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最終話 『侯爵令嬢は変わらぬ日々を過ごす』

そして最終話……なのに何故かまだ完結してない!?

 ルルは元の体を取り戻し、ゲルハルトも捕らえられて事件も終結した。


 その捕物(喜)劇の後、関係者は王城へと集められ、ルルも色々と口止めされたり、口裏合わせのための方針伝達のためにと多少拘束をされたのだが、王宮での一夜を明けると実家へと帰された。


 久しぶりの我が家である。


 バァン!

「ただいまぁ!」


 喜びを隠せず勢いよく玄関の扉を開けたルルを最初に迎えてくれたのは優しい母だった。


「あら、お帰りなさい」

「ただいまお母さん!」

「お姉ちゃん!」

「にゃっ!」


 その愛する母の背後に隠れていた可愛い2つのシルエット。

 会えずに寂しい思いをしたその自分の癒しの存在にルルは狂喜した。


「ネネぇ!シャノワぁ!」

「こら!待ちなさい!」


 挨拶もそこそこに愛妹と愛猫に突撃しようとした粗忽な娘の首根っこをセシリアがむんずと掴むと身長差のせいでルルは宙ぶらりんになって首が絞まった。


「ぐべぇ!」

「この落ち着きの無さ……間違いなく私の娘ね」


 苦笑いする母を猫のように吊るされながらルルは恨みがましい目で見る。


「お母さん苦しいですぅ」

「まったく……メイの所で鍛えられても大人しくはならないのね」


 まあ却って安心したわとセシリアは大笑いした。そんなセシリアに足元のネネとシャノワが不思議そうな顔をする。


 平穏な家庭、穏やかな生活、いつもの幸せな日々に戻ってきた。

 そのはずだった……


「……お母さんはリリ様の方が良かった?」


 ルルにはリリに負い目があった。このルミエン家を奪ったという。リリもルミエン家に馴染んでいたようだった。セシリアはリリとルルが入れ替わっていたことを知っている。


 セシリアもリリを気に入ってしまったのではないか、自分よりもリリが娘ならと思っていないか、そのことがルルは不安だったのだ。


「何を言っているの?」

「だって!……だって、リリ様は穏和で穏やかで、人当たりもよくて、優しくて……ヒック、それに頭いいし、強いし、頼りになるし……グス……」


 ルルはリリが好きだ。大好きだ。だからリリの良いところはいっぱい知っている。それを挙げているうちに、自分とのあまりの違いにルルは悲しみと絶望が心を支配する。


 前世の母の言葉を思い出す。

『お前なんていなくなればいいのよ!』

 要らないと言われた前世の自分。今世もまた要らない人間なのではないか……


「ヒック、ネネやシャノワもリリ様に懐いていたし……グス……え!?」


 ドサッ!


 突然セシリアが掴んでいた手を離したせいでルルはそのまま落下して尻餅をついた。


「いったぁ〜!お母さん痛いですぅ」


 ルルは痛そうに自分のお尻を(さす)った。


「バカなこと言わないの。リリちゃんはメイの娘よ。私の娘は貴女でしょ!」

「違うの私じゃなくリリ様がお母さんの本当の……」

「ルル!」


 これはリリやエルゼから口止めされていた内容。誰にも……両親にも教えてはならないと。だけどルルは黙っておくことができなかった。だが、セシリアは全てを告げようとするルルを止めた。


