閑話⑬ 『そのころ伯爵令嬢は《決裂》』
何とか一番苦しいところを抜け出しました(∩´∀`)∩
説明回はホント苦手。自分ホントに理系人間なんだろうか(。´・ω・)?
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リリと激しい戦闘を繰り広げた赤髪の傭兵。
彼の名前はディッケル。
20人程の小規模な傭兵団『爪弾き者の巣』を指揮する若干25歳の若き傭兵団長である。
ディッケルたちはリリとの戦いの後、リリの追跡を警戒して回り道をしながらコラーディンの屋敷に戻ってきていた。そのために、かなり遅くの帰還となった。
実は既にシャノワの案内でリリがこの屋敷に辿り着いて帰った後であったのだが、彼らにそれを知る術はなかった。
ディッケルは団員である金髪碧眼の美少年レミーと並んで、割り当てられた団の大部屋へ向かっていた。他数名の団員達も2人の後を気怠げについてくる。
「ねえ団長」
「なんだレミー?」
「いつまでここに雇われているつもり?」
「いつまでって言ったってなぁ」
次の仕事の当てがあるわけではないのだ。
「何かきな臭い。直ぐにでも撤退を推奨」
「お前はそればっかだな」
ディッケルは片手でレミーの頭をぐしゃぐしゃと掻き乱した。だがディッケルもレミーの危険感知能力を疑ってはいない。
この傭兵団は異能の持ち主が多い。その異能のせいで真っ当な暮らしが出来なくなった者をディッケルが保護した結果だった。
それら異能はあまり認知されていなかったが、一部の国や研究機関、果ては怪しげな裏組織に知られており、彼ら異能者はそんな危ない連中につけ狙われている。
先の戦闘でリリの魔術を無効化した『魔術構文破壊』の持ち主や『察知』の異能を持つレミーもその特異性を狙われたところをディッケルに助けられたのだ。
「さっきのベルクルドの密会内容もヤバいんでしょ?」
「まあなぁ。部屋から締め出されたから詳しくは分からんが、どうにも王家やリュシリュー侯爵に関わりそうなんだよなぁ」
ディッケルは自分の頭をガシガシと掻いた。
「だけど現状先立つものがなぁ」
「それにここにゃあ、あの娘っ子がいますしねぇ」
後ろから下卑た笑いを上げる団員達をディッケルは睨みつけた。
「お前らまさか手ェ出す真似は……」
「しませんて!」
ディッケルの殺気に団員達は一様に両手と首をブンブン振った。
「あんな良い子に悪さなんてしませんよ」
「そうそう。だけどホントとびっきり良い女なんだよなぁ」
「同感。鑑賞くらいはかまわねぇよなぁ」
そう弁明する団員達に胡乱気な視線を向けるが、彼らは悪びれた様子もない。
「おっと噂をすればですぜい」
団員に言われて視線を前に戻せば、廊下の反対側から1人の少女が歩いてくるのが視界に入った。
ボリュームのある金の巻き髪が波打ち、その碧い瞳では切れ長で鋭い釣り目。そして何より団員たちの視線を奪い釘付けにする巨大な双丘、いやもはや双山と言うべき立派なお胸の持ち主。外見は非常に気の強そうな美少女マリアヴェル・コラーディンである。
団員たちは現れたマリーの見事なプロポーションに鼻の下を伸ばしてディッケルに睨まれた。
「あら団長さん。こんな夜分に如何されましたの?」
マリーは顔見知りになった傭兵団を率いて帰ってきたディッケルに気安く声を掛けてきた。彼女は持ち前のお人好し性格から、この傭兵団が屋敷に来てから何くれとなく世話を焼いていたのだ。
「嬢ちゃん。俺達みたいな荒くれ者にはもっと警戒しろと忠告したはずだぜ」
「あら?でも皆さん良くしてくださいますわ。ですわよね?」
マリーはそう言ってディッケルの背後の団員たちに確認すれば、鼻の下を伸ばしながら全員一斉に頷いた。
「そうそう」
「嬢ちゃんの為なら例え火の中水の中だぜ」
「ぼくたち悪い荒くれ者じゃないよ」
「ほらこう仰ってますわ」
和気藹々とするマリーと団員達にディッケルは頭を抱えた。お人好し過ぎるマリーの将来が心配になる。そんなことを危惧するあたりディッケルも相当にお人好しなのだが。
──本当に良い娘なんだよなぁ。容姿も中身もあのおっさんの娘とはとても思えん。
現在の雇い主を思い浮かべてディッケルはげんなりした。正直言ってマリーがいたから続けている仕事だ。
今の雇い主は払いは悪いし、陰でコソコソと何やら怪しげな事をしているし、この子が取りなしてなきゃとっくに辞めてたが……
情に厚いディッケルはマリーに何となく恩義を感じてしまっていた。それがレミーの忠告にも関わらず彼に引き際を誤らせていた。
──そう言えばそのレミーは?
