第36話 『侯爵令嬢は黒幕を知る』
できれば週2は投稿したいのに……
次から3話分が全く書けないorz
これ今月中に原稿があがらんよ(゜Д゜;)
最後の2話はもう粗原稿上がってるのに……
「なるほどな。貴族令嬢だろうお前……」
そう宣う赤髪の団長を警戒してリリは少し距離を取った。
「剣技が綺麗すぎる。たまに剣をやる貴族令嬢が習う護身の剣術か……」
「何言ってんですか団長!これが令嬢の手習いレベルのわけないでしょ」
「ああ!こんな貴族の令嬢ばっかりだったら俺たち失業しちまう」
赤髪の団長の言に周りの団員たちが色めき立つ。それに対して赤髪の団長は苦笑いして頷いた。
「恐ろしいよな。貴族のママゴト剣法をここまで昇華させちまうなんて。だが……」
不敵に笑う赤髪の団長に、リリはいよいよ警戒心を最高値にまで引き上げた。
「お前、人を殺したことがないな?剣に重みがなさすぎる」
赤髪の団長はリリとの間合いはそのままに長剣をリリに向ける。
「投降しろ。悪いようにはしねぇ」
赤髪の団長のその言葉に黙ったままリリは眉を顰めた。
「恐らくは実戦経験もほとんどないんだろ?それでこれだけ戦れる。お前さんは間違いなく天才だ。だがそれだけに現時点では俺たちに勝てないことも分かってるだろ?」
リリはふぅとため息を吐いた。
「そうですね。このままでは勝てません」
「じゃあ……」
「ですから警告します。このまま逃げるか、投降してください」
「「「はあ?」」」
勝てないと宣言した人間からの降伏勧告。赤髪の団長を含めて傭兵団の男たちは意味が分からない。
「貴方が仰ったのでしょう?確かに私は人を殺したことがありません。だからなるべく人を殺したくはないのです」
リリはふふふと笑う。男たちはそのリリの不敵な雰囲気に飲まれた。
「ですがなるべくです。私は貴方がたの命を自分よりも優先するような聖女ではありません」
いつの間に構築したのか、リリは右腕の魔術構文を周りの男たちに誇示した。
「残念ながら剣で貴方には勝てませんが、私は魔術の方が得意なんですよ」
唖然とする男たちにリリは可憐に微笑む。
「私は魔術師なんです」
「うそだろ……」
「団長とこれだけ切り結べる魔術師とか……」
「はったりだろ?」
周りの団員たちが騒ぎ出す。
「そして確かに私には実戦経験がありません。貴方がたのような手練れを相手に手加減をする余裕を私は持ちません。私は臆病なので、確実に死を与える魔術を使います」
「馬鹿な!そんな強力な魔術を1人で行使できるはず……」
「このお姉さん本気みたいだよ」
男たちの中で今までずっと沈黙していた金髪の少年が徐に口を開いた。それに赤髪の団長のみならず団員たちも少し驚いた表情をした。
「ウソだろ?」
「マジ……それにあの魔術構文見てよ。1人であれだけ膨大な魔術言語を高速で生成してる。最低でも王宮魔術師クラスだよ。魔術師って言うのはハッタリじゃない」
感情の起伏を余り感じさせない少年の指摘に、赤髪の団長は乾いた笑いを浮かべ、ガシガシと頭を掻く。
「おいおい、俺は魔術師相手に剣で手古摺ってたのかよ」
「撤退推奨。どんな魔術か知らないけど、まず無事では済まないと思う」
「できるわきゃねぇだろ」
やはり淡々と献言する少年に軽く一喝して、赤髪の団長はリリの右手の方の若いが茶髪に白いものが混じった団員に目配せをした。その赤髪の団長のやり取りを見逃さなかったリリは嫌な予感を覚えた。
──奥の手を用意しといた方がよさそうですね。
「まったく、とんでもねぇ隠し球を出しやがって」
「どうされますか?私としては諦めてもらえると助かりますが……」
赤髪の団長はまだ焦っている様子はない。先ほどの目配せのこともある。リリは周囲の団員たちへの注意も怠らなかった。
「言ったろ……できない相談だ。それにこっちにも奥の手はあるんだぜ!」
そう言った瞬間、先ほどアイコンタクトを取っていたリリの右手側の男に動きがあった。リリの方に両腕を向けると一瞬光ったように見えた。
と、その男が全身から汗を噴き出し片膝をついた。それと同時にリリの右腕に構築されていた魔術構文が跡形もなく消え去った。
──魔術構文は魂魄内で編まれるもの。視覚化された魔術構文を破壊しても魔術の発動に影響はないはず……
だが、魔術の発動が阻まれたようで、魔術を起動できない。
──魂魄内に干渉されて根元から魔術構文を破壊されたと考えるべきでしょうか?
