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第44話 『侯爵令嬢は伯爵令嬢の窮状を知る』

残すところは最終話の清書のみ!と思っていましたが、書いてたらどんどん増量してしまって、閑話をもう1話追加です(`・ω・´)

だけど金曜日に完結予定はそのまま!(∩´∀`)∩


いつも誤字報告ありがとうございます!

かなり助かっています!

 傭兵団『爪弾き者の巣』のディッケル、レミー、デイモンの3人は現在、橄欖(かんらん)宮の一室で身を縮めていた。


 3人はリリに会うため他の団員たちを隠れ家に残し、リュシリュー邸を訪れたのだが生憎とリリは不在であった。


 門前払いを食らうと思っていたのだが、意外にも3人は高そうな家具に囲まれた応接間に通されて度肝を抜かれた。


 そして応対に絶世の美女が現れた時には3人とも唖然とし、その正体がリュシリュー侯爵夫人メネイヤと知って今度は魂が抜かれた。


 小一時間ほど待たされ、今度は王城へと連行されて今に至るというわけだ。


「な、なあホントに大丈夫なのか?ここ王宮だぞ」

「仕方ねぇだろ。向こうが来いって言うんだから」

「デイモンビビり過ぎ」

「テメェはこの国の王妃の恐ろしさを知らねぇだろ」

「なんでお前が王妃と面識を、ってそういやオーヴェルニ出身だったな。お前も王妃も」


 ディッケルに故郷の名を指摘されたデイモンはガクガクブルブルと震え出した。


「あの女に関わっちゃなんねぇ。あ、あれは人の皮を被った化け物だ……」

「お前オーヴェルニで盗賊やってたと言ったな?」

「ああ、10数名の小さな盗賊団の頭だった……俺は忠告したからな!ホントにどーなっても知らないかたな!」


 そんな3人を隣の部屋から覗いている者たちがいた。言わずもがなリリたちだ。


「やっぱりコラーディン伯爵に雇われていた傭兵たちですね」


 白髪の男は見ていないが残りの2人には手を焼かされたのだ。忘れるはずも、見間違えるはずもない。


「報告では『爪弾き者の巣』と言う腕利きの傭兵団らしいわ」

「あ!あの2人は続編で出てくる攻略対象ですぅ」


 ディッケルとレミーを指差すルルにみなの視線が集まった。


「貴女!また話していないことを!」

「しょうがないじゃないですかぁ。まさか続編まで関係するとは思いませんよぉ」

「今は言い争わないの。それでルル、あの2人はどういう人物なの?」

「ええと、金髪碧眼の美少年がレミーで確か冒険者だったはずですぅ。ただ昔、傭兵団に所属していて、レミーの攻略中に隠しキャラとして当時の傭兵団の団長である赤髪の男ディッケルが出てくるのですぅ」

「ふむ、今の状況に当てはまりますね。それで白髪の男は?」


 アンナの質問にルルは首を横に振った。


「知りません。と言うのもその傭兵団はゲーム開始時には既に壊滅しているからですぅ。何でも雇い主の貴族に濡れ衣を着せられて、レミーの以外の仲間たちをみんな処刑されちゃって……ディッケルはお尋ね者になりながらも敵討ちに燃える復讐鬼として登場するのですぅ!その恨みの気持ちをヒロインが優しく……」

「攻略の方はいいです。それよりも傭兵団について話しなさい!」

「もう!アンナさんはせっかちですぅ。傭兵団を壊滅させた貴族については詳細はありません。ゲームでは10年前に壊滅したと説明があるだけですねぇ。ゲームはライバル令嬢のネネが15歳の時に開始だから10年後ですね……あ!?」

「ルル!今ではないですか!!!」

「いや、さすがに細部の設定まで全て語るのは無理がありますぅ」


 噛み付くアンナにルルは身を守るかのように頭を押さえる。


「2人とも今はそれどころじゃないわ」

「リリちゃんの言う通りよ。恐らく彼らはコラーディン伯爵に潰される運命にあるのね」


 リリは頷き、再び3人を見詰めた。


「今その運命の分岐点にあの3人はいるのです。きっとコラーディン伯爵の所で何かが起きたのです。その件で彼らは本来なら壊滅する運命にありました。しかし、私と接点のない3人が私を頼ってきたのは……」

