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第21話 『侯爵令嬢は乙女ゲームについて知る』

ううう……眠い

夜勤明けに文章書くのはきつい……

きちんと書けてるんだろうか……ん?

評価とブクマが増えてる!!!(*゜∀゜*)

入れて下さったかたありがとうございます!O(≧∇≦)O

古芭白邁進します!精進します! (`・ω・´)

「それで最後はライル様のことね」


 アンナが落ちついたところで、リリは最後の問題について切り出した。

 2人の背後に立つアンナは先ほどの狂瀾ぶりが嘘のようにいつもの感情を見せない表情に戻っていた。

 ルルはそんなアンナをチラチラと警戒しながら、リリの質問にため息がでそうだった。


「どうしても話さないといけませんか?」

「どうしても話せない?」


 それには答えずルルはじっとリリを見詰めた。


「今日ライル様たちが接触してきたわ。このまま誤魔化し続けることはきないでしょ?」

「殿下たちに魂魄置換のことを話すのは?」

「できれば最後の手段にしたいわ」

「どうしてですか?殿下たちなら力になって……」

「私との婚約を破棄する陰謀わるだくみの最中でしょ?それにやはりライル様たちには話すわけにはいかないの」

「どうしてですか?殿下たちはとても良い人たちだと思います。きっと協力して……」


 リリはルルの言葉を手で制した。


 リリはルルがあの側近3人たちとだいぶん気心が知れたのだろうと思った。人当たりのよいライルとお人好しのあの3人だ。今のルルを見れば打ち解けていてもおかしくはない。


 リリのこの予想はあたっていた。

 ルルはライルとその側近3人に強い仲間意識を持っていた。

 無理もない。学園に入り友人がいない孤立した状態で、同じ企みを遂行している仲だ。自然と仲良くなったのだろう。


「ルル……そうねライル様たちはとても気持ちのよい方がたよね。でも……」


 リリはライルやあの3人が貴族としては問題でも人としてはお人好しの好感の持てる人物だとは思っている。正直に言えば彼ら3人の能力だけの野心の強い兄弟たちよりも人として彼らは信用できるだろう。だからライルは彼らを側近にしたのだ。


 だが、今回の件ではそれは関係ないのだ。


「私もね最初は周囲に露見してもよいかと思っていたの。だけどルルも魂魄置換の話を聞いたでしょ?」


 リリはかみ砕いてルルに説明を始めた。

 先の襲撃、偶然も否定できないがタイミング的に今回の件に関わるだろうこと。

 エルゼやアンナの言うように、この魂魄置換に大きな陰謀の可能性があること。

 魂魄置換の話をして協力を仰いだら、その者達にも累が及ぶ可能性があること。

 禁忌術を使った王家を狙う陰謀ならば犯人は高位貴族である可能性が高いこと。

 そして、高位貴族が犯人なら側近達の親族の中に犯人がいる可能性もあること。


「だからライル様たちに話すわけにはいかないの。ライル様だけでもだめよ。ライル様とあの側近たちはとても強い信頼関係があるわ。ライル様に秘密を共有させてあの3人に対する負い目は負わせたくないわ」

