血湧き肉躍らない異世界ミリタリー
「魔王軍の魔道トンボだ!」
「弓隊!討て!」
ここは草原、王国軍の一部隊が陣取っている。
近くに川があり。大橋がかけられている。彼らはこの橋を渡ってやってきた。
この橋を守れと命令を受けたのだ。
魔族領への侵攻ルートにもなり。逆もまたしかりだ。
今の状況は、守備隊の上を鉄の塊が飛翔している。速いが目で追えないほどではない。
眼前の飛翔体をこの世界の者は魔道トンボと呼んでいた。
魔道トンボは回避行動を取るが・・
カン!カン!
「当たったぞ!魔王軍の魔道部隊は無敵じゃない!」
「俺だ!俺の矢が当たったんだ!」
「いや、俺だよ」
バランスを崩し。魔道トンボは落ちてきた。羽に当たったらしい。
魔道トンボはバランスを崩し回転しながら落ちてきた。
墜落した魔道トンボに兵士が群がる。
「ウラー!とどめだ!1番槍!」
ガチャ!グチャ!
「「「ウラー!ウラー!」」」
やがて、魔道トンボは4つある羽の動きを全て止り。
目らしき部位から光りが消えた。
魔王軍の魔道部隊、不気味な部隊が紛争地を徘徊し、偵察に出た部隊が帰って来ない。
そんな報せの中、王国軍守備隊長は我が部隊が敵の先鋒を砕いたと確信した。
敵は臆病だ。林に籠もって出てこない。
まずは、
「魔道トンボ恐れ似る足らず!」
と敵の空中戦力を殲滅したと思った。
☆500メートル先の森林、高機動車後部座席
木々に隠れて、この世界にはない自動車とトラック、バイクがあった。
一台の高機動車の後部が指揮所になっている。
王国軍の映像と声はこちらで確認出来ていた。
『ウラー!ウラー!ウラー!・・・・プツン』
「戦闘団長!偵察ドローン。ネリマ1!損失しました」
「そう・・・偵察はすんだわね。砲撃!」
と一人の10代女子は部下に命令をする。
「はい、迫撃砲班に連絡します!」
皆は自衛隊の戦闘服と装備を着用している。
しかし、部隊章は魔王軍の四本角の雄牛である。
それは、魔王軍の人族部隊である事を示していた。
☆☆☆王国軍陣地
「「「ウラー!ウラー!ウラー!・・」」」
ヒュ~!ヒュ~!ヒュ~!
「何だ。この音は・・」
「風魔法か?対魔法戦準備!」
「なら、こちらも風魔法で相殺だ!魔道師前へ」
兵士達は空を見上げる。
次の瞬間、大地が爆裂した。
ドカーン!ドカーン!ドカーン!
「ウワー!爆裂魔法だ!」
「どこから・・・」
迫撃砲の砲弾が着弾したのだ。
あのドローンは距離、方向を図る偵察だった。
砲撃が止み。三分後、この世界にはないバイクに乗った迷彩服を着た男がやってきた。一人だ。
彼は双眼鏡をのぞき。無線機を取る。
「本部、情報班、敵影無し・・・およそ数百人を撃破!橋は無事です」
やがて、高機動車4台、パジェロ1台、三トン半トラック1台がこの地にやってきた。
「降車よお~い。降車!」
うら若き乙女の指揮官の命令で一斉に降りる。
「「「降車!」」」
「陣地構築!情報班は四周を警戒!橋の全面と後方にも作れ!」
「「「陣地構築了解!」」」
「「「情報班警戒了解!」」」
返事をする者は色とりどりの髪の色のこの世界の住人である。
指揮官は、黒髪、黒い瞳の日本人、17歳の斉藤由佳である。
転移者だ。
「戦闘団長殿!休憩をして下さい!3日寝ていないじゃないですか?」
「陣地構築をしたらね。私の代わりはいないわ」
「代って見せます!」
「それに、戦闘団長殿が疲労したら、異世界の武器を召喚出来ません」
「・・・そうね。では少し休憩を取らせてもらうわ」
私は指揮所になっている高機動車の後ろで仮眠を取った。
私は斉藤由佳、高校1年生だった。今年、まだ2年か?
