と義妹は公爵家とは血の繋がりは…
楽しく読ませていただいてます。 主人公に、誰も実母さえも、味方がいないのが悲しいです。
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