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STORY18.親友

 剣を抜き兵士に命令を下せば、彼らはモンスターに臆することなく行動に移す。空を飛ぶという情報を前持って入手していた事もあり、部下には弓を携帯させている。

 オレとケイト、そして兵士たちでモンスターを挟む形で攻撃が始まった。


 最初の一撃はモンスターの背後で弓を構え、弦を引くを兵士による矢の嵐。弓を携帯する全ての兵士が一斉に弓を構えモンスターを標的に矢を放つ。

 流石は国中から集められた精兵といったところか。矢は寸分の狂いもなく、まるで吸い込まれるようにモンスターに迫る。


「グオオォォォォ!!!!」


 まるで力を誇示するような雄叫びだった。迫る矢の嵐を前にモンスターは軽やかな動きで飛翔し、迫る矢の嵐から逃げた。

 いや、モンスターからすれば逃げたという認識すらないだろう。それだけ余裕たっぷりといった様子でこちらを見下ろしながら、滞空している。


「躱されたぞ!」

「第二射構え!!」


 初撃を躱されたからといって兵士に動揺はない。これまで戦ってきたモンスターにも弓矢による攻撃を躱したモノはいる。矢を弾く強靭な皮膚を持つモノもいた。矢を躱した?それがどうした。初撃に対するモンスターの対応も想定の範囲内だ。


「まずは引きずり下ろす事から始めないとな」


 モンスター目掛けて第二射、第三射と続け様に矢を放つが、空を自由に飛翔するモンスターにかする事すらままならない。


 矢も限りがある。このまま無駄打ちを続ければこちらの打つ手が無くなる可能性が高い。兵士たちが戦いやすいようにオレの方で手を打とう。


「ニルバ!」


 部下の一人の名前を呼べばモンスターを警戒しながらも、素早くこちらに駆け寄ってきた。オレの意図を汲み取ったのだろう、その手には短槍が握られている。


「こちらを」


 ニルバから手渡された短槍を構えながら横目で彼を確認すれば、オレと同じようにモンスターを見据えていた。精兵揃いのオレの部隊の中でも頭一つ抜けているのがこのニルバという男だ。ギルバートの推薦でオレの副官を務めているが、優秀の一言では片付けられないな。

 戦況を的確に把握出来ているからこそ、オレの意図を読み取り行動に移せている。


「タイミングは任せるぞ」

「お任せください」


 矢の雨を縦横無尽に飛び回って躱し続けるモンスターをこの短槍の投擲で撃ち落とす。その為にタイミングを計っている。今はダメだな。矢に対して余裕綽々といった様子だ。

 このタイミングで投げても避けられるのは目に見えている。確実なタイミングを狙え。


「⋯⋯⋯」


 息を吐く。心を沈めろ。短槍の投擲にだけ全神経を集中する。

 

「今です!」


 ニルバの声と共に短槍を投擲する。モンスターの位置と予想される飛行ルート、投擲の角度にタイミング、全てがオレとニルバの想定通り!

 投擲された短槍は空を切り、降り注ぐ矢の雨の中に紛れモンスターに肉薄するが⋯⋯。


「外れたか⋯⋯」

「申し訳ございません。僅かにタイミングが早かったようです」

「構わない。外れはしたがわかった事もある」


 投擲した短槍は確かに外れはしたが、今の攻撃が有効である事が判明した。兵たちが放つ矢に対しては余裕を見せていたが、オレが投擲した短槍に対しては過剰に反応していた。

 それを証明するようにモンスターの皮膚に矢が数本刺さっているのが見えた。アレは短槍を避ける為に強引に軌道を変えたから刺さったものだ。矢を受けてでも短槍を躱す、モンスターがオレの攻撃を脅威と判断した証明と言えるだろう。


「槍はあと何本ある?」

「持ってきたものは4本ですので、あと三本です」

「十分だ」


 ニルバが背中に背負っていた短槍の一つをオレに手渡してきた。数には限りはあるが、4本もあれば十分だ。

 今の一撃でモンスターの凡その動きは予測出来た。次は当てる!


 再び短槍を投擲する為に構えると、モンスターが降り注ぐ矢を躱しながらコチラに向かって迫ってきた。オレが槍を投げる前に潰すつもりか!


「王子!」

「分かっている!」


 迫る脅威を前に思考を巡らせる。回避を優先するか、迎撃するべきか⋯⋯。


「避けろ!」


 一瞬の思索の末に回避を選ぶ。まだ無理をする場面ではない!

