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初日

 Aクラスから講堂を出て教室へ向かって行き、私達Fクラスは最後まで取り残され疎らに戻って行く。

 過去の私はFクラスの人間がこんな扱いを受けているとは全く知らなかった。

 教室に戻る最中もAクラスBクラスの前を通りすぎれば見世物になったように視線を集める。

 Fクラスに辿り着き席に座るも、平民と貴族は相容れないのかお互い距離をとり出方を伺っているように見えた。


「私がこのクラスの担任だ。今から学園について説明する」


 程なくすると教師が現れ、学園についての説明がされていく。

 学園初日の今日は、式と学園の説明そして一人一人の自己紹介となった。

 初めて見る人達ばかりなので知らなかったが、Fクラスには平民と下位貴族のみで高位貴族は私だけだった。


「私はニルヴァーナ……キャステンと申します。よろしくお願い致します」


 私が名前を名乗ると数人だけが驚いた表情を見せた。

 あのパーティーで私の存在を誇示したつもりだったが、参加した全員が私の顔を確認できたわけではない。

 私が名前を名乗るまであの事件を起こした張本人が私だと結び付いていなかった様子。

 当然ながら平民にも『娼婦の娘の公爵令嬢』というのは伝わっていない。

 数人の貴族が驚いている事にも気付かないし、気付いていても何に対して驚いているのか分かっていなかった。


「それでは今日は終了。一日でも早く学園に慣れるように」


 その後も自己紹介は問題なく進み、明日からの授業説明に入り今日が終わった。

 静かに帰り支度を済ませていると、私を遠巻きにしながらも監視しているのが分かる。

 事情を知らない平民は貴族に安易に近づく事はなく目を付けられる前に教室を後に。

 残っている貴族は、公爵家の人間とお近づきになりたい下心はあるものの『娼婦の娘』というのを悩んでいた。

 高位貴族であればあるほど純血を重んじるので、愛人という立場さえ不快でしかない。

 更には娼婦となれば価値は低い。

 喩え相手が公爵家であっても。

 貴族達は、私が公爵家ではどのような立場なのかを見極めている様子。

 それによっては、距離を置くべきか親密になるべきかを判断するようだ。

 私は彼らの思惑に気が付かないフリをして教室を出た。


「……お義姉様っ」


 聞き覚えのある声に足を止め、振り向けば義妹のローレルが胸の前で手を組み待ち構えていた。

 普段私の事など見向きもしないローレルが私を呼び止めるなんて、何か企んでいるに違いないとしか思えない。

 淑女教育をまともに受けている令嬢であれば、廊下であんな大声をあげたりはしない。

 だが、彼女は周囲の視線を集めるように佇んでいる。


「お義姉様がFクラスだなんて信じられません。あんなに努力していたのに……私がお父様にお願いすれば同じクラスになるようにしてくださいますよ。公爵令嬢であるお義姉様もFクラスだなんてお辛いでしょ?」


 この発言でローレルの考えが読み取れた。

 公爵令嬢がFクラスであるのを周囲に知らしめたい。

 それだけでなく姉よりも義妹のが優秀であるのをそれとなく広めること。

 義妹が願えば公爵は叶えてしまう程、私よりも義妹を優先していると周囲に宣言したかったのだ。

 ここで私が彼女の提案を受け入れてしまえば権力を使った不正の目撃者に。

 私がFクラスからの変更を願えば『Fクラスの人間』を下に見たことになる。

 義妹は私がFクラスを『見下している』と印象操作したいのだろう。


「ローレル様」


「はい」


 私がローレルを呼ぶと、彼女は私がなんて口にするのが楽しみで仕方がないように期待した表情で目を輝かせていた。


「私を学園で『お義姉様』と呼んではいけないわ。『娼婦の娘』が姉だなんて知れ渡れば、あなたの立場を悪くします。公爵様がその事を知ったら酷く嘆くはずよ。それに公爵様が決定したクラスに私達は決して口答えしてはダメよ。素直に従わなければならないの。それと今後は学園でも私に話し掛けてはいけないわ。公爵様は私の存在をよく思っていないから……」


 彼女の主張を尊重しつつ、私もそれとなく意見を織り込んだ。

 Fクラスの反応からいつかは私が『娼婦の娘』と宣伝しなければと思っていたのでローレルの絡みは願ってもなかった。

 当初の目的通り私が『娼婦の娘』と宣言する事が出来、私達のクラスは実力ではなく公爵の采配によるものに出来た。

 そして『話し掛けてはいけない』というのは、彼女の立場を尊重しつつ煩いから私に『話しかけるな』と遠回しに彼女に伝える事に成功。

 正しく彼女に伝わったかは分からないが、彼女を利用し公爵家での私の立場を周囲に伝えた。

 私の返しがローレルの予想の選択肢に無かったのか、彼女は目を見開き言葉を失っている。


「ローレル様、早くお義兄様と帰らないと公爵様が心配するわ。私と会話したことは決して公爵様に知られないようにね」


 彼女を心配しつつ反論させないよう私は彼女の背を押し『帰りなさい』と急かす。

 ローレルは困惑し何度か振り返るも去っていき、彼女の背中を見送ってから私も歩きだす。

 この後、私達の会話を聞いた生徒がなんて噂するのか。

 馬車の中で考えていたら笑いを堪えられなかった。

 明日が楽しみでしかたがない。

 学園を楽しみに思うのは今回が初めてだ。

 屋敷に戻ってもあの男が騒ぐことがなかったので、ローレルは私が言ったとおり公爵になんの告げ口もしなかったのだろう。

 私は一人、食事を済ませ休む。

 学園初日は無事に終えた。

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