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第31話 『侯爵令嬢は友人補完計画を始動する』

やっとここまできた!

ここまでお付き合いくださった読者の方々に感謝です。


 ルルの猛特訓が始まって4日目。


 リリはついに侯爵令嬢リリーエン・リュシリューと友人3人との顔合わせを決行する。しかし、現在はリリーエン・リュシリューはルルである。迂闊なことをさせないようにと、アンナがルルの背後で睨みをきかせていた。


 ルルは全く令嬢の礼儀作法を学んでいない。そのルルを数日で侯爵令嬢リリーエン・リュシリューの身代わりに仕立て上げる。この暴挙とも思えるリリの指令を完遂するため、アンナは強力な助っ人を用意した。そう、エルゼリベーテ・シュバルティナ・ドゥ・オーヴェルニ。シュバルツバイス王国の王妃その人である。


 そのエルゼとアンナにルルはかなりしごかれたようで、僅か数日合わない間にすっかり立派な御令嬢の様相だ。黙っていればだが。


 3日間でルルを完璧令嬢リリーエン・リュシリューに仕立て上げるのは、もはや絶対に不可能とアンナとエルゼは思い切った方策に出た。


『黙っていれば美人令嬢』作戦である。


 「とにかく黙って、にこにこ微笑んでいればいいんじゃね?」とのエルゼ発案に、アンナも「妙案です。どうせリリ様の美貌に圧倒されるから、黙っていれば無問題」と同意したとか。


 こうしてエルゼ監修のもとアンナにしごかれたらしい。


 呻き一つ漏らすな!口を閉じろ!

 お前は貝だ!貝になれ!!

 この時ルルは本当に「私は貝になりたい」と思ったとか。


 微笑みを絶やすな!口は閉じて口角は僅かに上げる!

 お前は菩薩だ!菩薩になれ!!

 この時ルルはアンナこそ菩薩になって欲しいと思ったとか。


 正中線を乱すな!両眼は平視!機敏に歩いて体は揺らすな!

 お前は機械だ!そうだ多脚戦車だ!タチ駒になれ!!

 この時ルルはえ!?私、蜘蛛型ロボ?いや!モトコの方がイイ!と不遜なことを思ったとか。


 このように、お前は一徹か!と思わせるような(体幹矯正ギブスが出たらしい)アンナの猛特訓を受けて心が折れそうになったが、アンナは決して教導しごきの手を緩めることはしなかったという。


 だがルルは耐えた。

 そして乗り越えた。


 その苦難の末に今のルルが出来上がった。もうパッと見ただけなら見事な貴族の御令嬢だ。


 一言も発さず口を閉じ少し口角を上げた菩薩の微笑み(アルカイックスマイル)、相手に返す瞳はブレがない。挨拶も僅かににこりと笑い軽く会釈。


 え!?貴女は誰?とさしものリリでも、目を疑って二度見して驚嘆した。


 ルルにとって幸いだったのは、リリの身体は既に体幹が鍛えられており、正しい姿勢を作るのに苦労が少なかったことであろう。正しい姿勢には、鍛えられた体幹が必要なのだ。


 逆にリリの方は体幹ができていないルルの体であったため、日ごろ随分と意識して姿勢を崩さないようにしている。さすがニュータイプを超越した存在。旧ザコでもばっちりだ。しかし、ルルを良く知る人たちには、違和感を与えてしまっていたが。


──出来過ぎず、ダメ過ぎず、過不足のない見事な仕上がりです。さすがエルゼ様とアンナ。これなら私の思惑通りに……


 リリは内心でほくそ笑んだ。


 そう……リリは信頼する専属侍女アンナにさえ打ち明けていない野望を果たそうと考えていた。アンナがルルを上手く仕上げてきたのを見てリリは成功を確信した。


 ルルとアンナを先導してリリが、マリーが事前に貸し切ったサロンの一室にノックをして入室すれば、既に中で待機していたマリーたち3人が色めき立った。


「本物のリリーエン・リュシリュー様!?」


 入室してきたルルとアンナを見たカーラは驚天動地だ。侯爵令嬢と顔合わせをするからと、リリに言われてはいたが、相手は雲上人の最高峰の一角。半信半疑であったし今もこの光景が現実とは思われなかった。


