表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

血湧き肉躍らない異世界ミリタリー

作者: 山田 勝

「魔王軍の魔道トンボだ!」

「弓隊!討て!」


 ここは草原、王国軍の一部隊が陣取っている。


 近くに川があり。大橋がかけられている。彼らはこの橋を渡ってやってきた。

 この橋を守れと命令を受けたのだ。


 魔族領への侵攻ルートにもなり。逆もまたしかりだ。


 今の状況は、守備隊の上を鉄の塊が飛翔している。速いが目で追えないほどではない。

 眼前の飛翔体をこの世界の者は魔道トンボと呼んでいた。


 魔道トンボは回避行動を取るが・・


 カン!カン!


「当たったぞ!魔王軍の魔道部隊は無敵じゃない!」

「俺だ!俺の矢が当たったんだ!」

「いや、俺だよ」


 バランスを崩し。魔道トンボは落ちてきた。羽に当たったらしい。

 魔道トンボはバランスを崩し回転しながら落ちてきた。

 墜落した魔道トンボに兵士が群がる。


「ウラー!とどめだ!1番槍!」


 ガチャ!グチャ!


「「「ウラー!ウラー!」」」


 やがて、魔道トンボは4つある羽の動きを全て止り。

 目らしき部位から光りが消えた。


 魔王軍の魔道部隊、不気味な部隊が紛争地を徘徊し、偵察に出た部隊が帰って来ない。

 そんな報せの中、王国軍守備隊長は我が部隊が敵の先鋒を砕いたと確信した。

 敵は臆病だ。林に籠もって出てこない。


 まずは、


「魔道トンボ恐れ似る足らず!」


 と敵の空中戦力を殲滅したと思った。





 ☆500メートル先の森林、高機動車後部座席


 木々に隠れて、この世界にはない自動車とトラック、バイクがあった。

 一台の高機動車の後部が指揮所になっている。


 王国軍の映像と声はこちらで確認出来ていた。


『ウラー!ウラー!ウラー!・・・・プツン』


「戦闘団長!偵察ドローン。ネリマ1!損失しました」



「そう・・・偵察はすんだわね。砲撃!」


 と一人の10代女子は部下に命令をする。


「はい、迫撃砲班に連絡します!」


 皆は自衛隊の戦闘服と装備を着用している。

 しかし、部隊章は魔王軍の四本角の雄牛である。

 それは、魔王軍の人族部隊である事を示していた。




 ☆☆☆王国軍陣地



「「「ウラー!ウラー!ウラー!・・」」」


 ヒュ~!ヒュ~!ヒュ~!



「何だ。この音は・・」

「風魔法か?対魔法戦準備!」

「なら、こちらも風魔法で相殺だ!魔道師前へ」


 兵士達は空を見上げる。


 次の瞬間、大地が爆裂した。


 ドカーン!ドカーン!ドカーン!


「ウワー!爆裂魔法だ!」

「どこから・・・」


 迫撃砲の砲弾が着弾したのだ。

 あのドローンは距離、方向を図る偵察だった。



 砲撃が止み。三分後、この世界にはないバイクに乗った迷彩服を着た男がやってきた。一人だ。


 彼は双眼鏡をのぞき。無線機を取る。


「本部、情報班、敵影無し・・・およそ数百人を撃破!橋は無事です」


 やがて、高機動車4台、パジェロ1台、三トン半トラック1台がこの地にやってきた。


「降車よお~い。降車!」


 うら若き乙女の指揮官の命令で一斉に降りる。


「「「降車!」」」



「陣地構築!情報班は四周を警戒!橋の全面と後方にも作れ!」


「「「陣地構築了解!」」」

「「「情報班警戒了解!」」」



 返事をする者は色とりどりの髪の色のこの世界の住人である。


 指揮官は、黒髪、黒い瞳の日本人、17歳の斉藤由佳である。

 転移者だ。



「戦闘団長殿!休憩をして下さい!3日寝ていないじゃないですか?」

「陣地構築をしたらね。私の代わりはいないわ」

「代って見せます!」

「それに、戦闘団長殿が疲労したら、異世界の武器を召喚出来ません」

「・・・そうね。では少し休憩を取らせてもらうわ」



 私は指揮所になっている高機動車の後ろで仮眠を取った。


 私は斉藤由佳、高校1年生だった。今年、まだ2年か?


