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閑話⑩ 『そのころ男爵令嬢は《邂逅》』

ルルの閑話が長引いて、今週は2話しか投稿できなかったorz

8000字越えとか、過去最長じゃなかろうか?

実質この2話で3~4話分あるんだよなぁ。

しかもまだ終わってない( ̄□ ̄;)


来週は3話あげられるよう頑張ります!٩( 'ω' )وおー!


──どうして攻略対象がこんなところに大集合!?


 今まで出会うことさえできなかった攻略対象たちがルルの目の前にいる。はっきり言って攻略のチャンスである。しかし、ルルは固まって動けなかった。


──どうしよう?どう対応すればいい?こんなイベント見たことない!


 目の前の光景がゲームのイベントならばよかった。ゲームをやり込んだルルなら、イベントのセリフは全て分かる。しかし、ルルの目の前での出来事はゲームでは見なかった場面だ。ゲームにはない展開イベントに、ルルにはどうやって声をかけたらよいか分からなかった。


 躊躇して声を殺して見守るしかできないルルの前で、まず眼鏡のブリッジを中指でクイッと上げて、ムゥレン・ゲニールが口を開いた。


「殿下。思い直してはいただけませんか?」

「ムゥの言うとおりだぜ。殿下はリュシリュー嬢のことを嫌いになったわけじゃないんだろ?」


 マクウェン・マスクルが大きく頷き、ムゥに同調した。


「当たり前だ!リリは……彼女はとても素晴らしい女性だ。私には勿体ないくらいに……」

「だったらどうして解消するなんておっしゃるのです!」


 ミッシェル・ワズマンがその優し気な風貌に似合わず声を荒げた。


「ミカの言うとおりです。リュシリュー嬢と婚約を解消するなど暴挙です!」


 ライルに対するムゥの諫言にルルはドキリとした。


──え?殿下がリリ様と婚約解消!?


 ライルがリリとの婚約破棄を考えるのは、ルルと出会って恋に落ちてからだ。攻略が進行していないどころか、ルルはライルたちと出会ってさえいなかったのだ、ライルがリリと婚約破棄をする理由がない。


──どうして殿下が婚約破棄?気づかない間に私の魅力が殿下を堕としちゃった?『さすわた』ですかぁ?


 何が起きているのか分からない。ルルは無意識のうちに体を乗り出し、4人の会話をよく聴こうとした。ライルたちはそんなルルの存在に気づかず会話を続ける。


「私と婚約者でいたらリリに迷惑がかかる」

「どうしてです殿下?」


 ミカの疑問に他の2人も頷いた。


「もしかして王太子妃になることをリュシリュー嬢が忌避されておられるのですか?」

「いやムゥ、もともとリリは妃になることは乗り気ではなかったんだ」


 そう告げるライルの顔に翳りが見てとれた。そんな様子のライルに3人は顔を見合わせる。


 3人は知っている。ライルはリリにベタ惚れである。婚約が決まった時の喜びようを近くで見ていた。それが相手のリリは乗り気ではなかったと言う。これは盛大なライルの片思いであったと言うことだろうか。


「リュシリュー嬢は、その……殿下のことを……」


 他の2人に目で促され聞きにくそうに代表してムゥが尋ねる。


「別にリリから嫌われているわけじゃない。ただリリは私に関心がないだけなんだ」

「「「うっ!それは……」」」


 嫌われていない。聞くと悪くなさそうだが、実際には無関心が一番たちが悪い。嫌われている理由が生理的嫌悪などの場合なら話は変わるが、ライルのような高スペック男子の場合、無関心=興味を持たれていないわけで見込みが無いに等しい。


 ライルの落ち込みように、3人はどうすんだよと目で語り合う。そして、やはりムゥが押し出された。こいつ見た目と違ってけっこう押しに弱い。


「ですがリュシリュー嬢も高位貴族の娘。政略結婚のなんたるかはきちんとわきまえているはずです」

「ああ、リリはとても責任感が強いから、私との結婚にも否応もない」

「で、でしたら結婚に問題は……」

「しかし私はその責任感を利用して心優しいリリを束縛したくはない」

「「「え!?心優しい?」」」


 仲の良い3人はまたしてもハモる。


 リリーエン・リュシリューは絶世の美貌と高い能力を持ち、高位貴族としての矜持と公務に耐えうる鋼の精神の持ち主であることを3人は知っている。さらに真面目で責任感が強く、不正を好まず公正であることも3人の認めるところだ。


 だが、優しいかと言われると……確かにいつも微笑みを絶やさないが、あの笑みにはどちらかと言うと威圧感を感じる。正直言って圧力(オーラ)が半端ない。リリに微笑みかけられると、彼ら3人はいつも背後に尻尾を丸めてブルブル震える子犬のオーラが漏れ出てしまう。


 3人は再び目で語り合った。

──殿下はリュシリュー嬢の話をしてたよな?

