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12話 空浮かぶ邪なる瞳と天破る雨と正義の剣



店を出ると夜になっていた。


駅前のアーケードの店のほとんどはシャッターが降りていた。店を出るとラッパーのような格好の男たちが現れて話しかけてくる。


ーちょっとすいません、職務質問いいですかね?


「急いでるんだ」

「まぁまぁ、そう言わずに。ちょっとだけお時間取らせないのでー」


無視して通り過ぎる、と横から早歩きで並走してきて一人が特殊警棒をシャキンと出した。


「従ってもらった方が早いんですよぉ」


と言いながら警棒を振り上げて腿を打ち付けようとしてきた。警棒を掴んで引くと男の体ごとグんと引っ張られて転倒する。警棒を強く握り込んで離さなかった男はロデオマシンから転げ落ちないように捕まりながら地面に落ちて引きずられているような格好になって他の二人の仲間にぶつかって倒れ、そこでようやく警棒を手放した。


よろけている他二人の男に1、2と顔面にストレートと顎にフックをやりノックアウトした。夜空を見ると星が見えない、あの巨大な怪物が空に潜みこちらを覗き見ているかも知れないと思うと目立つように走っていくのは気が引けた。


こそこそと足早に、途中からは小走りで坂道に並ぶシャッターの降りた店々の軒下を進み薬局へ。薬局の近くには本屋、信号を渡ってすぐに眼科のクリニック。薬局は頑丈そうなシャッターが二重に降りていて、目立たずに入り込むのが困難そうだった。


「……どうするかな」


焦りと苛立ちを感じながら、左手でアキラの小型ルービックキューブをカチカチと動かしていた。悪目立ちせずにこのシャッターをこじ開ける自信がない。


横に目をやると眼科のクリニック。

明かりがついている……


ガーゼくらいあるかも知れなかった。クリニックなんだ、あるだろう。


横断歩道を渡り、眼科のドアに手をかけると鍵がかかっていた。

ノックしてみると、ドア横の窓に人影。


「那由多!」


すぐに那由多がドアを開けてくれた。


「すぐに入ってください!」

「わかった」


ここにいたのか……


那由多に事情を説明するとそもそも那由多が行ったほうがいいと言う。

そういえば保健医だった。



俺が那由多を護衛しながら駅前のハンバーガー屋までいくことに。話し合っている最中に外に妖魔の群れが見えた。那由多に伝えるが見えないらしい。


「本当に見えないのか?」

「だからそう言ってます!」


窓の外を見ると先ほどよりも街が明るい。あの黒い空がやってきているのだと思った。


「空にとんでもない大きさの一つ目の化け物がいるんだ」

「それを信じろと?」


「信じなくてもいい」

「じゃあ、信じます!」


ーそれに見られたら?


「わからないが、妖魔がそれに見られて死んだ」


那由多が緊張した面持ちになった。


クリニックから出ていくタイミングを見計らおうとしていると、那由多が__


「ちょっと時間かかりすぎです!」


そう言ってキスしてきた、何度かされたことがあったが今回はずっと情熱的なもので__


その上数分間だけ、キスよりも先まで互いに行ってしまった。


「これ、いつもなんでするんだ?」


聞くと、後で教えます! とだけ返ってきた。



結局いつまでもこうしていられないと、クリニックを二人で出る。

妖魔を俺が透視で見て避けながら坂を下っていく。時折妖魔と鉢合わせしそうになっては路地裏やコインランドリー、レストランのテラス席のフェンスや片付けられたテーブルと椅子などの物陰に身を隠してやり過ごした。


ハンバーガー屋に着いてドアを開けようとすると__


___鍵がかかっていない。


「まずい……」


急いで透視で扉の向こうを見ると、二人ともいなくなっていて代わりのようにあの老婆がいた。オフィスで何か設置している。


(なんだ?)


黒いガラス玉の置物。手のひら大よりもやや小さい。


廊下を進んで、オフィスに入っていき老婆の首根っこを掴んで拘束する。


ーキャァァァァ!


大声で叫ぶが、口を無理やり押さえる。


「このまま顎を握り砕いてやってもいいんだ、大人しくしろ」


老婆がコクコクとうなづいたので解放。事情を聞こうとすると__


突然黒いガラス玉を取ってこちらに向けた。




* * *



気がつくと、トイレの中だった。那由多はいない。


どこのトイレだがわからない、民家のトイレだろうか。

張り紙が貼ってある、「こちらの紙は手を拭くためのものです、流さないでください!」


どうやら民家じゃない。2秒で予想が覆されたがどうでもいい。扉を開けると見覚えのない狭い廊下にアキラの死体。損傷箇所が紫色に塗れている。壁に寄りかかっていたのが、倒れてしまいそうだった。横に倒れないように姿勢を直してやる。


廊下を抜けると受付カウンターと待合室。


あの那由多がいた眼科だった。


「……戻ってきてしまった」


人はいない、相変わらず外は夜。街中は昼間のように見える状態ではない。普通の夜だ。


疲労感を感じながら無意識に左手にキューブを握りこみカチカチと回した。


カチリ


通常よりもはっきりとキューブから音がした。まるで金庫が開いたような、何かが解けたような音だった。


なんだ?

