第24話 『侯爵令嬢は朝チュンをする』
やっと二日目……
だけどここら怒涛のスピードで時間がすぎる……はず?
チュンチュン……
小鳥の囀りが窓の外から聴こえてくる。
リリはカーテンの隙間から差し込む朝日に目を細めた。
──いい朝ね……
ああ、これがアンナの言っていた『朝チュン』なのだとリリは理解した。
そして、リリは胸元の幼女の頭を優しく撫でる。
「ヒック…グス……」
二人で寝たベッドのシーツは乱れ、蜂蜜色の甘そうな髪をした全裸の美幼女が同じく一糸纏わぬリリの胸で嗚咽を漏らす。
「ネネ……ネネよごれちゃった」
あげた顔は大粒の涙で濡れ、不安そうに曇らせる表情にリリは庇護欲を駆り立てられた。頭を撫でていた腕を今度は背中に回し優しく抱きしめるリリ。
ああ、なんという淫靡な背徳感と幸福感だろう。
リリは美しい翠玉の様な瞳を濡らす幼女に甘い微笑みを投げかけた。
「大丈夫よ。ネネちゃん、私に全部任せて」
「ヒック、ヒック…でも……ネネ……」
信頼する大好きな姉の優しい言葉にもネネは不安を払拭できないでいた。そんな愛おしい幼女の心痛を和らげようとリリはよりいっそう甘い言葉を囁く。
「何も心配は要らないわ。すぐに気持ち良くしてあげるから」
そう言うとリリはそっと手を伸ばす。その手の先には先ほど脱がしたネネの寝巻きと下着があった。
リリは伸ばした手でその下着を手に取る。その行為にネネは羞恥から顔を赤らめ、再び目に涙を浮かべた。
「大丈夫です!お姉ちゃんがすぐに綺麗にしてあげますから!」
リリは自信を持って高らかに宣言した。
おねしょで濡れたネネのカボチャのドロワーズを持って!
「うわ〜ん!ごべん゙な゙ざ〜い゙!」
ネネは耐えきれずに大泣きした。
だってネネは恥じらいのあるお年頃の女の子だから。
リリは『生活魔術』の『洗浄』でおねしょに濡れた衣類や寝具、自身たちの身体を洗っていく。この『洗浄』は『生活魔術』の分類だが一般的に使える者は少ない。何故なら対象によって細かく設定を変更しなければならないため、魔術構文を熟知していないと使用ができないためだ。
そのため、一般家庭だけではなく貴族の間でも衣類は魔道具『洗濯機』を使用する。当然これの開発者は転生者ギベン・デルネラだ。
身綺麗になって衣服を着替えながらリリは昨夜のことを考える。
シャノワが本当に猫妖精だったのは驚きだった。
しかもルルと『契約』しているという。
一般的に『契約』と呼ばれているが、正式名は『朋魔契約』であり、一部の魔獣や幻獣、妖精などと結ぶことができる。
そして、契約を結ぶと魔力回廊が作られ、お互いの内包魔力が繋がる。これには幾つかの恩恵があるが、その一つが内包魔力のやり取りである。昨日の魔力と魂の関係が真実ならこの魔力回廊は魂と魂が繋がっているのかもしれない。
だとすると現在ルルの中はリリの魂魄である。懐かれるはずはないのだが……
だが、そのような問題は今のリリには些事であった。
つまりは……
リリ(注:ルルのです)の愛しい妹ネネちゃんと、王都では見ることのできない愛らしいケット・シーが家に現れた。
この『可愛い』こそ正義の証しである。
その可愛さに打ちのめされたリリに如何ほどの理性が残っていようと、それは既に形骸である。
敢えて言おう、カスであると!!
