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虫喰いのAI  作者: れくいえむ
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堕ちた夜の命 そして咲く花

世界初のヒトロイドとなった彼女の名は、『Rose Black』名前の由来は、黒薔薇。ありとあらゆる、間違えた人々に死を与える様子から、そう名付けられた。彼女をベースに、沢山のヒトロイドがゼロから作られた。しかし、誰も彼女を越えることは無かった。感情が不完全が故に、嘘を見抜けなかったからだ。すぐに研究者たちは、彼女を越えるヒトロイドを目指した。しかし、いくらやっても彼女を越えることはできない。


「もう一度、人間を素体にすればいいのでは?」


 研究者のなかで、その考えが広まった。その結果、一人の少女がまた、ヒトロイドになった。


 ある日、梵紗夜のもとに一本の電話が届いた。


「はい、梵です」

「こちら、ヒトロイド研究室ですが。お母さまが実験中の事故に巻き込まれ、亡くなられたことをお伝えします」


 機械的な声で淡々とそう告げられ、電話が切れた。沙夜の心が、深い絶望に満たされていく。母親が死んだ……まだわずか18歳の少女に、その事実はあまりにも残酷だった。それと同時に、一つの微かな疑問。


「鋳薔薇……大丈夫かな……」


 少女の、たった一人の親友が、今無事なのかどうか。それが、傷ついた彼女を立ち上がらせた。


「行かなきゃ。鋳薔薇が心配だよ……」


 沙夜は、家を飛び出した。家の倉庫から何かを取り出し、駅へと走る。研究所の場所は、公には伏せられているが、何度か母親の都合でついてきたことがあった沙夜は、ある程度憶えていた。いくつかの電車、バスを乗り換え、揺られること数時間。沙夜は、温かみのないコンクリートでできた、少し時代に取り残されたような建物にたどり着いた。


「すみません、梵御崎の娘なんですけど、母に言われて来たんです。中に入ることってできますか?」


 入り口に立つ男性に、沙夜はそう言う。こんな子供の嘘に騙されるのだろうか。


「はい、お話は伺っております。中にどうぞ」


 そんなはずはないのに、沙夜は中へすんなり通ることができた。その男と共に、沙夜は研究所の中を進む。


「あなたの話は御崎様からよく伺っていましたよ。この前剣道部で日本一になっただとか、貴方のお友達がここでヒトロイドにされたことですとか。私は貴方の手助けがしたいと思っています」


 男がそう言って、沙夜にまっすぐ手を伸ばす。その腕の、手首から先が、すっぱりと切り落とされる。沙夜の腕には、怪しく煌めく日本刀が握られていた。


「お母さんは言ってた。この研究所の人とは仲良くできないって。お母さんから聞いたなんて嘘。言っておくけど、私は剣道だけじゃなくて真剣の心得もあるの。私の親友を返して。返してよ!」


 言葉に激しい怒気を含ませ、沙夜が叫ぶ。腕を切り落とされた男は、怯えて動けない。怒りに我を忘れた沙夜は、そのまま男に斬りかかる。その刃は、男に届くことは無かった。沙夜の前に、一人の少女が立ちふさがった。銀髪の綺麗な長髪を揺らす、紅の瞳を持つ少女が。


「鋳薔薇……? 鋳薔薇でしょ!」


 目の前に立つ親友に、沙夜は思わずそう叫んだ。返って来たのは、いつものような優しい返事ではなく、冷徹なモーターの音。紗夜はへたりと床に座り込んだ。コツコツと生気のない足音が紗夜に近づく。


「鋳薔薇、目を覚ましてよ……」

「鋳薔薇ではありません。私は試作型ヒトロイドRose Blackです。侵入者には、制裁を」


 Rose Blackが、腰の剣帯に掛けた鞘から、片手剣を抜く。二人の武器が、激しい金属音を立ててぶつかり合う。


「何も覚えてないの? あんなに楽しかったのに、全部忘れさせられたって言うの……?」


 紗夜が必死に呼んでも、言葉が返ってくることは無い。


「そんなの酷いと思わないの? 答えてよ、鋳薔薇!」

「うるさいです。さようなら。私の元親友」


 Rose Blackが振るった剣が、沙夜の刀を砕いた。それに沙夜が気を取られた隙に、Rose Blackの左の手のひらが沙夜の腹部に押し当てられる。そこから熱線が放たれ、沙夜の腹部を撃ちぬいた。


「あ……ぅぁ……」


 沙夜がうめき声を上げ、倒れこむ。大量の血が流れだし、床を紅く染める。


「い……ばら……」


 変わり果てた親友の名前を呼ぶ沙夜は、そのまま意識を失ってしまった。沙夜を背負い、Rose Blackは研究所の奥へと歩いた。そして、彼女は試作型ヒトロイド二号機、Night17と呼ばれる者になった。Rose Black共に、間違いを犯した人間を取り締まるようになった。


