楽しいお茶会
「…私としたことが、どうぞお座りになって」
彼女達は私を不当な扱いをして侮辱したかったのだが、私が無知な対応を見せるので通じていないことに不満を感じている様子。
私としては無知って最強なのかもしれないと感じ、自分の作戦に満足していた。
「どうもっ」
優雅になど座らず、席に着いた途端テーブルに肘を着き手のひらで頬を包み込むように座った。
昔、ローレルがよく王子に見せていた姿。
淑女にはあるまじき姿勢だと思っていたが、まさか自分が実践する日が来ようとは思わなかった。
彼女達の顔を引き攣らせ不快にさせるのに効果があったので、過去のローレルに感謝する。
テーブルには見た目も楽しめる可愛らしいケーキが準備され、タリベルが紅茶を注ぐ。
貴族であっても、爵位が高い者からしたらタリベルは使用人扱い。
タリベルの方も『使用人扱い』されているという感覚ではなく、高位貴族に奉仕できる役割を『任されている』と自負している様子。
本人が喜んでいるのを私はひねくれた目線で見るようになってしまっていた。
「美味しそうなデザートですね?」
うっとりするような視線でアフタヌーンティースタンドに盛られたケーキやお菓子を眺めた。
「えぇ、令嬢は召し上がったことがないかも知れませんね。お好きな物を頂いてください」
「デザートは貴族の方が召し上がるものなので、私のような公爵家の下賤な人間が頂くなんてできません」
令嬢にとっては嫌みだったのだが、謙遜を通り越した私の発言に令嬢達の表情が引き攣る。
「……キャステン様はその……」
「私の事はニルヴァーナと呼んでください。キャステン公爵と同じように呼んでしまったら皆さん公爵様に叱られてしまいます。私は娼婦の娘ですから、可能な限りキャステンとは名乗らないようにしております。んふっ」
私が公爵に疎まれている事や、キャステン家の一員のような発言をすれば公爵に『叱られる』のが日常だとそれとなく伝える。
貴族であれば『叱る』事が、ただの忠告で終わらないのを理解している。
相手の爵位が高ければ尚更。
私の一言に不穏を感じ取る令嬢達。
「……その……娼婦……と……名乗るのは……如何なもの……かと……」
貴族令嬢であれば『娼婦』と呼ばれるのは罵り侮辱の意味があり、同じ貴族として貴方を認められない・認めたくないという意思表示。
他人に言われることはあっても自ら宣言することはない。
予想に反した私の言動に令嬢達は困惑。
主催者であるモリアンナも、今の会話が公爵の耳に入った時の事を想像し侮辱するために呼んだ私を窘める。
「事実は変えられません。受け入れるしかないんです」
「……貴方は……貴族令嬢よ……事実であってもおいそれと口にして良い内容……ではないわ」
私が堂々とした姿勢を見せれば見せるほど令嬢達が挙動不審になる姿が面白い。
「私のような如何わしい出生にも拘わらず心優しく接してくださるモリアンナ様には感謝しておりますが、今回の事が公爵に知られてしまえばモリアンナ様が被害を被ります。あの方は私を認めませんし、私を認めた者を認めません」
今まで愚かさを装っていた私が姿勢を整えまともな発言をしたことで、令嬢達は視線が釘付けとなり次第に幽霊でも見たかのように表情を硬直させる。
「私が今回モリアンナ様のお茶会に参加した事は誰にも口外いたしません。由緒正しきモリアンナ侯爵令嬢が下賤な身から生まれ落ちた女をお茶会に呼んだとなれば、モリアンナ様の名誉に関わりますもの。勿論……この事は公爵様にも報告などするつもりはありません。ですので皆様も今日の事は口外しない方が身の為です」
「……はぃ」
言いたいことだけを言い、私は席を立つ。
去り際には令嬢として基本中の基本、カーテシーで挨拶をすれば令嬢達も立ち上がり同じように挨拶をし見送られた。
バタン
「……怖かったぁぁぁぁぁ」
扉が閉まった瞬間、壁に手をつき寄りかかった。
今も心臓がバクバクしている。
一度死んだが、簡単に性格が変わることは無い。
沢山の人は怖いし、会話もうまくできたのか思い出せない……
フラフラとしながらも、急いでこの場を離れなければと歩く。