レミーの姿が先程から見えない。背後を見ればディッケルの背中に隠れていた。
「何をやってんだ?」
「あの女性苦手」
「良い子じゃないか」
「いつの間にか背後取られるから……」
「お前がか!?」
レミーの異能が無力と聞いてディッケルは驚愕した。
「マジか?」
「ん、多分あの人には全く敵意も害意も存在しないんだと思う」
「……正真正銘純度100%の良い子なんだな。貴族の世界で生きていけんのかね」
天然もののマリーの将来が心配になるディッケルであった。彼らがそんな他愛もない会話をしていると奥から家令がやって来た。
「おい、伯爵様がお呼びだ」
「貴方!何という乱暴な物言いですの」
その尊大な言葉にディッケルよりもマリーが憤慨したが、家令はマリーの前から逃げる様に去って行った。しかし、マリーの怒りは収まらない。
「お、おい嬢ちゃん、俺達は別に怒っちゃいないって……」
「いいえ!コラーディン家の品位に関わりますわ。それにこんな遅くまで仕事をさせるお父様にも問題があります。今度苦情を申し上げますわ」
ぷんぷんと音を立てそうな怒りを露わにしながらマリーはディッケルたちの前から去っていった。
「やれやれ。さて雇い主様がお呼びだったな」
マリーの後ろ姿を見送ったディッケルはコラーディンの元へ向かおうとした。
「団長……気をつけて」
そのディッケルの後ろからレミーが耳打ちする。
「うん?何かありそうなのか?」
「屋敷内が殺気立ってる」
レミーの言葉にしばし考えたが、ディッケルはレミーたち団員を見据えて退去の指示を出した。
「嬢ちゃんには悪いが潮時かもな。部屋に戻って準備はしておけ」
「団長はどうするの?」
「一応まだあのおっさんが雇い主だからな」
「逃げた方がいいと思うけど」
「そういう訳にもいかんさ。お前たちは何かあれば俺に構わず……」
「あたりきしゃりき!」
「団長の心配なんて誰もしませんて」
「さっさと尻尾巻いてずらかるよなぁ?」
「お前らなあ」
好き勝手言う団員たちに呆れながらディッケルは彼らを部屋へと追い払い、自分はコラーディン伯爵の部屋を目指した。
部屋の前までくれば、扉の向こう側が何やら殺気のようなものを感じる。
──レミーの勘はやはり大当たりか。
ディッケルはその殺気に構わずノックして入室した。中には自分の知らない傭兵らしき男たちが数人剣呑な雰囲気を醸し出していた。
──部屋の4隅に1人ずつと依頼主の脇に2人。脇2人以外の腕は中の下ってとこか……
ディッケルは素早く人数と配置を確認して、相手の力量を測った。
「遅かったな」
相変わらずの尊大な態度のコラーディンにディッケルは特に顔色を変えなかった。いつものことだし、貴族などこんなものだとディッケルは思っている。マリーが特殊なのだ。
「あの黒髪の少女は始末したのか?」
「いいや。警邏も来たし引き上げてきた」
コラーディンの片眉が釣り上がった。
「小娘如きも葬れんのか!」
コラーディンの叱責にディッケルは無表情だが、周囲の傭兵らしき男たちから下卑た笑い声が上がった。
「だから言っただろ。こんな若造供の傭兵団より、我ら『黄昏の死鴉』傭兵団の方が役に立つって」
コラーディンの横にいた、この中ではましな腕と思われる厳つい男が鼻を鳴らした。黄昏だと沈んでいる最中なんじゃないのか?言葉の意味くらいは調べろよとディッケルは呆れた。
「そうだな……こいつらを雇ったのは失敗だった」
「クビ……ってことか」
「そうそう」
「お前らは用済みなんだよ」
四方の男たちがギャハハと品悪く大きな笑い声を出す。
『黄昏の死鴉』傭兵団についてはディッケルも名前は聞いたことがあった。隣国の傭兵供で、団員は100人を下らない大所帯。ただし、質はかなり悪いらしい。
実際に目の前にしてディッケルはその噂が真実だと確信した。
「まあクビでもいいんだが、これまでの給金は払ってくれよ」
「ふん!役に立たんくせに厚かましさだけは一級品だな。貴様らのようなクズにやる金はない」
「おいおい契約違反だぞ」
「貴様らがだらしないのが悪い」
「あの少女は普通じゃない。誰であっても結果は同じだ」
「ふん!どうだかな?」
あれだけ異常な力を見せていた少女の力量が分からない依頼主にディッケルはもはや何を言っても無駄と悟った。
「まあ、少なくともこいつらじゃ100人いても相手にならんぞ」
「は!与太話を」
「言い訳は見苦しいぜ」
「女1人に勝てんザコが」
ディッケルが周囲の男たちに一瞥くれると嘲笑が湧いた。
「それにお前らは何やらコソコソと嗅ぎ回っていたようだからな」
剣呑な雰囲気に代わり、後方2人が扉の方まで動き退路を絶ったことで、いよいよ撤退かとディッケルは腹を括った。
「お前たちには消えてもらおうか。こいつらの実力を見るのにちょうどいいしな」
「ってわけだからお前さんは、ここで退場だ。永遠にな!」
周囲の男たちが今にも襲い掛かろうと殺気立ったその時……
「お父様!お話がありますわ!」
ドン!!!
