06 百日草
暗い・・・。寒い・・・。ここは・・・?
俺はどこに居るんだ?そこは真っ黒な世界だった。何も見えなくて虚無に近い世界だった。かろうじて動かせる手足を使い、少し動いてみる。
「っ!」
激しい痛みが肩からひじにかけて走る。目を凝らしても目立った外傷はなかった。反対の手も動かしてみたが、同じだった。足も同じだ。
俺がココは俺の精神世界だと気づいたのは、数分後の事だった。同時に事故にあった事も思い出す。体中が痛い。情けない・・・。
―――ん
――――蓮・・・
――――――死なないで。戻ってきてよ・・・
聞き覚えのある声が響く。これは、鈴の声だ。今行くから、泣かないで。激痛の走る手足を必死に動かして、声のするほうへ行こうともがく。しかし、俺の腕は後ろから誰かに引っ張られる。
「誰だ・・・」
振り返る。そして俺は言葉を失った。そこに居たのは、俺の片割れ・・・鈴だった。ただその「鈴」は無表情だった。
―――鈴!お前の歌は人を助けられんだろ!?
「鈴」に掴まれていても、声だけは聞こえる。桜だ・・・。どうして鈴の歌の事を知ってるんだ・・・。あいつはあそこに居なかったはず。
―――何故、何故知っているの?
―――蓮が夜中散歩するなんて滅多にないからな・・・!
―――聞いたのね
―――蓮を助けられるのはお前だけなんだよ・・・!
泣き出しそうな声で桜はいう。現実の鈴は震える声で告げた。
―――できないの
―――っ!どうして!
―――歌ったら最後蓮はココロのない人間になる。蓮にはいえなかったけど、助かるのは体だけ
―――じゃあどうすればいいんだよ!どうすれば・・・
桜は泣き崩れた。俺はたまらなくなって、桜たちの声の方へ行こうとした。でも、「鈴」は腕を放してはくれない。
「放せよ・・!」
「鈴」は口だけを動かしていった
「駄目。貴方は死ぬの」
「やってみなくちゃわからねぇよ」
「声のする方へ辿り着けても生き返ることはできない」
「それでも、やる」
「鈴」は放そうとしない。
「そもそもお前は誰だ」
「貴方の中の鈴」
即答だった。どういう意味だと問い返そうとする。だがそれは、あの声に遮られる。
鈴が大天使と言ったあの声に。
『双子は不吉だ』
『はい?』
『双子には片方だけでは生きていけない。双子には片割れのココロがもう一人の中に在る』
『?』
『例えば弟の中には姉の人格が、姉の中には弟の人格が在るということだ』
『どうして・・・?』
『双子は離されてはならない。2人で1つという事だ』
鈴の人格が俺の中に?目の前の「鈴」は俺の中の「鈴」なのか。
「貴方は死ぬ。鈴とも別れる。貴方があちらに戻る意味はない」
「意味ならある・・・」
「?」
「双子は2人で1つ。俺が死んだら鈴はどうなるんだよ」
「鈴は鈴のまま生きていく」
「それでも俺はあの場所へ、鈴のところへ帰る」
「長く苦しい時間が続いてもか」
「あぁ」
「永遠に会えなくなるかもしれない」
「それでもだ」
ふっと鈴が俺の腕を掴む力が緩んだ。
「貴方がそういうなら私はもう止めない」
そう言って鈴は消えた。好きにしろ、か。好きにしてやるさ。
双子は2人で1つ。
百日草の花言葉・・・別れた友を思う