「……はい」


 ルルもライルたちがとても仲のよい友人関係であることは分かっている。今までその輪の中にいたのだ。だから、その関係性を壊したくはない。


「ルル。ライル様の婚約破棄が擬態なのは予想がついているの。全部を無理に話せとは言わない。ルルの話せる範囲でお願いできないかしら?」


 ルルは目を閉じてじっと考え出した。リリはそんなルルをじっと見詰め、特に話を促すこともなく沈黙を守った。


 誰もが言葉を発せず、ただ言葉のない空間がこの場を支配し、重い空気が時間とともに流れていく。


「……私には前世があるんです」


 やがて、ルルは目を開けるとその重い空気を払う一言を発した。

 リリは微動だにしない。ただ、ルルの話すのにまかせた。


「そしてこの世界はその前世でした乙女ゲームの世界にそっくりなんです」

「乙女ゲーム?」


 リリは聞き慣れない単語に小首を傾げたが、ルルは構わず話し続ける。


「はい。この世界は乙女ゲーム『白銀しろ黒鋼くろ譚詩曲バラード』にそっくりなのです」


 ルルは一生懸命に前世のこと、そこでの生活、乙女ゲームのこと、そして『白銀と黒鋼の譚詩曲』のことを話した。リリはそれを頷きながら黙って聞いた。


 ルルが前世で『日本』と呼ばれる平和で豊かな国にいたことを知った。

 ルルが前世で家族から愛情を与えられず愛に飢えていたことを知った。

 ルルが前世で傷心を癒すために乙女ゲームに嵌っていたことを知った。

 この世界と『白銀と黒鋼の譚詩曲』が、類似しているとルルは語った。


「このゲーム……物語は恋愛ものなのですが、結ばれる相手にルートがあって、主人公(ルルーシェ)は攻略対象の誰かと結ばれないと借金の形で悪徳商人の変態ジジイに売られてしまうんです」


 その攻略対象はライルとその側近、そして王弟殿下だという。


 さらに、この物語の続編では冒険者となったネーネシア・ルミエンが敵役として登場する。この物語にはルミエン家が出てこない。このままではルミエン家が無くなってしまう恐れがある。


 そのようなことをルルはつらつらと語る。


「なんとか阻止したかったんですが、ルミエン家が既に問題の悪徳商人に借金をしていて。というのもこの借金は私が5歳の時にかかった流行病はやりやまいの治療費なんです。前世を思い出したのもこの時だったからどうにもならなくて……」


──5歳の時の流行病……ルルは私と同じ病に罹患していたのね。


 当時まだ医療魔術では治療できなかった感染症。今でこそ魔術で安定して安価で治療できるこの疾患も当時は希少な薬を必要とした。普段はそれほど高価なものではなかったが、爆発的に患者が増えたために数量を確保できなかったこの薬は信じられないほど高騰したのだ。


 リリもルル同様にこの病で死にかけている。

 この時のことを思い出すと今でも不思議だ。


 死の淵から生還したリリは自分が自分ではない違和感にとらわれた。

 確かに自分はリリーエン・リュシリューだ。その自覚はあった。

 今自分が寝ている部屋が自分の部屋であって、自分の部屋ではないような。

 心配して自分を見る人達が自分の家族であって、自分の家族ではないような。

 そんな不思議な感覚。


──あれはなんだったのでしょうか?


 しかし、自分は自分。リリーエン・リュシリューだ。幸いにもリリもルルも命を落とさずにすんだのだ。それでいい。

 だが、ルルにとってはルミエン家が莫大な借金を抱える原因になってしまったのだからよかったではすまない。


「ヒロイン転生者としての力があれば冒険者として稼いで借金を返せるのではとも思ったんですが……」


 現実はあまくなかった。

 魔力保持容量は主人公ヒロインであったため大きかったものの魔術が生活魔術の定型文くらいしか使えなかったのだ。


 魔術は学問だ。それもかなり高度な。高位貴族ならば講師をつけて学べるが、下位貴族のルルでは望むことはできない。いくら魔力保持容量が大きく才能があっても独学で学ぶには限界がある。


「けっきょく何もできずに時間だけ過ぎていき、去年その悪徳商人からこの学園に通うように指示されました。まるでゲームをなぞるように……」

「だからルルはゲームの内容に沿って行動すれば助かると思ってライル様たちに近づいた。だけどそこでライル様たちの思惑を知って攻略するのではなく協力することで見返りに援助してもらう契約をしたのね?」