「ルル!貴女ホントにリュシリュー様とお知り合いだったの!?」


 ついついリリの袖をクイクイ引っ張ってカーラは確認する。


「だから伝手があると申し上げたではないですか」

「夢じゃないの?すご!顔ちっちゃ!腕ほそっ!同じ人間?」

「うわぁ〜本物です〜間近です〜可愛いです〜綺麗です〜」


 カーラに続いていつもほわほわしているサラも、テンションが上がっているようだ。


「こら!貴女たちご挨拶なさい!」


 あっと声を上げてマリーを先頭にルルに向かって頭を下げる3人。カーラとサラはやはり慣れていないようでどこか拙いが、リリが認めるだけあってマリーのカーテシーは見事の一言。


「リュシリュー様のご尊顔を拝謁賜りましたこと、無上の喜びにございます。私はコラーディン伯爵の長女マリアヴェルと申します。マリーとお呼び下さいまし」

「同じく、カペティネ子爵の娘カーライラです。カーラとお呼び下さい」

「同じく~、ラベチュア子爵の娘~サラマリンです~。サラと呼ばれてます~」


 3人が名乗りを上がると、ルルはアンナに耳打ちをした。もちろん振りである。如何にもな態度を見せているだけだ。


「リリ様は貴女がたとの親交を深めることを望んでおられます」


 アンナが『リリーエン』の言葉をさも代弁しているかのような物言いに、マリーたち3人は顔をパッとあげて喜色をあらわにした。


「それでは私たちのクラスで開催する勉強会に、リュシリュー様はご参加していただけるのですか!?」

「すごい!すごい!あのリュシリュー様が私たちとご一緒していただけるなんて!」

「ふわわわわ~あのリュシリュー様とお近づきになれるなんて夢みたいです~」


 3人の様子とルル、アンナの対応を観察していたリリは「これで、リリーエン・リュシリューとしても友人ができた」と思惑通り進行している状況に、にやりとほくそ笑んだ。そして、リリがアンナに出した指令が思った通りの成果を上げていることで、最後の一歩も勝利を確信して実行に移すことした。


「これからはお友達になるのだから愛称で……『リリ』と呼ばれることをリュシリュー様はご所望です」

「「「「!!!」」」」


 3人ばかりかアンナも絶句だ。


 話を聞いていないと、アンナは険のある目でリリを見たが、もともと氷の無表情のためアンナの『険』はリリにしか分からない。そして、そのリリはアンナから視線を外して素知らぬ顔だ。


「そうでございますね、()()()


そして、そのままルルに了承を促しにかかった。これに慌てたのはアンナだ。何せ今のルルは……


──まずい!ルル頷いてはなりません!


 だがアンナの願いは虚しく散った。


 アンナの見守る中、ルルはにっこりと笑って黙って頷いたのだ。

 だってそれしか教えられていないもん。


 アンナ痛恨のミス!

『黙っていれば美人令嬢』作戦の抜け穴!

 もはやこの流れを覆すことは不可能。


 アンナにとって『リリ様』呼びは特別なのだ。


 リリを愛称で呼べるのは、家族以外では王妃とライルのみ。『リリ様』と呼んでいたのは専属侍女のアンナの特権だった。他の者にそれを許すことは神が許してもアンナが許さないのである。


 もっともルルが既に『リリ様』呼びしており、それを許容してしまっているアンナは、大概ルルに絆されている。が、アンナは自分自身でそれに気がついていない。


 リリの『ルルを今週中に一人前にしてね』という無茶振りに、アンナはルルをしごいた。途中から面白くなって好き放題してしまった。今さら黙って頷くのは止めろと言ってももう遅い。だって既に頷いちゃったから。


──くっ!まさかリリ様は、ここまで想定してあのような無茶振りを!?


 アンナは再びリリに目を向けると、バチッと視線が絡み合う。アンナにはリリが僅かに、にやりと不敵に笑ったのに気がつき、アンナの背中を嫌な汗が流れるのを感じた。

──フフフ……アンナ、聞こえていたら貴女の今の立場を呪うがいい

──立場ですと!?

──そう、立場だ

──リ、リリ様……貴女は……

──貴女はいい侍女でしたが、私のお友達にはなれないのですよ……フフフ、ハッハッハッハ!

──リリ様、謀りましたねリリ様!

(注:アンナの勝手な妄想です)


──だが私とてリュシリュー家の侍女です。やらせはしません!


