結果
「終わりました」
全ての問題を解き終え、教師に答案用紙を渡す。
私が解いている瞬間も不正は見逃さないと言わんばかりに教師達は私を監視していた。
集中が出来ない中だったが、なんとか最後までやりきった。
「採点する」
この場にいる者は、私が無能であってほしいと思っていたのだろう。
不正を行い本来Eクラスの者がFクラスにされていたのであれば、翌年本来のクラスにすれば不正は誤魔化せただろう。
だが、今回は誤魔化せるレベルではない。
本来首席の可能性がある者をFクラスにしたという事実が判明すれば、卒業生からも自分の成績は不正が行われたんじゃないかと抗議されかねない。
特に学園の成績上位者にしか試験資格の下りない王宮官僚。
資格を得られなかった者もだが、就職した者にも関係してくる。
試験に不正があったのか公になれば、学園の信用は失墜する。
そうあってはならないという思いから、教師達の用意した問題は嫌がらせではないが入学して間もない一年生には難しい問題に感じられる。
それでも三年間必死に勉強してきた過去の記憶がある私には関係のないこと。
「……これは……」
「どうした?」
「………何と言う事だ」
採点の終えた私の答案を教師達は食い入るように見つめる。
彼等の予想は出来たとしても半数解ければ良い方だと思っていただろう。
「あの……どうでした?」
気まずい雰囲気を出しながら教師は採点を終えたばかりの答案用紙を私の目の前に置く。
「あぁ……間違えちゃいましたね……」
私は一問、間違ってしまった。
五十問中、一問不正解。
その事から、今回の試験順位は正しく私がFクラスに在籍している事が間違っていると証明された。
『さて、どうします?』
今回の私の試験結果を発表すれば学園の汚点となる。
私の試験結果に不正が無いのは証明されたのに、なかなか口にしない三人。
助け舟を出す事に。
「今回の試験結果を発表する必要はありませんよ」
私の提案に答案を見つめ頭を抱えていた三人の視線が一斉に私へ向く。
「……いやっしかし……」
「私が再試験を受けたのを知っているのは三人だけです。皆さんが黙っていれば問題ありません」
「それでは君の名誉が……」
「それに関してはもとから私に名誉はありませんので問題ありません。それよりも今回の試験では、私ではなく義妹のローレルが一位だったことにしていただけないでしょうか?」
「……それは、我々に不正しろということか?」
「そうなってしまいますが、全て丸く収めるにはそれが一番かと」
「ローレル・キャステンはEクラスに近いDだ、そんな人間を首席には出来ない」
「ですが一位を抹消し順位を繰り上げてしまえば、周囲は私が不正したと勘違いします。だからと言って私が一位のままだと学園側は事前試験のクラス決めでも不正があったことが明るみに出てしまいます。そうなれば学園の信用問題にもなります。もしかしたら、卒業生達が抗議し、寄付金の返金を要求されるかもしれませんよ? 信用を失うなら少しでも傷を浅くする方がよろしいのではありませんか? 今回の失態は『姉妹の答案が入れ替わってしまった』と発表すれば、クラス決めも試験も故意ではなく不注意となり『今後はその様なことがないよう徹底します』と説明すれば貴族からの反発は少ないかと」
教師達は学園の名誉の為に不正の提案を受け入れるのだろうか……
『生徒を教え導く貴方達は、なんて答えを出すのかしら?』
「……いや……それは……」
私の提案を即断することは出来ず、決め兼ねている。
もう一息?
「公爵家とはいえ、私は『娼婦の娘』です。紛い物が首席になるより、生粋の貴族が優遇され首席となっていた方が学園が誰を大事にしているのか一目瞭然。過去に優遇されていた者も後ろ指を指される事は少ないかと……」
「……君は……公爵家でもそのような扱いなのか?」
「『そのような』の意味は分かりませんが、私のような存在が目立つようなことはあってはいけません」
「……今回の試験結果次第では、ニルヴァーナ・キャステンをAクラスに異動させるという意見もある」
「それは……お断りさせていただきます」
「……自身の実力で今の立場を変えることが出来るんだぞ?」
「そう出来る方もいらっしゃると思いますが、私の場合はそれは正しい選択ではありません。私は自身の安全を第一に、無事に学園を卒業することを目標にしております」
教師三人は私の置かれている状況が予想よりも劣悪だと受け取り、それ以上Aクラスへの異動を勧める事はなかった。
「……わかった。この件はもう少しこちらで預からせてもらう。今回の試験でニルヴァーナ・キャステンが不正を行った事実はないと確認した」
「……はい」
「もう、帰って良い」
「はい、失礼します」
私への再調査は終わった。
さて、どうなるだろうか?