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第41話 『侯爵令嬢はキレる』

粗原稿は1話半を残しておおよそ最後まで完成(∩´∀`)∩

着々と終わりが見えて参りました(*´ω`*)

今度こそなんとか頑張って終わらせます!

 ルルの処遇には一応の決着をつけた。後はルミエンの家族に任せようとリリは決断し、再びイダーイに向き直った。


「イダーイ様」

「何でしょうか?」

「貴方がルルにした仕打ちはこの際不問にします」


 イダーイはその言葉に満足気に頷いた。


「それは重畳。早速ルルーシェ嬢を調査して……」

「こら!イダちゃんそれは不味い!」


 迂闊なイダーイの発言にエルゼが慌てて止めたが既に遅し、リリの目が完全に据わり周囲の気温が一気に下がる。


「や、やばいわ!リリちゃんがキレた!」


 本当に()()()()温度が下がっていた。


「ひぃ!」


 エルゼは手に持つティーカップが急に冷たくなり驚いて落とすが、落ちたカップは割れず中のお茶は飛散もしなかった。湯気を立てていたはずのお茶が完全に凍結していたのだ。


 見ればリリの両腕から紡がれた魔術構文が帯状に発光している。


「お、お、落ち着いてリリちゃん」

「私は冷静ですよ?」


 嘘だぁ!とエルゼは内心で叫んだ。


 リリは普段おっとりして分別のある娘だ。目上の者を蔑ろにするような真似は決してしない。


「お、王妃殿下?」

「イダちゃんの馬鹿!打ち合わせでリリちゃんは怒らせるなと言っていたでしょ」


 エルゼとイダーイはリリに聞こえないようヒソヒソと密談を始めた。


「リリちゃんはこの国最強なのよ。怒らせたら手がつけられないんだから」

「ですが王妃殿下の方が強いとお伺いしておりますが……」

「それは武術の話よ!本人は分かっていないようだけどリリちゃんは現時点で八魔天を越える逸材よ」

「で、ですが、先ほどまでのリリーエン嬢は王妃殿下に萎縮している様に見えましたが……」

「リリちゃんはメイの娘だけあって礼節を重んじる子だし、好戦的でもないから通常は従順なのよ。自分の力や影響力を過小評価しているしね」

「だったら王妃殿下に逆らうような真似はしないのでは?」

「怒らせなければね。リリちゃんはめちゃくちゃ良い子なの。自分の事なら折れてくれても理不尽に身内を傷つけられたら黙っていないわ。リリちゃんをこれ以上怒らせたらイダちゃんを庇いきれないからね」


 エルゼの脅しにイダーイはコクコクと頷いた。


「いつまでコソコソとお話しなさっておられるのです?」

「「は、はいぃ!」」


 リリの氷点下の声にエルゼとイダーイは直立した。


「エルゼ様。これ以上ルルを傷つけるようなら私にも考えがあります。例え私1人でも刺し違えるくらいは……」

「落ち着いてリリちゃん!それは物騒よ」


 だいたいリリが反逆すれば、この国最強の武人アンナは絶対にリリの側である。


 それにリリ狂いのリュシリュー家の者達はこぞって反旗を翻すことは想像に難くない。他にもリリに味方する勢力がたくさんいるのをエルゼは知っている。


 リリは自分の影響力を分かっていない。リリは1人で刺し違えるつもりだろうが、彼女が事に及んだら王家など簡単に滅ぶ。


 実際にアンナの眼鏡の奥の瞳が殺気を伴い剣呑に光るのをエルゼは見逃さなかった。


「だ、大丈夫よ。もうルルちゃんには何もしないから。ねえイダちゃん」

「は、はい。今のはちょっとしたお茶目でして、決して本気ではありません」

「本当ですね?もしその言葉を違えたら……」


 エルゼとイダーイは首を横にブンブン振る。


「そうですか……では話しを進めましょう」


 エルゼとイダーイは首をコクコクと頷く。


「まずは私とルルの魂魄置換のことです。単刀直入にお尋ねします。元に戻すことは可能ですか?」

「そうですね……現状では元に戻すのは現状では難しいでしょう」

「現状では……ですか」

「はい。何分にも我が国は魂魄の魔術言語は禁忌扱いですので、魂魄置換の研究はしておりません。資料は全て禁忌になる前の古いものばかり……」

「我が国では……ですね」

「さすがはリリーエン嬢。鋭いですね。その通りです。おそらくコラーディン伯爵の元には他国の研究者がいるはずです」


 リリは眉間に皺を寄せて考え込んだ。

 一介の研究者のみの

 他国の介入?

 エルゼはそれを探るために泳がせていた?


 エルゼに鋭い視線を送るが、エルゼは素知らぬ顔をした。


 おそらく国家間の暗躍があるのですね。詰問しても韜晦されるわね。


 リリは追求を諦め目の前の問題を処理することを優先した。


「では元に戻る方法は他国へ行くか……」

「手っ取り早いのはベルクルドかコラーディンの元にいる研究者から聞き出すか研究資料を押収するかですね」

「やはりベルクルドとコラーディン伯爵が魂魄置換の首謀者で間違いないのですね?」


 リリがエルゼに確認すれば、彼女はあっさりと頷いた。


「事の発端は10年前に起きた流行病の治療薬に関する不正調査だったの」


 エルゼは侍女に新しいお茶を用意するよう指示を出すとリリに向き直った。


「当時の流行病に国は不正授受や買い占めによる薬の高騰を防ぐために動いていた。だけど一部の貴族に商人と結託して不正に稼いでいた者達がいたの。その一人がコラーディンよ。最後の1人と言うべきかしら」

