惨めな人生の終わり
「……ゴホッゴホッ……ヒュッ……ヒュッ……」
どうしてこうなってしまったのか……
私はそんなに悪いことをしたのだろうかと薄れ行く意識の中で自問自答するも答えはでない。
目を閉じ思い出すのは哀れで惨めな人生。
あんなに頑張ったのに何故父は認めてくれなかったのか……
どうして私を愛してくれなかったのか……
生まれた私が悪いのか……
私だって、生まれたくて生まれた訳じゃない。
そんなに危険な出産なら嫌われてでも出産を止めさせれば良かったんだ。
憎むぐらいなら、とっとと殺せばよかったのに……
『お父様……お母様の命を奪って産まれた私が、そんなに憎いですか?』
父に愛されたくて努力した。
マナーに厳しい侍女に礼儀作法を学び、独学で勉強に励み学園の試験では常に上位を維持し続けた。
認められたく必死に頑張るも、父の視界に入れば憎しみの目を向けられる。
私は最後まで父の娘にはなれなかった。
「旦那様は人付き合いが苦手で、お嬢様に対してもどう接して良いのか分からないんだと思います」
幼い頃から誰よりも私の側にいる侍女の言葉を信じ、私から父に朝の挨拶や誕生日には一生懸命考えプレゼントを贈っていた。
一度も反応してもらったことはない。
それでもいつか分かってもらえる、振り向いてくれると信じ続けた。
「お義母……様?」
だけどある日、父は新たな家族を屋敷に招いた。
複雑な感情ではあったが、私に拒否権などはなく家族の報告を受ける。
新たに出来た家族の存在。
それでも何かが変わることは無いと思っていた。
私の知らない光景が私を追い詰めていく。
幼い頃から父と共に過ごすことはなく、食事は一人で済ませるもの。
それなのに、父は新たな家族が訪れると共に食事をしていた。
それだけでなく、新たな娘と腕を組み庭の散歩。
別日には家族四人、一つの馬車で出掛けるのを目撃した。
「どうして……」
私の知らない父がいた。
「……ヒュゥッ……ヒュゥッ……」
まともに呼吸が出来ない程苦しく、私はもうすぐ死ぬんだと思った時に父の言葉を思い出した。
『不愉快だ。これを二度と私に近付けさせるなっ』
父は確かに私を睨み付けながら言った。
ようやく私は、父に憎まれていた事を思い出した。
何故今まで忘れていたのか……
非情な言葉を投げつけられたあの時、父の言葉に衝撃を受けたショックで熱を出して三日間寝込んでしまった。
そして目覚めた時には、都合よく父の言葉を忘れていた。
「……バカみたい」
あんな男に『認められたい』『愛されたい』と願い必死に努力し続けた時間は無駄でしかなく。
私が父に恨まれたのは、母の命を代償にして生まれたから。
父は母の命を奪った私の事を許すことはなく、生涯憎み続けるのだろう。
私さえ産まなければ母は産後体調を崩すことなく亡くならなかったし、今も父と二人で幸せな日々を過ごしていたに違いない。
「産んでほしいなんて願ってもない。あんな男を選ぶような人間が私の母じゃなければ、私の人生はもっとましだった……」
私はひたすら顔も知らない母に対して、頭の中で悪態を吐き続けた。
父ではなく、私を生んで無責任にも死んで逃げて行った女に恨みをぶつける。
父でなく母を恨むのは、こんな状態でも父に『愛されたかった』と何処かで望んでいたのかもしれない。
もし、やり直せるのならあんな男に『認められたい』『愛されたい』なんて思わない。
父が私を娘だと認めないのなら、私もあの男を父だと認めない。
今ならあの男の望むように振る舞ってやるのに……
「ねぇ、お母様……一度くらい娘の願い……叶えてよ……」
私の願いは誰にも届かないと分かりながら目を閉じ、走馬灯のようにみすぼらしく憐れな過去が駆け巡る。
「私なんか……生まなきゃ良かったのに……もう……早く……死にたい」