受付カウンターの下が気になった。中に入って机の下を覗くと金庫があった。開けようとするとスルッと簡単に開いた。最初から鍵などかかっていなかったというように。


中を見ると__


「大事なものをここに」


と書いてある紙。

ハリーの娘からもらった赤いパンティを思い出す、ポケットから取り出して丸めていたパンティを広げてまじまじと見る。貰い物でもいいのか? というか俺が最初から所持してる大事なものなどないんだ。わからなくとも、やってみよう。



金庫の中に赤いパンティを置いて閉める。


カチッと音がした。ダイヤルを一応適当に回しておく。これ俺が設定しなくてもいいんだろうか? 一度開けようとすると開け方がわからない。取り出せなくなってしまった。


舌打ちして、窓際にいき外の様子を見る、今は妖魔もいないようだった。


再びキューブを触ると再度カチッとした音がした。


まさかと思い金庫に向かうと開いている。


「錠を開けられるのか? このキューブで……」


金庫を開けると、中には哺乳瓶が入っていた。


「なんでだよ!」


キレそうだ、なんの意味があるのか。


ハリーにあのパンティ返せ、と言われたらどういうんだよ! いやぁ無くしちゃってな、だから返せないんだよな、というのか? 疑われたら? 溺愛している娘のパンツを必死に渡さないように嘘ついているだなんて思われたら最悪だぞ! 


心の中でどれだけ悪態を吐こうがパンティは戻ってこない。

無くしたことがバレないことを祈るしか無かった。


もうここはいい。


クリニックから出て再度駅へ向かおうかと横断歩道の前に立った時。向かいのお嬢様学校の塀から鍵が閉まったような音。回り込むように見ると角のあたりに門がある。


透視で門の向こうを見ると、あの老婆がこそこそと校舎に向かっているところだった。


(……あのババア! ……何をしているんだ?)


あいつはこの街の何かを知っている、捕まえたい。足早に塀に近づいてぴょんと飛び越えると、塀の外にいた。ここもだ、戻ってきてしまう現象が働くのか? もう一度やっても同じ結果。


門の前まで行き、キューブをカチカチと動かす。なんとなくこの鍵も開くような気がしたのだ。が、なかなか解錠の感覚が来ない。焦りつつもそれでも試し続けると、カチッとした音がして門の鍵が開いた。


真夜中の校舎に忍び込む。



* * *




校舎に入るため扉の施錠を解く。


キューブを使用、今度はもう少し早く解錠できた。


入るとそこは図書館だった。図書室なのか、図書館なのか分かりずらいほどに豪華な図書館で半島のように建物からやや突き出ている。音をたてないように気をつけながら窓から差し込む月明かりだけを頼りに透視を使用しながら老婆を探す。


素早く透視を使って見まわしすぎたのか3D酔いのようになった。頭がすぐにフラフラになり、慎重に移動していくことに。


目と脳が麻痺したかのように重い。

あの老婆も無視なってしまっているし、さっさと探し出したい。どこにいるんだ。


図書館を出て廊下から進むと、職員室らしき部屋。透視で中を確認する、やはり職員室だ。


そしてその近く__


(那由多!)


灯りのついた部屋にて老婆が那由多と取っ組み合いをしていた。


老婆は凄まじい形相で那由多に飛びかかっていて、那由多は必死に抵抗していた。果物ナイフで那由多の首を突き刺したところ、崩れ落ちる那由多を見た。ダッシュでドアを蹴破って中に入り老婆を蹴り飛ばす、那由多は血を流しながら動揺しているような目で、こちら見て、俺と目が合って、そしてその目から光が__


__消えた。



全身から力が抜けて放心状態になる。急いで那由のそばにあったガーゼで傷口をぐるぐる巻きにする、止血の仕方がわからない! 那由多は意識を手放したように動かないが、まだ息はある。何がなんやら、わけがわからないような感覚になりながら背後を見ると、老婆。


蹴られた肋を抑えながら果物ナイフを俺に向けてくる。


「近づくんじゃないよぉ! この女みたいになりたくないならねぇ!」


ふらつく頭で、黒いガラス玉を取り出そうとした老婆の肋を押さえていた手を引っ張り上げて地面にうつ伏せに沈ませるようにして拘束。膝を背中に乗せて体重をかける。


「痛い痛い!」

「黙れババア。俺の質問に全て答えろ、そして協力しなかった場合次は視界に入った瞬間に殺す、いいな?」


ーヒィぃぃ!


