そんな過去もありました
今、私は宝物庫を見学しに来ている。
ここは過去の私には入室が許されなかった場所。
私は公爵夫人から贈られたドレスがどんなものなのか気になって訪れたわけではない。
卒業パーティー後に追い出された時、金貨と同じ枚数分のパンしか買えなかったのを思い出し、逃亡資金として持ち出しやすく高価なものを探しに来た。
宝石を初めて見る私にはどれが値打ちのあるものなのか全く分からないが、きっと大きいものが高価なはずと物色している。
「……ん?」
沢山の宝石や絵画がジャンル分けされ整然とあるなか、ある一角だけが目についた。
絵画と宝石が一緒くたに置かれているが整理されている。
近付き絵画を確認すると、描かれている人物が私によく似ている気がしてならない。
「……お母……様?」
母の顔を初めて見た。
なら、ここに置かれているのはお母様が生前使用していたもの?
他の宝石とは区別し保管されているのを見ると、人一倍思い入れがあるのが伝わる。
この宝石を売ればあの男は苦しむだろうし、私としても追い出された後の当面の生活費は賄えるはず。
「卒業式の前日に頂こう」
今後の資金も決まったので、宝物庫を後にする。
「おいっ」
追い出された後の資金も目星が着いたので普段より上機嫌で廊下を歩いていると不機嫌な男に呼び止められた。
「……ふぅぅ……何か?」
振り返れば、ベネディクトが仁王立ちして私を睨んでいる。
「……お前、いい加減にしろよ」
「……何をですか?」
「お前の我が儘が原因で家族に迷惑掛けてんの直せよ」
「……迷惑?」
「食事も俺達と一緒にしたくねぇとか、ドレスも気に入らねぇとか……公爵令嬢として育った奴には当たり前かもしんねぇけど、端から見れば全部我が儘だからな」
誰から聞いたのかは知らないが、その言葉を鵜呑みにして私を責め立てている。
「……我が儘を言ったつもりはありませんが?」
「はぁ……周りは迷惑してんだよ」
ウンザリって態度を見せるが、それは私も同じだ。
「誰にどんな風に聞いたのかは知りませんが、私は家族の食事を邪魔したくはありませんと断り、ドレスに関しても貴族のパーティーに招待されることのない私には不要と伝えたのです。伝えていくうちに言葉が変わることは良くありますから気にしないでください」
「……そうやって自分は悪くないって言い方してるけど、分かってんだよ。全部お前の我が儘だって。俺はお前に何かするつもりはないが、母さんとローレルに何かしたらその時はただじゃおかないからな」
彼は私の返事を聞かずに去っていく。
「はぁ」
折角資金の目処がつき気分が上がっていたのに、奴の登場で一気に気分が悪くなる。
確か、過去も似たような事を言われたのを思い出す。