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虫喰いのAI  作者: れくいえむ
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第一話 心なきお前との出会い

2030年初頭。政府はAIを危険な仕事のサポーターとして導入する方針を決定した。それからは消防、警察をはじめとしたさまざまな職業で、ヒト型AI、ヒトロイドが利用されるようになった。それから十年ほど経ち、ヒトロイドが普通に生活に馴染んできた頃の物語である。


 「それでは簡単な質問からです、一軒目が起きた、一週間前の夕方5時頃、何をしていらっしゃいましたか」


僕の家にやってきたヒトロイドは、最近ここらで起きている連続殺人の調査協力といって、僕の両親にたくさんの質問をしていた。その様子を、僕、史郷蓮人(ふみさとれんと)とその妹、凛香(りんか)が、リビングのドアの隙間から覗いていた。僕ら二人は、二階に上がっているように言われたが、15歳の思春期真っ盛りな僕ら二人にとって、大人の仕事というのは気になるものだった。


「なるほどですね……確かにお二人の言ってることに嘘はないようです」


二十分ほど、僕の両親に質問していたヒトロイドの彼女はそういうと、椅子から立ち上がった。


「でも、それって全部調査済みなのです。確かにあなたたちの言っていることに嘘はない。でも、あなたたちがやったといいう証拠は挙がっています。大人しく署へ行くか、終了処分となるか。お好きなほうをお選びください」


 さっきまでのあたたかな声色はなく、一気に冷酷な声を彼女は発した。


「そうかそうか、俺たちがやったのはバレていたか。じゃあ、大人しく行くとしよう……なんて言うはずがないだろうが、この小娘が!」


お父さんが、懐から、少し大型の拳銃を取り出し、彼女に向って発砲。お母さんもいつの間にか銃を手に、二人で彼女に鉛の雨を浴びせ続けた。


「残念です。プログラム裁判の結果、お二方には罰を執行します。判決は、死刑」


総合で三桁は銃弾を受けたであろう彼女には、全く損傷がなかった。先ほどまでペンを握っていた細い腕は、グオンと重苦しい音を立てるチェーンソーになっていた。その刃が、僕の両親の腕を、足を、正確に、無慈悲に切り落としていく。彼女の美しい顔が、返り血で汚れる。刃が進むたびに、二人は絶叫をあげていた。隣で凛香が震えている。少しすると、その絶叫も無くなり、部屋は真っ赤に染まっていた。


「こちら警察ヒトロイド機動型、Lightofnight。対象は抵抗したため、プログラム裁判により、死刑を執行しました。二人には子供が二名居た模様。保護のため、連れて帰ります」


 僕はこの時、15年の人生の中で初めて、明確に殺意というものを抱いた。

僕はその日凜香と施設に入れられた。憎きAIだけの最悪な施設に……


ある日ある男の子と女の子が私の施設に入ってきた。親が連続殺人鬼で抵抗し目の前で殺されたのだ。

その子は虐待を受けていたようだった。腕にはタバコの火をあてた痕、腰には殴られた痕、火傷痕が沢山あった。女の子にはそういう傷は見当たらなかった。


「私はRose-17です。Roseって呼ばれています。蓮人くん、凜香ちゃんよろしくね」


いきなりこんなところに連れてこられて不安だろう。私は少しでも仲良くなろうと思った。

「あ、史郷凜香です。今日からお願いします」


凜香ちゃんが手を差し出して来た。それに返すように伸ばした手は、蓮人くんによって叩き落とされた。


「その汚い手で俺の妹に触るな」


蓮人くんはそう言って廊下の方に歩いて行った。


「あ、お兄ちゃんがゴメンなさい。親をAIに殺されたからAIが嫌いなんです」


そう言って凜香ちゃんは蓮人くんについて行った。


 「お兄ちゃん、起きて、朝礼始まるよ」


5月10日、この日はAI何とかの日らしい。

毎月10日は集会がある。この日は俺にとって最悪な日だった。施設に入って7ヶ月、最悪で大嫌いなAIの日。AIができて平和になったことを祝う?俺の両親を無惨に目の前で殺したくせに、僕の平和を奪ったくせに、何が平和だよ。よく言えるなと毎月毎月来る度に思う。