 ──それから10年、Rose BlackとNight17は裏社会では名の知れた、殺し屋の二人組となっていた。研究所で作られ、指令を受けたヒトロイドはペアで行動する。もしも一体が壊れたら、壊れたヒトロイドを連れて撤退することになっているのだ。人間を素体にしたヒトロイドは他のヒトロイドよりも自然な感情を持っている。それ故に、Rose BlackとNight17は最強のヒトロイドコンビだった。二体は沢山の人を、殺した。毎回激しい戦闘をしていたにも関わらず、一滴も返り血を浴びることはなかった。


──二人をヒトロイドにする計画は大成功。しかし、もしもその力が人類に向けられたら?──


 今、研究員の中ではこんな話題がよく挙がるようになった。二人は研究員の予想をはるかに上回る、兵器としての可能性を見せていたが、それらが何かの暴走で人間に向けられたら、責任を負わなければなれない。それを研究員達は恐れた。


──ならば二体を戦わせればいい。自分たちの手に負えないようなものでも、互いに潰し合わせればいいじゃないか──


 研究員の間でまとめられた結論は、こうだった。直ちに準備が行われ、二体のヒトロイドにシステム検査という名目で、記憶の改ざんが行われた。


『今から対峙する者は、人類を滅ぼそうとする勢力によって作られたもの、容赦なく壊せ』


 その記憶と指令に従い、二体は戦った。研究所の最奥の、強固な部屋で二体はRose Blackは剣を、Night17は刀を構えて、その刃を交える。何度も、何度も。素材や回路まで、全く同じに作られた二体に、戦闘力の差はない。決着は、つかなかった。一日、二日、一週間……休憩の必要のない二人の戦いは止まらない。一か月が経った頃。研究所の中では二体の存在は、口外してはいけない存在になった。黒歴史として、存在をなかったことにされた。一方、当事者の二体は、今もなお戦い続けていた。双方、至る所の装甲が剥がれ、獲物は刃毀れし、ボロボロだった。もう何度目になるのか分からない、剣戟が始まる。火花を散らし、轟音を立てながら、激しく刃を交わらせる。二体の武器が耐え切れず、砕け散る。その後の対応が、勝敗を分けた。Night17は一度飛び退き、体勢を立て直そうとした。Rose Blackはそのまま距離を詰め、折れた剣をNight17の頭部に突き立てた。雷が落ちたような、激しい光が部屋を照らした。二体を、ショートした回路から溢れ出した電撃が襲う。壊れかけの回路に異常な電気が流れたことで、二人の記憶は初期化、つまり人間時代まで戻っていた。


「鋳薔薇……」


Night17が、いや、記憶を取り戻した沙夜が、そう呟いた。Rose Blackではなく、鋳薔薇が沙夜を抱きしめる。


「ごめん、ごめん、お願い、壊れちゃダメ……」


 涙を目いっぱいに貯め、鋳薔薇が祈るようにそう口にした。


「壊れちゃダメって、ここまでしたの鋳薔薇じゃん……まあ良いよ、鋳薔薇に殺されるなら本望かな」


 そう言って沙夜が微笑む。


「なに言ってるの? 嫌だよ。紗夜を失うなんて」

「でも、私はきっとまた人を殺すだけのロボットになっちゃうからさ……お願い」


 涙を流す鋳薔薇の頬を、沙夜が優しく撫でる。

 

「最後に笑って見せてよ。私、鋳薔薇の笑ってる顔、大好きだよ」


 沙夜から聞こえるモーター音が、少しずつ小さくなっていく。それは、沙夜の時間がもう残っていないことを伝えていた。鋳薔薇は、精一杯笑ったみせた。そのまま、折れた剣を沙夜の胸に突き刺す。


「ごめんね、ありがとう」


「幸せになっ…」


 沙夜が、動かなくなった。鋳薔薇も、その場に倒れこむ。しばらくして、戦闘が終わったことに気が付いた研究員たちがやってきた。Rose BlackとNight17の二体は機能を停止したとして、廃棄場へと棄てられた──


「その後、目を覚ましてあてもなく彷徨っていた私を、この施設のオーナーが拾ってくれたんです。夜さんは、その時に施設に居た女の子です。病気でなくなっちゃって、ヒトロイドにされたかんじです……」


 そう言って、Roseは悲しそうに笑っていた。


「だからRose17なの?」

「え?」


 俺からの質問に、きょとんとした顔で、気の抜けた言葉が返って来た。


「もうRoseは人を殺したりしない、黒くなんかないから、Blackを取って、沙夜さんの17を自分につけたのかなって」


 それを聞いたRoseは、嬉しさ半分、困惑半分の表情で俺を見た。


「蓮人くんは私を責めないのですか……」


 Roseはそう呟いた。


「だってRose悪くないじゃん。全部、研究所とか、親とかのせいじゃん。人間の勝手に振り回されただけじゃん……責められる意味が分かんないよ」


 俺の言葉に、Roseは泣き出してしまった。


「そっか……私、こんなに自分を責める必要ないんだ……ありがとう、ございます……」


 泣きながら、Roseがそう言った。


「これからはもう自分を責めなくていいよ、もういいんだよ。俺のこと、守ってくれてありがとう」

「はい、これからも、ちゃんと蓮人君のこと、お守りします」


 いつもの、明るいRoseの声だ。俺は安心したところで、また意識が遠ざかっていった。

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