 今は、この地にあるセト大橋を占拠せよとの命令を受けた部隊の長だ。






 ☆☆☆回想


 1年前に突然、クラス転移をしてしまった。


 王国の宮殿だ。生徒は27名、クラスで二人組を組めと言われれば私は余っていた存在だ。

 まあ、仕方ない。

 いつも、家の手伝いをしていた。というのは言い訳だ。

 何か違和感があったと言えば中二病か?


 私はあの震災の中、偶然に生き残った・・・自慢する事ではない。ほんの少し運が良かっただけだ。



 転移した当初、初めは王国の者達は良いようにしてくれた。

 私の異界渡りのスキルは『調達』だ。


 魔力を対価に調達出来る。物限定だ。

 補給係に任命された。


 しかし、この世界はおかしいのか、私がおかしいのか。徐々に皆は豹変していった。



『さあ、皆様、勇者の訓練ですよ!この獣人族たちを殺して下さい』


『じゃあ、俺からだ!』


 え、この人たち、獣の耳や尻尾が付いているよ・・・・


 野外訓練と称して、獣人族の集落を襲った。


 戦闘のジョブがある者はまるでゲームのように殺戮に参加し。

 私達、後方の職種も例外ではなかった。


 兵が生き残った獣人族を連れてきた。

 剣を渡され殺せと言われた。

 これも、度胸をつけるためだという。



 私は。


『出来ません!』


 と断った。


 それから、学級裁判という名のつるし上げを受け。身一つで追放された。

 いらない能力と思ったのだろう。


 私は魔族領に追いやられた。この地の者は追放された異世界人に当たりがキツい。

 見せしめだ。徐々に魔族領に追いやられた。


 しかし、私の能力は、異世界の物も調達出来た。

 武器を召喚し、師匠に出会い。訓練を受け。

 今は、人族部隊の長になった。


 魔族は様々な種族の集合体だ。その中で亡国の人族たちがいた。その子弟を集め魔王軍に参加を申し出たのだ。


 皆は私を戦闘団長と呼ぶ。・・・・あれ、本当に呼ばれている。


「戦闘団長!」「戦闘団長!」


 ユサユサユサ~



 ・・・・・・・・・・・・



 体を揺らされ起された。



「戦闘団長!敵、騎兵です!」

「ほっときなさい。偵察でしょう。どのみち私達はここを動けない。友軍が来るまで橋の占拠が任務よ」



「「「了解!」」」



 しかし、これ見よがしに、騎兵は近づき大声をあげた。



【やあ、やあ、我こそはドルネスタン王国が騎士、スリダー!指揮官に一騎打ちを所望する!人族の分際で魔王軍に寝返ったすくたれ者め!我の声すら恐ろしいのだろう!!】


 馬にまたがった大男が挑発する。


 ほっといても良いが、士気にかかわる。


 私は座り膝撃ちの姿勢をとった。

 愛用の64式7.62ミリ小銃を手に持ち構える。

 照準具をのぞき。騎兵の胴体に会わせる。


「戦闘団長!曳光弾を交互に入れて置きました」

「有難う」


 部下から弾倉を受け取った。曳光弾、光を引く弾丸でどこに飛んだか視覚的に分かる。

 外れたら、これで修正できる。

 私はこれでも、魔王軍人族部隊の中で1番射撃が上手い。


 師匠の言葉が思い浮かぶ。30年前に転生した元自衛官のお爺ちゃんだ。

 ダークエルフと結婚し、魔族領で暮らしていた。



『いいか、射撃はよう。ピッタリ照準が決まることなんてありえないんだ。照星がよう。的の近くをグルグル回ってよう。引き金を引いたらたまたま的にあたったっていう寸法だ』



 息を吸って、吐き。止める。

 照準具の照星。銃口の先に付いている突起物は、騎兵の周りをわずかにグルグル回っている・・・のを確認し。


 引き金をゆっくり引いた。


 バン!


 銃口は跳ね上がり。私はやや後方にのけぞった。まるで、ダルマのように元に位置に戻る。繰り返し演練をした。



 カン!


 と音がして男は馬からゆっくり落ちた。胸甲に命中したようだ。




「「「卑怯者!」」」」


 と後方に待機していた騎兵が叫ぶので、



 切り替え軸部。安全装置とかにする小さなレバーだ。

 それを連射の『レ』にした。


 連射、フルオートは、反発が強く。上に行きがちだ。

 馬は撃ちたくないな。

 若干下に向けて発砲した。


 ダダダダダダダダダ!