 最初の頃は俺に何度も話しかけてきたAI達。無視し続けた後も、何度も何度も話しかけてきた。無視できなくなって手を挙げた(こわした)ことも、何度も何度もあった。そんな俺のことを気味悪がったのか、恐れたのか知らないけど、AI達は話しかけてこなくなった。


「おはようございます、凛香ちゃんに蓮人くん。蓮人くんは相変わらずお寝坊ですね」


『Rose_17番』こいつを除いてだ。どれだけ無視しても、どれだけ殴っても、何度腕をもいでも、院長にやめろって怒られても、近寄ってくる。気持ち悪い限りだ。それに、こいつの見た目はそっくりだ。俺の平和を奪ったあいつに。Lightofnight。違いはと言えば、黒いバラの髪飾りをつけているくらいか。今でも鮮明に思い出せる。あの夜から僕の中に、機械なんかを信じる気持ちは消えた。


 「おい!」


少し声を荒げ、俺はRoseに言った。返事はない。


「おい! Rose_17番!」


もう一度、今度は名前を入れて。


「え、私を呼んでいたのですか? 今まで話しかけてこなかったので凜香ちゃんでもいるのかと」


そう答えた顔には悪意は無い。あるはずないだろうな。こいつの感情はプログラム(つくりもの)なんだから。


「俺は凛香のこと、おいなんて呼ばない。それに、話しかけたんじゃない。質問のため少し呼んだだけだ」


そう言って俺は下を向いた。


「お前はどうしてそんなに関わってくる。さっさと失せろよ。なんでお前は俺に構う? 親を目の前で殺されたからって同情か?」


どうせこれを言えばお前は離れていく。理由? そんなの聞くまでもない。俺に構うのは同情という、そうすればいいというプログラムだからだ。


「同情? そんな訳ありませんよ。」


機械とは思えない、きれいな声。そこには少し、怒気が含まれるように感じた。そんなはずないのに。


「……だったらなんだってんだよ……俺にたくさん傷があるからか。俺の指が歪だからか。どうせお前も、あいつらと一緒だ。俺のことを、可哀そうなやつだと思ってるんだろ。俺は違う。可哀そうなんかじゃない。俺は、俺たちはお父さんにも、お母さんにも愛されてた! この傷は、愛の証だ!」


それを聞いたRoseは、俺の頬を、思い切り叩いた。細い、俺でも外せるような腕からは想像できないほど、強く。


「だったらどうして凛香ちゃんには傷が無いのですか。あなたが庇ったからではないのですか。傷を伴うような、無意味な痛みを伴うものは、愛なんかじゃありません! そんなことするような人は、親なんかじゃない、ただのクズです!」


Roseは怒っていた。プログラム内ではあるはずだが、そこには確かに、大きな怒りがあった。俺にはRoseがなぜ怒っているのか、理解できなかった。


「……うるさい。機械のくせに、人間の愛を語るな」


俺はまだ少し揺れる頭を落ち着かせながら、集会の会場へと向かった。


ちょっとやりすぎたでしょうか……

蓮人くんの頬を叩いた後、私はどうれば良いのか分からずに、呆然と立ち尽くしていた。


「後で謝りましょう」


そう呟く。蓮人くんの言葉を聞いた時、私は怒った。私には無いけれども、人間らしく言うなら全身の血が逆流しそうなほど。とはいっても蓮人君にではなく、蓮人くんの両親に対してだ。あんなに小さくてか弱い彼を叩き誤り、殴り謝り、傷つけ癒しを繰り返し、彼を歪めてきた。例えそれでも、蓮人君を叩いたのは間違いだったと理解している。


