掲示板
『この結果は本当なのかしら?』
『信じられないわ』
『あの方、Fクラスですよね?』
『ちょっとっ』
掲示板へと向かうと、私に気が付いた人物から口を閉ざしざわめきが消えていく。
その雰囲気が伝わり、私が掲示板に到着した時には静まり返っていた。
ローレルの言葉を安易に信じることは出来なかった。
過去の私は一位になるべく寝る時間を削って勉強に励んだ。
それでも一位になることは出来なかったのに、今回の私は意地でも授業以外で勉強することを避けていた。
そんな私が一位になるなんて信じられない。
掲示板を確認すると、信じられないことに一番最初に私の名前が記されていた。
三年間願い一度も叶うことのなかった一番上に私がいる……。
「……本当に……」
つい、本音が漏れてしまった。
「今すぐに先生方に謝罪しに行くべきですよ。不正は許されない行為です」
ローレルはこの場にいる全員が自分と同じ考えであると判断し、先程よりも強気な姿勢で私を糾弾する。
あなたがそういうなら認めてあげる。
「……えぇ。これはおかしいわ……」
「や……やっぱりお義姉様は不正したんですね」
ローレルは自分より下にいるべき私が上にいるのは『不正』をしたからだと分かると、満足そうに笑う。
「私のような人間が一位として発表されることは許されないのに……」
「……はい?」
「この順位は訂正してもらうわ。でないと……公爵様が学園にどんな圧力を掛けるか分からないもの……」
私はわざと怯えた様子で告げた。
「……何を言っているの? 不正したからこの順位なんでしょ?」
訳が分からないといった表情でローレルが詰め寄ってくる。
周囲も話が噛み合っているようで噛み合っていないことに困惑していた。
「えぇ、順位は不正されるはずだったのに……」
「だから、不正されてるじゃない」
「されてないから驚いているんじゃないっ……こんな……こんな……だめよ……だめ……私は最下位じゃないと許されないのに……」
私が掲示板の発表を見て震え動揺し混乱する演技を見せると、周囲にも私の意図が伝わったのか会話が聞こえた。
『もしかして……この順位は事実ということ?』
『いや、でも令嬢はFクラス……』
『キャステン公爵がそうさせたんですよ、きっと……』
『何故そんなことを?』
『だって、ニルヴァーナ様は……』
そこまで話したのだから私が『娼婦の娘』だと言ってしまえばいいのに。
そこは私を気にしてなのか、令嬢として『娼婦』という言葉を口にしたくないのか、令嬢は言い淀む。
私が入学式やパーティーで何度も繰り返し口にした『娼婦の娘』という言葉が役に立った。
「どうしよう……どうしよう……どうしよう……」
私が冷静さを失った姿を見せると、皆がキャステン公爵家の内情を察する。
「……嘘よっそんなの。お父様はそんなことしないし、お義姉様が私よりも優秀なわけないわっ」
皆の考えを否定するようにローレルが叫ぶ。
「そっそうよ、ローレル様が一位になれば良いのよ。私とローレル様の答案が間違ってしまったと言えば公爵様もきっと納得するわ。それに、まだこの結果は外部には漏れていないもの。皆さんが協力してくだされば問題ないわ。ねっ、そうしましょう。一位がローレル様で私がローレル様の順位になればいいのよっ」
ローレルの両肩を掴み至近距離で突拍子もない提案をした。
私の気迫に、ローレルは圧倒され冷静に判断できない様子。
周囲の生徒も混乱し理解より先に私達姉妹がこの後どんな結論を出すのか待ち構えていた。
私が堂々と宣言したのは『不正』の提案。
『皆さんに協力』という事は、この場に居合わせ経緯を知ってしまった者は否応なく捲き込まれる事を意味している。
私達姉妹の不正を黙認するのか、教師に報告するのか。
不正を黙認したとなれば、共犯とは言わないが口をつぐんだことで何らかの処罰があるかもしれない。
教師に報告した場合、報告したのが自身だと公爵の耳に入った時どうなるのか……
報告をしなくても、誰かの報告で自身に疑いをかけられ目を付けられるのではないか……
そうなった場合どうなるのか。
以前ローレルによって追放された貴族と同じ末路を辿ることも……
傍観者達は、自身の行く末に頭がいっぱいだろう。
「へっ……それ……は……」
今のローレルは頭の中は
『私が一位になれる? けど、そんなことをして本当に良いの?』
と、混乱しているのだろう。
興味本位で見物に来ただけで、巻き込まれてしまった生徒もローレルの答えを待つ。
彼等の運命はローレルが握っている。
『さぁ、ローレル。貴方の答えは?』