「コラーディン伯爵だけ泳がしたのですか……」

「彼はベルクルドと結託して巧みに流行病の薬の買い占めや横流しをしていて、未だ証拠が不十分なのよ」

「魂魄置換の件もあったからではないのですか?」

「そうね。否定はしないけど誤解しないでね。当時の私は王太子妃だったのよ。この件には関わっていないわ」


 当時、この事件の主導を取っていたのは前国王だと言う。前国王は治療薬の不正を追っているうちにコラーディン伯爵が魂魄置換を用いて権勢を誇るリュシリュー家を操る企てに行き着いた。


 エルゼ自身は最近この事を知ったらしい。その件でイダーイとコンタクトを取っている最中に今回のリリとルルの魂魄置換が起きてしまった。


「それではやはり私とルルが元に戻るためにはコラーディン伯爵から魂魄置換の魔術構文を接収しなければならないのですね?」


 エルゼが頷いて肯定したが、続いて告げられた内容はリリにとって都合の悪いものだった。


「まだ彼の不正への関与に関する証拠は十分ではなかったのだけど、今回の魂魄置換の件で立件できるでしょう」


 それは不味い!それではマリーが縁座で処罰を、下手をすれば……

 リリは僅かに顔を(しか)めた。


「それでは最悪、王家簒奪の罪状になる可能性があります。コラーディン家は取り潰しを免れないでしょう」

「そうねぇ……そうなるでしょうね」

「ま、待ってください!」


 黙って聞いていたルルが2人の会話に割って入った。


「そ、それじゃあマリーは……マリアヴェル・コラーディンはどうなるんですかぁ?」

「マリアヴェル?現コラーディン伯爵ゲルハルトの娘だったわね……おそらく縁座で父親と一緒に……」


 エルゼは右手で自分の首を斬る仕草をした。つまりは極刑ということだ。ルルは真っ青になった。


「そ、そんなぁ!?」


 昨日、仲良く話した相手が死ぬかもしれない。ルルはなんだか足が地につかない感覚を覚えた。頭が真っ白になる。体がゆらゆらと揺れるような平衡感覚がおかしくなるような……


「エルゼ様……何とかなりませんか?」

「彼女は貴女たちの学友だったわねぇ」

「友達です」


 リリの挑むような厳しい視線をエルゼはいつになく真剣な表情で受け止めた。


「エルゼ様が仰ったのです。友達を作りなさいと……私はその友達を見捨てたくはありません」

「彼女はルル(・・)ちゃんとしてのお友達でしょう?」

「関係ありません。彼女は確かに私と話し、私と接し、私と交流し、私の友達だったのです。その事実は変わりません」


 強い口調と強い眼差し。エルゼはそれを受けて珍しく溜息をついた。


「リリちゃんの頼みでも、こればっかりは無理。治療薬の不正の証拠でも押さえられれば、その件で立件する手もあるけど」

「ですが不正の証拠は不十分と……」

「そうなの。魂魄置換のことが分かってから捜査が不正から禁忌術の方へ切り替わったせいで全く捜査が進んでないのよ」

「エルゼ様!」

「だから私じゃないって。最近この件に着手したばかりなんだから」


 リリとエルゼが打開策を模索し始めた中で1人、ルルは別のことを考えていた。


 ──10年前……流行病……不正……証拠……なんだかどこかで同じことが……


「今から治療薬の入手ルートを探ろうにも10年前じゃねぇ」

 ──ルート……


 エルゼの言葉にも引っ掛かるルル。


「ベルクルド商会に事件攻略の鍵があると思うのです」

 ──ベルクルド……攻略……


 リリの言葉にも記憶が揺さぶられるルル。


「どこかに証拠は隠されているとは思うのよ。だけど今の状況では証拠不十分で強制捜索もできないし……」

 ──隠されて……


 ルルの頭の中をバラバラの単語が渦巻く。そして次第にその点と点が一つずつ結びつき……


「あ!」


 ルルは思考の海に溺れて俯いていた顔をはっと上げた。今、ルルの中でバラバラだったたくさんの点と点が結びついて一本の線になった。


「隠しルートだぁ!」


 ルルは立ち上がり叫び声を上げた……



 リリは友達のためなら全てを賭けるのも厭いません。そしてルルは何やら思い出したようです……

ルル「リリ様がキレました!怖いですぅ!恐ろしいですぅ!」

アンナ「普段はのんびり、おっとりされている方ですからね。余計に迫力がでるのですよ」

ルル「アンナさんは今までリリ様がキレたところを見たことがあるんですかぁ?」

アンナ「過去に1度だけ……思い出しただけでもぞっとします」

ルル「アンナさんでもリリ様は怖いんですかぁ?」

アンナ「当たり前です。リリ様はこの国最強の令嬢ですよ」

ルル「でもアンナさんは結界無効の一撃があるじゃないですかぁ」

アンナ「確かに接近戦なら勝てますが、魔術戦になったら勝ち目がありません」

ルル「リリ様は体術もそれなりですからねぇ、距離を取られたら最後ですかぁ」

アンナ「それに私は忠実な専属侍女ですよ。リリ様と戦うくらいならこの首を差し出します!」

ルル「……縄で縛ろうとしたくせに」

アンナ「あれはマッサージのためです!仕方がないのです!」

ルル「この人リリ様よりも欲望に忠実だなぁ」

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― 新着の感想 ―
[一言] リリ様がついにキレた。怖いものしらずな、あとがきアンナさんでさえ恐怖するとは、なんて恐ろしいのでしょう。 キレてないですよ!というわけには行かないのですね。
2021/09/12 08:40 退会済み
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