──僕もそう思っていたけど……心優しいとは誰のことなんですか?

──私たちは何か聞き間違いをしたのではないか?

──いやしかし、殿下は確かに『リリ』と言ったぞ。

──僕が思うに『リリ』とは別の女性の愛称なのでは?

──成る程!合点がいった。リリーシャとかそんなところだろうか。


 3人にディスられまくるリリ。そして、目だけでこれだけ意思疎通できる3人はもはや立派な新人類ニュータイプであった。しかし、そんな新人類は他にもいた。彼らと付き合いの長いライルにも3人の心の会話が筒抜けだった。


「3人とも、リリは真面目で常に自分を律する女性だが、その心根はとても優しいんだ」


 自分たちの以心伝心が全て漏えいしたことに気がつき3人は委縮したが、ライルは笑っただけで特に咎めもせずリリの話を始めた。


「リリはよく孤児院を慰問するんだが、子供たちを見る目が穏やかで、いつもの微笑に温度を感じるんだ。彼女は間違いなく子供好きだよ」

「も、申し訳ありませんが、私はリュシリュー嬢がよく子供たちに遠巻きにされていると伺うのですが?」


 ムゥのところには、リリが子供たちに怯えられていると情報が入っている。側近たちもビビる圧力プレッシャーなのだ、子供たちではとうてい耐えられまい。


「そうなんだ。やはり子供たちもリリの品位に気後れするみたいでね。そんな子供たちの振る舞いに、リリはよく寂しそうな目をしていたよ。だけど子供たちに避けられても孤児院の援助は止めないし、この間は卒院する孤児たちが職につけるよう本人たちに気付かれないよう裏で援助もしていたよ。とても優しい心配りができるんだ」

「殿下はリュシリュー嬢をよく観察されているようで」


 どうしてそこまで詳しいのか……ムゥはきょどりながら2人に視線を送った。


──ストーカーか?

──ストーカーだろ?

──ストーカーだよね?


「ああそうそう、リリは表情にあまり出さないが、宝石のような綺麗なものなんかよりも可愛いものが好きでね。贈り物にヌイグルミを上げると僅かに瞳孔が開いて喜んでいるのが分かるんだ。それから本人は犬派を宣言しているが、間違いなく猫好きで……」


 始まった。3人は同時にうんざりした。ライルの惚気話である。いや待て、ライルの盛大な片思いであった場合も惚気と言っていいのだろうか?とにかく早く止めろとマックとミカがムゥに視線で圧力をかけ、2人を胡乱な目で見ながらムゥはしぶしぶ生き生きとリリを語るライルを止めに入った。


「でしたら尚更そのような素晴らしいリュシリュー嬢との婚約を破棄されるべきではないでしょう」

「しかし、リリは……」


 ずれてもいない眼鏡のブリッジを再び中指でクイッと上げると、ムゥは殿下と声をかけて言葉を遮った。


「リュシリュー嬢は殿下のおっしゃるとおり立派な貴族令嬢です。彼女はご自分の責務をきちんと認識しております。殿下への好悪でその責任を厭うとは思えません。それに現状、リュシリュー嬢よりも王妃に相応しい貴族令嬢はおりません」

「それはそうだが……」

「殿下。国王になる以上は必ず伴侶が必要となります。その伴侶は恋愛で決めていいものではありません。きついことを申し上げますが、殿下やリュシリュー嬢の好悪は婚約を解消する理由にはなりません。王妃に相応しいのがリュシリュー嬢しかいない以上、他に選択肢はございません」


 ムゥの厳しい説諭にライルは目を閉じ、黙り込んでしまった。


「もしかして殿下は俺たちに何か隠し事をしてないか?」


 その様子を見ていたマックは、ふとそんな気がした。ただの勘だ。何となくライルが婚約を解消したがる理由は別にあるような気がしたのだ。マックの野生の勘はよくあたる。他の2人は沈黙を守るライルに詰め寄った。