 なんとか打開策を捻りだそうと、アンナの頭脳はRX-8のロータリーエンジンなみに高回転をし始めた。その様子を見ながら、既に勝利を確信しているリリは余裕の笑みだ。


 そしてこんな2人の様相には気づかず、マリーたち3人のテンションはマックスだった。


「私たちが『リリ様』とお呼びしてもいいんですか!?」

「うわ~『リリ様』~ふふふ呼んじゃいました~」

「そ、そんな愛称でお呼びするなんて畏れ多いですわ!!」


 と、そのマリーの謙遜で、アンナは閃いた!


「いきなり愛称呼びでは、皆様もかえって恐縮してしまわれるでしょう。ここはまず『リリーエン様』と名前から始めてはいかがでしょうか?」


──アンナ!?


 リリはしまったと、焦ってルルを止めようとしたが……


 すでにルルはにっこりと笑って首肯していた。

 だってそれしかできないもん。


「そ、そうですわね。私どもがいきなり愛称呼びをするなど畏れ多いですわ」

「ええ~ちょっと残念です~。でも『リリーエン様』もなんだか凛々しくていいですね~」

「そうね。私もいきなりは心臓に悪いわ」


 してやられた!

 リリはアンナをキッと鋭い視線で睨みつけた。しかしアンナはそっぽを向いて素知らぬ顔だ。


 その後、リリとアンナの攻防が繰り広げられた。

 その2人の間でルルは何も考えずに微笑頷きマシーンと化していた。

 だってそれだけで良いって言われたもん。


 最終的にアンナに軍配があがり『リリーエン様』呼びが定着した。


「あ、あのそろそろ本題に入ってもいいですか?」

「今日はもともと勉強会のお話ですの」


 カーラとマリーに言われて、熱くなりすぎて目的を忘れていたリリとアンナは、ばつが悪そうな表情になった。まあ、リリとしては『友人補完計画』も大事な目的。愛称呼びもその一環だったのだが、名前で呼んでもらえるだけで、一歩前進と思おうといったん流すことにした。


 アンナの方も『リリ様』呼びは阻止できたので一定の成果はあったと、事前の打ち合わせ通りに進行するよう話を切り替えた。


「集まりのことでございますが、リリ様は努力される方を好みます。貴女方が現状を憂い自分たちの手で改善しようとするその姿勢にとても感じ入っておられます」

「それでは私たちの勉強会へのご参席の件はご了承してくださいますの?」

「もちろんでございます」


 アンナの会話の進行に合わせて、ただ黙って微笑み首肯する首振り人形と化したルル。マリーとアンナの間で会話が成立してしまって少し空気になりつつある。


「やりました~これで一歩前進です~」

「ええ!リリーエン様が参加を表明していただければ協力してくれるっていう生徒も既に確保しているしね」


 サラとカーラがマリーの後ろで嬉しそうにハイタッチした。嬉しそうにはしゃぐ3人をリリは微笑ましく見詰めたて頷いた。


「それではリリーエン様のご協力も得られましたので『マリークラス』の立ち上げを公表しましょう」


 リリの宣言に嬉しそうにはしゃぎながら「ええ」「はい~」と頷くカーラとサラとそして首振り人形のルル。しかし、1人だけ納得のいかない顔をしている人物がいた。


「やっぱり『マリークラス』はどうかと思いますわ」


 マリーである。


「だいたいリリーエン様がご来臨なさるのなら、やはり『リリーエンクラス』にするべきですわ」


 マリー最後の足掻き。ここで『マリークラス』の名称の件をなんとかしないと取り返しのつかないことになる。マリーには確信めいた予感があった。


「確かに~。マリーの言い分にも一理あります~」

「そうね。それにリリーエン様の名前を出した方が人も集めやすいかも」


 マリー起死回生の一手で、『マリークラス』存続の雲行きが怪しくなってきた。このままだと『リュシリュークラス』にされてしまう。それはよろしくない。


 だいたいからして『マリークラス』に比べて『リュシリュークラス』では可愛くない。『リリーエンクラス』でも一緒だ。愛称の『リリクラス』など語呂が悪すぎだ。やはり『マリークラス』という名称にこそ価値がある。


『マリークラス』設立の危機!