「他の誰でもない。貴女がルルーシェよ。だってルルがいなければルルーシェは5歳の時に死んでいたんだもの」


 その言葉にルルはセシリアを驚きの表情で見上げた。


「お母さん知ってて!」


 セシリアはルルを起こすとぎゅうっとめいいっぱい力強く抱きしめた。


「だからルル……私たちの元に来てくれてありがとう」

「お母さん……私も……私もお母さんたちのところに来られて良かった……」


 ルルも力一杯抱きしめ返すとセシリアの胸に顔を埋めて泣いた。過去(ぜんせ)の悲しみも苦しみも全て洗い流すように、現在(こんせ)の温もりと幸福を噛み締めるように……


 ルルは今ルミエン家の本当の家族になれた。

 そのことをルルは知った……



∻∻∻∻∻∻∻∻∻∻∻∻∻∻∻∻∻∻∻∻



 ルルが実家に戻ってセシリアと親子の絆を確かめ合っているのと同じ頃、リリはリュシリューのタウンハウスの玄関の前に立っていた。


 お菓子作り以来の久しぶりの我が家だ。


「実家か……何もかもみな懐かしい……」

「リリ様……そういう時は『リュシリュー邸よ、私は帰ってきた!』と叫ぶのです」

「あら、そうなの?」

「そして広域攻撃魔術をぶっ放せば完璧です」

「あのねアンナ。それでは帰る家が消えてしまうわ」


 ブレない主従である。


 アンナが扉を開けてくれた玄関を通り、屋敷のメインエントランスに入ると先触れで知っていたのだろう、メネイヤがホール中央でじっと佇んでいた。


 母が自分の帰りを待っていてくれたことにリリの胸は喜びで満たされた。


──私の母はやはりこの方だ……


 セシリアの母性に惹かれる自分がいることをリリは自覚していた。それでもなおメネイヤが自分の母であると……母として愛しているのだと、その想いがストンと腑に落ちた。


 リリはいつも通りの綺麗で完璧な跪礼(カーテシー)を披露する。


「ただいま戻りましたお母様」

「お帰りなさい……リリ」


 母のいつもの冷たい微笑みの仮面。

 だけれどもリリはもう知っている。

 母のその想いを、母のその愛情を。


 リリはいつもの穏やかな微笑ではなく、喜びを見せるような満面の笑顔をメネイヤに見せた。リリをつぶさに観察しているメネイヤは初めて見るリリの笑顔に驚きで目を(みは)った


──母もこんな表情をするのね。


 その大きく開いた瞳の母がとても可愛いらしく、思わずリリはくすくすと笑った。そのリリのいつにない様子にメネイヤは眉を顰めた。


「貴女はリリなのよね?」

「はい!間違いなく貴女の娘ですよ」


 リリはお互いの顔が触れるのではないかと思うほどにメネイヤに近づく。


「私は間違いなくリリーエン・リュシリュー……貴女を愛している娘です」

「え?」


 リリはセシリアとの約束を思い出していた。


──今がその時なのでしょう。


「少しよろしいですか?」


 そう言ってリリはメネイヤに抱き着いた。


「お母様……愚鈍な娘で申し訳ありません」

「リリ……」


 母の胸の中に顔を埋めるリリの大きな目からぽろぽろと涙を零れる。そんなリリの素の感情をぶつけられたメネイヤはただ黙って自分の懐の中のリリを見詰める。


「お母様の苦しみも、悲しみも理解できていないふつつかな娘で……ごめんなさい」

「違う……リリ……違うのよ……悪いのは……私……私なの」


 見上げるといつも厳格な母が大粒の涙をぼろぼろと大きな目から零して泣いていた。


「お母様……ありがとうございます……私を産んでくれて……私はお母様の娘でとても幸せです」

「リリ……ありがとう……私の娘として生まれてきてくれて……愛しているわ……誰よりも」


 2人は声をあげて泣き出した。


 リリは今メネイヤと本当に母娘の絆を結べた。

 そのことをリリは知った……




 平静を取り戻したリリとメネイヤはリュシリューの家人たちに微笑ましく見守られていることに気がついた。


 メインエントランスには既にかなりの人集りができている。


 メネイヤは羞恥からわざとらしい咳払いをすると、その場の全員をさっさと散開させると自分も顔を赤くしながら逃げるように去っていった。


「お母様の泣き顔を初めて見たわ」

「……可愛い」

「あら?アンナもそう思ったの」

「リリ様も可愛いかったですよ」

「そうかしら?」


 お母様には勝てそうにないわと、そんな感慨を抱きながらリリは久々の私室に戻ると、アンナがさっそくお茶を用意してくれた。


「アンナのお茶を頂くのも久しぶりね」

「この屋敷に戻られたのですから、これからは毎日お出ししますよ」

「ルミエンの家も良かったけど……」


 ルルの部屋よりも何倍も広い自分の部屋を見渡す。


「……やっぱりここが私の家ね」

「はい。私もやはりお仕えするのはリリ様以外考えられません」

「ふふふ。随分とルルと仲良しさんに見えたけれど?」

「ご冗談を……」

「ルルのままの方が良かったかしら?」

「お戯れを……」


 リリは顰めっ面になったアンナを揶揄うようにくすくすと笑う。


「まあどちらにせよルルにはこの屋敷に来てもらうことになるけど」

「専属侍女にする約束もありますが、ルルの保護もしなければなりませんからね」

「ええ、今回の件でルルのことがどれくらい知られたか分かるまでは手元に置いておかないとね」

「ルミエン家では守りが心許(こころもと)ないですからね」


 そう、ルミエン家は貴族とは言え庶民とさして変わらない。だから、10年前ルルーシェが簡単に『魂魄置換』の被験者にされてしまったのだ。逆に高位貴族であるリュシリュー家の屋敷の警備の前にリリに手が出せなかった。


 さて、では今回の『魂魄置換』はどうであろうか?