「そうなのですか殿下?いったいどのような理由が?」

「僕たちは信用なりませんか?どんなことだって力になりますよ」


 3人が心配そうに見つめる中、ライルは目を閉じたまま思い詰めた顔となったが、瞼を開けて3人に視線を走らせた。そして重い口を開いた。


「……私は……王位継承権を……放棄しようと思う」

「「「「!!!」」」」


 ()()は同時に息を呑んだ。


「放棄などどうして!」


 激高したムゥが食ってかかった。


「私ではとても国王として国を治めていけるとは思えないのだ」

「僕は殿下なら立派な国王になれると信じています」

「そうだ!俺たちだってこれからも殿下を支えていくぜ」

「そぉですよぉ。何を弱気になってるんですかぁ」

「しかし、リリを見ていると私はとても国王として相応しい能力があるとは思えないんだ。私には彼女ほどの能力も胆力も、王族としての器量もない」


 自分は国王の器ではないと意気消沈するライルに、()()はリリを思い浮かべて目で語り合い始めた。

──彼女は頭脳明晰、容姿端麗、魔力もずば抜けています。

──ああ、加えて胆力、品格ともにとても同年代とは思えん。

──あんな化け物に誰が勝てるんですかぁ?

──私も同意です。怪物あれと比較されてはたまりません。

──しかし、僕には殿下のお気持ちも分からなくもないな。

──まてミカ!あんな人外と比較されたら誰も国王になれんぞ!

──マックの言うとおりです。怪物あれに張り合えるのは王妃殿下じんがいだけです。

──そうよ!殿下自身の能力が低いわけじゃないわ!


「みなが私を心配してくれるのはとても嬉しい。だが、王位は優秀な弟に譲ろうと思う」

「僕たちが止めても決意は変わりませんか?」

「なあ俺たち殿下のためなら何だってやるつもりだぞ」

「弟君とてリュシリュー嬢に勝っているわけではありませんよ?」


 3人に対して寂しそうな笑いを向けたライルはゆっくり首を振った。


「もともとリリは王妃になりたいと思ってはいないようだし、私のことも好きではない……ちょうどいいと思ったんだ」


 ムゥはハッとライルの顔を見詰めた。


「もしかして殿下はリュシリュー嬢のために?」

「殿下は好きな女性のためにそこまで……僕は……僕は、うっ……」

「バカなことだとは思う。だけど俺はそんなバカをする奴は大好きだぜ!」


 静に男泣きするミカの肩にポンと手を置いてぐっとサムズアップするマック。


「私も殿下の心意気には感服いたしました。ですが……」


 水を差すような発言に、ライルたち()()の視線がムゥに集中した。


「婚約破棄はどうしても女性側が不利になります。殿下が婚約を解消されれば結局はリュシリュー嬢には迷惑がかかりますよ?」

「そうだ……だから悩んでいる。何か良い方法はないか?円満に婚約を解消し、継承権を放棄する方法は?」


 ()()は悩んだ。

 どう考えてもリリの評判に瑕をつけずに婚約を解消し、王位継承権を放棄するなど簡単なことではない。


 まず、婚約解消だが、どうやってもライル側から申し出れば、リリ自身に瑕疵がなくとも王家から婚約を解消されたと社交界で噂されてしまうのは止めようがない。


 王位継承権にしてもライル自身に問題があるわけではない。彼が放棄を宣言したところで、周囲がそれをすんなり認めるとは思われない。


 だがこの時ルルは閃いた。ゲームのイベントを逆手にとれないかな?と。


「方法が1つあります」

「なんだと!本当か!?」

「私でさえ何も思いつかないというのに……」

「それで方法というのは何だい?」


 ルルがビシッと人差し指を立てて宣言すると、側近たちは色めき立った。


「殿下がリリ様に婚約破棄を突きつけるのです!」

「何を馬鹿なことを!」

「俺でもそれではリュシリュー嬢の名誉が傷つくことくらい想像がつくぞ」


 ルルはムゥとマックを手で制した。


「きちんと順序を立てて行うのです」


 いいですか。と前置きしてルルは説明を始めた。


「第一段階として殿下に誰か適当な女性に恋人の振りをしてもらうのです」


 第二段階、リリにイジメただの嫉妬しただのと冤罪で難癖をつける。これは、明らかに冤罪と分かるようにリリのアリバイが成立するようにする。


 第三段階、リリとの婚約破棄の企てを密談する。なるべく自然に密談を行っていることをリリに悟らせるようにする。


「そうすれば、優秀なリリ様のことですから、絶対に証拠を集めるはずです。だから頃合いをみて婚約破棄を宣言すれば、冤罪を証明されて私たちが『逆ざまぁ』されるわけです」

「『逆ざまぁ』と言うのはよく分からないが、つまりは『婚約破棄の冤罪』という失態を理由にリリにとって有利な条件で婚約を解消して、さらには私の過失として継承権放棄を認めさせるわけか」