 オレの声と共にニルバが動く。続いて動こうとしたオレの視界にモンスターを迎撃する為に動くケイトの姿が映った。


「無茶だ!」


 思わず叫んでいた。友の愚行とも取れる選択、今すぐ止めて欲しい⋯⋯その想いで言葉を発していた。

 止める理由は一つ。ケイトが無手で戦おうとしているからだ。


 ───何故、無手でモンスターと戦おうとしている!


 彼が武器を持っていない事は初めて会った時から知っていた。だからこそアレクセイの伴に相応しくないと強く思った程だ。

 共に戦うのであれば武器は必要だと、ケイトにオレの部隊に手配される剣を渡した。なのに、今その剣をケイトは持っていない。

 一度目のモンスターの攻撃を躱す時に落としたのか?だとすれば最悪と言っていいだろう。


 ───オレの認めた友は、武器を持たず立ち向かうほど蛮勇か?


 オレの冷静な部分が何か秘策があるんじゃないと期待しているが、何も持たずモンスターに向かっていくケイトを見ると不安が勝ってしまう。

 

 胸の内を埋め尽くす不安と心配という感情。目の前でまた、大切な者を失うかも知れないという恐怖。


 葛藤は一瞬だった。友を助ける為に動こう!自分を優先するな!助ける事を優先しろ! 回避行動を中断し、ケイトの前へ⋯⋯せめて壁になろうと飛び出す直前、ソレは起きた。


「こい!デュランダル!!」


 ケイトの声と共に黒い光と共に黒いロングソードが、どこからともなく出現した。一目見るだけで分かる。オレが持つ国一番の名工が打った剣より、ケイトが持つ剣の方が優れていると。

 同時に似ていると思った。勇者であるアレクセイが持つ聖剣に⋯⋯。


「そうか」


 ───それが、君が勇者の伴に選ばれた理由⋯⋯。


 オレの足は目の前の光景に魅入られるように止まっていた。


 迫るモンスターを迎え撃つように、タイミングを合わせてケイトが黒いロングソードを振るった。


「遅い⋯⋯」

 

 思わず零れた声。ケイトが振るった剣は当たる直前でモンスターが急速に上昇した事で空を切った。あと、ほんの少しだけ剣を振る速度が早ければ当たっていただろう。

 一目で分かる名剣の一振。当たってさえいればモンスターを倒す事が出来た、そう思わせるものだった。


 だからこそ残念だ。ケイトが持つ剣はアレクセイの聖剣のような特別なモノである事は分かった。だが、肝心の担い手の実力が足りていない。

 御伽噺のように危機に面した際に急激な成長するなんて事は現実ではありえない以上、ケイトの実力不足を補う何かが必要になる。それが出来るのは本人だけか?違う。

 ここでオレが取るべき選択は一つだ。友の為に、援護する⋯⋯言葉にすると胸が踊る。


「ケイト」

「なんだ?」

「オレが援護する。お前が仕留めろ」


 オレの言葉を予想していなかったのかケイトが驚き、目を見開いていた。


 そんなに驚く事か?自分の事ながらその反応は少し思う所があるが、今は追求している時間はない。


「敵は強大だ。だからこそ手段は選ばない。敵を倒せる手を選ぶ」

「それが俺の援護か?」


 あえて口には出さず、肯定するように笑うと釣られるようにケイトもまた笑った。なるほど、これが友情か。


「グオオォォォォ!!!!」


 胸の内が暖かくなる感覚に浸っていたが、水を差すようにモンスターが吠えた。声に導かれるように視線を向ければ強い敵意と共にこちらを睨むモンスターの姿が映る。

 よくよく観察すればモンスターの真っ直ぐ見つめる先にいるのはオレではなく、ケイトだ。


 それが意味するのはオレ以上にケイトの事をモンスターが脅威として認識したという事。その事に気付いても不思議も苛立ちは感じない。いや、それ以上に誇らしさすら感じる。そして一つの確信を得た。


 ───この戦いを制した時、ケイトはオレの隣に並び立つ存在となる。


「くるぞ!」

「あぁ!」

 

 兵士が射る矢の嵐を掻い潜りながらモンスターが再びこちらに迫ってくる。短槍を構えながらニルバに目配せすれば察しのいい部下はオレの意図を理解し、同じように短槍を構えた。

 

「いきます!!」

 

 モンスターが迫り距離が縮まると共にニルバが短槍を投擲した。だが、モンスターはニルバの攻撃を予測していたのか素早く体を翻し短槍の軌道から逃れようとする。だが、甘いぞ!