「これじゃあ私も蓮人くんの親と一緒……ただのクズじゃないですか……」


どうすればよいのか分からなくなり、立ち尽くしていた。どこからか、少し軽い足音が近づいて来た。


「Roseじゃない、こんなところで何してるの? まさか、またお兄ちゃんになんか言われたの……?」


凛香ちゃんが、心配そうに私の顔を覗き込んできた。


「凛香ちゃんでしたか、なんでもありません。少し今日の予定を考えていたところです。行きましょうか」


私たちは集会に参加した。そのあと、蓮人君くんを探したのだが、蓮人くんの姿はどこにもなかった。


「ねぇRose、お兄ちゃん知らない? 昼食前に、部屋に見に行ったんだけど居なくて……」


食堂で昼食を食べる凛香ちゃんが、私に聞いて来た。


「凛香ちゃんも見てないのですか……困りましたね。変な人に絡まれてなければいいですが……」


蓮人くんはお昼遊びの時も夜ご飯の時もお風呂の時も姿を見ることは無かった。


「Rose!お兄ちゃんほんとに居ない……どうしよう」


涙目の凜香ちゃんが袖を掴んだ。


「凜香ちゃん、大丈夫です。ここで待っていてください。絶対に蓮人くんを見つけ出します。だから泣かないでください」


多分大丈夫、きっと大丈夫、絶対大丈夫。そう自分に言い聞かせて私は施設内を探した。必死に走った。でも、いなかった。施設内にいなかったのだった。


初めてAIに叩かれた。その手は人間と変わらないくらい柔らかかった。なんで叩かれたかもなんで怒っていたのか、分からなかった。そんなことを考えながら歩いていると施設内から出ていた。そして、迷子になっていた。情けないもんだ。AIのことを考えて迷子になるなんて。いやでも、


「ほんとにここ何処なんだよ」


周りを見渡すとたくさんの家があった。でも街灯はなく、足元を照らしていたのは家からちらほら見える淡い光だけだった。


「暗くなってきたな」


もう歩いてる道は真っ暗だった。凜香は、どうしてるだろうか。下を見て歩いていたからここがどこなのかも、どのくらい歩いたのかもなんにも分からない。ずっとずっと前に歩いていた。公園が見えてきた。


「さすがに疲れたな、あそこで休憩しよう」


公園のベンチに座る。何時くらいだろう。周りを見渡す。幸い、時計はすぐそばにあった、時計を見ると10時を回っていた。


「消灯時間か、凜香心配してるだろうな」


一つ気がかりなことを、俺は思わず口にしていた。


「ほんとですよっ!」


怒りと心配の交じった甲高い声。この声には聞き覚えがある。


「……Roseかよ」

「蓮人くん! 心配したんですよ! ほんとに……」


Roseは目の前に座り込んでいた。


「悪かった」


そうやって素っ気なく答える。


「蓮人くん、さっきはごめんなさい。どうしても許せなくて、反射的に手が出てしまいました。あなたに怒ったわけではなくて、あ、あの……その……」


彼女は言葉を選ぶのに困っているみたいだった。


「……こんなんじゃあなたの親と同じクズですね。何回でも謝ります。許してくれなくてもいいです。ごめんなさい」


そうやって話すRoseは悲しそうな顔をしていた。


「違う」


なんでそんなに謝るのか、なんでそんなに悲しそうなのか。


「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい」


何度も何度も謝っていた。悲しそうな顔で、ずっとずっと。


「だから、お前と俺の親は違うって言ってるだろ!」


気づくと俺はそう叫んでいた。なぜか耐えられなかった。


「同じです。手を出して謝って、許してもらおうとして、私はほんとにクズです……」


なんでそんなにお前が悲しそうなんだよ……


「違う、違うんだよ!俺の親はいつも俺を叩いたあとスッキリしたような顔をいっつもするんだ。さわやかな顔で、いつも謝ってくる。でも、お前は悲しそうだよ。だから違う。お前から謝られると、胸が痛む」


ずっと、ずっと謝ってくる彼女に、俺はそう言った。それでも、ずっとずっと、謝ってきた。


「Rose。もういいよ。許すから。迎えに来てくれてありがとう。だから、もう謝らないで。お前は他のAIとどこか違うよ。なんか、好感持てる。可愛い顔してんだから、悲しそうな顔でそんなに謝るなよ。俺こそ今までごめんな。施設に帰ろう、凜香も心配だからな」


俺は、そうRoseに言った。彼女のことは、大嫌いだ。俺が断っても、逃げても、いっつも俺に構ってきて、面倒くさい。でも、彼女には笑顔が似合うと思った。


「はい。ありがとうございます。帰りましょう」


そう返してきたRoseの顔には、屈託のない笑顔が浮かんでいた。

ゆわらとの共有アカウントから個人垢に変わりました。れくいえむです。今まではゆわらが漢字の間違えや日本語がおかしいとこなど直してもらってましたがそれが出来ないので、おかしいとかや規約違反??などがあったら教えてくださるとありがたいです。

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