「あ!マリーですねぇ!」

「そうです。ゲーム通りなら私やルルと仲良くはならないマリーが現実では友達になりました。彼女が彼らを私の所へと送り出したのです」


 そこでルルははっとリリの顔を見た。


「それじゃマリーは?」

「ゲームでは彼らに着せられる罪が分かりません。コラーディン邸で何が起きたのか……何かとても嫌な予感がします」


 リリの険しい顔にルルは不安そうに両手を祈るように胸元で握った。


「すぐに3人から話を聞きましょう」

「お待ちください!直接会うのは危険です。あの者はかなりの手練れと聞いております」


 制止するアンナにリリはにっこりと笑った。


「大丈夫。だって私にはアンナがついているでしょう?」

「うっ!その言い方は反則です」

「ふふふ。信じているわ。私の頼れる専属侍女を」

「リリ様のご命令とあらば」


 恭しく礼をする信頼する侍女に頷くとリリは隣の部屋へと向かった。


 リリ、ルル、アンナ、エルゼの4人は近衛の騎士たちと共に入室すると傭兵3人の顔が強ばった。特に白髪の男デイモンはエルゼの姿を視認すると幽鬼のように真っ青になった。


「ず、ずいぶんと物々しいんだな」


 その中でディッケルはまだ肝が据わっているようで去勢を張ったが、それに近衛の騎士たちが熱りたった。


「貴様!王妃殿下に何という口の利き方!」

「不敬な!」


 それに対してうんざりした表情を浮かべたのはエルゼだった。


「貴方たちうるさいわよ。だから連れてきたくなかったのよ」


 実はエルゼは邪魔だからと近衛の騎士たちを置いていこうとした。


「王妃殿下!」

「ご無体な!」

「我々にも職務が!」

「だって貴方たち私やアンナちゃんより弱いじゃない」


 ばっさり切り捨てられ騎士たちは血涙を流してうずくまった。哀れ……


「待たせて申し訳ないわね。この騎士たちは気にしないで。お飾りだから」

「「「ぐは!!!」」」


 追い討ちをかけられた騎士たちはもはや再起不能。彼らのその姿にディッケルは思わず同情した。


 ──この女が噂に名高い武闘派王妃エルゼリベーテ・シュバルティナ・ドゥ・オーヴェルニか。噂以上だな……


 戯けた振る舞いに全く隙が無いのをディッケルは感じて、エルゼがかなりの手練れであると彼は看破していた。


 ──それに後ろの侍女……見逃すところだった。強さを看破させないほど己を擬態できる強さ。俺はこいつに勝てるか?


 アンナの存在にディッケルは背筋が凍る思いがした。


 ──そしてもう1人……


 リリの存在にディッケルは顔を顰めた。


 ──髪と瞳の色が違うが間違いない……昨夜の嬢ちゃんだ。何だここは?王宮じゃなくて伏魔殿じゃねぇのか?


 この3人を前にしてディッケルは逃走は不可能だと判断し、却って腹が据わった。


「お話はこのエルゼリベーテ・シュバルティナ・ドゥ・オーヴェルニが伺いましょう」


 覚悟を決めたディッケルはともかく、レミーとデイモンはエルゼの圧力に負けてへたり込み、ソファーから立ち上がれない。デイモンなどそのまま気絶しそうだった。


「まずはお話を伺う前に……」

「何ですかい?」


 太々(ふてぶて)しいディッケルの態度にエルゼは面白そうに笑った。


「私のことはエルゼちゃんと呼んでね♪」

「エルゼ様!」

「だぁって〜エルゼリベーテって可愛くないんだもん」


 リリに嗜められ頬を膨らませるエルゼにディッケルたちの思考は停止した。


「貴方たち『エルゼちゃん』などと呼んだら間違いなく国王陛下が飛んできて極刑にされるから気をつけなさい」

 ──いつの間に!


 アンナに背後から忠告されて、ディッケルは驚愕した。決して気を抜いてはいなかった。むしろいつも以上に警戒していた。なのに簡単に背後を取られたのだ。さしものディッケルも体が震えた。


「さて、じゃあ要件を聞きましょうか」


 にこにこ顔で圧を掛けてくるエルゼと氷の無表情で冷気を与えてくるアンナに挟まれた3人は、まるで拷問官に尋問されている気分を味わった。


 ──拷問官の方がマシだ!


 コラーディンでの出来事を説明しながらディッケルは寿命が縮む思いとはどういう事かを悟ったという。


「成る程……マリアヴェル・コラーディンが捕えられてリリちゃんの人質に使われそうなのね。ねぇ、ゲルハルト・コラーディンってバカなの?自分の娘が人質になるはずないでしょう」

「俺たちに言われてもなぁ」

「そうね……しかし馬鹿の発想は怖いわ。普通誰もが笑って馬鹿にしそうな策なのに、今回に限っては有効なのよねぇ」


 目に怒りの感情が灯るリリと心配で泣くそうなルルを見てエルゼは溜息をついた。


「リリちゃん分かっているわよね?」

「当然です……マリーは助けます」

「いや違うんだけど……」


 リリの静かな怒気にエルゼは頭を抱えたくなった。先ほどとは違い、魔術を使用していないはずなのに、周囲の温度が下がっているように感じる。


「私は冷静ですよ?」

「ホントにぃ?」

「ええ、きちんと叩き潰してさしあげます!」


 リリのいつも穏やかで優し気な笑顔が、全てを凍りつかせる様な氷の微笑みになり、この部屋の者はみな背筋が凍りついた。


「……と言いたいところですが、マリーはとっても良い子なのです」


 絶対零度を思わせるリリの冷たい微笑みが、一瞬でいつもの春のような温かな笑みに変わる。


「マリーはきっと自分を虐げる父親であっても助けたいと願うお人好し。私はそんな友人を助けたいし、その願いも叶えてあげたいのです」


 だから……


 と、リリはエルゼに耳打ちするとエルゼは頷いた。


「私は構わないけど……コラーディン伯爵にはルルちゃんも酷い目に合されているのよ?リリちゃんは本当にそれでいいの?」

「ルルの事はもう大丈夫です。それに最初からそのつもりでしたし」


 コンコン!コンコン!