「どうだ!魔術構文破壊!こんな能力の存在を知っているやつはいないからな。対処のしようもあるまい」
お前の力じゃないだろとの突っ込みをしたくなるようなドヤ顔の赤髪団長だが、それを見てもリリに焦りはなかった。
「素直に大したものだと感心します。構文の構造が分からず、規模の大小にも関わらずに魔術を無効化する。かなり強力な能力です」
「くっくっくっく……さあ、降参するんだ」
「残念ですが、私の奥の手の方が一枚上手のようです」
勝ち誇る赤髪団長に、リリは左腕の魔術構文を見せつけた。
並列魔術構文編纂。
リリは念のために同じ魔術構文を別に編み上げていた。
恐らく能力の保持者だろうと思われる茶髪の団員が、未だに片膝をついて消耗している姿を一瞥すると、今度はリリが不敵な笑いを浮かべた。
「強力な能力です。そうそう連発はできないのでしょう?私の方はまだまだいけますよ?」
唖然としている男たちを尻目に、リリは再び右腕に魔術構文を構築した。
「馬鹿な!同時に2つの魔術を発動だと!?」
「ありえねぇ!そんな能力聞いたことがない!」
「魔術の並列運用は成功例がないはずじゃ……」
「こんな奴にどうやって勝てっていうんだ」
もう赤髪の団長を含めて傭兵たちの顔から余裕は全て消え去っていた。戦意を失っている者もいるようだ。
「……正真正銘の化け物かよ」
苦虫を噛み潰したような表情で、リリを睨み付ける赤髪の団長。
「団長……何か近づいて来る。逃げた方がいい……」
その中で1人だけ金髪の少年だけは変わらず感情の動きがないようだ。そして、彼は何かを感じ取ったようにきょろきょろと周囲を警戒し始めた。
「……仕方ねぇ。引き上げだ!」
言うが早いか、男たちはリリを警戒しながらも、サッと引き上げて闇の中へと消えていった。
それと同時に俄かにガチャガチャと騒がしい音を立てて何かが近づいてくるのがリリにも分かった。おそらく警邏の騎士団だろう。
──先ほどの少年の警告はこれですか。彼は何か危険や魔術などを察知する能力を持っているようですね。
彼は屋敷内から覗くリリに気がつき、『隠形』をも見破った。そして今度は騎士団が近づいて来ていることまでも察知した。リリの魔術を破った茶髪の男の魔術構文破壊といい、この傭兵団は異能を備えた者たちで構成されているのかもしれない。
──そうなると彼らを尾行しても少年に気取られてしまうのですね。
困ったとリリは素直に思った。せっかくの手掛かりが失われてしまったのだ。
「通報のあった現場はここか?」
「美幼女が悪漢たちに襲われているとか?」
──通報?
「どこだ!どこに美幼女がいる!」
「探せ!早く美幼女を救出するのだ!」
何か分からないが、警邏の騎士たちは異様な雰囲気を出している。
「ん?君か?通報にあった美幼女は」
「おお!黒髪赤目の美幼女キター!」
「す、すげぇクオリティだ……」
リリはこの騎士たちに不穏な気配を感じたことと、正直に言って少し面倒になって『隠形』を発動して逃げ出すことにした。
「うお!き、消えた!?」
「ま、ま、ま、まさか……ゆ、ゆ、幽霊?」
「きゃー」
「いやぁ!」
「こわーい!」
野太可愛い悲鳴を上げる騎士たち。
「やめろよ。俺そーいうの苦手なんだから」
「物理で対応できないのはちょっと……」
因みにこの世界にアンデットは存在しません。オール物理対応可能なアンナに優しい世界です。なので、この世界の幽霊に対する感覚は日本と変わらず、幽霊はいると言えばいるし、いないと言えばいないのです。
やいのやいのと幽霊騒動で騒ぎ出し、一向に仕事をしない騎士たちに、リリは呆れながら様子を伺った。先ほどの『通報』が気になったのだ。
確かに街中で剣戟を繰り広げれば通報されても仕方がない。ましてやここは商業地区。盗賊などに目を光らせている警邏の騎士団からは注意すべき区画である。
──ですが、戦闘開始から騎士団が到着するまで10分と経っていない……
「しかし通報にあった黒髪の美幼女は先ほどの消えた幽霊らしき少女だとして……」
「うむ、悪漢たちは?」
「到着した時には影も形もなかったぞ」
お馬鹿な騎士たちがやっと核心を話し始めた。
「現場を間違えたか?」
「だとすると別の場所で悪漢に襲われている美幼女が?」
「すわ!一大事!」
「然り!俺の美幼女が!」
「何を言う!美幼女は私の助けを待っているのだ」
「何を言うか貴様ら!オレに決まっているだろう」
──こいつら!エルゼ様に報告しますよ!!