「「どわあ!!!」」
勢いよく扉が開かれ、ディッケルの退路を断とうと扉の前に立っていた2人の男が吹き飛んだ。
「な、なんですの?」
部屋に入ってみれば剣呑な雰囲気でマリーは戸惑ったが、それ以上に部屋の中の男たちは呆気にとられていた。
「嬢ちゃんこっちだ!」
ディッケルはその隙を見逃さず、マリーの手を引いて逃げ出した。
「だ、団長さんどうなさいましたの?」
「ちょっと嬢ちゃんの親父さんと揉めてな……わりぃ担がせてもらう」
「な、な、な!」
ディッケルが走るのが遅いマリーを一瞬にして抱きかかえ、マリーは突然のお姫さま抱っこに面食らった。
抱きかかえられると、お互いの顔が一気に近づく。マリーはディッケルの口は乱暴だが野性的で整った顔を間近に見て顔が瞬時に真っ赤になった。純粋培養のマリーは男性免疫がゼロなのだ。
静かになったマリーを訝ったが、急ぎ屋敷内から逃げ出す必要のあるディッケルはそのままマリーを抱いて走る。
途中、コラーディンの家人たちとすれ違ったが、マリーの存在のためにディッケルを制止できず、ディッケルは思ったよりもすんなりと門外まで逃げ出す事に成功した。
「嬢ちゃんこんなとこまで連れて来て済まねぇな」
まだ屋敷の見える範囲ではあるが、どうにも『黄昏の死鴉』どもの動きが悪いらしく、全く屋敷から人が出てくる気配がないので、一息ついてマリーを降ろした。
「それは別に構いませんわ。それよりも事情をお聞かせくださいな」
「さっきも言ったが、嬢ちゃんの親父さんと決裂してな……」
マリーには話すべきではないと思ったのだが、このまま彼女を屋敷に帰すのは危険な気がしたディッケルは事情を話してマリーを安全な場所へと避難させようと考えた。
しかし……
「何ですのそれは!許せませんわ!お父様に文句を言ってやりますわ!」
マリーが激昂した。
「いや待てって!嬢ちゃんの親父はどうにもきな臭い。危険だからほとぼり冷めるまで隠れた方がいいと思うぞ」
あのような現場を見られたのだ。コラーディンのことだから娘と言えど無事で済む保証はない。
「私は大丈夫ですわ。それよりも貴方たちの身の振り方を考えませんと」
「おいおい、どこまでお人好しなんだ」
「そうですわ!リリーエン様に助力をお願いしましょう」
「俺たちは大丈夫だから自分の心配をしろよ」
「あの方ならきっと力になってくれますわ」
「人の話を聞けって!」
「では行って来ますわ。団長さんはリリーエン・リュシリュー様かルルーシェ・ルミエンにこのことをお伝えくださいな。リリーエン様なら絶対にお力になってくださいますわ」
「おい!そんな保証どこに……ってホントに行っちまいやがった」
嵐のように捲し立て、疾風のようにマリーは屋敷へと引き返してしまった。
ディッケルはマリーの余りに予想外な行動力に屋敷へと入って行く彼女の背中を茫然と見送った……
アンナ「あの団長かなりの腕と見た」
ルル「リリ様とのバトルも白熱してましたしね」
アンナ「リリ様の見立てでは剣だけなら王妃様にも匹敵するとか」
ルル「凄いですねぇ。エルゼ様ってこの物語の最強格の1人ですよねぇ」
アンナ「まあ王妃様は剣よりもステゴロの方が得意なので指標にはなりませんね」
ルル「は?」
アンナ「王妃様は結婚前オーヴェルニの『紅蓮の戦姫』と呼ばれていました」
ルル「有名な二つ名ですよねぇ」
アンナ「みなさん勘違いしているんですが、あれは髪の色や炎の魔術からついた通り名ではないのです」
ルル「は?」
アンナ「王妃様は魔獣も山賊もステゴロで薙ぎ倒して全身を返り血で染め上げていたので、オーヴェルニの『血塗れ姫』と呼ばれていたのですが、さすがに物騒だったので『紅蓮の戦姫』とみなが忖度したのです」
ルル「全部殴り殺してたんですかぁ!?」
アンナ「本当にやばい王妃様ですよね」
ルル「いやアンナさんも大概だから」
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