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閑話⑪ 『そのころ男爵令嬢は《友達》』

今週は頑張って3話投稿するぞ!&3話改稿するぞ!٩( 'ω' )و

多分、週半ばと週末にアップできるかと……


閑話①と第3話、第4話の改稿も始めました。

水、木、金でアップする予定です。

ただ、後書きコント書き直すか考え中です。

 

 この日、ルルとライルたちはリリとの『婚約破棄を宣言し、逆に糾弾されて王位継承権を剥奪されるため浮気を偽装しよう計画』(ルル命名)、略して『婚約破棄偽装計画』の運命共同体となった。


 計画を煮詰めるために5人は定期的に話し合いの場を持った。ルルの大雑把な計画を煮詰めていかないといけない。


 まずは、ルルとライルが浮気をしているという噂を流す必要がある。ルルは『しろくろ』のイベントを思い出し、それらを4人に提案していった。


「なんという奇想!」

「おう!これならばっちりだぜ!」

「僕たちも手伝うから、さっそく実行に移そう!」


 こうしてルル発案、3馬鹿監修のもと、ライルとルルは人前で逢瀬を重ねる振りをした。ところが、幼い容姿のためルルは恋人に見られず、ライルの人当たりのよさも相まって、周囲からは子供の面倒を見るお兄ちゃん的な感じに微笑ましく見られてしまった。


 しかも、ルルの愛らしい見た目とライルの親しそうな対応から、ルルが王族のご落胤ではないかと噂されるようになった。それで済めばよかったのだが、風聞が王宮にまで届き国王の隠し子疑惑にまで発展してしまったのだ。


 この流言を耳にした愛妻家兼恐妻家の国王は、慌てて仕事をほっぽり出し、橄欖かんらん宮に突撃してエルゼに縋りついたらしい。その泣きついて土下座して無実を訴える国王の姿は、宰相たちの涙を誘ったという。


 まあ要するに、ルルではライルの恋人に見られるには説得力が皆無であったのだ。貴族令息たちを篭絡する乙女ゲームのヒロインであるはずなのだが。


 そんな周囲の自分に対する認識に涙したが、ルルはけっして諦めなかった。


 なにせこの『婚約破棄偽装計画』の成否に、ルルとルミエン家の将来がかかっている。どんなに実行不可能な任務ミッションインポッシブルだとしても、ルルは岩に齧りついてでも達成しなければならない。不退転の決意で臨んでいるのだ。遊びではない。ルルと側近たちは傍から見れば遊んでいるようにしか見えないが。


 とりあえず、ルルとライルがいつも一緒に行動されていると認知はされているのだ、このままリリを詰問しようと提案した。


「外堀を埋められないから本丸を直接攻撃して存在を印象づけるんだな」

「本来なら下策だけど、僕たちの目的は勝つことではないからね」

「私は常道ばかりに目がいっていました。まさに盲点!」


 ちょうどルルのクラスメイトからのイジメも始まっていたので、これを利用することを思いついたルルと側近たちの暴走が始まった。


 休み時間など利用して、ライルを引き摺り回しながらルルと側近たちはリリに突撃を繰り返した。リリはいつもの平常心の微笑(アルカイックスマイル)で対応してくるので暖簾のれんに腕押し状態であったが、注目度の高いリリの周囲は徐々に騒がしくなった。


 ルルの思惑通りである。今までは周囲を騒がせてリリに注目させようとして上手くいかなかったが、リリに直接アプローチすることで周囲に注目させた。リリがどんなに冷静に対応しても周りが過熱した。この流れはもう変えられない。


「凄いぞルミエン!」

「ルミエン君のことをこれからは軍師と呼ぼう!」

「さしもの私でもルミエン嬢の知力には舌を巻く」

「ふっふーん!そんなこともあるかな?」


 今まで褒めそやされたことがなかったルルは得意の絶頂だ。こいつも側近3人と変わらず単純である。そんな仲良し3人+1を少し離れたところから見て、ライルは穏やかな微笑を浮かべた。