妄想を膨らませるロリコン騎士たちに、リリは青筋を立てそうになった。
「まあ待てお前ら。通報場所はベルクルド商会館前だ。ここで間違いない」
「ああ、それに黒髪で赤い瞳の美幼女との話だった」
「そうだな……黒髪で赤い瞳の美幼女などそうそういないか……」
「悪漢たちは赤髪の男を筆頭にした集団とのことだったが……」
騎士たちが語る通報内容にリリは疑問が確信に変わった。
──騎士団到着までの時間の短さ。通報内容の詳しさ……
間違いなく誰かが監視していた。そして、リリが見つかったと同時に、騎士団へ通報に向かったのだろう。
──アンナの手の者でしょうか?
やはりリリの行動は色々と筒抜けらしい。
「しかし、先ほどの黒髪の美幼女……かなりいい線いってたな」
「ああ、えがった」
「幼い容貌だが、黒髪に赤い瞳が大人びた印象でゾクッときたな」
「この前リュシリュー嬢襲撃の折に一緒にいた銀髪美幼女に似てたな」
「お前もそう思ったか?」
リリはどきりとした。髪と瞳を変えればそうそう露呈はしないと踏んだが、この間抜けそうな騎士たちに見抜かれるとは!
「我らの幼女を見る目に間違いはない!」
「然り!あの銀髪美幼女を忘れようもない」
「お近づきになりたい美幼女だった」
「私の調査によればルルーシェ・ルミエンという男爵令嬢だそうですよ」
ルル大モテである。どうやらここにも狭い需要があるようだ。
「リュシリュー嬢も絶世の美少女なんだが……」
「ああ、既に薹が立っているからな」
ビシッ!
騎士たちの暴言にリリのこめかみに青筋が入る。しかし、そんなリリの存在に気が付かない騎士たちはルル談義を継続した。
「それに比べてあの輝く銀髪に優しげな水色の瞳……」
「そして小さな体に慎ましい胸元……」
「まさに理想的」
「オレもあの時は鳥肌が立った」
「聞いたか?あの娘はリュシリュー嬢と同い年らしい」
「まことか!?」
「では完全なる合法ロリ!」
「ではあの絶壁は『永遠に0』!?」
「「「何というロマン!!!」」」
『ロリの権化』が現れた!
『ロリコンの救世主』の誕生だ!
『現人幼女神』がご降臨された!
などなど騎士たちが騒めく。そしてリリは遂にキレた。
──こいつらエルゼ様の地獄の特訓行き決定です。
騎士たちの愚にも付かないロリコン談義が始まったので、リリはこの騎士たちをエルゼに報告して地獄へ叩き落とすことを決意した。
──しかし、どうしましょうか?
