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お義母様

 何度も誘いにくるかと身構えたが、私が家族と食事をと言われたのはあの一度だけ。

 身勝手なもので、誘われたら『断る』と決めていたのに来ないのは来ないで寂しい。

 どんなに悪足掻きしたところで、私という存在は彼らにとってはその程度なのだと実感してしまう。


 コンコンコン


「はい」


「応接室で奥様がお待ちです」


「……奥様?」


 何故あの人が私を?

 しかも談話室ではなく応接室?

 前回の記憶ではあの人に呼ばれた事はなく、驚きのあまり使用人と同じ様に『奥様』と呼んでしまった。

 あの男であれば拒絶するが、あの人の考えは分からない。


「……行ってみるか」


 応接室へ向かう。


 コンコンコン


「はい」


 応接室にいる人物の許可を得てから入室する。

 扉を開けて部屋を確認すれば、お義母様だけでなくローレルの姿もあった。


「何でしょうか?」


「今からデザイナーの方がいらっしゃるの。以前、好みのドレスが無いと言ってローレルのを気に入って着用したでしょ? だから、今日はローレルと一緒にって思ったの」


 あぁ、この人は私がドレスを持っていないことを認めたくないんだ。

 周囲にいる使用人にも私が我が儘を言って義妹からドレスを奪ったと思わせたい様子。

 そして、それを利用して寛大な母親を演出している。

 あの男にお似合いの女だ。


「……パーティー用のドレスは持っていないので好みも分かりませんが、お義母様が仰るように娼婦の娘の私はパーティーに出席する必要がありませんのでドレスも必要ありません」


「そんな嘘ばかり。私はクリスティアナ様の事を娼婦だなんて口にしたことはないわ。もしかして誰かがそんな言葉をニルヴァーナ様に話したの? 誰? 誰です? そんな根も葉もないことを口にしたのはっ」


 観劇の主役のように振る舞う女に私も倣う事にした。


「えっ? それは……」


 私は以前、家族に呼ばれてもないのに私を呼びに来た使用人に視線を送る。

 彼女が既にお義母様側に付いているのは分かっているし、過去にもお義母様の指示で私を陥れる事を率先して行っていた人物。


「なっ、あなたっ」


 お義母様は私の視線を辿り使用人を追求する。


「ちっ違います。お嬢様の勘違いです。私は亡き奥様をそのように口にしたことはありません」


 目障りな前妻の娘の私と自身に忠実な使用人。

 お義母様はどちらの言葉を信じ、どちらを取るかしら?

 私は口を挟まず二人の茶番を冷ややかな目で眺めた。


「そうよね、使用人がお仕えしている方をそのように口にするなんて思えないわ。ニルヴァーナ様の勘違いではないかしら?」


「お義母様は公爵家に訪れて数ヵ月ですが、私はここで生まれ育ちました。私が幼い頃から何と噂されていたかは私にしか分かりませんよね? それに何か勘違いされているかもしれませんが、私は使用人を罰してほしいなんて思っていません。寧ろ真実を教えてくれたことに感謝しております」


 私の言葉にお義母様だけでなく、使用人も驚いていた。


「ですので、私にパーティー用のドレスは必要ありませんのでお気遣いは嬉しいのですが、失礼させて頂きま……」


 お義母様に引き留められる前に、お辞儀をして応接室を出ていこうとしたがあることに気が付いた。

 私は父の事を『公爵様』と呼び、他人を『お義母様』と呼ぶのは可笑しな事だ。


「そうだ、お義母様。今まで大変失礼な発言をお許しください」


「まっまぁ、分かってくれたの? では、パーティー用の……」


 私の急な対応の変化に困惑するも、ドレスを受け入れたのだとお義母様は安堵する。


「はい。娼婦の娘が高貴なお方をお義母様だなんて烏滸がましいですよね。身の程をわきまえ、今後は公爵夫人と呼ばさせていただきます」


「……えっ?」


「それでは失礼いたします、公爵夫人」


「まっ……まっ……ニル……ヴァ……ナ……さ……ま……」


 途切れ途切れに私を呼ばれた気がしたが、振り返らず応接室を出る。

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