 モンスターがニルバの攻撃を予測していたように、オレもまたモンスターの行動を読んでいた。一度はこの目で見た回避方法だ。二度は通じない!


 右腕に力を込める。全身全霊の一撃だ、この一撃で終わらせるつもりで攻撃しろ。


「しっ!!!」


 ───モンスターが逃げる先を予測し、短槍を投擲する。


 空を切りながら標的目掛けて突き進む短槍は見事にモンスターの頭に直撃した。だが、


「───っ!浅い!」


 短槍の当たった箇所から流血を確認出来たが、倒し切るには至っていない。当たる直前に首を動かして軌道をズラしたのか⋯⋯。


 よもやモンスターがここまでの芸当が出来るとは。⋯⋯仕留める事ができるのが理想。出来なくても頭への一撃だ、ケイトの攻撃の為の隙を作れると思っていた。


 くそ!オレの予測以上にモンスターがやり手だ!援護出来なかった事に対する無力感が心を埋めつくしていくのを感じる。いや、まだだ!オレにも出来る事がある!

 沈む感情を払うように腰に差した剣を抜き、敵を見据える。


 ───その時、オレの目に空を切る黒き一閃がモンスターの右翼、その根元を切り裂くのが見えた。



 なにが、起きた?




「ノートン!」

 

 ケイトの声が耳に入ると共に状況を理解する。黒き一閃───遠くへと消えていくソレは見間違えでなければケイトが持っていた剣。

 右翼を失い錐揉み回転しながら地上へと落下するモンスターの姿を再度認識し、ケイトが投げた剣がモンスターの翼を切り裂いた事を理解した。


 ───今が好機!!


 何故ケイトがオレの名を呼んだのか遅れて理解した。友と共に!モンスターを仕留めろ!!!!


「仕留めるぞケイト!」


 オレの体は地面へと墜落したモンスターの元へと向かっていた。その際、横を見れば隣を走るケイトの姿が映る。それが嬉しくて仕方ない!


「グオオォォォォ!!!!」


 地上へ墜落した際に舞った土煙を払い、両の足で地面を踏みしめながらモンスターが力強く吠えた。まだ、終わっていないとオレたちに宣言するように。

 敵もまだ戦意を失っていない⋯⋯、だが!それでも!オレたちの友情には及ばない!!


 ───モンスターとの距離が縮まる。


「デュランダル!!!」


 ケイトの叫びと共に彼の手元に再び黒い剣が出現した。


「デルフリット!!!」


 叫んだところでケイトの剣のように特別な事が起こる事はない。剣の名前を叫んだ理由はくだらない。ケイトの熱量についていきたかった。それだけだ。

 だが、不思議だ。名前を呼ぶ、ただそれだけで剣の特別感が増したように感じる。気持ちが向上する。剣に力が入る。


 共に駆けるケイトに目配せし、互いに頷くと共に力強く地面を蹴りモンスターとの距離を詰める。そして、タイミングを合わせて剣を振るう。


「エックス斬り!!!!」



 ───ケイトの力強い声と共に振るわれたオレたち剣はモンスターの首をしっかり捉え、切り裂いた。



「ふふっ」


 宙を舞うモンスターの頭を見て、ケイトが口にした『エックス』とは何かと疑問が浮かんだが、些細な事だと疑問を捨てる。

 どうでもいいじゃないか、そんな事は。今はケイトと共に───友と共に強敵を倒した、その事実に浸ろう。


「やったなケイト」

「あぁ!!!」


 ───首を失い血に伏すモンスターを見て、兵士たちが遅れて勝利の歓呼を上げていた。それはまるで互いに笑い合うオレたち祝福するように⋯⋯。








 ───ドオオン!!と、再び倒壊音が耳に入りそういえばまだ勇者(アレクセイ)が戦っている事を思い出した。


「忘れていたな」

「早く応援行こう!」


 オレたちに続けと、兵士たちに声をかけてからアレクセイの応援へと向かう。倒壊音の元にいるのは先程オレたちが倒した化け物(モンスター)と同じだろう。

 強敵だ。その認識は変わらない。だが、不思議とどんなモンスターが相手でも勝てると思えた。


 ───オレはもう一人ではない。共に戦える者がいる。オレに並び立つ者がいる。


「行くぞ、ケイト!」

「あぁ!」


 親友ケイトとならばオレはもっと高みへといける。なるほど⋯⋯これが親友という存在か。ふふ、この戦いが終わったら父上と師匠に報告しなければな。
















 ───刎頚(ふんけい)の友を得たと。

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