 ルルの提案を吟味しながらライルはなるほどと頷いた。


「す、すげぇ!天才か!」

「まさに盲点だった!何という鬼謀!」

「なんて恐ろしいことを思いつくだ」


 ルルをやんややんやと絶賛する側近たちだったが、それを見てライルは頷きながらも静かに目を細めた。


「なるほど。確かによい策だと思うが……」


 言葉を切ってライルはルルを上から下まで一瞥した。


「それで君は誰なんだ?」

「は?」「え?」「ん?」「あ!?」


 順番にマック、ムゥ、ミカ、ルルである。今ごろやっとルルがいるのに気がつく3人。そして、近づきすぎていたルル。


「3人が普通に接してアイコンタクトまで取っていたから、知り合いかと思ったのだが?」


 再び目で語り合う側近たち。

──誰ですかこの幼女は?

──俺は知らんぞムゥ。またミカの彼女か?

──ちょ!待ってよマック。僕はロリコンじゃないよ。

──誰がロリですかぁ!

──おいおい!節操がなさすぎだぞ。

──ミカは見境がない。そこまで許容範囲ストライクゾーンが広いとは。

──だから違うって2人とも!いくら可愛くても、こんな幼女には手を出さないって。

──私は15歳ですぅ!


「「「嘘だろ!!!」」」


「いや、お前たち普通にアイコンタクトでよく初見の娘と会話できるな」


 ライルは側近たちとルルの目配せでの会話に苦笑いだ。ライルは再びルルの方に顔を向けると、優しく微笑み口を開いた。


「制服からすると、今年の新入生かな?」

「は、はい。ルルーシェ・ルミエンと申します」


 ルルはペコリと頭を下げる。


「ここまで聞かれてしまっては仕方がない。今さら隠し立てもできまい。それに君の作戦は悪くないと思う。ルミエン嬢が協力してくれるとありがたい」

「ええ、私もそう思います。いっそうのこと殿下の浮気相手の役をルミエン嬢にしてもらうのがよいのでは?」

「だけど、その役は女性としての尊厳に傷をつけることになるんじゃないのかい?」

「ミカの言うとおりだ。俺は恋人役は金で片付く人間にやってもらうべきだと思う」

「確かにそうだが……」


 ムゥは2人の主張に一定の理解を示しながらも、納得はできなかった。


「だが、ここは貴族子女の学び舎だ。そのような金で解決できる女性などいないだろう」


 ムゥの指摘は正しい。このシュトレイン学園には貴族子女しかいないのだ。明らかに己の瑕疵になる損な役回りを引き受けてくれる女性などいるはずもない。下手を打てば社交界では再起不能となり、結婚相手を見つけることが困難となる。貴族令嬢としては致命的だ。だが……


「お金を貰えるんですかぁ!」


 ここに名誉よりも、結婚よりもお金を重んじる貴族令嬢がいた。


「ルミエン嬢、この役は貴族令嬢としての信用を全て失う可能性がある。お金の問題では……」

「お金の問題です!!!」


 もはやライルの説得もお金に目の眩んでいるルルには届かない。


「もう貴族の名誉とか、結婚とかどーでもいいんです!」

「いやルミエン君。それは貴族女性にとって大事だと思うよ?」

「そうだぞルミエン。その幼さで自分を捨てるのは、まだ早い」

「誰が幼いんですかぁ!私は来月で16歳ですぅ!」

「「「絶対ウソだ!!!」」」


 3人の声と心が一致した。


「いやお前たち、それはさすがに失礼だぞ」


 『さす王』のライルは女性にそのようなことは言わない。例え心の中で思っていても……


「それに、ムゥ。お前はそのルミエン嬢を私の恋人役にしようとしたではないか」


 ライルに指摘されるとムゥはレンズの奥の瞳が泳ぎ出した。


「いや……それは……そ、それよりも今はルミエン嬢のことです!」

「そ、そうだな。ルミエンよ、俺が言っておいてなんだが、お金で人生を棒に振るような真似は両親が泣くぞ」

「僕もそう思います。この役は外部から誰かを招きましょう」


 仲の良い側近たちは仲間の窮地に助け合いを始めたようだ。互助力が高い側近たちだ。その様子に別に咎めるつもりはなかったライルはただ苦笑いだけして無かったことにしたようだ。側近思いの出来た王子さまである。


「いえ、大丈夫です!というよりやらせて下さい!お願いします!!!」


 しかし、3人の制止に対して、必死の形相で懇願するルルにライルたちは顔を見合わせた。


「何か事情でもあるのか?」


 ライルがルルの肩に優しく手を置き、心配そうに声を掛ける。その途端に今まで何をやっても上手くいかない、攻略もできない、友達もできない、そんな1週間が思い出された。辛かった、きつかった、もうダメだと思った。そんなルルに掛けられた優しい言葉。ルルの目に涙が浮かんだ。


