あたしの白昼夢
※ 猫がちょっと、かわいそうです。
ご注意を。
あなたに早く会いたくて
積み木のお城みたいな駅への道を
いそいでたから
おひげがぴんとした黒猫を見かけても
あとをついていったりしなかった
たどりつくのは
かつおぶしをしきつめた大平原で
肉球をぞんぶんに
さわらせてくれたかもしれないっておもうと
ちょっと もったいない気もするけど
映画館であなたといっしょに
縦に裂けるチュロスを食べながら
むっつに割れた腹筋が ぱかってひらいて
ミサイルを発射するゾンビの映画を
しこたま楽しんだあたしだから
くやしいってほど
くやまれることでもなかったのかもしれない
置き傘をきらしてた くもりの日
雨が降り出すまえの帰り道を
いそいでたから
しっぽがひゅるんとした白猫を見かけても
あとをついていったりできなかった
コンビニで べつに可愛くもない
透明の傘を買って かけあしでもどれば
あのひゅるんとしたしっぽを
見失わずにすんだかもしれないとおもうと
ちょっと しくじった気もするけど
あたしがおうちについたと いれちがいに
ポップコーンの散弾銃みたいな雨音が
鳴りはじめたから
ひょっとすると かしこい選択だったかもしれない
だけど かんがえちゃうんだ
もしも あのとき
おひげがぴんとした黒猫や
しっぽがひゅるんとした白猫の
あとをついていってたら
あたしはいまごろ
どんなくらしをおくってたのかって
かつおぶしをしきつめた大平原に
ちいさな むらさきいろの屋根をした
おうちを建てたあたしは
きっと たぶん
猫たちと
やかましい聖歌隊を組むことだろう
お耳のとんがった三毛猫が
「うちのおじいちゃんだよ」って
三味線をもってきて
「ここの猫たちは 死んじゃったら
みんな三味線になるんだ」って
教えてくれたから
あたしはちゃんと練習して
猫たちと
三味線になったおじいちゃんといっしょに
旧き善きR&Bを歌うんだ
心配しないで
あんたたちまで三味線になっちゃっても
あたしがちゃんと
かわりばんこに 奏いてあげるから
あんたちも あたしがさみしくならないように
新月の夜には
ちゃんと化けて出てくるんだよ
もしも あのとき
おひげがぴんとした黒猫や
しっぽがひゅるんとした白猫の
あとをついていってたら
あたしはいまごろ
こんなくらしをおくってたんだとしたら
もったいないし しくじったかもって
かんがえざるをえないかもしれないけど
そんな あたしの白昼夢
どこまでが ほんとにありえるおはなしで
どこからが まったくありえないおはなしか
もう あたしにはそのさかいめが
ぜんぜん わかんなくなってるけど
そんな あたしの白昼夢
ぜんぶが ぜんぶ
実現するわけじゃないから
夢見がちなあたしにも
どうにか あきらめがつく
そんな あたしの白昼夢
白昼夢???