──うへへへ。2人とも可愛いですね。しかし、なんという愛憎劇でしょう。私を巡って愛しい妹(注:ルルのです)と可愛い子猫ちゃん(注:本物の猫です)が争うなんて。うふふふ。私なんという罪なお・ん・な……
もはや理性が崩壊していたのである。
昨夜はネネとシャノワがリリを巡って険悪になった。
リリの足元で2人は喧嘩になったのだが、その様相は周囲から見れば可愛らしいだけであった。リリの脚の左右でリリのスカートを握りしめ、お互い顔だけ覗かせて「む~!」「ニャニャニャ!」と威嚇し合うだけ。
時折シャノワが届きもしないエア猫パンチを繰り出し、ネネは「めっ!めっ!」と嗜める。
ルルのあまりのポンコツぶりに意識を持っていかれそうだったリリもやっと2人の状態に気がついた手2人の機嫌をとることになった。のだが、リリにはむしろご褒美だったようだ。
まず、リリはネネと一緒に寝ることを約束し、翌日はシャノワと遊ぶこととなったのだが、とうのリリは2人の美幼女にモテモテでルンルンであった。
まあ、その結果が冒頭のおねしょ騒動である。
もっともリリにとってはネネにいいところを見せられてホクホクであったが。
週末のため、今日と明日は学園も休みであり、今夜あたりベルクルド商会に潜入を考えていたリリであったが、もはやそのような些事に囚われてはいなかった。
──ベルクルド商会の件は来週でいいでしょう。どうせ潜入用の魔術構文を新しく構築しなければなりませんし。
そうやって、自分に言い訳をしながら朝の身支度をルルと一緒にやっていた。
昨日のシリアスな展開などぶち壊しである。
「さあ完成ですよネネちゃん!」
「……うん」
昨夜一緒に寝ようと言ってからハイテンションになり先ほどまでウキウキしていたネネの表情が曇った。
これまでご機嫌だったネネの突然の落胆ぶりにリリは首を傾げた。
「ん?どうしたの?」
「お姉ちゃんはきょうシャノワといっしょ?」
ああなるほど。と、リリは合点がいった。
ネネは寂しいのだ。
だけれども今日はただシャノワと遊ぶだけではない。
少し話したいこともあるのだ。
まあ、9割がた遊びたいだけだが、ここは断腸の思いでネネを振り切らねばならない。
可愛い猫妖精が待っている!
「ネネちゃん。昨日約束したでしょ?」
ネネは体をびくっと震わせた。
リリはネネの頭を抱きしめ優しく撫でてあげた。
「責めているわけではないのよ。シャノワも可哀想だと思うでしょ?」
リリの腕の中でネネは少し潤んだ瞳で見上げてコクリと頷いた。
「んん!ネネちゃんは本当にいい子ですね」
「いいこにしたらお姉ちゃんあそんでくれる?」
「ふふ。ネネちゃんは十分いい子ですよ」
「ホント?」
「ええ。私はネネちゃんが大好きですよ」
リリの言葉にネネの顔に少し明るさが戻ったようだった。
「おかーさんのとこいっておてつだいする」
「そう。ネネちゃんは偉いわ。とってもいい子」
「うん!ネネいいこになる!」
──ああ、なんて可愛いのでしょう!