 側近の3人は慌てた。とても慌てた。根が単純なマックはもちろん、タラシに見えるミカも冷徹風を装っているムゥも女の子の涙に弱いお人好しなのだ。


「事情があるなら話してみろ。俺たちが力になってやる」

「そうだよ。僕たちは同じ秘密を抱えた同志なんだから」

「私たちは同じ企てを遂行する仲間だ。全て話すといい」


 そう慰められたルルの涙は決壊し、えっぐ、えっぐと嗚咽をもらした。外見だけ酷薄そうに見えるムゥがルルにそっとハンカチを差し出した。


 そのハンカチを受け取り、ムゥを見上げながらルルは「ありがと」と礼を述べて、その零れる美しい涙を拭き……


「ちーん!」

「おぉい!人のハンカチで鼻をかむな!」


 ルルはやっぱりルルクオリティ。どんな状況でもお約束を忘れない出来る女なのである。


「私……このままだと、変態悪徳商人の妾にされてしまうんですぅ」


 ルルは語り始めた。

 幼少期の自分の流行病はやしやまいで家が借金をしたこと。

 それが阿漕あこぎなベルクルドの企みであったこと。

 ベルクルドが接触してきて、この学園に通うよう指示を出してきたこと。

 このままだとルミエン家が無くなってしまうかもしれないこと。

 前世や乙女ゲームのことは4人に話せないので、そこはぼかして話した。そのぶん自分の悲劇度ましまし、ベルクルドの悪逆非道ぶりを大増量で。


「お父さんやお母さんは、爵位を捨てれば大丈夫だから気にするなって言うんです……」


 さらにルルは両親たちのいい人アピールを当社比1.5倍で開始。側近たちは、そんなルルの話を聞いて身につまされた。お人好しトリオだから。


「だけど、私のせいでルミエン家が潰れれば、幼い弟や妹のことを思うと……それならいっそ変態ジジィの妾になった方が……だからお金が貰えるなら、私なんでもやります!」


 うっうっ……と泣くルル。


 幼い弟妹たちの話題をだして同情を誘いながら、チラリと隠れて3人の様子を伺うあたりは図太い神経をしていたが。


「なんて健気なんだ!」

「ぼ、僕はもう聞いていられないよ!」

「こんな幼子に手を出すとは、なんと不埒な!」

「誰が幼子ですかぁ!」


 単純な3人は涙し、哀れみ、憤ってくれたが、最後の言葉にキレるあたりルルはやっぱりルルだった。そんな4人の様子にライルは苦笑して見ていた。一国の王子さまはさすがにこの程度では絆されないようだ。


「ルミエン嬢の話はわかった」

「殿下!俺はこの娘を助けたい!」

「僕たちは仲間じゃないか」

「わ、私は彼女が適任だと最初から申し上げております」


 この3人は王太子の側近にしては甘すぎる。そんな情に絆されやすい3人のことをライルは理解していた。だからこそ逆に側近としたのだ。彼らの怜悧な親族たちよりもよっぽど信用できるから。


「いいだろう、ルルーシェ・ルミエン。君を私たちの企ての同志と認めよう。そして、婚約破棄の計画が上手くいった暁には、ライベルク・シュバルツバイスの名に懸けてルミエン家もルミエン嬢もベルクルド商会の魔の手から救うと誓おう!」


 ライルのこの宣言。これが、ルルと側近たちの友情の始まりであった。



ルル「今回は殿下の婚約破棄と私と3人の出会い回です!」

アンナ「毎度毎度、貴女の回想は長すぎです」

ルル「今回は殿下の側近たちの初エピソードになるから仕方がないんですぅ!」

アンナ「あんな雑魚ども1行で十分です。『ルルと3馬鹿が出合った』はい終わり!」

ルル「ひどいです!あの3人はバカだけど私の大事な友達なんですよぉ。バカだけどぉ」

アンナ「……貴女もたいがい3人をディスってますよ」

ルル「それにあの3人も凄いところあるんですよぉ」

アンナ「確かに目だけで語り合うとか……貴女もいつの間に人類の革新存在になったのですか」

ルル「私はアンナさんみたくエロの重力に魂を引かれていませんからぁ」

アンナ「おかしいですね。あの3人はエロの重力に魂を縛られていそうですが」

ルル「攻略対象ですからねぇ。私たちの常識には当てはまらないんじゃないですかぁ?」

アンナ「そう言う貴女もヒロインなんですけど(こいつも常識には当てはまらんか)」


誤字脱字などありましたら、ご報告いただけると助かります。


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