 しかし、リリはその程度では動じない。王妃教育の一環で外交の交渉術を学んでいるリリは、この程度の論戦など朝飯前。口八丁のリリには、もっともらしい言い訳など秒で思いつくのだ。


「それはなりません!」

「何故ですの!?」


 リリのきっぱりとした否定に、何とかなるのではと期待していたマリーは食いついた。


 外交には入念な下準備が必要である。交渉の成否は9割がた事前準備で決まると言っていい。しかし、どのような場合にもイレギュラーはあるものだ。では、突発的に対しては諦めなければならないのか?


 答えは『否』である。


 事前準備?そんなものは犬にでも食わせとけ!

 説得力?そんなもんはいらん!


 必要なのは主張を突き通す強い意志、強制的に頷かせる激しい勢い。何となく納得させるノリである。


 つまり、諦めたら交渉せっとく終了ですよ。諦めず相手が頷くまで、ノリと勢いで攻めまくりましょう。ということである。


 リリは席から立ち上がると、みなが見守る中つかつかと歩いてマリーの傍へ。そして警戒するマリーの両肩をガシッと強く掴んで、リリはマリーの目を覗き込んだ。


「それは駄目なのです。絶対です!」

「だから何故ですの!?」


 結論から先に理由は2の次である。


 明確な理由には明確な反論ができるからだ。とにかくダメなものはダメと主張だけ念を押す。そうすることで、相手はもしかしたら本当にダメなのかもと不安になる。


 その不安に付け込む!