 警備の無いルミエン男爵家からならともかく、高位貴族であるリュシリュー家の屋敷の警備は万全だ。その中でリリに『魂魄置換』を施すことは難しい。ほぼ不可能と言っていい。故に犯人は限定される。


──つまりはそう言うことね……


「ねえアンナ。私に言うことは無いかしら?」

「はて?何の事でしょう」


 アンナは慌てる風も無くリリの問いに韜晦(とうかい)して返す。

 リリはどのアンナの態度に苦笑いした。


「今回の魂魄置換のことよ……全部アンナが関わっていたのでしょ?」

「何故……とお聞きしても?」

「アンナは最初からルルを疑っていなかったでしょ?あの状況なら疑わしいのはルル。でもアンナはルルを拘束しなかった」

「……」

「そして、決定的なことが、魂魄置換を行うには被験者達の側に術者が必要。ルミエン家は庶民と変わらないからなんとでもなったでしょうが……」

「リリ様の方は私以外には絶対無理ですね」


 アンナは肩をすくめてクスリと笑う。


 魂魄置換の始めから、この侍女は陰謀に便乗していたのだ。その目的は陰謀の首謀者達とはだいぶん違うようだが。


 その目的は……


「それでリリ様、この休暇は楽しめましたか?」

「休暇……ね」

「王太子妃教育や婚約破棄騒動で大分疲弊していらっしゃったようでしたので」


──ああ、この侍女はどこまでも……


 色々な重責がリリの双肩にかかっていた。いかに優秀で、いかに強靭なリリと言えども16歳の少女だ。ストレスを全く感じていないわけでは無い。自分でも気がつかない間にかなり疲弊していたようである。


 それに2つの魂のこともある。


 リリはもう気がついている。2つの魂魄を内包していた自分はとても不安定な状態であったことを。ルミエン家の生活にあれほど魅かれたのはルルーシェ・ルミエンの魂の想いの強さ。


「本当に怖い人。いったい何処までアンナの思惑通りだったのかしら?」


 リリはその想いを理解し、受け入れ、決別しなければならなかった。これからもリリーエン・リュシリューとして生きていくために。


 そのため国家転覆の陰謀さえリリの為なら利用するこの侍女は本当に恐ろしい。


「リリ様、買い被りすぎですよ。私は刹那主義なのです」


 いつもの氷の無表情のまま(うそぶ)く。


「面白ければそれでいいのです」

「はいはい。そういうことにしておきましょう」


 そう言うとリリは笑った。


 窓のカーテンが風で揺れる。穏やかな風が吹き込んで、晩夏の暑さを和らげてくれる。テーブルには綺麗な白のテーブルクロスが敷かれ、その上には青の花模様を基調とした白い陶磁器には琥珀色の液体が注がれ芳しい香りを放っている。


 そのお茶を淹れたリリが信頼する専属侍女は美しい姿勢で座り、優雅にカップを持ち上げる主人(あるじ)(かたわ)らで、いつもの氷を思わせるような無表情のまま。


 側にいるのはいつもの侍女、交わされるのはいつもの会話、そこにあるのはいつもと変わらぬ光景。


──これが私の守ったもの、これが私の守るべきもの……


 リリは今のこの平穏な時間を過ごす幸せを噛みしめた。

 安穏として代わり映えのない日常。

 変化がなく退屈な日々。


 だけど魂魄置換(チェンジ)して初めて気がついた。

 そのささやかなものこそが、リリのとても大切な宝ものだと……



 リリは最後まで困らない。だって、リリの周りはこんなにも暖かく穏やかだから……

ルル「感動の最終話でしたぁ!」

アンナ「まあ、まだ完結していなんですが」

ルル「なんですとぉ!?」

アンナ「これコメディですよ。こんな終わり方するわけないでしょう」

ルル「なんという……作者はどうしてそう蛇足がすきなんですかぁ!」

アンナ「もともと書き始めのころから既に書いていたラストらしいですからね」

ルル「これでいいじゃないですかぁ。私とお母さんの感動の家族愛ラスト!」

アンナ「母以外はいいのですか?貴女は相変わらず父と弟に冷たいですね」

ルル「う~ん……あの2人はこれくらいの距離感が愛情なんですよぉ。それよりもリリ様がお父さんやお兄さんを粗略に扱っている方がおどろきですぅ」

アンナ「別にリリ様はご当主様や兄君に冷たくはありませんよ?」

ルル「え?そうなんですかぁ?リリ様はお母さんのことばかり意識しているし、あの2人の登場シーンからリリ様そっけないのかと思いましたぁ」

アンナ「まあ多少は鬱陶しいと思われていますが、きちんと家族として愛しておいでですよ。ただ私があいつらをリリ様に近づけないだけです」

ルル「……」

アンナ「そのせいで、あの2人はリリ様成分が不足して発狂して、リリ様に鬱陶しがられて、私が邪魔して、さらに2人が発狂して……の繰り返しです。もはや私があの2人を目の前から排除してもリリ様は何も仰いませんw」

ルル「鬼ですか!」(゜д゜lll)

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