「ルミエン嬢は最初にあった時と比べて明るく笑うようになったね」

「え!?」

「君は随分と思い詰めていたからね」

「殿下、ルミエン嬢は借金のことがありますから……」

「うん、そうだね……ルミエン嬢には色々と心労がありそうだね」


 ルルはライルの青い瞳に見られて、なんだか全て見透かされているようで落ち着かなかった。ルルの最大の懸念は借金だが、前世のトラウマや現在のクラスの状況、人間関係など、明るく見せても実際には心に闇を抱えていた。


「だが、ここのところは本当に楽しそうで安心したよ」

「……」


 言われて思い返してみれば、確かにここのところ思い悩むことが少なかった。心の底から笑うことが増えている。


「自分で気がついていなかったんだな。ムゥたちのおかげかな?」


 ストンと腑に落ちた。ああ、この3人と一緒だと楽しいんだ。これは喜びと共にズキリとルルに胸の痛みを与えた。3人が仲の良い友達のようで嬉しい。でもこれは利害による一時の関係である。偽りの友好による寂しさと、いつか失われる虚しさでルルは押し潰されそうだった。


 だがそれからもルルとライルたちの関係は続いた。ルルの思惑通り計画は順調に進み、ライルとルルの悪評が目立つようになってきた。


「ルミエン、大丈夫か?」

「ルミエン君に対する当たりが強いんじゃないかい?」

「大丈夫!」


 計画は順調だった。しかし、だからこそ悪評が立つようになって、ルル個人への攻撃が徐々に顕著になってきた。辛くないわけじゃない。だけど心配し、労わってくれる仲間がいるからルルは頑張ることができた。


「おう!ルミエン、次の休み狩りに行くんだが、一緒にいかねぇか?」

「馬鹿だなぁマックは。女性は狩りよりお茶がいいのさ。感じの良い可愛い店を見つけたから、今度一緒に行こうね」

「何を言っている。ルミエン嬢は大変な状況なのだぞ。勉強を見てやるべきだ!」


 クラスで孤立していても、友人が1人もできなくても、この側近たちがいつも一緒にいてくれた。こんなふうに3人と一緒にわいわいと喋るのも楽しい。


「3人はいつも仲良いよね?」


 それはルルの素朴な疑問。


 3人は趣味も嗜好もてんでばらばら。その事で言い争いをすることもしばしば。だけど最後はいつも一緒に和気藹々(わきあいあい)としている3人の在り方が、ルルにはとても不思議だった。


「側近候補としてだったが、俺らは殿下のために集まった仲間だからな。3人とも殿下のためならと同じ気持ちなんだ」

「うん。僕たちは殿下をずっと見てきたからね。3人で力を合わせて助け合い、一緒に殿下のために尽くすつもりなのさ」

「ああ、だから私たちは殿下のために最後まで死力を尽くし、殿下のためなら一緒に死のうと誓い合ったのだ」

「なんだかまるで『桃園の誓い』みたい」

「なんだそれは?」

「僕も聞いたことがないな」

「私も寡聞にして知らんな」


 前世では当たり前でも、この世界では誰も知らない。こんな些細な事も、きっとルルが周囲と壁を作ってしまう要因の一つなんだと、ルルは寂しさを伴いながら悟った。


「遥か昔の英雄の話なんだ。乱れた世の中を正すために立ち上がった3人の英雄が、邂逅して義兄弟の契りを結ぶの。その誓いの言葉『我ら三人、生まれし日、時は違えども兄弟の契りを結びしからには、心を同じくして助け合い、困窮する者たちを救わん。上は国家に報い、下は民を安んずることを誓う。同年同月同日に生まれることを得ずとも、同年同月同日に死す事を願わん』。さっきの3人みたいだなって」