今は、この地にあるセト大橋を占拠せよとの命令を受けた部隊の長だ。
☆☆☆回想
1年前に突然、クラス転移をしてしまった。
王国の宮殿だ。生徒は27名、クラスで二人組を組めと言われれば私は余っていた存在だ。
まあ、仕方ない。
いつも、家の手伝いをしていた。というのは言い訳だ。
何か違和感があったと言えば中二病か?
私はあの震災の中、偶然に生き残った・・・自慢する事ではない。ほんの少し運が良かっただけだ。
転移した当初、初めは王国の者達は良いようにしてくれた。
私の異界渡りのスキルは『調達』だ。
魔力を対価に調達出来る。物限定だ。
補給係に任命された。
しかし、この世界はおかしいのか、私がおかしいのか。徐々に皆は豹変していった。
『さあ、皆様、勇者の訓練ですよ!この獣人族たちを殺して下さい』
『じゃあ、俺からだ!』
え、この人たち、獣の耳や尻尾が付いているよ・・・・
野外訓練と称して、獣人族の集落を襲った。
戦闘のジョブがある者はまるでゲームのように殺戮に参加し。
私達、後方の職種も例外ではなかった。
兵が生き残った獣人族を連れてきた。
剣を渡され殺せと言われた。
これも、度胸をつけるためだという。
私は。
『出来ません!』
と断った。
それから、学級裁判という名のつるし上げを受け。身一つで追放された。
いらない能力と思ったのだろう。
私は魔族領に追いやられた。この地の者は追放された異世界人に当たりがキツい。
見せしめだ。徐々に魔族領に追いやられた。
しかし、私の能力は、異世界の物も調達出来た。
武器を召喚し、師匠に出会い。訓練を受け。
今は、人族部隊の長になった。
魔族は様々な種族の集合体だ。その中で亡国の人族たちがいた。その子弟を集め魔王軍に参加を申し出たのだ。
皆は私を戦闘団長と呼ぶ。・・・・あれ、本当に呼ばれている。
「戦闘団長!」「戦闘団長!」
ユサユサユサ~
・・・・・・・・・・・・
体を揺らされ起された。
「戦闘団長!敵、騎兵です!」
「ほっときなさい。偵察でしょう。どのみち私達はここを動けない。友軍が来るまで橋の占拠が任務よ」
「「「了解!」」」
しかし、これ見よがしに、騎兵は近づき大声をあげた。
【やあ、やあ、我こそはドルネスタン王国が騎士、スリダー!指揮官に一騎打ちを所望する!人族の分際で魔王軍に寝返ったすくたれ者め!我の声すら恐ろしいのだろう!!】
馬にまたがった大男が挑発する。
ほっといても良いが、士気にかかわる。
私は座り膝撃ちの姿勢をとった。
愛用の64式7.62ミリ小銃を手に持ち構える。
照準具をのぞき。騎兵の胴体に会わせる。
「戦闘団長!曳光弾を交互に入れて置きました」
「有難う」
部下から弾倉を受け取った。曳光弾、光を引く弾丸でどこに飛んだか視覚的に分かる。
外れたら、これで修正できる。
私はこれでも、魔王軍人族部隊の中で1番射撃が上手い。
師匠の言葉が思い浮かぶ。30年前に転生した元自衛官のお爺ちゃんだ。
ダークエルフと結婚し、魔族領で暮らしていた。
『いいか、射撃はよう。ピッタリ照準が決まることなんてありえないんだ。照星がよう。的の近くをグルグル回ってよう。引き金を引いたらたまたま的にあたったっていう寸法だ』
息を吸って、吐き。止める。
照準具の照星。銃口の先に付いている突起物は、騎兵の周りをわずかにグルグル回っている・・・のを確認し。
引き金をゆっくり引いた。
バン!
銃口は跳ね上がり。私はやや後方にのけぞった。まるで、ダルマのように元に位置に戻る。繰り返し演練をした。
カン!
と音がして男は馬からゆっくり落ちた。胸甲に命中したようだ。
「「「卑怯者!」」」」
と後方に待機していた騎兵が叫ぶので、
切り替え軸部。安全装置とかにする小さなレバーだ。
それを連射の『レ』にした。
連射、フルオートは、反発が強く。上に行きがちだ。
馬は撃ちたくないな。
若干下に向けて発砲した。
ダダダダダダダダダ!