老婆が肩にかけていたカバンを漁るとこいつがいつも通報している携帯電話。


「これが特別なアイテムなのか? なぜお前は警察に指示できる、操れる? 救急車は呼べるか?」

「無理だヨォ! 選ばれたからだよぉ! このあたしが選ばれたんだぁ!」


質問した時、老婆が喚くように答えた時。老婆を殺して手当する道具を保健室で漁ろうと思った時。


___天井が崩壊。


瓦礫が降る、粉塵が舞う。


「校舎が崩落しているだと!?」


老婆を離し下敷きになる前に那由多を担いで逃げる。外へ出ると漆黒の夜空には__


あの巨大な瞳が浮かんでいてこちらを見ていた。


ーXXXX様ぁぁぁー!! 迷いびとはまた殺してやりましたぁー!


老婆が瓦礫の隙間から体を出して紫の血だらけになりながら必死の形相にして叫んだ。瞳の怪物を見て目を潤めている。


光のない澱んだ目は老婆を無視して蔑むように俺と那由多を見ていた。別にこんな怪物にどう思われようが、そんなことはどうでも良かった。この哀れな老婆がこいつの信者だろうが、どんな理由を持って迷い人を襲っていても。全てがどうでもいい。たった一つのシンプルな感情が内から溢れ出ていた。



「……テメェらは、ぶっ殺す!」



左手のキューブを握り、カチカチと回す、と老婆の周りの瓦礫が超常現象のように恐ろしい力でパズルのようにグングン動き老婆を引き潰した。


左手を離すとキューブはより小型になり形が変化。ブレスレットとキーホルダーのようになって左手首についた。


那由多を地面に寝かせて、空に浮かぶ邪悪な瞳を睨みつける。


右手にはいつの間にか青銅の剣。幅広で無骨な古代の剣は1秒ごとに飛躍的に重量を増していき、3秒後には人間が持てるはずのないような重量に、4秒後には俺の周りの大地がひび割れ円形のクレーターになった。


大地に埋まった錨を引き抜くように、この怪物を殺さなければとても治まらない怒りの剣を引き抜くように、ハンマー投げの選手が投擲する瞬間に鉄球を引っ張りあげるように、重すぎる剣を、一瞬の間だけ、一気に肩まで引き上げ___


__そこから、振り下ろす。


引き上げる合間に剣が放ち始めた煌めきにギョッとしたような目つきになった巨大な瞳は、最初の一瞬驚き、次の一瞬には、振り下ろされても何も起きないことでまた蔑むような目に変わり、そして次の瞬間には、視点を上に上げてその瞳を恐怖に歪ませ揺れ動かした。


どんな生物、建造物よりも巨大な1キロはある闇の中心に座していた100m級の瞳の怪物は自身の闇よりも巨大な、20Kmを優に超えるだろう巨剣が、天を突き破り振り下ろされる瞬間を見た。


一才の理由も、理屈もなく、瞳は恐怖の感情に支配された、巨大な瞳からは涙が溢れ出す。


が、それが零れ落ちる時間をその剣が与えることはなかった。



ー……神剣、雨の叢雲の剣。



剣が大地と坂の街の校舎前部分と向かいの土地を完全に破壊しながら怪物を一刀両断する、闇が真っ二つに破られ晴れる、とその瞳が次元の裂け目からこちらを覗き見していた瞳なのだと知れた。目をつぶされたその存在は覗き穴から離れて一瞬切られた口までをもこちらに晒した。傷は深く眼孔から脳まで達し、巨人の怪物は次元穴の向こうで絶命したのか、向こう側は何も見えなくなって次元の裂け目ごと恐ろしいハム音、風の音と共に消え去った。


後に残ったのは怪物の断末魔の余韻と、破壊された建物、アスファルトと大地の粉塵と天高く舞い上がった瓦礫が雨霰のように落ちてくる音だった。



「消え失せろ、このドグサレ外道の、ゴミのクソバカの別次元からきた覗き見ゴミ野郎が。死にさらせ、あほぼけ」


全身から力が抜け立っていることすら困難になる、意識が朦朧として、今にも気を失いそうだった。力を使い果たしたのかも知れなかった。なんとか那由多の横に一緒に横たわった。意識を手放す前に抱きしめると__


那由多の表情が少しだけ安らかになっているような気がした。







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