 3人が喜色を露わに見交わし合う様子にルルは苦笑いした。影響を受けやすい単純な3人が何を考えているかわかってしまうから。


「いいな、おい!」

「ええ!ちょっとアレンジは必要ですが」

「そうだな……『我ら三人生まれし日、時は違えども、心を同じくして殿下を助け、困窮する殿下を救わん。そして同じ日、同じ時に生まれることを得ずとも、同じ日、同じ時に死のう!』」


 円陣を組んでくだらないことに興奮する3人を、ルルはバカだなぁと羨ましい気持ちを込めて思う。段々とルルにもこのお人好し側近3人組のことが分かってきた。


 ホントはみんな分かってる。

 殿下をお止めするのが正しいんだって。

 だけど殿下の気持ちを慮り、一緒になってバカをやるために馬鹿になる。


 これは友情なんだってルルは思う。


 いいな男の人って。

 ホントに真っ直ぐな人たち。


 一部の高位貴族の子息が、彼らを馬鹿にしているのを知っている。だけど澄まして虚勢をはるだけの彼らに、この3人の何が分かるというのか。3人の親族にはもっと優秀な者たちがいるにも関わらず、ライルがこの3人を側近に選んだ理由が、ルルにはなんとなく理解できた。


 だからルルはライルやこの3人がとても羨ましかった。この輪に一時でも入れたのは嬉しかった。そして、この関係が近い将来なくなるのが寂しかった。


「おう!だけど、これじゃ俺たち3人だけになっちまうぞ」

「そうだね。殿下やルミエン君が入れないね」

「え!?私も?」

「当然です。貴女も私たちの仲間じゃないですか」


 何を当たり前のことをと3人がルルに送る視線に、ルルは嬉しくなって泣きそうになった。私もこの輪に入っていいんだ……それが当たり前のことだと言われて……


「じゃあ、物語のセリフなんだけど『友情の誓い』!」


 3人の目が同時に光る。

 もうルルには分かっている。自分もこの3人と一緒になってバカをやろう。


「やり方は……」


 ルルは嬉しそうに説明し、3人は楽しそうにそれを聞く。やがて4人は円陣を組むと拳を突き出し軽く合わせた。


「「「みんなは1人の為に、1人はみんなの為に!!!」」」


 あはははと4人で笑う。


 やっていることはホントにバカだと思う。だけど、この3人の輪の中でなら、それはとても楽しい価値ある時間だ。


 最初はバドエン回避と大好きな家族のためだけに一所懸命だった。だけど3人がこんな自分でも受け入れ仲間だと言ってくれるのがとても嬉しい。


 前世では友人を持てず孤独だったルルは温かい家族に続いて得た宝もの、3人との友情という交流にのめり込んだ。


「殿下が継承権を放棄されても、僕はやっぱり殿下についていきたい!」

「ミカ、それはみな同じ気持ちです。しかし、殿下は私たちをお止めになっただろう」

「俺は廃嫡されてでも殿下についていくつもりだぞ」

「僕も家を捨てる覚悟はあるよ」

「私もそうですが、廃嫡は簡単ではありませんよ」


 こんなことホントは止めるべき。だけど……


「じゃあ殿下と同じように私と恋人を擬装するのはどうですか?」

「確かに殿下の浮気相手と親密になるのはこれ以上ない醜聞ですね」

「凄いよ!その発想はなかった!」

「る、ルミエン!お前は天才か!!」


 どこまでも3馬鹿であった。


「だけどいいのですか?それではルミエン嬢の悪評がますます立ちますよ?」

「今さらだよぉ。一つ二つ増えたくらいじゃ関係ないって」


 こうしてルルは3人とも恋人を演じ始めた。


 まず最初にマックが名乗りを挙げた。


「恋人同士って言ったらやっぱ手を繋ぐか?」


 ちょっと微妙かとも思ったが、前世と違い中世の貴族のような世界なら、それでも十分にスキャンダルかとルルはマックと手を繋いで歩いたが……


 身長190cmオーバーの長身ガチムチ男と身長150cmの小柄な幼女風少女。その身長差は実に40cm以上。甘い雰囲気など微塵も無い。手を繋ぐ姿は微笑ましい親子にしか見えなかったとの目撃情報であった。


「全くマックは不甲斐ない」


 項垂れたマックを蹴っ飛ばし、次に手を挙げたのがミカだった。タラシのチャラ男風美男子だ。しかし、この男もタラシに見えても所詮は見せかけ。


「ルミエン君」

 ドンッ!


