1話 プレイヤーに人権のないゲーム
「お爺ちゃん、お爺ちゃん! ボトムダウンオンラインって知ってる?」
「うん? 知らないなぁ。新作のゲームの話?」
孫からの話題にうまく答えられない自分を恥ずかしく思いながら、私は話題の擦り合わせを行う。
「それがね、作品自体は随分と前からあるんだけど、何故か全く話題になってないの!」
それは確かにおかしい話だ。
このネット社会で、全く話題にならないと言うのがもうおかしい。
何がどうおかしいのかうまく説明はできないが、つまらないならつまらないなりの評価が出回るのがこの情報社会。
中には敢えてつまらない作品を楽しんでプレイする【クソゲーハンター】なんて危篤な人まで居る。
しかしそんな人の目からも逃れ、謎が謎を呼ぶ、一部で七不思議扱いされてるゲーム、か。
孫が気にし出すのも無理はない。
それにしても全く記憶に残らない、か。
それは一体なんのために?
記憶消去を行う、またはゲーム内の情報を触れ回られると困る事でもあるのだろうか?
「不思議だね?」
「うん。でもね、偶然ログイン権を手に入れてね? それでお爺ちゃんと一緒に遊びたいなって」
「なるほど、ようやく話が飲み込めたよ。つまり一緒に遊ぶためのお誘いだったわけだ。そのくらい、お安いご用だ」
「やったー♪」
もう高校生になると言うのに、孫はいつも可愛くて困る。
娘はいつまでも私にべったりで困ると嘆くが、これぐらいのスキンシップ良いじゃないか。
「それじゃあ、少し情報を調べておくから、明日学校が終わってからログインしようか」
「今日じゃダメ?」
「流石によくわからないゲームをよくわからないまま遊ぶのは危険だからね。美咲を預かってる手前、無理をしたら私は由香里に怒られてしまうよ」
「そう言うことならはーい。でも、勝手に始めてちゃダメだよ?」
「もちろんさ。いっせーの、で始めるんだよね?」
「うん」
無邪気に笑う孫が学校に行くのを見送り、私は件のゲームの情報を洗った。
そしてそんなゲームはこの世に存在していない、全くのデマであると言う情報が多く散見された。
では、このログイン権は一体どこに繋がっているのか?
孫が私を騙すためだけに手渡したとは考えられない。
だからと言って勝手にログインもできないし、新しい情報を探す。
すると目を引いたのが『プレイヤーに人権のないゲーム』と言う出だしだった。
そんなゲーム、孫に勧められない!
でもR規制は特にないし、きっとAWOのような不可思議な体験を人権がないと言ってるだけだろう。
「ふぅん、チュートリアル武器か」
プレイヤーは最初に複数の武器の選択を強いられる。
全くなんの説明もないまま、一つ所に集められ、チュートリアル武器一本で世界を開拓することを強いられるらしい。
死んだらログアウト、ではなくリスポーンポイントでの復活か。
これはAWOにも見習ってほしいな。
そう考えると、理不尽さはそこまででもないのかもしれない。
「ステータスの類はなし。称号を付け替えることによって、バフをかける。中にはデメリットを強いられるのもある、か」
強い力には対価が必要になるってことかな?
行動に応じてスキルが増えるAWOとは趣が違うか。
「スキルはレイドボスを討伐する事で解放される?」
それが目を引いた。
え、最初に渡された武器一本だけで1000人規模の討伐クエストを乗り越えるの? 流石にそれは難易度おかしくない?
いや、AWOと違って規模はもっと小さい可能性もあるか。
ゲームシステムからして違うし、そこは要検証。
いっそ、長井君も巻き込もう。
彼、そう言うの好き好んでやるし。
「いや、チュートリアル武器という字面に騙されてはいけないな。AWOが武器はおまけだったように、敢えて入手させる何かがあるに違いない」
むしろプレイヤーの強化があるように、武器も強化できるのかもしれない。そう思うとワクワクした。
「他に情報は……え? いっしょに始めても同じワールドで遊べるとは限らない?」
流石にこの情報は孫と遊ぶのに不向きにも程があった。