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第4話 『侯爵令嬢は初めて1人で身支度を整える』


2021/6/13 改稿

 侯爵令嬢リリーエン・リュシリューの朝は早い……



 しかし、早くても意味がない。何故ならリリはアンナが起こしに来るまで、二度寝を楽しむのが日課だからだ。


 であるからして、本来なら今頃はアンナに『まだ来るな〜、来るな~』と念を飛ばしながら二度寝を楽しんでいるところだ。


 しかし、今はアンナがいない。ネネに起こされたリリは、自分の身支度を行う必要がある。


 いつもはアンナが全てやってくれていた。しかし、侯爵家と違って、男爵家のしかも貧しいこの家に、専属侍女どころか侍女もいるかあやしい。


 さてどうしよう?と思案して、まずは寝汗をどうにかしたいなと思った。


 しかし、ここはリュシリュー家の屋敷ではないのだ。お風呂に入るわけにもいかない。洗浄系の魔術を使用すれば問題ないが、果たして男爵令嬢の身体で上手く魔術が使えるだろうか?



──ん〜確かこの男爵令嬢の名前は学園での成績上位者の中には見ませんでしたね。



 貴族の通うこの国のシュトレイン学園では、貴族として必要な知識や実技を学ぶが、魔術についてもかなりの重きを置いている。そのため生徒たちの成績評価において、かなりのウェイトを占めているのだ。


 これは、この国の貴族の在り方が昔気質を尊び、戦において上位者は常に前線に立つべしとされているからだ。だから国内の高位貴族の中には、誰よりも前に出ることを誉としている者も少なくない。


 戦えない貴族は貴族にあらず。民よりも前に立てない王族は王族にあらず。故に学園では貴族としての知識だけでなく、魔術や剣術など実践的に指導される。つまり学園の成績は魔術の力量も1つの指標としている。



──まあ、昨夜も《魔力感知》は普通に使えましたし、魔術言語さえ理解していれば、洗浄系は生活魔術で技術も魔力量も、それ程必要とはしませんから大丈夫でしょう。



 いつもならアンナに任せきりだが、それ程技術が必要でもないかと、ささっと魔術構文を頭の中で構築すると、リリの周囲に光の文字の羅列のようなものが浮かび上がる。魔術発動の為の呼び水『魔術構文』である。


 そのまま思い通りに魔術が発動出来るのを確認すると、洗浄魔術を行使して身綺麗にする。



──魔術の行使は普通にできますね。それに魔術を使ってみた感じ、この身体のポテンシャルは決して低くないように感じたのだけれど、どうしてこの娘は成績があまりよろしくないのでしょう?



 ルルには伸び代がかなりありそうでで、努力をすれば色々な可能性がある。それなのに、自分の能力を伸ばすよりも、安易に高位貴族や王族に取り入るルルに対してリリは少し怒りを覚えた。



──まあいいでしょう。この身体のポテンシャルを測るのは後日にでも。今は身支度をしないと私の可愛い妹ネネちゃんを待たせるわけにはいきません!

 注:ルルの妹であって、リリの妹ではありません



 さて次はと、アンナがまずは着替えからしていたからそうするかと、それほど悩まずにクローゼットを開いた。中には安物の簡素なドレスと部屋着用のワンピースが数点あるだけで、これから学園に行かなければならないなら着るのは制服かと取り出した。


 簡素なドレスとはいえ、リリには自分で着付けができない。もともとドレスは一人で着替えができるものではないのだ。魔術を使用するという裏技もあるが、貴族は雇用を生む必要がある。そのため、リリはその手の魔術の習得をしてはいなかった。


 今から魔術を構築するという手段もあるが、いかに優秀なリリとはいえ、即興で1から魔術を作製するのには時間がなさすぎる。


 が、幸い学園の制服は簡易に着替えのできる作りのようで、辛うじて自分で着替えができた。白と青を基調とした楚々としたワンピースに、胸元には学年の色を表す紫のリボン。リリ自身は満足のいく仕上がりだと自負した。



──さすがは私です。意外となんとかなるものです。ドレスの着付けについては、これも後回しにしましょう。今、新しい魔術を作る時間もありませんし。



 出来ることと出来ないことの取捨選択を素早く行い、出来ないことや優先事項の低いことは後々努力すれば良い。リリはいつもそうやって目の前のことを処理し、努力を重ねて能力を伸ばしてきた。


 次はいつもなら鏡台の前に座って、アンナが髪を結ったり、化粧を施したりするところであるが……



──化粧は……うん私には無理ですね。



 まあ、鏡台を見る限り大した化粧品の類はなさそうだし、する必要もないかと割り切った。なにぶんルルの容姿は幼い。とても幼い。到底、リリと同い年とは思えない。


──肌も少女というより幼女なみにモチモチしてないですか?


 リリは自分の体に触れながら、本当に自分と同じ年齢なのかと疑いたくなった。


──髪は……これもアンナみたいにはできませんし、後ろで一本に(くく)ってしまいましょう。


 そのまま下ろしておこうかとも思ったのだが、この国では15歳を過ぎた成人貴族令嬢は髪を結い上げるのが常識だ。


 一応学園では制服に限り髪を下すのも可であり、実際下位貴族の大半と上位貴族の一部は下ろしている。つまり学園ではほぼ下ろした生徒ばかりなのだが、大貴族の娘であるリリは結い上げることが殆どだった。なので、完全に髪を下ろすのに心理的な抵抗があった、


 そこで、アンナのひっつめ髪を見て、ルルはいつも楽そうだと感じていたこともあり、(まと)めて結ぶという発想になったが、学園なら問題ないだろうと整えた髪型は、この世界ではまだ一般的ではないポニーテールだった。奇しくもルルの姿にはよく似合っており、リリのセンスの良さが出ていた。



──これは中々よいのでは?上位貴族では無理でしょうが、侍女の雇えない下位貴族の間で流行らないかしら?



 そうすれば今後楽ができそうだがと少々物臭な思考に陥ってしまった。いくら流行ってもアンナがリリの髪を結う以上、絶対にその髪型を許さないだろうことをリリは失念していたが……



「お姉ちゃん、すご〜くかわいい♪」


 初めて見る姉の身支度にネネが興奮して抱き付いてきたので、無意識にリリは締まりのない笑顔になっていたが、もはやリリは気にしない。黒鋼の強固な精神?何それ美味しいの?



「ネネちゃんもお揃いにしちゃいましょう」

「おそろい?」


「そう!私と同じ髪型にしましょう」

「うん!ネネおそろいにする!」


──まあ、完璧とは言えませんが、身支度は何とかなりました。



 リリはネネを鏡台の前に座らせて髪を弄り、ニコニコと上機嫌に笑うネネとの触れ合いを楽しんだ。



 リリはやっぱり困らない。むしろ可愛い妹ができてご満悦……



アンナ「やはりリリ様の身支度は、このアンナがせねば!」

リリ「あのねアンナ。私は今ルルだから自分のことは自分でしますよ?」

アンナ「いけません!リリ様の身の回りのお世話は、専属侍女たるこのアンナの特権です。絶対です!」

リリ「あのねアンナ。それは特権ではなく、お仕事だと思うのだけれど」

アンナ「特権です!リリ様のお世話は倍率1000倍の競争率なのです。最高のご褒美なのです。絶対です!」

リリ「まあ、私もネネちゃんとの触れ合いは楽しかったし、他人のお世話もいいものかもしれませんね」

アンナ「リリ様がビッチの妹にNTRさ(ねとら)れた!!!」



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[一言] 〉今はアンナがいない。 まさにアンナがいないw アンナ成分が欲しい!
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