 甘い声で名前を呼び、出した秘技が王道の壁ドンだったのだが……


 その身長差じつに30cm。普通に壁ドンしたのでは、顔が近づかないのでミカは膝を折った。かがんで壁に手を突くミカと傍にいるルルの姿は、気分が悪く蹲っている男性を介抱する幼女の姿にしか見えなかったという。


 ルルは近くにいた男子生徒に、偉いねぇと頭を撫でられ飴玉を差し出されたらしい。ルルは涙を流しながらも、その飴玉を受け取って握りしめたとか。後で食べた飴の味は、ちょっとしょっぱかった。


「2人とも何というていたらくだ!」


 ムゥはずれてもいない眼鏡のブリッジを中指でクイッ!


 真打ち登場だ。


 ルルとムゥの身長差は20cmちょい。十分に許容範囲だろう。ルルもこれには少し期待した。


「恋人と言えば逢引きだろう。手を繋ぐだの、壁ドンだのと間怠まだるっこしいことをするからいかんのだ。よし、ルミエン嬢!今度の休みに街でデートだ」


 おお!さすが3人組の頭脳担当。下手な策を講じるより、直球勝負すべきとのさすがの分析力と決断力。孫子は兵は拙速を尊ぶと言った。あれこれ策を考えグズグズするより、方針が決まればちゃちゃっと動く。実に理に叶っている。これは期待大だ。


 そして、デート当日、2人は街中にある恋人の集う雰囲気ある噴水の前にいた。その噴水の前で、ルルとムゥは恋人よろしく甘く語り合おうとしていたが……


 ガシッ!!!

「え!?」


 突然ムゥは左右を警邏の騎士に挟まれ両腕を掴まれた。


「こちらオッディ隊。現場に現着!通報のあった変質者とおぼしき男を発見!13時15分マル被を逮捕!」


 ……捕縛されました。


「貴様か、幼女をかどわかそうとしているのは!」

「お嬢ちゃん!お兄ちゃんたちが来たからもう大丈夫だよ」


 どうやら幼女と誘拐犯に間違われたようだ。


「ち、ちがう!私たちは恋人同士で……」

「なに!?こんな幼女と!変質者か!」

「オッディ隊長、ロリコンです!」

「冗談ではない!!」


 自分はロリではない!恋人は擬装だと言うべきか。しかし、どこから情報が洩れるか分からないのだ、恋人を否定はできない。


「ま、待ってくれ!こう見えても彼女は16歳だ!」

「はいはい、変質者は皆そう言うんです」

「この学園の制服が見えないのか!」

「全く!そんな姑息な擬装までして」

「ほら歩く!後は騎士団詰所で聞くから」

「違うんだぁぁぁ!私はロリコンじゃないぃぃぃ!」


 ムゥは連行されてしまった……


 まあ、こんな紆余曲折もあったが、色々あって無事にルルたちは目的を達成し、現在に至った。


 ホントにいっぱい3人とバカやったな。そしてバカやってあはははと一緒に笑い合ったな。ルルにとっての友達との大事な思い出。それは宝石なんかよりもキラキラ輝いている宝もの。


