一
誤字報告いただきありがとうございます。
システムが分かっておらず、放置してしまっていました(汗
ご指摘いただいた箇所を修正させていただきました!!
「アリスティーナ・マクシミリアン侯爵令嬢。あなたはここにいるイルミナ・マクレガー男爵令嬢をずっと虐めて来たそうだな。」
この国の貴族の子息、息女が通う王立学園、その卒業パーティーの煌びやかな会場に、その雰囲気にそぐわない緊張が走った。
アリスティーナの前には、彼女の婚約者であるアーサー・オールステッド王太子が立っていた。その左腕は隣に侍るイルミナ嬢の肩をしっかりと抱き、イルミナも王太子に体を寄せてアリスティーナを怯えたような表情で見つめている。そのふわふわのピンクブロンドの髪が、彼女の可憐な雰囲気をより一層引き立てていた。
その後ろには見目麗しい青年たちが立っていて、彼らは将来の側近候補である上級貴族の令息たちだ。皆イルミナのピンクブロンドの髪を愛おしそうに見ていたが、アーサーが口を開くと同時にアリスティーナに刺すような鋭い視線を向けた。
「何に対しても冷淡で、その上、心が醜い貴女のような女性は次の国母に相応しくない。」
アリスティーナを冷たい目で睨んでいたアーサーは、彼女の後ろに居並ぶ学生たちに向けてこう宣言した。
「私はマクシミリアン侯爵令嬢との婚約を破棄する!」
目の前のそんなアーサーを、アリスティーナは表情のない顔で見つめていた。
アリスティーナがアーサーの婚約者になったのは二人が五歳の時。初めての顔合わせの時、お人形さんのように美しいアーサーにアリスティーナは一目惚れした。そしてこんなに素敵な人のお嫁さまになれる事をこの上なく幸せに思った。
それから、彼らはとても良好な関係を築いていった。アーサーも、彼に負けず劣らず美しいアリスティーナに夢中で、しばしば彼女を王宮に招いては、二人だけのお茶会を楽しんだ。
そんな関係に変化が訪れたのは十歳の頃。この頃からアリスティーナの王太子妃教育が本格化し、その実践として感情をあけすけに現すことを厳しく禁じられた。その結果、日々のアリスティーナの顔から表情が消え、感情の薄い端正な姿は冷たい印象を周りに抱かせた。
その頃から、アーサーがお茶会に招く回数がめっきりと減り、やがて全く呼ばれなくなった。そして十五歳になり王立学園に入学したとき、久しぶりに顔を合わせたアーサーは、アリスティーナに冷めた視線を向け、声をかけることすら無かった。そのアーサーの態度に表情すら変えない美しい彼女は、でも心中では悲しみに打ちひしがれていた。
王太子に冷遇されるアリスティーナは、周囲から侮られて孤立した。女子生徒たちは、寵を失いながら婚約者の地位にしがみ付く厚顔な女と、陰に陽に彼女の悪口を囁いた。でも、それはあながち間違いではない。彼女は確かに婚約者の地位を失いたくなかった。初めて会った時に抱いた恋心は、いまだアリスティーナの凍えた心の中で息づいていた。でもどうしたらいいのか分からず、彼女はその瞳を悲しみに染めたまま三年間の学園生活を過ごし、今日の卒業パーティーを迎えてしまった。
「マクシミリアン侯爵令嬢、婚約破棄を受け入れるか?」
アリスティーナがイルミナを虐めた事など一度も無い。常にアーサーの近くにいて親密そうに笑いあうイルミナを、彼女は自身の心を守るために出来るだけ避けたから、直接言葉を交わした事すら無かった。寧ろ女子学生たちから嫌がらせを受け、虐められていたのはアリスティーナの方だった。
幼いある日、あの二人だけのお茶会で、アーサーは彼女に好きだと言ってくれた。その時の幼いアーサーの顔を思い出したら、今もなお懸命に表情を固めるアリスティーナの目から、瞬きと共に涙が一筋、静かに頬を伝い落ちた。
アリスティーナが小さく頷くと、アーサーは高らかに宣言した。
「これで私の婚約は白紙に戻った。」