ネネが手を振りながら部屋を出ていく姿を脳内リプレイしながら余韻に浸っていたリリの足元で「ニャ~」と鳴きながらスカートの裾を引っ張る黒猫にリリは意識を引き戻された。
「ああ、そうでしたね。今日はシャノワと約束でしたね」
リリはシャノワの小さな体を抱き上げるとルミエン家の居間へと移動した。
小さなソファーに腰かけるとシャノワはリリの膝の上に陣取り、リリはシャノワの背中を優しく撫で柔らかい毛並みを堪能する。
一頻り撫でるとリリもシャノワも満足したようで、リリはニヤニヤホクホク顔で、シャノワはまったりと弛緩してリリの膝の上でくつろぐ完全なWin-Winの関係だ。
「さてシャノワ……私と少しお話をしましょう」
「ミャ~」
やはりリリの言葉が分かっているようだ。
きちんと返事をする。
猫妖精は成長すると人語も操るといわれている。しかし、まだ子供のシャノワは解することはできても話すことはできない。
受け答えは『首肯する』か『頭を振る』のみ。
質問はよく考えないといけない。
「シャノワはルルーシェ・ルミエンと契約を結んでいるのですね?」
質問するリリをじっと見詰めていたシャノワはコクリと頷いた。
「私がルルーシェ・ルミエンでないことは分かっていましたか?」
頷くシャノワ。
「それは私とルルーシェの魂が異なるからですか?」
これには小首を傾げるシャノワ。
よく分からないらしい。
「では、いま現在シャノワと私の間には魔力回廊は通じているのでしょうか?」
今度はすぐに頷かず、シャノワはリリを凝視したまま微動だにしなくなった。
──魔力回廊が通じるか試しているのですね。
賢い子だと思う。
小さいながら軽率なことはせず、物事をきちんと確認する。
実は簡単なようで難しい。ましてやこの猫はまだ子供なのだ。
やがてシャノワは小首を傾げた後にゆっくりと首を横に振った。
「ふむ。では私とシャノワの間には『朋魔契約』は成立していないんですね?」
これにはすぐ頷くシャノワ。
リリはこれらの状況から一つの結論を出した。
──これは!?
そう、朋魔契約がリリとシャノワに成立しておらず、魔力回廊が通らないということは……
──つまり……
そこから出る結論は、リリとルルが……
「シャノワは契約に関係なく私のことが好きだということですね!!!」
「ニャッ!」
違うだろ!!!
∻∻∻∻∻∻∻∻∻∻∻∻∻∻∻∻∻∻∻∻∻∻∻∻∻
次の日、カーテンから漏れる朝日に刺激を受けてリリは目を覚ました。
ベッドの上で上半身を起こし、う~んと伸びをする。
さて、本日も昨日に続き休みである。
──今日はどうしましょうか?
エルゼからの連絡はさすがにまだであろう。
しかし、シャノワの件もある。
昨日、確認したシャノワとの契約の状態は魂魄置換の裏付けの1つとなるだろう。
試してみてもリリとシャノワには魔力回廊が通らなかった。
おそらく現在のリリとシャノワの間には契約が成立していない。
もしルルとシャノワの間に魔力回廊が通るなら、ルルとシャノワは契約が結ばれていることになり、朋魔契約は身体とは無関係であり、魂魄を通して行われている可能性が高くなる。
そして、身体が違ってなお魔力回廊が通るということは魔力と身体には関係がないことを示す一つの証しである。
そして、並列魔術構文編纂とシャノワとの朋魔契約はリリとルルは魂魄置換が行われたこと、魂の内で魔力言語や魔力構文が生じている強力な証左にもなる。
──やはりリュシリュー邸へ出向いてもう一度話をしなければいけませんね。
そう決心したリリは起き上がり着替えよとしたところで部屋の扉が開かれた。
「お姉ちゃん。おかしつくって〜」
「え?」
──おかしとはなんぞや?
リリはどんな頼みでも困らない。だけど可愛い妹の頼みに…………困った!
ルル「リリ様が官能小説のヒーローみたくなってます!」
アンナ「何ですか!何ですか!!何なんですか!!!この破廉恥な状況は!」
ルル「アンナさんどうどう!しかし無駄に文章使ってますね。ちょっと興奮しちゃった」
アンナ「ぐは!いらん努力をあの駄作者が!」
ルル「『朝チュン』ネタにしたくて話と関係無いのに無理矢理入れたらしいですよ」
アンナ「その為に800字以上も使ったんですか!?馬鹿ですかあの作者!」
ルル「まあ、この話コメディですから無駄もありますよ」
アンナ「別段無駄がダメとは言っていません」
ルル「じゃあ何が不満なんです?」
アンナ「なんで相手が私じゃないんですか!」
ルル「(本音はそれか)」
誤字脱字などなど報告していただけるとありがたいです!
これからも楽しくお読みください。
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