 数騎倒したら、蜘蛛の子を散らすように退却をした。




 私達が守っているセト大橋は、王国へ侵攻する大事なルートだ。

 魔王軍がくるまでに死守しなければならない。


 もう、神話の時代から魔族と人族は争っている。どちらが正義なのか分からない。

 しかし、召喚という名の誘拐をした王国は敵だ。



 やがて、次の日、敵の大軍がやってきた。

 数千であろう。


 王国側の橋を守る陣地を半包囲している。


 私のクラスメイトから情報を受けていないのか、銃の恐ろしさを。

 と思ったが、ばっちり対策をしていた。


 兵の全面に手押し車に丸太を乗せている物が多数配置されている。



 あれで銃弾を防ぐ気であろう。

 実際、銃弾を防げる。銃弾ならね。


 しかし。


 注意を前に向けさせて・・・・

 川から?上から来るのか?


 といつも悪い事を考えるクセがついた。


「上空!怪鳥部隊です!」


 地上数十メートルの所を飛んでいる。

 兵が乗り。兵は槍を持ち、怪鳥の足は丸太を掴んでいる。


 丸太を掴んでいるのね。数は10羽以上・・・



「1班は対空戦闘!」

「「「対空戦闘了解!」」」


 ダダダダダダ!


 対空用に接地した一門の重機関銃キャリバーが火を噴く。12.7ミリの銃弾が怪鳥を襲う。

 他の者は89式5.56ミリ小銃を空に向けて放つ。曳光弾だ。


 師匠の言葉が思い浮かぶ。



『あのよ。怪鳥やワイバーンはヘリだ。ヘリは落ちやすい。アフガン戦争の時、ムジャービデンのAKでソ連のヘリは打ち落とされてよう』

『師匠、自衛隊は戦闘ヘリ部隊なくなるってニュースでやっていました』

『な、なんじゃと、そこまでか?』




 ・・・・・・・・



「砲兵班!無反動組前へ!」

「「「はい!」」」


 使い捨てのロケット弾を召喚したときはかなり魔力を使った。

 お値段は高いのだろう。


「目標、前方の丸太の車!各個の判断で討て!」


「後方ヨシ!安全ロック解除!うてー」



 全面の兵が丸太ごと宙に浮いた。


 そこで現れたのは貧民の群れだ。

 かろうじて武装している。

 その後ろに、私のクラスメイトがいた。

 拡声魔法で呼びかけてきた。



【おい!斉藤!お前、追放された分際で、なぁ~に、魔王軍に参加しているの!この裏切り者め!】


 あいつは鈴木、アメフト部員、ジョブは英雄、やばい、バブと言う名の洗脳を使える!

 兵を使い捨てにして、後方に控えている本軍に制圧させるつもりね。


 鈴木は叫ぶだけ叫んで、後方の臨時のトーチカに入った。

 現代人、銃撃の怖さを知っている。

 あれはレンガか?



「戦闘団長!無反動の弾丸はありません」

「いいわ。次は迫撃砲よ。全弾撃ち尽くしなさい!」

「はい!」



 もし、銃撃を恐れない兵がいたら・・・

 現実の地球にはいないが、この世界は魔法がある。


 皆、青く光っている。治癒効果もある。

 そう言えば聞いた事がある。5.56ミリ弾を受けても突撃してくる兵がいたとか・・・


 一人殺すのに五発ぐらいかかるだろう。

 私は魔力を使い果たした。召喚出来る能力回復まで3日というところであろう。

 いや、1日で召喚してみせるが、明日の事を考える兵士に未来はない。

 今が大事だ。





 戦闘は数時間だろうか?それとも数十分であろうか?

 ただ一方的に虐殺をしたが。時間感覚が麻痺をした。

 私達の陣地まで数十メートルまで肉薄するようになった。


 ダン!ダン!ダン!


