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報告

 ルディルの婚約を受け入れた事を私の身内であるヨシュアルト侯爵に報告をする。

 侯爵には「私から伝えたい」とルディルには伝えてある。


「あの…この度、ルディルさんと婚約を…したいと…思っております…」


「…私に反対する権利はないが、心配はさせてほしい。彼がどんな人物であってもその気持ちに代わりはないか?」


「はい、私は彼が平民でも構いません」


「…そうか、幸せならそれでいいんだ」


「はいっ」


 誰にも認められなかったとしても構わないと思いながらも、心のどこかには誰かに…身内に認められたいと思いがあった。

 

「ルディルさま…さんとは学園でも親しかったのかい?」


 侯爵家のお祖父様が平民のルディルにも敬意を払ってくれる優しい人なんだと知り少し嬉しかった。


「ルディルさんは…私の初めて出来た友人でした。学園で事件が起きた時も臆することなく証言をしてくださいました。狭い世界に生きていた私に色んな事を教えてくださり…失礼な態度をとったにも関わらず、その後も気に掛けてくださって…とても優しい方です」


「そうか…」


 紅茶を頂きながらゆっくりと今までの時間を埋めるように互いの事を話す。

 お祖父様は私の知らないお母様の話をするも、決してあの人の事は話さなかった。

 私もあの人の事は聞くことはない。


「ニルヴァーナさん」


「ルディルさんっ」


 ルディルも両親に婚約の話を報告しに行くと言い、朝早くに出発していた。

 商人の息子だと以前話していたので、忙しい方達なんだろう。

 仕事などしたことのない私たが、読み書きと多少の計算は出来るので表に出ることは出来ないが少しでもルディルを支えられたらと思っている。

 貴族が商人に嫁ぐのは歓迎されるが、それは人脈がある場合のみ。

 私は元貴族であるが人脈が無い処か他国の人間で出奔した身。

 利益がある処か場合によっては足枷になるような人物だと理解している。

 ルディルが私の事をどこまで話したのかは分からない。

 受け入れられない可能性の方が高く、私からルディルに家族への報告の反応はどうだったのか聞くのが怖かった。


「ニルヴァーナさん、俺の親が会いたいって言ってるんだが…」


「はっはィっ」


 今から緊張して声が裏返ってしまった。


「あはっ。今から緊張しなくても大丈夫だ。二人とも俺が婚約するって言ったら、泣いて喜んだよ」


「私…などで…本当に宜しいんでしょうか?」


 私なんか他人と比べて優れているところなんて一つもない。

 こんな私が「婚約者です」なんて言ったらルディルのご両親はガッカリしてしまうんじゃないだろうか。

 学園でも私が公爵令嬢だと聞いた時の皆の反応はよく覚えている。

 

『認められない』

『公爵令嬢としての矜持がない』

『上に立つ資格がない』


 周囲から言われ続けたこと。

 こんな私が誰かと婚約なんて…


「俺が望んだ婚約だ。誰にも反論させない」


「…もし、認められなかったら?」


「ニルヴァーナを認めないなら、俺は誰とも婚約しないだろうな」


「えっそんな…私なんかより素敵な方は沢山います」


「俺は元々ウェルトンリンブライド学園に通って、婚約したい人間がいないからオーガスクレメン学園に留学したんだ」


「…そうなんですか?」


「あぁ。それでニルヴァーナさんに出会って、婚約したいって…あの頃から思ってた」


 あの頃って…前回?

 だけどあの時は今回の人生よりも会話することはなかったし、互いを知る機会は…


「あの…私なんかの何処が?」


 私は私の良いところなんて見つけられない。

 だって、良いところなんて一つも無いから…


「ニルヴァーナの良いところって沢山あんだろ?努力家で真面目でお淑やかで優しくて、控えめなのに困ってる奴放っておけなくて、芯が強い、笑顔が可愛くて、普段は落ち着いているのに抱き締めたら顔が真っ赤になる所とか…」


 次第にルディルは距離を縮め顔が近付き心臓が高鳴る。


「ぁっ…ぁっ…あの…もうっ…もうっ…大丈夫ですからっ」


「まだ、言い足りないんだけどな?」


 耳元で囁かれ、顔が熱くて堪らない。

 揶揄われているんだと察するも、この手の交わし方など私が学んできた淑女教育にはなかった。


「ルディルさんっ、これ以上私の孫を揶揄うのはお止めください」


 見兼ねたヨシュアルト侯爵が止めに入ってくれた。


「揶揄っている訳でなく、本気ならば良いんですか?」


 売り言葉に買い言葉なのか、ルディルは私というよりもヨシュアルト侯爵を挑発していた。


「孫にふしだらな行為はお止めください」


「ニルヴァーナさんが婚約を受け入れてくれたのが嬉しくて、浮かれているのかもしれない。ニルヴァーナさん…嫌だった?」


 婚約が嬉しくて浮かれている。

 その言葉が私には嬉しかった。


「ぃ…嫌…じゃ…ないです」


「そっか、良かった」


「きゃっ」


 ルディルに抱き締められ嬉しくあるが、ヨシュアルト侯爵に見られていると思うと恥ずかしい。


「こらっ、婚約を反対しないからといって淫らな行為を許した覚えはないっ」


 ヨシュアルト侯爵に止められ、人前で抱き合うことは淫らだと知る。

 そんな行為をお祖父様に窘められるのは私はきっとはしたない女なんだわ。


「侯爵。孫が可愛いのは分かりますが、婚約者の貴重な語らいを邪魔するのは無粋ですよ?」


 ん?

 この行為は婚約者の語らいに入るのかしら?


「何が語らいだっ、良いから離れなさいっ」


 ルディルとヨシュアルト侯爵の言い合いを間近で聞いていると、どちらかなのか分からなくなってきた。

 私を見た周囲の人は「ふしだらな女」と思っているのだろうか?

 もしそうなら、ルディルのご両親にも嫌われてしまう…

 不安になり、ルディルの腕の中でツンツンと服を引っ張りルディルを呼んだ。


「ん?どうした?」


「私は…ふしだらな女なんでしょうか?」


「「へっ?」」


「もし、そうならルディルのご両親に嫌われてしまいますよね…」


「そんなわけないだろっ、ニルヴァーナさんはふしだらなんかに見えない」


「あぁ、私の孫がふしだらなわけなかろう」


 ルディルもヨシュアルト侯爵も慌てて否定する。


「侯爵が「淫ら」なんて言うからですよ?」


「いやっ、私はニルヴァーナに言ったのではなく…」


「私は…ふしだら…」


「じゃないから安心しろ」


「あぁ、私が保証する」


 二人が強く否定するも、安心していいのか困惑しているとルディルの腕から解放されヨシュアルト侯爵も気まずそうに。

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