騎士たちはもはや用済み。こいつらはエルゼに地獄送りにしてもらうとして、問題なのは黒幕の正体を探れなかったこと。
──この状況から彼らを追跡する術を私は持っていません。出直しですか……
だがリリにはあまり時間がない。
──エルゼ様の呼び出しの件があります。おそらくもう時間はあまりない……
エルゼは最初から魔術研究者の伝手はあったと思われる。何時でも会える研究者に今引き合わせようとしているのは、おそらく既に大詰めなのだろうとリリは予想している。
「にゃ〜」
「え!?」
姿を消して悩んでいるリリの足元から、俄かに猫がひと鳴き。シャノワだった。
「シャノワには私が見えるの?」
「にゃっ!」
二足歩行状態になったシャノワは右前足を挙げて応えた。実際には見えてはいないが感覚的に分かるのだろう。
リリは屈んで黒い子猫と視線を合わせた。
「あなたはどうしてここにいるの?」
「にゃんにゃんにゃ〜」
まだ幼い猫妖精であるシャノワは、人の言葉は解せても、喋ることができないないのだ。
シャノワはもどかしそうにグルグルと屈むリリの周りを歩き始めた。何かを伝えようとしているようだ。
「いけません。シャノワが必死になってくれているのに、あまりに可愛くて和みそうです」
「にゃん!」
リリの言葉が分かるシャノワは奥義猫拳をリリにお見舞いするが、まったく痛くない。それどころかシャノワの行為の愛らしさに、リリはますます悶えた。
「シャノワ!ちょーカワイ過ぎです」
シャノワを抱き締めようとリリは手を出したが、シャノワはその手をスルリと躱し、リリから離れて溜息を吐いた。
「何ですか!猫が溜息とか反則級の可愛さです!」
朱に染めた頬を両手で覆って身悶えするリリの姿に、シャノワは呆れ顔になりながらもタッタッと4足で走り、数歩先で立ち止まってチラチラとリリを振り返る。
まるで先導するかのように……
リリははっとした。
「もしかしてシャノワは最初から私に付いて来ていたのですか?」
こくりと頷く黒い子猫。シャノワは猫妖精である。ただの可愛いだけの子猫ではないと、リリは再認識させられた。
「私の代わりに馬車を尾行してくれた?」
頷く黒い猫妖精。
「そこまで私を導いてくれるのですか?」
「にゃっ!」
立ち上がって胸を叩く猫妖精。少しドヤ顔に見えた。
「さすがシャノワです!ちょー可愛いです!ちょー賢いです!」
リリの賛辞に胸を反らして完全ドヤ顔の猫妖精。
そんなに胸を反らしたら……あ、こけた。
自分の所業にも関わらず、転けてびっくり。大きな目を見開いてキョロキョロするシャノワをリリは抱き上げた。
「ん〜!この可愛いさを堪能したいところですが、今は黒幕を探るのが先ですね」
「にゃん!」
リリはシャノワを抱き締めたまま、街中を疾駆した。シャノワが前足で指し示す方に向かって……
商業地区は貴族街に隣接している。リリはシャノワの案内で程なくして目的の場所に到着した。
そこは貴族の屋敷の一つ。
「シャノワここで間違いないですか?」
「にゃー!」
建物の陰からシャノワの示す覆面伯爵のものと思われる屋敷を窺った。
「あそこが……」
周囲に先ほどの傭兵たちはいないようだ。特に気を付けるべきは、おそらくリリの『隠形』を見破ったであろう金髪の少年。『隠形』を行使している状態でも油断はできない。
リリは姿を消しながら周りの気配を探る。
人の気配が無いのを確認すると油断なく門の前まで進んだ。
この屋敷の持ち主の誰か?
リリは正門に刻印されている、各貴族に特有の紋章を確認したのだが……
「この紋章は……」
リリの顔が険しくなる。
さすがのリリも全ての貴族の紋章を覚えているわけではない。だが、その門に刻印されていた紋章はリリの記憶にあったもの。
「ではこの屋敷は……」
見たことのある紋章……
この紋章の持ち主は……
魂魄置換の首謀者は……
「コラーディン伯爵……」
マリーの父であった。
リリは傭兵相手でも困りません。だけど友達の親が黒幕でした……
アンナ「それではいきますよ!『アンナ~スト……」
ルル「待って!待って!待って!」
アンナ「まったく、なんですか?」
ルル「どうしてこっち向いているんですかぁ!」
アンナ「それは貴女に見せるためです」
ルル「こっち向いてたら、私が食らっちゃうじゃないですかぁ!エルゼ様に向けて放ってくださいよぉ」
アンナ「いちいち注文が多いですね。王妃様に向けて放ったら不敬罪でしょう」
エルゼ「そぉよぉ。それに『アンナストラッシュ』受けたら、さすがに私も無事じゃ済まないし」
ルル「いやいやいやいや!エルゼ様でも受け止められない技、私が受けたら死んじゃいますってぇ」
アンナ「文句が多いですよ!そんなことでは『アンナストラッシュ』の習得は夢のまた夢」
エルゼ「そうよぉ。『アンナストラッシュ』習得のため」
ルル「私は魔術が使いたいんであって、『アンナストラッシュ』を使いたいんじゃありません!」
エルゼ「『アンナストラッシュ』が嫌なら、第二王子妃を目指しましょう!」
ルル「なんでそこで嫁の話!!!」
エルゼ「なんだかルルちゃんて意外と人気あるから、さっさと息子と結婚させようと思って」
アンナ「本当に人気ありますね……変なのばかりに」
ルル「ぐぬぬぬぬ!否定できない」
アンナ「『ロリの権化』w『現人幼女神』w『ロリコンの救世主』w『永遠に0』www」
ルル「うわぁぁぁん!」
誤字や脱字の報告をしていただけると大変助かります。




