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11話 黒き空に浮かぶ邪悪な瞳



真っ暗の空に気配。


「……何かがいる」


サングラス越しに集中して透視しようと試みると__


__黒い空には紫が混じる漆黒の闇がありその中心には巨大な瞳があった。



なんだ、これは……


最初真っ黒な太陽かと思った。そして太陽にしてはその円形の闇があまりにも巨大なことに気づいた。もしも太陽がここまで近ければ地球は終わりだろう。


その闇の球体の靄の大きさは恐らく1キロはあって、その中心に存在する目は最低でも100m以上はあった。


薄気味悪い一切の光が無い淀んだ眼は ……ギュルン、ギュルン、と一定のリズムで眼球を動かし街を上空から見ていた。その巨大な瞳は通りを歩いている人間にちょっかいをかけようとした妖魔を見て目が血走った。


同時に妖魔が理性を消失したかのように通行人に取り憑いて人間が出血死した。舌をだらんと垂らして興奮した様子で人間から出ている光の粒子を妖魔が吸おうとすると、巨大な瞳の怪物の目が ……ドゥルン、と動いて妖魔を見据えた。


それに見られた妖魔は__ 頭を、喉を掻きむしりながら毛虫のように地面をのたうち回りながら死んだ。紫の砂になった妖魔の肉体からは光の粒子が僅かに出てきて空に座する怪物の元へ立ち昇っていく、と怪物の瞳が愉悦に歪んだ。次の瞬間__ その瞳があった場所も闇に包まれ、その闇の(もや)もまた漆黒の空の中に消えてしまった。




***



___四日目



雨の海が見える崖付近の公衆便所に向かった。


アキラの亡骸がどうなったのかが気がかりだった。

ハンバーガー屋を拠点とするのをやめて駅近の脇道にあるホテルに泊まった。妖魔は俺をキョロキョロ探すのはやめたようだったが老婆が俺を監視しているように感じたからだった。


この坂の街を動く時も妖魔、老婆ともに透視を使って遭遇しないように気をつけながら移動するように気をつけていく。ここでは人目を気にした方がいい気がした。


崖近の公衆便所が見えてきた、透視を使用。アキラの死体が無かった。ほっとしたような気になった、しかし誰が動かしたのか、それとも妖魔のように消失したのか気になった。


念の為駅にまで戻って駅なかのトイレも覗いていく。

この駅は電車がほとんど来ない、乗客も少ないが完全に電車がないわけでも無かった。乗ってもいつの間にかプラットフォームに立っているので乗る意味はない。


改札近くの男子トイレに入ると、手洗い場横のハンドドライヤーの横に壁に背を預けるようにして寝ているアキラの亡骸があった。傷口や乾いた血は全て紫の砂や粉のようなものに塗れていて、ところどころ肉体が腐食し崩れ始めていた。紫の粉まみれの亡骸……


「妖魔の肉体もこうなったが……」


人間の場合は砂になるのが遅いらしい。ここで死ぬとそうなるのか、それとも妖魔に殺されるとそうなるのか。あの不気味な巨大な瞳が関係している気がした。


トイレから出ていくと、遠くから鉄道警察の格好をした人間たちがサブマシンガンとマシンピストルを手に足速にやってきていた。


柱の影に隠れて透視を発動。


同じく柱の影に隠れているあの気持ちの悪いクソ婆を見つけた。老婆は柱の影から笑みを醜悪な顔面に貼り付けてニチャァという音が聞こえてきそうなほどに口の両端を釣り上げていた。


「あのクソババア……」


不快感と苛立ちが湧き起こる。

他の通行人に紛れて駅を出ようと歩き出すと、キャぁぁあ! という悲鳴、と同時に___


ラタタタタタ! 


連続する発砲音が構内に響き渡った。二人の女が鉄道警察に銃撃されたところだった。


「……俺じゃないだと!?」


俺にじゃなくて構内にいた二人の女を追いかける制服を着た人間たちは堂々と駅構内で発砲。二人組の女は手を繋ぎながら柱を利用しながらジグザグに逃げる。


あの赤毛の女だ!

赤毛は迷い人、もう一人の金髪の女も見覚えがあったが思い出せない。


改札口を飛び越えようというところで女の一人が負傷、改札に引っかかって転倒した。


「……まずい!」


助けに行こうとした、その時。


五人いた警官が互いを撃ち合うように銃を撃ち放った。いつの間にか乱闘状態になっている。


ハリーだ!


ライダースジャケットでロン毛の男。サングラスをくれた男。


ハリーが警官たちと取っ組み合っている! ハリーは普通の人間よりも身のこなしが遥かに優れていて早くも三人目の警官をのしたところだったが妖魔が背後から忍び寄っていた。一気に駆け出して妖魔を捕まえ一本背負を喰らわす。



「エル! 最高だぜ、お前ぇ!」

「集中しろ!」


残り二人の警官の一人がマシンピストルをハリーに向けて引き金を引く、その一瞬手前のタイミングで前蹴りで手を蹴り上げる。銃は数発の弾丸を射出しながら天井に飛んでいって、背泳ぎするように格好で警官が倒れ込む。もう一人の警官をハリーが馬乗りになって殴りつけて失神させた。


ーもっとぉ応援をちょうだぁぁい! もっとよぉぉぉ!