 リリとエルゼが打ち合わせを終えたタイミングで再びノックして入って来たのは、やはりエルゼの専属侍女であった。


「度々申し訳ありません。リュシリュー家からお手紙が届いております」


 アンナに手渡された手紙をリリは受け取るとすぐさま中身を確認した。


「どうやらコラーディン伯爵から脅迫状のようですね……」

「……ホントに馬鹿ですか?せっかく娘を人質にして周囲の目を欺いているのに証拠を残すような真似をするとは」


 アンナは呆れ果て、その場の者たちも全員絶句である。


「……指定の日時は今日ですね。場所は王都の城壁外のようですが、これは好都合かもしれません」

「そうね。屋敷から人が出払う今がチャンスね」


 エルゼはにやりと笑ってディッケルたちを見据えた。


「ねぇ貴方たち……なかなか優秀で、色々な特技を持っているそうね」

「あ、ああ……どうせもう知っているんだろ?俺たちの団には異能者が多数いる」

「その能力(ちから)を貸してもらえるかしら?」

「もともとマリーの嬢ちゃんを助けるために力を借りに来たんだ。嬢ちゃんを助けるためなら力は惜しまないぜ」

「……傭兵団の癖にずいぶんとお人好しなのねぇ」

「嬢ちゃんには借りがいっぱいあるからな。きちんと返すのが俺たちの主義だ」


 それを聞いたエルゼは笑い出した。


「気に入ったわ。貴方たち、この件が終わったら私の元にきなさい。悪いようにはしないわ」

「エルゼ様、勧誘は終わってからにしてください。あまり時間がありません」

「そうね」


 エルゼは勧誘を諦めるとディッケルたちに幾つかの指示を与えた。


「分かった。その程度なら団員たちを使えば問題はないはずだ。だが、嬢ちゃんの救出には俺たち3人は同行させてもらいたい」

「分かりました。コラーディン伯爵は私とルルだけを招いていますが、魔術で何とかできるでしょう」

「あ!あの消える魔術ね」


 リリは『隠形』を上手く使用すれば、ある程度の人数を隠して連れて行けると踏んだ。しかし、これが思わぬ事態を招いた。


「では私も行くわね♪」

「「「え!?」」」

「あの魔術があれば私がついて行っても大丈夫でしょ?」

「いやいや王妃殿下が行ってはいけないでしょう!」

「そう言うアンナちゃんも行くんでしょ?」

「私はリリ様の専属侍女兼護衛ですから当たり前です!」

「ならば我ら近衛も同行いたしましょう!」

「え!?貴方たち邪魔だからいらないわ」

「「「なんですと!!!」」」

「だって貴方たち私はもちろんのことリリちゃんやアンナちゃんより弱いじゃない」

「うわ~ん!」

「俺たちは弱くない、俺たちは弱くない、俺たちは弱くない……」

「この人たちがおかしいんだ……」


 そんなエルゼと近衛騎士たちの様子にリリは溜息をついた。


 ──エルゼ様とアンナがいるのよねぇ……


 これから起きる阿鼻叫喚の地獄絵図を想像してリリは少しだけ相手に同情した……



 リリは友達を見捨てない。だけどコラーディンたちが少し可哀想になってきました……

ルル「やっぱりエルゼ様は武闘派と呼ばれているんですねぇ」

アンナ「まあ、オーヴェルニでは相当暴れていたようですから」

エルゼ「失礼しちゃうわ!私いつもにこにこ笑って穏やかなのに」

ルル「あの白髪のデイモンさんはエルゼ様をかなり怖がっていましたよ」

アンナ「オーヴェルニで盗賊をしていたと言っていました。おそらく王妃殿下に潰されたのでしょう」

ルル「そうなんですか?」

エルゼ「え?さあ?エルゼちゃん分かんな~い」

ルル「可愛い子ぶっても誤魔化せませんよ」

アンナ「ご自分のお歳をお考えください」

エルゼ「私はまだ若いわよ!(怒)」

ルル「それで結局どうなんですかぁ?」

エルゼ「ホントに分かんないの。だってオーヴェルニで潰した盗賊団って数えきれないもの」

ルル&アンナ「「じゅうぶん武闘派じゃないですか」」


誤字脱字や何かご意見がありましたら遠慮なくご報告ください。頂けるととっても助かります!

また、ブクマや評価、レビューをいただけたらとっても嬉しです(∩´∀`)∩

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