数騎倒したら、蜘蛛の子を散らすように退却をした。
私達が守っているセト大橋は、王国へ侵攻する大事なルートだ。
魔王軍がくるまでに死守しなければならない。
もう、神話の時代から魔族と人族は争っている。どちらが正義なのか分からない。
しかし、召喚という名の誘拐をした王国は敵だ。
やがて、次の日、敵の大軍がやってきた。
数千であろう。
王国側の橋を守る陣地を半包囲している。
私のクラスメイトから情報を受けていないのか、銃の恐ろしさを。
と思ったが、ばっちり対策をしていた。
兵の全面に手押し車に丸太を乗せている物が多数配置されている。
あれで銃弾を防ぐ気であろう。
実際、銃弾を防げる。銃弾ならね。
しかし。
注意を前に向けさせて・・・・
川から?上から来るのか?
といつも悪い事を考えるクセがついた。
「上空!怪鳥部隊です!」
地上数十メートルの所を飛んでいる。
兵が乗り。兵は槍を持ち、怪鳥の足は丸太を掴んでいる。
丸太を掴んでいるのね。数は10羽以上・・・
「1班は対空戦闘!」
「「「対空戦闘了解!」」」
ダダダダダダ!
対空用に接地した一門の重機関銃キャリバーが火を噴く。12.7ミリの銃弾が怪鳥を襲う。
他の者は89式5.56ミリ小銃を空に向けて放つ。曳光弾だ。
師匠の言葉が思い浮かぶ。
『あのよ。怪鳥やワイバーンはヘリだ。ヘリは落ちやすい。アフガン戦争の時、ムジャービデンのAKでソ連のヘリは打ち落とされてよう』
『師匠、自衛隊は戦闘ヘリ部隊なくなるってニュースでやっていました』
『な、なんじゃと、そこまでか?』
・・・・・・・・
「砲兵班!無反動組前へ!」
「「「はい!」」」
使い捨てのロケット弾を召喚したときはかなり魔力を使った。
お値段は高いのだろう。
「目標、前方の丸太の車!各個の判断で討て!」
「後方ヨシ!安全ロック解除!うてー」
全面の兵が丸太ごと宙に浮いた。
そこで現れたのは貧民の群れだ。
かろうじて武装している。
その後ろに、私のクラスメイトがいた。
拡声魔法で呼びかけてきた。
【おい!斉藤!お前、追放された分際で、なぁ~に、魔王軍に参加しているの!この裏切り者め!】
あいつは鈴木、アメフト部員、ジョブは英雄、やばい、バブと言う名の洗脳を使える!
兵を使い捨てにして、後方に控えている本軍に制圧させるつもりね。
鈴木は叫ぶだけ叫んで、後方の臨時のトーチカに入った。
現代人、銃撃の怖さを知っている。
あれはレンガか?
「戦闘団長!無反動の弾丸はありません」
「いいわ。次は迫撃砲よ。全弾撃ち尽くしなさい!」
「はい!」
もし、銃撃を恐れない兵がいたら・・・
現実の地球にはいないが、この世界は魔法がある。
皆、青く光っている。治癒効果もある。
そう言えば聞いた事がある。5.56ミリ弾を受けても突撃してくる兵がいたとか・・・
一人殺すのに五発ぐらいかかるだろう。
私は魔力を使い果たした。召喚出来る能力回復まで3日というところであろう。
いや、1日で召喚してみせるが、明日の事を考える兵士に未来はない。
今が大事だ。
戦闘は数時間だろうか?それとも数十分であろうか?
ただ一方的に虐殺をしたが。時間感覚が麻痺をした。
私達の陣地まで数十メートルまで肉薄するようになった。
ダン!ダン!ダン!
