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4話 都市にて、青銅の剣、怪物退治

 

 雨の海を眺めながら洞窟の入り口で寝た、そのはずだった。


 意識をそこで手放して……


 だが次に目覚めたとき場所は工事中の建物の中だった。


 胃が焼けるような感覚。

 喉元まで胃液が逆流してくる感覚に襲われる。


 全ての意味のあるもの、全ての意味のないものが混ざり合って刹那的な気分にさせる そのような脳内物質というものがあるのならそれが生成されているような感覚があった。


 家族が死んでも自分自身が死んでも、それがどうした、くだらない。と吐き捨ててしまいそうな気分で、だんだんと意識が鮮明になっていった。なぜこんなことを考えたのかもわからない。



 この世の全ての自分の気分以上にくだらなく何の価値もない事象に呪詛の念をまし散らしながら今日食べる飯のことだけ考える。ハンバーガーも、餃子も、ラーメンも全てがくだらないように感じて、ナシゴレンを注文している自分のイメージを見て自身を締め殺してやりたくなる。


 百万回くだらないと言ってやりたい想いに駆られながら歩き出す。


「この場所は何なんだよ!」


 悪態をつきながらふらつきながら、出ていくと___


 青銅の緑色の短剣が落ちていた。


 古代のものみたいだった。拾うとずっしりと重い。手のひらに吸い付いてくるような感覚。離そうとするが指がこの短剣を離そうとしない!



 なんだこれは、死んでしまえ! 離せって!

 死ね! ふざけた世界目! くだらない! 

 壊れろ、この呪われた武器め!


 剣を持ったまま建物から出ると雨降りの大都市の路地裏だった。


 ブラックスーツに黒いYシャツの男が日本刀を持って近づいてくる。俺の命を頂戴する気満のように。様にならない三流のアクションスターか、脇役の雑魚みたいな男がこちらを見て刀を持って走り出した。


 いつの間にか、青銅の剣だったはずのものが拳銃になっていて、それで男の頭を撃ち抜いた。威力はまるで拳銃らしからぬもので男の頭部が爆発した。


 それが合図となって追われ出した。街中に。たった今殺した男と同じような黒シャツの男が何人も傍から出てきて……


「……なんで俺がスーツの男たちに追われるんだよ! 」


 理不尽に怒りが爆発しそうになる。


 この黒シャツはどういう存在なんだ! そう思うや否や、その他の市民たちも老若男女問わずこちらを追いかけてくる。街中が、いや世界全てが敵になったみたいだった。


 ー剣を持ってる! 剣を持って走り回っている奴がいる!


 ー銃を発砲した! 警察を呼んで! あいつを殺さなきゃ!


 サラリーマンが、ラッパーのような格好の男が、塾帰りの小学生が俺を指さして叫ぶ。


 ーあいつだ! あいつがいきなりやったんだ!


「テメェらふざけるな!! 言いがかりだ!」


 くだらない! 全てがふざけている! 

 逃げている間に違和感。手に持っていた青緑色の青銅の短剣がどんどん重くなってきた。


「何だよ、これ!」


 最初から見た目以上に重かったが、現実的なラインを凌駕するほど重い! そのくせ俺の手が絶対に離すものか、と言うほどに握り込んでいるので肩から胸筋まで工夫するように使って半ば剣を引きずっていくように小走りで逃げなければいけなくなる。


 市民たちは、非難するような声。警察にこいつです! と言うような声をめいめいにあげながら俺と同じように小走りで追いかけてくる。なぜか俺のペースに合わせて速度を落としながら。


 路地の自転車を蹴り飛ばして、後ろに障害物を作り、俺の肩に手をかけてきた黒シャツに剣の重さを味あわせるように、腕の上に剣を置くと、一気に地面に突っ伏して驚愕したかのような表情になった。


 ー化け物だぁ!


 などと黒シャツは声を上げた。




 ゴゴゴゴゴ


 轟音、地響き。


 ビルとビルの下からアスファルトが盛り上がり地面が裂けた。


 視界にあった全ての建物が崩落して地面から現れたのは___


 ___巨大な人面の化け物。


 顔だけですぐそこの交差点よりも大きく身体は地面に埋まっていて見えない、顔面だけが大地から顔を出しているのだ。俺を追ってきていた市民たちが悲鳴を上げながら蜘蛛の子を散らすように逃げていく。


 崩れたビルから出た粉塵を吸い込み、咳をしながら尻餅をつく。化け物が地面に波を作るように破壊しながら進んでくる。自分を食べるつもりなのだ。


 _@(*&#*&%@!!!!!


