五女会
ハァーイ!皆様、ご機嫌如何かしらー?
あてくし、辺境伯家の五女カッタネラって申しましてよ!
五女なんだけど、第十二子よ?七男五女の十二人兄妹!みんなおんなじ両親の子よ!
素敵でしょう?
あてくしも、お父様とお母様みたいな仲良し夫婦を目指しますのよ!
自慢のサラサラ真っ直ぐプラチナブロンドから、月の河って二つ名もございましてよ。
でも、本当は、鋭く冷たい紫の眼から「紫眼の鬼」と呼ばれてみたいわ。
ずるいのよ?聞いてくださる?
長女のお姉様なんて、婚約者様のエドワード赤獅子王子様から、「黒炎の妖姫」なんて!こく、えん、の!よう、き!!なんて!
素敵な呼び名で愛でられていらっしゃるの。
ずるぅござーますの!
ひどいわぁ。
あてくしなぞ、婚約者様どころか恋する方すらありませんのに!
あてくし、良きことをば、思い付きましてよっ。
「リーナ、レタアセットをこれへ」
「かしこまりましてござります」
有能な侍女リーナが、お気に入りのデスクとインク要らずの魔法の羽根ペンと、書き損じ知らずのレースペーパーを持って参りましたわ。
あてくしね、デスクに移動なんか致しませんの。デスクの方から参りますのよ。
なんと申しましてもね、辺境伯のお嬢様ですのよ。お姫様でしてよ。
「サルトリ公爵五女、ゴーリャ様」
思いどおりの色が出ますわ、この魔法の羽根ペンは。剛力自慢のゴーリャ様には強そうな赤ね。
レースペーパーは豊かな森の緑色。
サルトリ領は深い森。森林資源で財政を潤し、森を生かした立体的な武術が盛ん。
ゴーリャ様は、絶賛嫁入り先募集中。
「フォグハイド公爵五女、キルーラ様」
スパッと切り裂くキルーラ様は、爽快な水色ね。レースペーパーは、青地に黒のマーブルペーパーが最適よ。
霧深い不思議の草原を擁するフォグハイド領は、幻術と奇襲が得意な頭脳派一族が収めております。じっくりねっとり、文官眼鏡の婿がねをお探しとやら伺いましてよ。
「隣国ネゴロン第五王女シューティ様」
鉄砲大好き外さぬ名手、華麗な射手は何色かしら?ゴージャスな金は読みにくいわね?シックなオールドローズでいきましょうかしら?
レースペーパーは、紫ね。山紫にして、って申しますもの。
梅の花香る山岳地帯ネゴロン王国は、火薬の産地。鉄砲も大砲もよりどりみどりの先進国よ。
シューティ様はつい先だって、婚約破棄とやらの憂き目にあわれた。
詳しいことは存じませんの。
「農村ウィローレーベンの貧民五女メイトー」
優れた剣士、メイトー。貧民ながらも剣術道場に特待生で招かれた。腕一本で成り上がる途中の有望株よ。
王者の黄色で書きましょう。レースペーパーはそうね。灰色ね。
出だしは灰色、それから輝く未来へと名刀名剣を振り回して走り出しますのよ。
「そして、あてくし」
魔法特化の辺境伯領で、末っ子ながらになんでもできちゃう天才児。
だけど、家督を継ぐのは政治の天才二番目の兄様。補佐は戦略の天才三番目の姉様と財政の鬼と呼ばれる第一子の長兄様。
あてくし、どこかへお嫁に参りますのよ。
どこって、どこかよ?
申しましたでしょ?
まだまだこれから探しますのよ。
「第十二子の五女ですけれど、五女の皆様と力を合わせて、素敵な殿方を見つけますのよ!」
こうしてあてくしは、「第一回五女の幸せな結婚を勝ち取る会」略して五女会決起国際大会を呼びかけましたの。
でもね、皆さまお忙しくて。
素敵ねって、頑張りましょうって、お返事はくださいましたのよ?梨の礫じゃございませんでしたのよ?