「ルミエン呼び出して済まんな」


 ある時ルルは3人に呼ばれていつもの校舎裏にやって来た。


「今回の件についてなんだけど」

「私たちで話し合ったのだが、計画の成否に関わらず借金はなんとかしよう」

「え?だけどそれじゃ……」

「気にすんなって」

「そうさルミエン君はもう僕たちの友達なんだから」

「私たちは仲間を見捨てん」


 ルルは堪らず泣いた。

 誰も声をかけてくれない。


 ボロボロ涙が溢れてきた。

 誰も手を差し伸べてくれない。


 声を出して泣いた。

 誰も助けてくれない。


 そう思っていた。


 この3人だって利害関係で一緒にいるだけなんだって思ってた。最後は自分から離れれていくんだと思っていた。だから、お互い利用するだけのつもりでいればいいと思っていた。だけど……


 泣き出したルルの周りで、オロオロする3人を見ていると、ルルの心の底にあった、前世の人との関わりに対する忌避感というおりも嘘のように消えていく。


 慌てふためく3人に可笑しさと、それ以上に嬉しさがルルを包んでくれた。



 そして、泣きながらルルは笑った……



∻∻∻∻∻∻∻∻∻∻∻∻∻∻∻∻∻∻∻∻∻∻∻∻∻



 つい最近の事なのに何か懐かしく思い起こされて、ルルは3人ともうバカなこともできないのかなぁ?と胸がきゅうっと痛んだ。


 考えてみれば今の私は、あの3人を裏切ってない?そんな考えが頭をよぎる。

 このままでいいのだろうか?リリ様には悪いけど、やっぱり殿下たちに相談する?あの3人ならきっと無条件で助けてくれるはず。


 ルルの脳裏に様々な考えや想いが巡っていく。


「こら!ぼーっとしない!」


 アンナの叱責で我にかえったルルは体がビクッと僅かにはね、頭から本がずり落ちる。あっと思って目を閉じたが、いつまで経っても重量感のある落下音が聞こえてこない。


 恐る恐る目を開ければ、アンナが空中で受け止めたらしく、片手で軽々とあの重い本を掴んでいた。そのアンナはじっとルルを凝視している。


「身が入らないようですね。どうせ明日『体幹矯正ギブス』を使用しますし、本格的な姿勢の矯正の前に、頭に本を乗せたまま笑顔と視線の練習をしましょう」


 そう言うと、アンナはルルをエルゼの前に座らせて、その頭に本を乗せると、笑顔と視線の教導に入った。


「あのぉ笑顔と視線の練習なら本はいらないのでは?」

「必要です。この状態で笑顔を維持し、正しい視線の位置を保つのです」

「なんか無茶苦茶言ってません!?」

「大丈夫よルルちゃん。慣れればどぉってことないから」


 ひえぇっと情けない悲鳴を上げるルルに、エルゼはニコニコ笑いながら声援を送る。その頭の上には、ルルの頭上の本と似たような恐ろしい物体が乗っていた。


「久々にやってみたけど、思ったより簡単ね。昔はもっと難しく感じたけど」


──で、できるんだぁ!しかも簡単なの!?


「ほら!笑顔のまま視線で相手を牽制するのです」

「む、無茶言わないでください!笑顔の視線でどうやって威嚇なんて!」

「視線で相手を殺せばいいのです」

「いやいやいや!視線で人は死にませんよぉ!」


 そんなやり取りをしながら訓練を続けていると俄かに騒がしくなった。扉の向こう側、回廊の方から誰かが近づいてきているようだ。


 バンッ!!!


 と扉が勢いよく開いた。そこから……


「リリ!」


 ライルが乱入してきた。使用人たちが周りにいるところを見ると、制止を振り切って入ってきたようだ。


──殿下!?