 言葉にならない、何の意味もなさない怒号が自分の喉の奥から出てきて__


 重すぎる錆びて青緑色になった短剣振り下ろしてやろうと持ち上げる。あまりの剣の重さに自分の立っているアスファルトの地面が円形にひび割れて、陥没した。


 肩の上までなどとても持ち上げられない! 綱引きをするような、ハンマー投げの選手のような姿勢から、なんとか剣を一瞬肩まで引き上げて斜め横なぎに化け物に向けて振り下ろす!


 何も起きない、剣に引っ張られるようにして地面に突っ伏す。距離だって20m以上あるままで、しかし何かが起きると思って無我夢中で振った。そして何も起きない……


 終わりかと、重っったが怪物が動かない。


 突然、天からスポットライトが照射されたような光。


 漆黒の空が割れて光が怪物を照らした。夜だった、そう思っていた暗い空から光。空にかかっていた遮光カーテンを誰かが開けたみたいだと思った。


 怪物は光に当たった瞬間に大口を開けたまま、停止。


 巨大な顔面の怪物は空を見ている。


 なんだ? 

 上を見上げると__


 右手に持っている青銅の剣と全く同じ形の、しかし高層ビルよりも遥かに巨大な青銅剣が黒雲のカーテンを割いて出てきて__


 __怪物を一刀両断するように振り下ろされた。



 ガゴォォォォン!!!!




 怪物の顔どころではなく大地が二つに割れ、爆散した。と同時に世界が斜めになっていることに気づく。


 俺が、俺も、倒れていっているんだ……

 全身から脱力した自分が隆起した地面に吸い込まれるように倒れていくところで意識が飛んだ。





 @@@





 ケホ、ケホ!ケホ、ゴホ!


 咳き込みながら、寝返りを打った。


 真っ白な部屋。


 病院?


 どこだ? ここは?


 カーテンで仕切られたベッドの上にいて薄い布越しに人の気配。と両隣は不明だが、ベッドに投げ出された足の向こうからは人の囁き声が聞こえてきていた。



 起き上がって恐る恐る、ベッドから出ていく。


 カーテンを開けると、白衣を羽織ったショートカットの女性。

 細いフレームのメガネをしていて、若く見える、20半ばくらいの美人…



 俺よりも年下に見えた。こちらを向くと雰囲気が突然変化。



 ーようこそ、残滓の渦へ。あなたを私は、歓迎します。

「……」


 ーここはXXの残滓の渦。私は保健医の那由多。あなたの名は?


「何を言っている。残滓の世界?」


 ー答えなさい、あなたの名前は?


 ……知らないんだよ、歯痒いほどに苛立つ。


「……答える気はない、お前が答えろ」


 人間というよりもロボットもしくは超常の存在のような空気を纏った女だった。


 最初確かに感じた爽やかな風のような表情は、話し出した途端消え去って北風に煽られた旅人のように自分の身を固くさせた。


 しばし互いに沈黙の中にいて、数秒して那由多と名乗った女が肩から脱力し姿勢を崩した。一瞬彼女の頭が女の胸の位置まで落ちるのではというほどにガックリと項垂れるように姿勢を崩して、すぐにビクッと肉体が硬直し、元の姿勢に戻ると、今までのことを完全に覚えていないような顔。纏う空気も一変し、……いや元に戻った?


「あ、あのぉ、私は……」

那由多(なゆた)といったな? フルネームはなんだ?」


「は? え、な、那由多?」


 まるで記憶がないようだった。何かに取り憑かれたとでもいうのか?


 事情を説明した方がいいかもしれないが…



「す、すいませんですけど。事情は知りませんがあなたも傷ついた人ですね? なら好きなだけゆっくりしていってください。また必要があればここへ来てくださって結構なのでお構いなく」


 ちょっと意味がわからないが、ニュアンスは伝わった。


 そういうや否や、もう俺とはコミュニケーションを取りたくないというように、机へ向かい、開いたPCで作業をし始めた。雰囲気、纏う空気自体が先ほどと違う、今度は少し恥じらっているように頬を赤らめつつ仕事に集中しようとしていた。


「いや、聞きたいことがあるんだ」


 無視。


「あのー、」


 無視。


「おい!」


「やめてください!」



 いきなり怒鳴られた。


 ……もういい。こちらも無視して引き戸を開けて部屋を出る。

 長い廊下に窓が連れ添うように続いている。学校校舎のようだった。





 廊下の窓から見える景色。


 高台の上に立っているらしい校庭の外は一面__


 ___雨の海だった。





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