表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

100/101

ローレル

「どうして?」


 私の計画では卒業パーティーで義姉を踏み台にして、ラルフリード王子の婚約者として発表される予定だった。

 なのに完璧な私の計画は何処かで漏れ、王子によって罪が暴かれた。

 そうなればその後のパーティーは最悪な思い出となり、王子とのダンスも叶うことはなくパーティーは終了に。


「あの女とはダンスしたくせに…」


 私の出番は必ず訪れると信じていたが、私が王子との距離を縮めるだけで鋭い目付きで睨まれた。

 結局パーティーでは誰ともダンスすることが出来ずに終わった。

 協力関係だった側近候補達もパーティーの間私を避けるような行動をしていたように感じる。

 私のたった一度の卒業パーティーは最悪な思い出で終わった。


「なんなのよ…」


 途中で退場したら負けだと感じ、意地でも最後まで残っていた。

 悔しくて、誰にも見向きもされていない食べ物を優しい私が食べてあげた。

 この日、私は誰にもダンスどころか会話さえ誘われることなく屋敷に帰宅。

 思い返すと、義姉と王子とした会話意外していない。

 屋敷に到着すると、期待している眼差しでお母様が私を出迎える。


「とうだった? 婚約者として紹介された?」


 なにも分かっていない能天気な母親に苛つくも、パーティーに出発する前に


「ドレスも貰ったんだもの、私が婚約者よ」


 言ってしまった。

 このドレスが義姉に贈られたものなのは知っていた。

 だけど、優しい王子なら手違いだったことを責めたりはしないだろうし、令嬢に恥をかかせるような言動はしないと高を括っていた。


「どうしたの? パーティーで何かあったの?」


 私の様子が想像と違ったのか、お母様は動揺を見せる。


「ちょっと疲れちゃった…明日話すね」


 本当の事を話す勇気はなかった。


「ローレルッ」


 お母様の呼び掛けに振り返らず、自身の部屋に駆け込みベッドに飛び乗り毛布を被った。

 ドレスのままとか宝石を外さなきゃいけないなんて余裕はなかった。


「…どうしよう…」


 パーティーで王子に追及されたことは事実。

 気付かれていないと思っていたけど、知られていた。

 公表されたのは一部。


「どこまで王子に知られているの…もし全部だったら…」


 今後を考えると怖くて指先から冷えていくのが分かる。


「助けて助けて助けて助けて助けて助けて」


 コンコンコン


「ひゃっ」


 突然のノックに驚き、声をあげてしまった。


「お嬢様お目覚めですか?」


 一睡もできないまま、朝を迎える。


「…はぃ」


 驚きの声をあげてしまったので今更起きていない演技は出来ず、渋々返事をする。


「お食事の準備が整いました。奥様がお待ちです」


「…分かった」


 呼び出したのがお父様ではなく、お母様で安心した。

 もしかしてお咎めなしなのかもしれない…

 淡い期待を持ちながら扉を開けると、私が卒業パーティーのドレスのままであるのを使用人は驚く。

 急いでドレスを着替え宝石も外し化粧も落とす。

 使用人にされるがまま身を任せ食堂に行き「その程度の事は問題ない」とお父様に告げられたいが、その前に私の話をしなければならないのが怖かった。


「…お父様なら…許してくれる…わよね…?可愛い娘の頼みだもの…」


 震える手を握りしめながらも、実の娘への無関心な男を思い出していた。


「だ…大丈夫…私はっお父様に愛されているもの…あの女とは…違う…」


 震える足で食堂に入室するとお父様の姿はなく、お母様とお兄様だけだった。


「お…おはよう…ございます」


 ぎこちない笑みで挨拶をして二人の出方をみた…


「おはよう。昨日はどうだったの?」


「帰ってすぐ休んだって事は、色んな奴にダンス誘われたんじゃないのか?」


 お母様もお兄様も上機嫌。

 私がパーティーで告発された事はまだ知らない様子。

 王子から告げられたのですぐにでも王宮に呼ばれ過去私が犯した行為を言及されれと思ってた。

 もしかして、公爵令嬢だから許されたのかな?