「ヒィ、弾がありません!」
「もう、1箱開けなさい!残り1万発よ。本部補給組、配るまで頼むわ。全員平等よ」
「はい、戦闘団長!」
戦闘団と言っても、52名だ。一個小隊に魔法兵を入れた雑多な部隊だ。
そして、私は決断する。
「私のサスペンダーを作れ!」
「はい、用意してあります。8弾倉160発ございます」
「エミリー、敬語はいいわ」
「はい、神のご加護を」
魔族に下った人族は女神を信仰している。
税を払えば、信教の自由は保障されるが、やはり差別は受ける。
そのために、魔族領の人族は参加を願い出た。
「情報班!バイクと操縦手を準備!私も後方に乗る」
「バイク準備!了解!」
「施設班!対戦車地雷を準備!袋に入れ携帯できるように」
「対戦車地雷了解!」
私はバイクの後方に乗り。
川沿いを走り大回りで鈴木のトーチカまで向かう。
「あれ・・・兵がバイクを追いかけてくる・・」
「もしかして・・・戦闘団長が目標?」
やはり、私を捕獲するように命令を受けたのだろう。
現代軍の装備、欲しいのね。
ダン!ダン!ダン!
私は敵兵を撃ちながら、川沿いを走り。
大回りをしてトーチカに向かう。
☆☆☆王国軍臨時トーチカ
「フウ、後はオートマだ。ダメだったら撤退すれば良いよ」
「スズキ様、魔力はどうですか?」
「まだ、余裕だぜ。しかし、まさか、銃を持っているとはな」
この遠征軍の首脳部はレンガで作ったトーチカに籠もっていた。
「仮に銃をもって押し寄せても、俺には魔法と剣がある。近場の戦いじゃ。銃を持った相手にも勝てるぜ。だから、安心しな」
「「「頼もしい!」」」
「それよりも、どっかの良い姫と結婚したいぜ」
「それは、もちろん、武功を立てたら思いのままですぞ。私の娘は如何ですか?」
「あ?父親似だったら断る!」
「「「アハハハハハハハハーーー」」」
その時、外で小さい声が発せられたが、将官の笑い声で消えた。
斉藤が見張りを倒し、肉薄したのだ。
(バイク騎兵は下がって、爆風に巻き込まれるわ」
(りょ、了解、ご武運を・・・すぐに迎えに向かいます)
(安全弁ヨシ、そのまま、な~げ!っと)
窓から、信管がむき出しの対戦車地雷が投げ込まれた。
「な、何だ?これ?」
と鈴木が言った瞬間、光に包まれた。その直後爆風が襲った。
対戦車地雷という名だが、人が乗っても爆発する仕様の物がほとんどだ。
ドカーーン!
私は伏せたが・・・耳が聞こえない。レンガが落ちてくる・・・
ゴツン!
鉄帽子越にレンガの破片が当たってしまい。意識を失ってしまった・・・・
何日寝たかは覚えていない。
気がついたら、天幕の中、簡易ベッドの上で寝ていた。
「「「「戦闘団長殿!」」」」
「回復魔法をかけても、目が覚めないから・・・心配したのですよ!」
「エミリー、有難う。皆は無事?任務は?」
「任務完遂です!友軍到着です!」
「軽傷者10名、その他、疲労困憊以外は異常なしです」
「そう・・・」
・・・・・・
魔王軍の先鋒の長、グルカスは眼前の光景に驚愕した。彼は身長2メートル越え、体重は150キロを超えているが、こんなに人族を倒した事はない。出来ないだろう。
「いったい何人殺したのだ・・・」
「1万と見積もられるネ」
斉藤はぐらつきながらも上司に会いに来た。
「グルカス殿!到着を歓迎します」
「サイトー殿、怪我は宜しいのか?」
「ええ、大丈夫よ」
「失言をした。許せ。人族の花火オモチャ部隊と悪口を言ったのは間違いだった」
「いえ、新設の部隊、これも、試練と思っていますわ」
「皆の者、人族部隊に対して、敬意を表して、鬨の声をあげるぞ!」
「あの、グルカス様、それは・・」
「「「「ウオオオオオオオオーーーーーーーー!」」」」
「人族は仲間だぜ!」
ピーンと頭に響く。
魔王軍人族部隊の名が認知された瞬間であった。
敵だけではなく味方にもだ。
しかし、この女は。
鈴木を殺したから、後25名か・・・・
まだ、先は長いのに。
と思うだけであった。
それは戦う者の思考になっていた。
最後までお読み頂き有難うございました。