それでも、皆様お国の戦や、剣の修行や、婚約破棄のあれこれやらで、とってもお忙しいのですもの。
せっかくよいことを思い付きましたのに。
ご賛同も得ましたのに。
残念ですわ。
仕方ありませんわね。
第一回の開催は、結婚してからに致しましょう。
第一回五女の幸せな結婚を勝ち取った会。
ふむ。
なかなか素敵じゃなくて?
「ねえ、リーナ?」
「仰る通りにございます」
「そしたらあてくし、どうしましょう」
「魔境探検隊の隊長殿より同行出来る伴侶が公募されておりますが」
「あらまあ!素敵」
お顔なんて構わないのよ。
魔境探検隊ですって?
隊長さんは独身なのね!
お年なんぞどうでもよくってよ。
同行出来る伴侶ですって?
もちろん応募しますとも!!!!!!!
そんなわけでやってきた、魔境探検隊本部。
探検はずいぶんと奥地まで進んでおりましたのよ。五女会の皆様に、嬉しい報告をする為に、あてくし頑張りましたわ。
気味の悪いベタベタしたものを焼き払い、酸を吐くグネグネしたものを土に埋め、トゲトゲの図々しい塊を水で押し流し。牙の汚いケダモノには雷をお見舞い致しましてよ!
ここには飛脚便も郵便局もございません。お手紙は書き溜めましたけれど、出すことは叶いませんでした。
とにかく、魔境の奥地で面談に漕ぎ着けましたわ。ドヤァですわ。
「初めまして、あてくしの素敵な旦那様」
気が早過ぎましたわ。
だって。だって!!
仕方ありませんの。
素敵なのですもの。
決めましたわ。この方、あてくしの夫君ですのよ。あてくし、この方の妻女ですのよ。運命でしてよ。
「このような奥地まで、なんとお独りにておいでなされたか!ハハハハハ」
隊長様は豪快にお笑いよ。
大きなお口。真っ白で健康な歯が眩しくてよ。
「カッタネラと申します」
「うむ。採用じゃ。末永くよろしぅな」
それから30年、お手紙は溜まる一方でしたの。お手紙を出せる所へはなかなか到着いたしません。
魔境の果てには別の人界があると言うのが愛しい方の持論でしたのに。
隊員はみな隊長様の考えに賛同して、ひたすら魔境を進みましたわ。食べられるものも案外多うございましてよ。快適な旅でしたわ。
ですが、子供たちが適当に人界に行ってしまいましたし、隊員達も老化の兆しが見えましたので、そろそろ戻りましょうかと提案してみましたの。
「うむ、しからば」
愛しの隊長様は、重々しく頷いて、あてくしたちは人界へと戻ることに致しました。
人界につきましてから、お手紙の山をじっと見つめておりますと、隊長様が仰いました。
「出すのか、燃やすのか」
あてくし、なんだかおかしくなって、一気に燃やしてしまいました。
それから魔法通信という新しい魔法で、五女会の皆様と映像通信を致しましたわ。
これは最新の魔法技術でしてよ。
勿論、あてくしは天才なので、人界を離れていた30年のブランクなぞ、一瞬で取り戻して追い越しましたの。
「皆様、お久しゅう」
「あら、カッタネラ様」
「お幸せそうね」
「お元気そうね」
「うちの次女がお宅の三男と結婚したいって」
五人の五女は、それぞれの幸せを見つけておりました。その中で、何故か貧民剣士のお宅の次女が、我が家の三男と恋仲になっておりました。
「まあまあ、それはおめでたい」
それから五女会の皆様があっという間に場を整えて、二人は盛大な結婚式を行いました。
あてくしたちは、それまで一度も集まったことも共に何かを成したこともなかったけれど、心はひとつでしたのよ。
おしまい。
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