あの老婆が狂ったように柱の横で電話片手に叫んでいた。出目金のような大きな目が飛び出しそうなほどに老婆は興奮していた。


すぐさま警官の手からサブマシンガンを奪って老婆に撃ち込む。老婆が数発被弾、セーターから滲んだ血がすぐさま紫色の粉に塗れて出血が治まる。


ーギャアァァァ!


驚愕に顔を引き攣らせながら悲鳴を上げ老婆が逃げる、追いかけようとするもハリーの上擦った声が聞こえた。


「おい! おい、アメリアぁ!」


ハリーの野太い声が悲鳴を上げるように構内に響く。


改札にいた二人の女のうち金髪の方が腹を抑えていた。


女子高の制服…… そうだ、ここにきた時に見た女だ。エルトンジョンとか俺に言ってきた女。赤毛の女が肩を貸しながら心配そうにしている。ハリーが駆け寄っていって抱きしめる。


アメリア! アメリア! 何度も何度も名前を呼んでいた。


ーお、お父さん…… ごめんね。せっかく来てくれたのに、ごめんね……


涙を流しながらハリーが、気にすんな!と大声で言いながら服を破き傷の具合を見る。赤毛の女が薬局でガーゼとか探して持ってくる! そう言って走っていく。


怪我の手当の方法もわからず、ここで何してもいいかもわからない。ただオロオロと二人を見ていても仕方ない。俺に出来ることは見張くらいだった。


透視を使い、周囲を見て回る。もう襲撃者が来ないようにというかはきても返り討ちするために。もう少し安全な場所があればいいのだが、この街で一体どこか安全なのかもわからない。


結局、赤毛の女がアメリアと呼ばれた娘(ハリーの娘らしい)に応急処置を施した後どこか安全な場所に運ぼうと言う流れになった。しかし皆安全な場所がわからない、と言うことといつ自分たちが消えてしまうかわからないことで皆戦々恐々としていた。


結局、俺が那由多から教わったハンバーガー屋に運び込むことに。駅から近い上に一応鍵があるからだった。立ち入り禁止の張り紙のドアを開けてオフィスに運び込み、茶色い革のソファの上寝かせる。鍵を開けたかどうか確認したくなって扉の施錠を確認してから部屋に戻ると__


ハリーが娘の手を取って、大事なものを一つ差し出すんだ、と頼んでいた。


ー頼む! 頼むアメリア! 一つだけでいい!


アメリアは、「大事なものなんて持ってないよ…… お父さん…」


ーああ、悪かった! ごめんなぁ… でも大事なことなんだ、アメリア…… ほら、俺からだ…


そう言ってライダースジャケットをアメリアの体にかける。


どうしても消えたくない時は大事なものを誰かに渡すともう少し長居したり、その人と離れにくくなったりする。ハリーは別の迷い人からそう聞いたことがあるらしい。そしてそれは有効そうだったらしい。


(だから俺にサングラスをくれたのか……)


今にも気を失いそうなアメリアが、理由を聞いて「本当に、信じるからね……」そう言いながらモゾモゾと腰を動かす。


ーわかってくれてありがとう!アメリアぁ! え? あ、アメリア?


鼻水と涙でぐしょぐしょの顔面になったハリーが素っ頓狂な声を上げる。


真っ赤な下着。ショーツ、パンティ。


それをとったアメリアが頬を赤めながら俺に手を伸ばしてきた。


ー受け取って、……それしかないんだからね。これも大事なものに入る?


ハリーが、「ああ! きっと入る! だからもう安静にしてろ!」大声でそう言いながら俺の方に顔を近づけてきた。


(おい、エルジョンソン。違うか、いやなんでもいい。ちょっといいか? うちの娘のパンティだからな? 大事にしろ? そして変な気を起こすんじゃないぞ? まだ学生だからな? 17歳だ、わかってるな? サングラスごと顔面にパンテ、いやパンチを喰らいたくないよな? いいな? )


小声かつ早口で捲し立てくる。


「ちょっと待て、これハリーが受け取った方がいいんじゃないのか?」


「いや、でもお父さんにショーツは持ってて欲しくないから……」


アメリアがそういうと情けない顔をしながらハリーが___


「そうだよな、わかるよ、俺じゃないやつにあげような」


などと言っていた。



ていうかこれ受け取ってどうすりゃいんだよ! 俺が変態みたいだろうが! 緊張しながらパンティ、いやショーツをポケットにしまった。少し胃が痛い。


アメリアの傷の手当てのために、ガーゼをもっと調達したいとハリーが言い出して俺が了承。俺が言ってくる、そう言って部屋を見た時には赤毛の女は消失していた。


「……」


思わず、固まる。このタイミングでいなくなるとは…


「何も渡さなかったからだ、消えるタイミングを遅らせるには何か手放したり、あげなきゃいけないんだ、多分」

「おいおい、じゃあジャケットをやったからハリーとアメリアはしばらくここに残れる可能性がある」


「そうだ、お前と俺たちが繋がっている。サングラスの効力は続いているかわからん、多分もう無理だろうぜ」


「急いで言ってくる」


ーああ、恩に着る。頼んだぜ、エル、なんだっけ?


「エルム・L・エルメスでジョン・ジョンソンだ!」


さっさと行こう。

ハリーと廊下を出て扉を閉めたら鍵をかけておくように伝えた。あの老婆がここに数日入り込みたそうにしていたことも。


「あの老婆は要注意だ、用心しろよ」


「わかってる」





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