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1話 雨の海

 雨の海



 プロローグ




 崖の上から岩辺に打ち寄せる波をずっとみていた。


 一体どこで間違えたのか、まさか自分がこんな最後を遂げるなんて、いや自分で終わらせようとするなんて__


 子供頃の自分がこんな結末を知ったならどう思うだろうか。そう思うと涙が溢れてきた。


 ただ、運が悪かったと思う。


 特に悪いこともしていない、ただただ報われなかった。そして疲弊していった。社会はいい子ちゃんでいることを市民に推奨するが、それで損した市民にはなんの保証もない。いざ疲弊し過ぎれば弱者として扱うだけであり、それなりに優秀な自信があったとしても__


 __他人は他人だ。


 社会の言うことを間に受けて損して生きてきたバカは、いや、そもそも皆運なのかも知れなかった。どう足掻こうが、自分には精神的な気力がもうないのだ。それを打開する人生の引き出しも知恵も、コネも、何もかもがなかった。


 こんなことならば、いっそ悪にでも堕ちたほうが良かったのだろうか。姑息に立ち回り、自分が得するように立ち回って……


 そうすれば、誰かが自分を選んでくれる?


 ふざけるな。なぜ最後まで受け身で存在すら知らぬヒーローになるうる可能性のある誰かに手を取ってもらおうとしているのか。自分をどこまでも情けなく思った。


 逆に自分がヒーローになって誰かにやって欲しかったことをやってあげるだなんて元気はもう無いだけなのかも知れないが、そんな思考すらもはやどうでも良かった。もう結末はすぐ底まで来ているのだ。




 最後に見た光景は、眼前に迫りくる波と岩だった。








 ————





 雨の海の中にいた。



 目覚めるとともに意味不明な言葉が脳裏に浮かんでは消えた。


 部屋の中は暗い、というか部屋じゃない。寝違えたような痛みや、硬い床で寝たような痛みもあったかどうか。それすらも意識の外にあった。


 洞窟?


 いや、洞窟の中のような壁にはところどころ木材で補強されている。といっても数は少ない上に頼りない。


 ここで誰かが作業をしようとしていたか、それとも暮らしていた。恐らくはそのようだった。


 その証拠のように、頑丈そうなシートや布もちらほらとあって、たった今自分で寝ていた場所も。人間の作った寝床だ。粗末だが敷布団のように布が重ねられていて、それも地面に直接ではなく獣の毛布と言っていいかわからないような毛皮。かなり薄い物が4つ、5つと敷かれていた。


 洞窟内はひんやりとしていて、やや湿度が高い。どこからか光が差し込んできていて洞窟内での視界は確保できている。


 敷かれていた毛皮をとると茶色にやや白や黒が混じっていて自分の胴よりも小さい。スプリングボックの毛皮の敷物のようだ。いや詳しくないし、そんなのは当てずっぽうだけれど、昔どこかで見たことがあったのだ。思い出そうとすると頭がズキりと痛んだ。


 次に意識が自身の服装に向いた。

 頑丈そうな皮のアンクルブーツににデニムにやや厚めのチェックのシャツ。

 どれもこれも薄汚れていて思わず顰めっ面になる。


 地べたにはキャップもあった。

 なんとなく被って風が吹いてくる方へ、歩いていく。


 やや足場の悪い道を進んで行くと、やがて強い光が遠くに見えた。

 光源に向かってきていたらしい。


 外へと通じる穴。人が余裕を持って3人は通れるような__



 穴の向こうは土砂降りの海だった。





 ***



 穴から顔を出すと、面積は見渡せるくらいしかない島。


 島といっても瓦礫に、木材、木の枝や、謎の木の根に捩れた鉄棒やらが島を形成しているように海面から突き出ているだけのようだった。浮いているのか……


 大海原にポツンと……


 その上に顔を出すようにしてこの洞窟があるのだと理解した、状況を心の中で処理しきれず固まってしまう。


 雨はひたすらにザアザアと降っている。リズムは違うが波も同じようにザアザアと打ち寄せていた。


 少しふらつきつつ、足元に注意しつつ、外に出て四方を確認する。


 雨は激しく、顔を顰めて目を細めなければいけないほど容赦なく顔面に降りかかる。それが疲労をより鮮明に感じさせたし、頭が痛くなるような、めまいを覚えさせた。地面は泥濘のように不安定に感じた。


 心の中で、無意識的に、何か少しはいいことが見つかってくれと祈りながら見た光景は_____



 見渡す限り、陸地などまるで見えない一面暗い色をした海だった。



 ……地平線以外何も見えない。




 気分が悪くなってきていた。



 外から見た洞窟は、この小さな世界の唯一のセーフハウスのようだった。



 戻ろう。さっさと戻る。怒りが込み上げてきていた。何に対してかは知らない。


 洞窟の入り口に腰掛けて、ぐしょ濡れのキャップを奥へと放り投げる。


 しばらく放心状態になり、入り口から海と雨を眺めながら横になって、そのうちに寝てしまった。



 次に起きた時には夜だった。


 相変わらずの雨の音、日中よりは小降りで大人しく波の音が聞き取りやすくなった。



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