 ルルはわたわたとしだした。


──あ、でもここで殿下に魂魄置換のことを話せば……


 そう思ったルルが口を開くよりも早く、エルゼが口を開いた。


「何ですかライル。騒々しいですよ」


 このエルゼの一睨みで、ライルは冷水を頭からかけられたように沈静化し、ルルも思考がフリーズした。何気ない一言と微笑しながらの一睨み。だけれども、エルゼから発せられる品格ともいうべき圧力に、2人とも抗しきれなかったのだ。


「いえ、その、リリに話したいことがあって……」

「今は妃教育の時間です。たとえ王太子である貴方でも勝手は許されませんよ。まして先触れもなく……」

「も、申し訳ありません母上」


 王太子のライルでさえエルゼの前ではシュンと委縮してしまう。ルルでは到底この中で言葉を発することなどできはしなかった。


「それで?」

「は?」

「何の用事かと聞いているのです」


 エルゼの詰問にライルは焦った。


 ライルは先日あったルルが、リリと重なって見えたためリリの様子を伺いにきたのだが……


 言えるわけがない。ただでさえライルは学園でルルとの悪評が立っているのだ。そんな彼がエルゼの前でルルの話などしたら殺される。この王家においてヒエラルキーの頂点トップに君臨しているのは、目の前の母親なのだ。


 しかも、ただの頂点ではない。ヒエラルキー次席の国王などエルゼに進んで尻尾を振っている。つまり、エルゼがいるのは前人未到の頂きなのだ。王太子といえども、ライル如きでは立ち向かうどころかスタートラインにも立てない。


「その、あの……本を持ってリリは今なにをしているのですか?」


 最初から尻尾を巻いて逃げ道を探し出したライルは、ルルが持つ本に目がいき、咄嗟の言い訳をしだした。王太子にあるまじきヘタレである。


「見て分かりませんか?体幹を鍛えているのです」

「し、しかしリリの挙措は完璧で……」

「妃教育を取り仕切っているのは誰?」

「は、母上です……」


 そのライルの答えに、エルゼはニッコリと笑った。


「分かっているのなら良いのです」


 恐ろしいとルルは怯えた。


 いつものニコニコ顔のエルゼなのに、その威圧たるや。あまりの圧力プレッシャーにライルもルルも蛇に睨まれた蛙になっている。


──これが笑顔のまま視線で人を殺すことなんですね!?


 ルルは得心がいった。


 これは殺れる。確かに殺れる。自分も物理的に死にそうだ。ルルは身を持って実感した。


 けっきょく何もできずライルはすごすごと帰り、その哀愁漂う背中に何も伝えられなかったルルは心の中で謝った。


 だが、ルルの悲劇はここから幕が上がったのだ。


「さあ、邪魔者は消えたわよ。ルルちゃん猛特訓よ!」

「はいぃぃぃ!」


 この日、『橄欖かんらん宮』から悲鳴が絶えることがなかったという……



アンナ「またこんなに尺を使って!いったい何ですかこれは!」

ルル「何って、私と側近3人組の心温まる友情エピソードじゃないですかぁ」

アンナ「は!貴女とミジンコ共の愉快な乳繰りエピソードの間違いでしょう」

ルル「もうアンナさんたらぁ。自分に友達いないからって僻んじゃってぇ」

アンナ「馴れ合い友情ごっこは趣味じゃありません」

ルル「え!?アンナさんホントに友達いないんですかぁ?」

アンナ「私に必要なのは強敵と書いた『とも』だけです」

ルル「(あ、相変わらず見た目に反した脳筋発言)」

アンナ「青髪の水鳥拳の漢も悪くありませんが、強敵(とも)にするならやはりパツキン孤鷲拳の漢は外せません!」

ルル「(ヒィィィ!これ続くの!?)」

アンナ「宿敵には長兄もいいですね。言ってみたいものです『我が生涯に一片の悔いなし』と」

ルル「それ死んじゃうやつですよぉ」

アンナ「ですが、やはり我が生涯の宿敵にするのは大型貨物用自動車(10t トラック)ですね」

ルル「は?何故にトラック?」

アンナ「奴に敗れてこの世界に来ましたから。残念です!ここでは再戦の機会がありません」

ルル「まあ、この世界には車ありませんから」

アンナ「今なら魔道グローブがあるので、打撃力に問題がないというのに」

ルル「(もうほっとこう)」

アンナ「今の私なら奴に勝つる!」


誤字脱字などありましたら、ご報告いただけると助かります。


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