「ヒィ、弾がありません!」

「もう、1箱開けなさい!残り1万発よ。本部補給組、配るまで頼むわ。全員平等よ」

「はい、戦闘団長!」


 戦闘団と言っても、52名だ。一個小隊に魔法兵を入れた雑多な部隊だ。



 そして、私は決断する。


「私のサスペンダーを作れ!」

「はい、用意してあります。8弾倉160発ございます」

「エミリー、敬語はいいわ」

「はい、神のご加護を」


 魔族に下った人族は女神を信仰している。

 税を払えば、信教の自由は保障されるが、やはり差別は受ける。

 そのために、魔族領の人族は参加を願い出た。


「情報班!バイクと操縦手を準備!私も後方に乗る」

「バイク準備!了解!」


「施設班!対戦車地雷を準備!袋に入れ携帯できるように」

「対戦車地雷了解!」



 私はバイクの後方に乗り。

 川沿いを走り大回りで鈴木のトーチカまで向かう。


「あれ・・・兵がバイクを追いかけてくる・・」

「もしかして・・・戦闘団長が目標?」


 やはり、私を捕獲するように命令を受けたのだろう。

 現代軍の装備、欲しいのね。


 ダン!ダン!ダン!



 私は敵兵を撃ちながら、川沿いを走り。

 大回りをしてトーチカに向かう。





 ☆☆☆王国軍臨時トーチカ



「フウ、後はオートマだ。ダメだったら撤退すれば良いよ」

「スズキ様、魔力はどうですか?」

「まだ、余裕だぜ。しかし、まさか、銃を持っているとはな」


 この遠征軍の首脳部はレンガで作ったトーチカに籠もっていた。



「仮に銃をもって押し寄せても、俺には魔法と剣がある。近場の戦いじゃ。銃を持った相手にも勝てるぜ。だから、安心しな」


「「「頼もしい!」」」


「それよりも、どっかの良い姫と結婚したいぜ」

「それは、もちろん、武功を立てたら思いのままですぞ。私の娘は如何ですか?」

「あ?父親似だったら断る!」


「「「アハハハハハハハハーーー」」」



 その時、外で小さい声が発せられたが、将官の笑い声で消えた。

 斉藤が見張りを倒し、肉薄したのだ。


(バイク騎兵は下がって、爆風に巻き込まれるわ」

(りょ、了解、ご武運を・・・すぐに迎えに向かいます)


(安全弁ヨシ、そのまま、な~げ!っと)



 窓から、信管がむき出しの対戦車地雷が投げ込まれた。


「な、何だ?これ?」


 と鈴木が言った瞬間、光に包まれた。その直後爆風が襲った。

 対戦車地雷という名だが、人が乗っても爆発する仕様の物がほとんどだ。


 ドカーーン!


 私は伏せたが・・・耳が聞こえない。レンガが落ちてくる・・・


 ゴツン!


 鉄帽子越にレンガの破片が当たってしまい。意識を失ってしまった・・・・



 何日寝たかは覚えていない。


 気がついたら、天幕の中、簡易ベッドの上で寝ていた。



「「「「戦闘団長殿!」」」」

「回復魔法をかけても、目が覚めないから・・・心配したのですよ!」

「エミリー、有難う。皆は無事?任務は?」


「任務完遂です!友軍到着です!」

「軽傷者10名、その他、疲労困憊以外は異常なしです」

「そう・・・」





 ・・・・・・



 魔王軍の先鋒の長、グルカスは眼前の光景に驚愕した。彼は身長2メートル越え、体重は150キロを超えているが、こんなに人族を倒した事はない。出来ないだろう。



「いったい何人殺したのだ・・・」

「1万と見積もられるネ」


 斉藤はぐらつきながらも上司に会いに来た。


「グルカス殿!到着を歓迎します」


「サイトー殿、怪我は宜しいのか?」

「ええ、大丈夫よ」



「失言をした。許せ。人族の花火オモチャ部隊と悪口を言ったのは間違いだった」

「いえ、新設の部隊、これも、試練と思っていますわ」



「皆の者、人族部隊に対して、敬意を表して、鬨の声をあげるぞ!」

「あの、グルカス様、それは・・」


「「「「ウオオオオオオオオーーーーーーーー!」」」」

「人族は仲間だぜ!」



 ピーンと頭に響く。




 魔王軍人族部隊の名が認知された瞬間であった。

 敵だけではなく味方にもだ。


 しかし、この女は。


 鈴木を殺したから、後25名か・・・・

 まだ、先は長いのに。


 と思うだけであった。

 それは戦う者の思考になっていた。



最後までお読み頂き有難うございました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