「はい」

「ライル様たちには前世の話を?」

「してません。だってこんな突拍子もない話……リリ様は信じてくれるんですか?」


 不安そうにリリを見るルルに優しく微笑みかけてリリは頷いてみせた。


「荒唐無稽な話よね。確かに信じ難いものだわ。でも私はルルを信じるわ。だってルルは嘘をつけるようなではないもの」

「リ、リリ様ぁぁぁ私リリ様に一生ついて行きますぅ」


 自分の姿で滂沱の涙を流しながら縋り付くルルにリリは苦笑いした。

 その後ろでアンナは「嘘をつけないのではなく嘘がすぐばれるです」と心の内で独りごちた。


「それにアンナも転生者だしね。意外と周りにいるのかしら?」

「え!?」

「貴女、気がついていなかったのですか?」


 目が点になっているルルにアンナは呆れ顔だ。


「もしかしてアンナさんは私が転生者だと気づいて?」

「当たり前でしょう。それにしても私があれだけ前世関連の話題振っていたのに気がつかないとは」

「じゃあ、じゃあ、もしかしてリリ様のお父さんも?」

「え?お父様も前世持ちなの?」

「私の話にのりで返してくるからおそらくは」


 これはリリもさすがに驚いた。


「それもあって私がリリ様の専属侍女に選ばれたのではないかと」

「朝の様子だとだいぶん後悔していそうですね」

「あれは振りです振り。当主様は何だかんだ言って私をやめさせませんから」


 アンナとルル、それに父もどうやら転生者らしい。


──だから仲がいいのか……


 アンナと父、ルルとアンナ。いがみ合っているようでいて楽しそうにしていると感じてはいた。


 いつも父やアンナの間には入ることができない。今もルルとアンナの間に入れない時がある。そこに寂しさを伴う疎外感を抱いていた。


 リリはその原因がみな転生者だったからだと理解した。彼らには特有のシンパシーがあるのだと。そして同時に、ああ母も同じように疎外感を抱いていたのかと気がついた。


──お母様はきっと孤独だったのね。私と同じ不器用だもの。


 しかし、リリは疎外感の原因だ分かったので、アンナやルルとはまた違った関係を築いていけばよいのだと割り切った。そこが母とは違う。エルゼのお陰なのだろうとリリは思う。


「だいたい話は分かりました」


 前世の話で盛り上がりそうなアンナとルルを止めたリリはルルの話を頭の中で整理し今後について方針を整理した。


 1に魂魄置換。これはエルゼの連絡待ち。専門家の話を聞かねば元に戻れるかもわからない。

 2に情報の秘匿。危険性がどれほどのものか分からない以上なるべく周囲には露呈させない。

 3にルルの教育。情報秘匿にはルルにリリの挙措を真似てもらう必要がある。これにはルルに様々な教育を施す必要がある。これはアンナとエルゼに任せればいいだろう。

 4にライルたちへの対応。彼らの思惑は予想はついているがはっきりしていない。とにかくルルが借金返済のために恋人の擬態をしていることは分かった。それでなんとか対応しよう。


