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虫喰いのAI  作者: れくいえむ
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第三話 かくて白薔薇は染まりゆく


 部屋の中から聞こえていた機械音が、静かになった。まさか、Roseが負けたんじゃないか、俺の脳裏に、そんな不安がよぎる。しかしその不安は、すぐに消えた。部屋から、Roseが出てきた。その体は、戦闘で巻き上がった塵こそついていたが、ほぼ無傷だった。


「ありがとうRose、それと俺のせいでごめん」


 俺はうまく働かない頭を酷使し、そう言葉をひねり出した。


「いいんですよ。蓮人くんは悪くありません。ほら、すぐに手当てしに行きましょう。」


 Roseが人間のような笑顔で微笑んだ。すごく綺麗だ。本当に彼女が人間なのかを疑うほどに。彼女が差し出してきた手を取る。


「ありがとうRose、行こう。」


 そう言って、ゆっくりと立ち上がった瞬間、俺の目の前は真っ暗になった。



「蓮人くん……! しっかりしてください!」


 蓮人くんはどこまで心配させるのだろう。そして私はどれだけ気配りが足りないのだろう。あそこまで大怪我をしているのに、歩けるわけないではないか……蓮人君がもしかして死んでしまうのではないか、そう心配しすぎてこわれてしまいそうだ。蓮人くんを抱え、医務室へと走りながら考えていた。腕の骨が折れていて頭は血だらけ。それでもたくましく見えた。


「ヒトロイドとは違うですか……人間たちに使われている私にそんなことを行ってくれる人は初めてです。」


そう呟いた。医務室に行くと、いつも通り、眼鏡を掛けた、女性のヒトロイドがいた。私よりも少し型の新しい、後輩の子だ。名前はフォセカ。


「フォセカ、この子の治療できる?」

「これは……結構な大怪我ですね……任せてください、先輩。完璧に治してみせます」


 すごく頼りになる返事だ。彼女に任せれば心配ないだろう。私は医務室の外にあるベンチに腰かけた。


「Rose、お兄ちゃん、大丈夫だよね……」


 息を切らしながら、凛香ちゃんがそう言った。大慌てでここまで走ってきたのが分かる。


「お兄ちゃん、死んだりしないよね、そうだよね……」

「大丈夫です。死にませんよ。私がいますから、安心してください。泣かないで。」


 涙を流し、心配する彼女を励ました。大丈夫。そうに決まっている。三十分ほど経っただろうか、医務室の扉が開いた。中から、フォセカが出てきた。


「治療完了ですよ、先輩。幸い頭の傷はそこまで深くなかったですし、腕の骨も繋ぎました。彼はまだまだ若いですし、三日もあれば元通り治ると思います」


 相変わらず仕事が速い。その言葉に、一番安心したのは凛香ちゃんみたいだった。緊張の糸がほどけてしまったみたい。意識を失ってしまった。彼女を背負い、蓮人君の様子を見せてもらった。彼はベッドで、静かに眠っていた。


「ありがとう、私の為に。」


そう呟いて蓮人くんの額にキスをした。



「お兄ちゃん、早く起きてよ……」

「蓮人くん、早く起きてください……」


 なんだよ、騒がしいな、そう思い目を開けた。俺の目の前にはRoseと凜香の泣き顔があった。一瞬何が起こってるか分からなかった。


「……蓮人くん、ほんとにお寝坊さんです、あれから1週間も眠っていたのですよ!」

「お兄ちゃんのばか!どれだけ心配したと思ってるの!」


 凜香が泣きながら抱きついてきた。


「痛っ。」


凛香の頭が、俺の顔にぶつかった。咄嗟に凛香が謝ってくる。


「あ、お兄ちゃんごめん……」

「別にいいよ。」


 俺はそう言って凜香の頭を撫でた。


「Rose……!?」


 Roseの方を見ると、大きな瞳から涙を流していた。


「Rose、なんで泣いてるんだよ……?」

「だって、だってぇ! 蓮人君、三日くらいで意識が戻るって、それなのに、一週間もっ……蓮人君のばかぁ……」


 大粒の涙を落として泣くRoseは、まるで人間のような顔だった。


「なんで凜香より泣いてるんだよ。」


 そう言ってRoseの涙を拭う。


「落ち着いたか?」


 目の周りの素材を、涙でふやかした彼女の顔を覗き込む。ヒトロイドも、涙を流せるんだと思った。


「あ、ごめんなさい。こんな姿を見せて……」


 彼女は顔を真っ赤にして、下を向いて言った。


「いいんだよ。俺のために泣いてくれてありがとう。」


 ヒトロイドのはずのRoseは、やっぱりほかのAIとは違う。本当に、人間のようだった。俺は優しく子供をあやすようにRoseの頭を撫でた。元々赤かった顔がもっと赤くなったように見えた。そんなRoseの顔を見て、俺は可愛いと思った。


 「Rose、お前あのAI壊しちゃっただろ、罰とか無いのか?」


 俺はふと、そんな心配をした。Roseは首を横に振った。


「大丈夫です。AIの行動が自分がお世話している人に対して危険と判断すれば、そのAIを壊しても問題ない、そう決められていますので」


 そう言うRoseの顔は少し暗い。


「何かあったのか、Lightofnightと。俺でいいなら、話聞くよ」


 自然と、俺はそう言っていた。Roseは少し迷ったような顔をして、黙った。しばらくして、ゆっくりとRoseは話しだした。


 「蓮人くん、この話をする前に言っておくことがあります。私は昔人間だったんです……信じられないですよね。だって実際、今使われてるヒトロイドはほぼすべて一から作られたものです……今からのお話はだいたい100年ほど前のお話です……」