そして隣のイルミナに優しい視線を向けた後、また学生たちにその美しい顔を向けた。
「ここで改めて宣言する。ここにいるイルミナを、私の新たな婚約者とする。私は彼女と出会い、その優しい心に触れて真実の愛を知った。彼女にこそ、王妃として私の隣に並び立ってほしい!」
すると学生たちは、最初は躊躇いがちだったが、やがて会場を包むほどに盛大な拍手を返した。
「マクシミリアン侯爵令嬢、貴女は未来の王妃に不敬を働いた。その罪を告訴するつもりだ。それまで自邸で謹慎し、その行いを反省するが良い。衛士たち、この人を会場からつまみ出せ!」
「ちょっと待ってください。」
その時、一人の青年が前に出て来てアリスティーナの隣に立った。
「カイルベルト・・・皇太子殿下!」
アーサーの顔が硬直する。彼はカイルベルト・フォン・アクアテウム。隣国、アクアテウム帝国の皇太子だ。一年ほど前に交換留学生として編入していたが、既に帰国してこの卒業パーティーには参加していない筈だった。
「何故貴方がここに?帰国されたはずでは?」
「少しキナ臭い噂を聞いて帰国を遅らせていたんです。でもそうしておいて良かった。」
そう言って皇太子は、隣のアリスティーナに微笑みかけた。
「アーサー王太子殿下。先ほど貴方は、マクシミリアン嬢が、そこの男爵令嬢を虐めたと仰っていましたが、それは本当の事なのですか?」
「不躾に何を・・・?」
皇太子の登場に、アーサーは本能的に危機を察した。まずい。何か彼の知らない事態が動いている。
「本当の事です!」
でもそのアーサーの焦りに気が付かないイルミナが、皇太子に向かって叫ぶように言葉を発した。目下の者が許可無く話しかけるのは極めて不敬だが、彼女はそんなことに気づいていない様だ。
「アリスティーナ様は私が下級貴族だと馬鹿にして、いつも嫌がらせをして来たんです。その事について、この学園のお友達たちもアーサー様に証言してくれました。」
そう言ってイルミナは、カイルベルトにその瞳を向けた。宝石のようなその翠瞳はとても蠱惑的に見えた。
「だからそんな女は放っておいて、こちらにいらして。私とお話しましょ。」
そう言って差し出したイルミナの手をアーサーは慌てて押さえた。カイルベルトは、そのイルミナの礼を失した振る舞いを無視して、後ろの学生たちに向き直った。
「ここには全校生徒が揃っている。ならばアーサー殿下に証言したという“お友達”もこの中にいるはずだ。その者は前に出よ。男爵令嬢に対する虐めについては、国王陛下自らが調査される。名乗り出た者はこの後、陛下の前でも証言してもらう。」
それを聞いてアーサーの顔が蒼白になった。後ろの側近候補たちを振り返るが、彼らも真っ青な顔で首を横に振るばかり。
「どうした?いないのか?証言者が居ないのなら、王太子殿下が侯爵令嬢に、あらぬ罪を着せようとした事になってしまうぞ。」
それでも名乗り出てくる者はいない。
「そのお友達とやらは、この学園には居ないようですね。」
「嘘です!そんな筈は・・・」
イルミナが反論しようとするが、アーサーはその口を乱暴に押さえて黙らせた。カイルベルトが静かに告げる。
「王太子殿下、国王陛下がお呼びです。貴方のお話を直に聞きたがっておられます。」
***
「七年前、国境の街で行われたパーティーで見かけ、それからずっと貴女に恋をしていました。でも貴女には既に婚約者がいて、その恋が成就する事は無いと諦めていましたが、たった今、その状況が変わりました。」
するとカイルベルトは跪き、その手をアリスティーナに差し出した。
「アリスティーナ嬢、どうか、私の妻になってください。」
すると彼女は頬を赤らめながら、そっとそのカイルベルトの手を取った。そうして再度、会場は割れんばかりの拍手に包まれた。
スケジュール間違えていました。
第二話は17:00、第三話は今日の深夜更新予定です。