 安心させるように前向きに考えるも、この場にお父様が居ないことが気掛かりだった。


「お…お父…様…は?」


「んふ、早朝早馬で王宮に呼ばれたそうよ。きっとラルフリード王子との婚約の話ねっ」


「…ぁ…」


「本当に婚約者になるなんて流石俺の妹だなっ」


 お母様もお兄様も私が婚約者になると疑う様子はなく明らかに浮かれている。

 私が学園での様子を報告していたから信じているんだろうけど……

 今まで二人に話してきたのは…嘘とは言わないが少し脚色したというか、その…見栄を張ってしまった部分がある。

 なので、私が昨日パーティーで王子に追及されあの女に庇われたなんて思ってもいないだろう…

 どうしよう…

 きっとあの事で呼ばれたのよね…

 その後の食事は喉を通らず部屋に下がった。

 お父様が帰ってくるまで安心できずにいた。


 コンコンコン


「お嬢様、旦那様がお呼びです」


 きたっ…

 呼び出された理由が違ってほしいと願いながら執務室へ向かう。

 既に執務室にはお母様とお兄様がソファに座っていた。


「座りなさい」


「…はぃ」


 お父様と私の雰囲気でお母様もお兄様も何かを察し緊張するも、きっと予想とは真逆だと私には分かる。


「…ローレル。何か伝えることがあるんじゃないのか?」


 お父様の問いに二人の期待する眼差し。


「わ…私…は…その…」


 何て言おう…

 私が黙ると沈黙が流れ、刺すようなお父様の視線から逃れるように俯いてしまう。


「…ローレル?」


 お母様も漸く雰囲気がおかしいことに気が付いた。


「あの程度の事何とも有りませんよ」


 強がるも本当は怖くて言い出せずにいた。


「パーティーで何かあったの?」


 心配するお母様にお兄様もつられ笑顔が消える…


「少しトラブルがあっただけですわ」


 私達のやり取りも無言で見届けるお父様が怖い。


「…えっと…どのような要件で王宮へ?」


 震えながらお母様がお父様に尋ねた。


「…調査結果だ」


「調査…結果?なんのですか?」


「ローレル、何について調査されていたのか分かる限り言ってみろ」


 …言ってみろ。

 お父様にそんな強い言葉を言われたのは初めで、私のしたことはそれ程の事だったのかと視界が滲み始める。


「ローレル…貴方何したの?」


「わ…私…はっ…ぁっ…ぁっ…お…お義姉様宛のドレスを…」


「あのドレスは私達からの優しさよっ」


 私の言葉を遮るお母様は勘違いしている。

 私達が嫌がらせでお義姉に送ったドレスについて言及されたのではなく、王子から贈られたドレスの事…


「ラルフリード様からのドレスは…お義姉様への謝罪の印だったと…私は私宛だと勘違いしてしまって故意ではなかったんです」


 間違ったことは認めても、故意がどうかなんか誰にも分からないはず。

 一度頭を下げれば済む…でしょ、このくらい。


「まぁ…そうだったの?だけど、故意ではなく間違ってしまったら仕方がない…わよね?」


「…はい」


 お母様も味方となりお父様の反応を待つ。


「他には。他にもあるだろう?」


「他…は…」


 どれの事?

 試験問題は側近候補から数問だけ口頭で教えられただけだから証拠は無いはず。

婚約者候補の令嬢達の馬車は計画は知っていたが私じゃない。

 あの時間は通るなって教えられただけだもの。

 二年の時の芸術祭の作品は既に謝罪済みだし。

 解決してるしそもそも、もう時効でしょ?

 他に私に後ろめたい事なんて…


 バサッ


 お父様は立ち上がり執務机にあった書類を手に取り、私の前のローテーブルに叩きつけるように置いた。

 震える私よりも先にお母様が手に取りお兄様も覗いている。

 怖くて二人の様子を窺っていると二人の表情が見るからに蒼白し始める。

 その紙には一体何か記されているの?

 知りたいけど知りたくない。

 二人が紙を捲る音だけが主張していた。


「ローレル…これは…本当なの?」


 本当?

 何が?

 何が書かれているの?


「貴族令嬢の馬車の襲撃に…関与」


「卒業試験の問題流出…不正を確認…」


 お母様とお兄様は紙を捲りながら交互に私の犯罪を口にする。


「それらは抗議の手紙だ。ラルフリード王子の話では本来昨日のパーティーでドレスだけでなくそれらについても事実を公表するつもりだったらしいが、卒業パーティーという場でするべきではないと判断し本日私だけ王宮に呼ばれた。本来であれはローレルも呼び出しを受けるところだが、各家門で穏便に解決するようであれば今回王族は目を瞑ると…」


 お父様の言葉でお母様もお兄様も言葉を失っていた。


「ち…違います…襲撃に関しては計画などは知らず、ただあの時間帯は通るなとだけ聞かされただけで…試験問題は勉強を教えてくださった方が「ここだけは試験に必ず出ると思うから覚えた方がいい」と言ったので信じただけで、私は知りませんでした」