 これは、約100年ほど前の話。外国のある地。太陽の綺麗な光を反射する、大きな湖のほとりにある、大きな大きな家。そこには一人の女の子とその、お母さんとお父さんが住んでいた。


「ただいま」


 そうぶっきらぼうに女の子は言った。無駄に広い、長い廊下、無駄に多い部屋。3人が住んでいて、それでも集まることはなく、少女は自分が愛されているとも思っていなかった。その証拠に、ただいまへの返事が返ってくることも無いのだ。


「ねぇ貴方、今日のご飯何がいぃ?」


 少女が一人の理由。両親が、少女のことなんかほっぽり出して、とても互いを愛し合っている。少女のことなんて眼中にないのだ。両親は、少女と話す時は目を見ない。その態度が、少女をまた一人にする。しかし少女は両親のことを、特段嫌っているわけではなかった。少女は自分を産んでくれたことには感謝してるし、毎日の三食もちゃんと作ってくれることにも、高校も行かせてくれることにも感謝していた。少女はどれだけ話してなくても、自分の親はこの二人しかいないんだと思っていた。二人の邪魔をしないよう、自分の部屋へ、少女はさっさと入った。その時、家のインターホンが鳴った。両親は気づいていないのだろうか、何度も何度もインターホンが鳴る。仕方がなく、少女は玄関へと向かった。


「だからお手伝いさん雇えって言ってるのに……」


 そんなことをぼやきながら。玄関の扉を開けると、黒いスーツを着た男が立っていた。おそらく用があるなら両親だろう。少女は男を応接室に連れていき、両親を呼んできた。その後、自分は部屋の外に出て、扉に耳を押し付けた。


「すみません、私こういうものです」

「ヒトロイド計画?」

「はい、そのためのサンプルが必要で、あなた方の娘様を街で見かけたのですが、がその計画にすごくぴったりな顔立ちだったので。もしよろしければ娘さんを……」


 というところまで聞いて、少女は扉から離れ、自分の部屋へと戻った。いくらあの両親とはいえ、さすがにそんなよくわからない計画に実の娘を渡すようなことはしないと思ったからだ。しかし、その信用はすぐに崩れ去ることになる。

 次の日の朝、少女が学校に行こうと外に出るとその男がいた。


「な、なんで……?」

「ごめんねぇ、1億くれるって言うからぁ、あんたなんか邪魔だしぃ、それじゃあばいばーい。」


 少女の母親が、少女に向かってそう言った。少女は、今までの自分の親への信頼はすべて間違っていたと、そう後悔した。抵抗する彼女の後頭部を、鈍い衝撃が襲う。半ば誘拐に近い手口で、少女はどこかへと連れていかれてしまった。

何日くらい経ったのか、少女は痛む頭で振り絞って考えた。こうなった経緯ここはどこなのかそして、何日なのか。


(まったく、やっぱりあの親を信用するべきじゃなかった)


 そんなことを考えながら少女は目をあける。すぐに見えたのは、真っ白な天井。当たりを見渡すと、綺麗な女の人がいた。少女のよく知る女性。


「御咲さん……?」


 彼女の名前は梵御崎そよぎみさき、少女の大親友である、梵沙夜そよぎさやの母親だった。


「おはよう。鋳薔薇ちゃん。あなたのケアを担当する訪御崎です」

「御咲さん……」


 その優しい笑顔を見た時、私の目からは大粒の涙がこぼれ落ちていた。


「怖かったよね……ごめんね。でも安心して。あなたは必ず守るわ。だから、泣かないで。」


 暫く少女は彼女にしがみつき、泣いていた。やっとのことで泣き止んだ少女は、気になったことを御崎に聞いた。


「取り乱してしまってすみません。ところで御咲さんは何で、こんなとこに?」

「私、実はカウンセリングの仕事をしてるの。ある日ね、この仕事のオファーが来たのよ。初めのうちは断ってたの。だけどたまたま依頼が来た時に沙夜が居てね、あなたの名前が出て来た時、沙夜がどうしてもって。だから、娘の親友を守ろうって」


 そう笑った御咲の顔は、少しくたびれていた。


 次の日から、少女はヒトロイドへと少しずつ変えられた。少女は死なない程度の軽い実験に付き合うだけ、そう聞かされていたが、実際は違う。その日から、彼女は何度も死にかけた。まず、劣悪な環境。彼女をヒトロイドにするために集められた研究員たちは、彼女を人ではなく、物として扱った。次に、過酷すぎる実験の数々。脳内に電子機器を埋め込まれたり、過度に電流を流されたり、腕や足の骨を丸ごと金属製の何かに入れ替えられたり。何度も何度も、毎日毎日。手を差し伸べてくれた御崎は、いつの日かぱったりと姿を見せなくなった。まだ幼い彼女の心を壊すのは、それだけで充分だった。ある日、彼女の記憶は、ぷつりと途切れ、霞み、消えた。すべてではなく、楽しかった日々だけが。学校で頑張ってきたこと、友達と過ごした日々、輝く記憶はすべて、ヒトロイドには必要ない。母さんのこと、父さんのこと、彼女にとっては裏切りになった御崎のこと。憎しみの記憶だけが残される。彼女の中に眠るは、間違った世界。彼女はその憎しみを原動力に、無差別に、不平等に人を殺すだけの世界初の人型AI、ヒトロイドとなった。

れくいえむです。

Roseの過去編スタートです。

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