 そして、次に周囲を味方につけること。周りの者からも反対されれば、通常は自分が間違えていると錯覚するものだ。


「いいですか。考えてみてください」


 マリーから離れると、リリは説明をする素振りをみせながら今度はカーラの背後に立つ。そして、彼女の肩にそっと手を乗せて耳元で話を進めた。


「この勉強会は我がクラスの問題ではありませんか?」

「そ、そうね……」

「リリーエン様のお名前では、他クラスのリリーエン様が主催したことになってしまいます」

「確かに……」


 一番もっともらしい理由で、まずはカーラを落としにかかる。


「で、ですがリリーエン様のお名前をお借りできれば……」


 かたくなに抵抗を見せるマリー。しかし、リリは次の獲物を狙っていた。その獲物サラの肩をポンと叩く。顔を向けてきたサラの瞳をリリは真剣な目で見詰めながら語りだした。


「それに会の名前がリリーエン様のお名前ではまずいと思いませんか?」

「え~?そうですか~?」

「そうですよ。サラはリリーエン様とお会いすると聞いてどうでしたか?」

「ん~やっぱり緊張しました~」


 サラの言葉に我が意を得たりと、リリは大仰に頷いてみせた。


「そうですよね。勉強会の名前にリリーエン様のお名前をつけたらどうなるでしょう?」

「それは~畏れ多い?」

「そうです!それでは委縮してしまい、最悪みなが入会を躊躇うかもしれません!」

「確かに~!」


 こくこく頷くサラ。洗脳は完璧だ。


──マリーの意思も挫いておきましょうか。


「それにリリーエン様の名前で人が集められても高位貴族たちが納得するでしょうか?きっとリリーエン様のお力によるものだと言われてしまいます」

「そ、それは……」


 マリー本人を封殺し、カーラ、サラも味方につけた。リリは最後の1人を味方につけるべく行動に出た。


 サラから離れ、リリの歩いた先にいたのは、ひっつめ髪に眼鏡をかけた侍女服の女アンナだった。


 身長差があるため、アンナを下から見上げてクスリと笑う。アンナはそんなリリを目だけで一瞥してすぐに微動だにしなくなった。


「マリーはサイコーよね」


 アンナにだけ聞こえるように、ぼそりと呟いたリリの言葉に、アンナの眉がぴくりと僅かに動いた。


 確かにアンナはいつもの氷の仮面を思わせる無表情であった。だが、リリは気がついていた。マリーが動くたびに揺れる偉大な胸にアンナの視線が持っていかれていることに。


 アンナ陥落のために、リリは次なる一手に出た。リリはマリーの背後に立つと……


「マァ~リィ~」


 甘えるような声を出しながら、椅子に座るマリーの背後から腕を回して抱きついた。


「きゃ!何ですの一体?」

「んふふふふ……」


 腕をマリーの胸の下あたりに回し、顔をすりすりとマリーに擦り付け、目一杯に甘えてくるリリに、マリーも満更でもなさそうに顔を朱に染めた。


「なんとな~くですよ」

「も、もう、ルルったら」


 スキンシップに慣れていないマリーはデレデレだ。


──ふ!マリーもちょろいですね。


 リリはかなり腹黒い。そして、この狙いはマリーだけではなかった。ベタベタと触れ合いをする中で、リリはどさくさに紛れてマリーの胸を弄り回す。


 ちらりとアンナの様子を伺う。アンナは気のない振りをしていたが、リリには分かる。アンナの視線はマリーの素晴らしい双丘に奪われていることを。リリの手によってマリーの巨大なロマンが形を変えるたびにアンナの口角が僅かにヒクヒクと動いているのを。間違いなく良からぬ妄想を巡らせている。


「私は思うのです……」


 チョロ嬢マリーはリリの腕の中で大人しく、カーラもサラもいちゃいちゃする2人に当てられて、顔を真っ赤にしている。アンナは既に妄想の世界に旅立っている。


マリーは篭絡した。周囲の交渉せっとくもばっちりだ。もはやリリの意のまま。


リリは決戦の時と、顔を朱に染めリリに身を預けていたマリーを、もはや用無しと打ち捨てると、ダンッとテーブルを強く叩き、注目を集めた。


「やはり我がクラスではマリーが一番可愛い!」

「同意!」「肯定!」「賛同!」


 勝機!

 リリは勝利を確信した。


「決議します!『マリークラス』がいい人、挙手!」

「は~い!」「はい!」「はいはいはいはい!」

「圧倒的多数で『マリークラス』が可決されました!」

「何故ですの!!!」


 何故か関係ないアンナまで喰い気味に挙手しており、マリーは涙目だ。


「リリーエン様ぁ!」


 マリーは泣いてルルに縋った。最後の頼みの綱は、この場で最も高位であるリリーエン・リュシリューしかいない。マリーは無謀にも、ルルに一縷の望みを託したのだ。


 ルルは縋りつき膝に顔を埋める、マリーの頭を優しく撫でた。その温かな仕草と慈愛の籠った瞳に、マリーは希望を持ってルルを見詰め返した。その涙と期待で目がキラキラ輝くマリーの顔は美しくも哀憫を誘う。


 ルルはにっこりと誰もが見とれる微笑みを浮かべて……


「リリーエン様。『マリークラス』でよろしいですね?」


 ……リリの非情な言葉に黙って頷いた。

 だって、それしかできないもん。



 ルルは何にも考えない。黙って微笑み頷いていればいいって言われたから……



リリ「……」

アンナ「如何なさいましたか?」

リリ「あのねアンナ。私がこの物語の主役なのよね?」

アンナ「はい、間違いなく神をも凌ぐ絶世の美少女たるリリ様が主役です」

リリ「そう……だけど最近思うのよ……私……影が薄くないかしら?」

アンナ&ルル「……」

リリ「なんで黙るの2人とも……やっぱり2人もそう思っていたのね!」

ルル「そんなことありませんよぉ。リリ様の登場シーンが一番多いじゃないですかぁ」

アンナ「その通りでございます。圧倒的存在感のリリ様に限って影が薄いなど」

リリ「2人の言うように、私は物語の露出は多いのよね。でもね……」

アンナ&ルル「?」

リリ「アンナが登場すると、その回では私ほとんど活躍していないし、ルルに至っては閑話で本筋を抑えて初の長文、さらには3話ぶち抜きという常識破り……そして、この物語のPVって2人が後書きコントやり始めてから、徐々に増えているのよね」

アンナ「で、ですが、前話ではリリ様は、氷の魔術で大活躍されたではありませんか」

ルル「そぉですよぉ。リリ様すっごく素敵でしたぁ!」

リリ「でもあの魔術はルルがいないと作れなかったし、前話は最終的に美味しいところはマリーが持っていったのよね」

アンナ&ルル「……」

リリ「ねぇどういうこと、ねぇどういうこと?なんで2人とも目を逸らすの?」

アンナ&ルル「……」

リリ「やっぱり私は影が薄いのね!主役降板間近とか!?」

アンナ&ルル「(リリ様……憐れ)」


誤字脱字などございましたらご報告いただけると助かります。


復帰しました。

次話は明日6月21日にアップします。

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