 嘘は吐いていない。

 側近候補の人達が画策したのを耳にしただけで……

 私は…関係…ない…


「学園としての結論は卒業試験は無効、再度試験を受けるか失格となるかは本人次第とする」


 再度試験を受けて合格出来る自信は、有るとは言えない。

 問題を教えてくれた彼の雰囲気からして試験問題を何処からか手に入れたのでは?と思ったが追及はしなかった。

 知らなければ万が一責められても「知らない」と堂々と宣言できるから…


「馬車の破損や襲撃があった家門からは抗議の手紙が一斉に届いた」


 馬車の襲撃なんて、私の計画じゃない。

 側近候補の一人が婚約者候補の令嬢と婚約したくて暴漢に襲われているのを助ければ婚約できるのではないかと考え実行した。

 そして、計画は成功し彼はその令嬢と婚約した。

 私も被害者を装ったので気付かれていないと思っていた…


「私じゃありません…彼らが計画していたのは知っていました…なので報告しようとしたんです。そうしたら私も襲われて…もし誰かに喋ったら「次はこれでは済まない」という脅しなんだと思い、怖くて誰にも言えませんでした」


「…まぁ、そうだったの?可哀想に…」


 私の話を信じたお母様が同情してくれる…けど、親子だから分かる。

 お母様は私の話を嘘だと感じ、娘を庇いながら「被害者」であると強調している。


「はぁ…認めないと言うことだな?」


 認めない…

 お父様の言葉で私は間違ってしまったんじゃないかと動揺する。


「…被害にあった家門には私から謝罪と慰謝料、和解金を支払う。学園についてはローレル自身で決めなさい」


 …それで終わり?

 もっと重い罰が下されるかと思った。

 和解金なら、公爵家であるんだからなんとかなるでしょ。

 学園はこれから頑張って勉強すれば、二度目だから試験の傾向も分かってる。

 余裕ではないけど、頑張れば合格出来るはずっ。


「ありがとうございます、お父様っ」


 やっぱり「公爵家」って凄いのね。

 王宮に呼ばれた時点で、終わったと思った。


「これにサインしろ」


 ローテーブルに新たに置かれた紙は…


「「「離縁…証明書?」」」


「あぁ」


 離縁?

 お父様とお母様は離縁するの?

 私の所為で…イヤ…イヤよ。

 だって、だって、二人が離縁したら私は公爵令嬢じゃなくなるじゃない。

 そんなの絶対にイヤっ。


「ぁっぁっ離縁…だなんて…嘘…ですよね?」


 お母様がお父様に縋り付くも、腕を払い除けられていた…

 この程度の事でお父様は本当に離縁してしまうの?お父様はお母様を愛して…

 娘の私の事も大事にしてくれていたのに…

 なんで…


「さっさとサインして出ていけ」


 お父様はそれ以上何も言わず、私達を見ようともしなかった。


「お父様っ、僕は関係ありませんので残ります。公爵家には跡取りが必要ですよね?」


 自分だけは生き残ろうとするお兄様が憎くもあるが、一人さえ残ればなんとか恩情があるかもしれない。


「必要ない」


「そん…なっ」


 お兄様を躊躇いなく切り捨てる姿は義姉への姿と重なった。


「お父…」


「…止めなさいっ」


 お父様に許しを得ようとするもお母様に止められ、淡々と書類にサインする姿をお兄様と静かに眺めた。

 サインをし終えると私達は執務室を退出した。


「お母様っ私、お父様に謝罪して来ます。こんな事で離縁だなんて…」


 お母様は返事をする代わりに私の手を引き執務室から離れていく。


「荷物をまとめて出ていくわよ」


 お母様は離縁を受け入れ屋敷から出ていく決意をしていた。

 もし出ていけば、私達は何処に移り住むの?

 公爵令嬢が宿暮らしなんて恥ずかしい。

 王子が私を迎えに来た時私の居場所が分からなくて困らせてしまのに…

 それから、大きめのバッグに高値の付くような物を詰め私達は屋敷を後にし馬車に乗り込む。

 その間、使用人と騎士に終始心配されながら見守られていた。

 皆、私達の事を呼び止め引き留めたいが、当主の指示がない限り動くことが出来ないのでもどかしさが表情に出ていた。


「…ひっ…」


 馬車が動き出し屋敷の門を潜ると、取り囲むように制服の違う騎士が周囲を護衛…監視していた。

 何…アレ…


「はぁ、何が「王子の婚約者になる」だよ…」


 窓の外を眺めながら呟くお兄様は、直接ではないが私を責めていた。

 側近候補の候補にすら選ばれない能無しな癖に、人を責めることだけは優秀だ。

 私達はこれから何処に行くんだろう…

『愛なんかいらない、幸せになれなくてもいい。お母様、悪いけど私の為に悪者になって』の書籍化が決まりました。

三月一日に発売予定です。

一人でも多くの方に手に取っていただけたら嬉しく思います。


こちらのサイトでは、初期設定のまま公開しております。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