不正調査
あれから私たちは試験結果には触れず、表面上は穏やかに過ごしている。
「ニルヴァーナ・キャステン」
「はい」
「以前提出してもらった……」
多くの者は早く事実が知りたいようで、私が教師に呼ばれるだけで反応する。
試験の不正は私の調査なのだが、Fクラスの人間は自身と重ね合わせている。
『自分達も本来は違うクラスだったのではないか?』
『本来Fクラスになるべき者が金で成績を買ったんじゃないか?』
憶測が出回っている。
王子がいくら口止めしても、Fクラスの人間だけは止められなかった。
放課後。
「ニルヴァーナ・キャステン」
「はい」
「話がある、学園長室まで来るように」
教室にはまだ数名の生徒が残っている中、教師に呼ばれた。
どんな内容で呼ばれたのかは一切口にしていなくとも、教師の張り詰めた様子から何の話なのか察したのは私だけではなかった。
教師に案内されるまま学園長室に出向くと、中には学園長と学年主任の姿。
「こちらに座りなさい」
私と一緒に来た担任が空席のソファに私を進める。
既に一人席には学園長が、三人用の長椅子には学年主任が座っていた。
私は反抗する気もないので進められるままソファに座ると、担任も学年主任の隣に座る。
「ニルヴァーナ・キャステン。今回ある生徒により試験の不正があると報告があり調査を行った。教師側に調査を行った結果、教師の数名が貴族から金銭を受けとりクラスの変更や順位、成績の不正をしていた事が分かった」
学年主任が調査結果を報告する。
「……はい」
「だが、君が不正に関わった事はどの教師も否定している」
「はい。不正などしていません」
それはそうだろう。
私は誰にも不正など依頼していないし、公爵も私の成績など興味もない。
クラス決めの時の事前試験はわざと手を抜き、今回の試験は何も考えず解いていただけ。
「こちらとしても不正を疑いたくないが、事前試験での結果と今回の試験結果では実力に大きな差があるのは確かだ。どちらの結果が君の実力なのか私達には判断要素がない」
「そうですね」
「教師が不正に手を染めた証拠はあるが、君は不正していない証拠もないのが現状。君にとっては不本意に思うかもしれないが、今回の疑惑を晴らす為に再試験を今ここで受けてもらえないか?」
私がいくら不正はしていない、事前試験では手を抜きましたと言っても難しいのは分かる。
実力を見極めるには再試験が手っ取り早い。
事前に告知してしまえば、どこかに免れた不正仲間から情報を得ているかもしれない。
教師達は、秘密裏に今回の再試験を計画したのだろう。
「……はい、構いません」
「そうか」
学年主任が立ち上がり、学園長の机に事前に準備されていた問題を手にして私の前に置く。
インクとペンも用意され、私は鞄を開けることさえ許されず教師達からは
『カンニングなど一切許さない』
鋭い視線を受ける。
怖い顔の教師なので、余計怖い。
問題を確認しペンを握りながら考えた。
ここで私が問題が解けず公爵が娼婦とは言え娘の為に『不正』したと思わせるか、私が確り問題を解き試験結果には不正はなかったと証明するか。
どちらがあの男への復讐になるのか考えていると、ふと教室に残っていた生徒を思い出した。
Fクラスというだけで不当に扱われている彼らは私の試験結果を信じている。
自分達は誰かの不正によって苦しめられていたんじゃないかと……
私がここで良い点数を取ったところで彼らの成績が良くなることはないが、彼らへの対応に変化があるかもしれない。
人助けなんて興味ない……
ただ……努力しても認められない苦しみは知っている。
それに、あの頃は自分の事で必死で周囲の事を全く知らなかった。
学園が苦しいと感じていたのは、私だけではなかったんだ……
「ふぅぅ……」
深呼吸をしてから、私は自身の実力を隠すことなく問題に取り組んだ。