「そして問題の解決にあたりしなければならないこと……」

「魂魄置換の、今回の陰謀の首謀者を探すことですねリリ様」

「でもどうやって探すんですかぁ?」

「手がかりが2つあります」


 リリは2人に対して指を2本立てて見せた。


「1つは襲撃者のことですね?」

「ええそうよアンナ。この件は任せてもいいのよね?」

「はい。調書を騎士団の人脈から入手致します」

「やっぱり今回の襲ってきた連中は魂魄置換と関係あるんですか?」

「まだ分かりません。が、タイミングがあまりにも良すぎます。関係性が高いと見るべきでしょう」

「はいリリ様。私もそう思います。ただあまり期待できる情報は得られないでしょう」

「どうしてですか?」


 襲撃者は魂魄置換に関係しており、騎士団に捕縛されたのだ。そこから色々聞き出せるのでは?とルルは思うがどうも違うらしい。


「彼らはおそらく傭兵か冒険者崩れです。ただ雇われただけでしょうから何も知らない可能性が高いでしょう」

「でも雇った人が分かるんじゃ?」


 アンナは首を振って否定した。


「この手の雇い主は彼らに対して素性をきっちり隠しているでしょう。望みは薄いですね」

「そううまくはいかないんですね。リリ様もう1つの手がかりというのはなんですか?」


 これはアンナにも心当たりが無いようで、ルルと2人でリリを伺い見た。


「もう1つは悪徳変態商人さんですね」

「「は?」」


 リリの突拍子も無い発言にルルもアンナも呆けた表情になった。


「えぇと、リリ様?もしかして私の家の借金相手ですか?」

「はい。その相手です。おかしいとは思いませんか?」


 そのリリの投げかけにアンナとルルはますます首を傾げた。


「流行病は人為的なものではないですし、治療費が高騰してうちが借金したのはしょうがないことだと思うんですが?」

「はい。ベルクルド商会は確かに商いにおいても金貸しにおいても評判が悪いですが、ルミエン家が借金したことにおかしな点はないかと」

「そんなに評判悪いの?」

「まあ、ゲームでもベルクルドは悪徳商人で通ってましたから。じっさい噂でもアコギだって聞きますよ」

「リュシリュー家にも御用聞きとして入り込もうとしていましたが、素行に問題があるとのことで門前払いしたそうです」

「そうなの。ではなぜルミエン家はそんなに評判の悪いベルクルドに借金をしたのかしら?」

「元々はベルクルドから借りるつもりはなかったってお父さんが。借り入れをしようとした時にベルクルドが治療薬をちらつかせて借金を迫ったって言ってました」


 アンナがそれを補足する。


「当時この治療薬は入手困難でした。借金したところで手に入るとは限りません。現物を目の前に見せられれば力のないルミエン家ではどうすることもできないでしょう」

「リリ様。確かにベルクルドは悪徳商人で許せません。でも今回の魂魄置換とは関係ないと思います」


 アンナもルルの意見に賛同するように首肯した。


「いいえ。やはりベルクルド商会がこの件に関わりがあると考えるのが妥当だと思います」


 リリはそう述べて一息入れてから説明を始めた。


「ルルの言う乙女ゲームなるものの話ではベルクルドは随分とルルに執着しているように見えます」

「そうですか?単なる女好きでは?」

「一応ゲームの設定では悪徳変態ジジイですからね」

「ルルである必要はないでしょう?お金はあるのですから。それを10年も待つのですか?」

「爵位が欲しかったとかじゃないんですかぁ?」

「それこそ10年待つ意味がありません。爵位なら他にもよい候補があるはずです」

「幼女趣味……でしたら当時に手に入れていたはずですね」

「ええ、それにルルが学園に入学したのもベルクルドの差し金とか。なぜそんな無駄なことを?」


 アンナもルルも答えを持たず黙り込んだ。


「ベルクルドの意図に女性を囲う以外のものがあると見るべきです」

「他の意図ですか?」

「ええ他の意図よルル。私は魂魄置換が誰でも行えるものだとは思わないの。きっと条件があるはず。つまり私とルルの魂魄が入れ替わったのはきっと必然」

「つまりリリ様と魂魄を置換できる人材がルルのみであるからベルクルドは執着しているとリリ様はお考えなのですね」

「そうよ。だってベルクルドはルルに対して大きなお金を動かしている。それに見合うだけのものをルルは持っていることになるわ」

「女性としての価値……はそこまでありませんね」

「ひ、ひどい!私だって十分美少女だと思います!」

「法衣貴族の男爵位では爵位としても魅力はないわ」

「リリ様まで……ううう……我が家の価値って」

「今のルルが持つ最も価値あるもの。それは……」

「リリ様と魂魄置換できることだと?ですが……」

「分かってるわ。しょせん結果論にすぎないわよね」


──でもねアンナ。私がベルクルド商会を怪しいと確信したのには別の理由があるのよ。だって……


 リリはアンナをそっと一瞥する。


──ルルは『悪徳商人』と言っていたけれど『ベルクルド商会』とは言っていなかったわ。アンナがその名を出すまではね。


 一般に知られていないはずの魂魄置換の魔術のことを知っていると思われるアンナ。知人の情報とのことであったが、おそらくアンナは今回の魂魄置換の件に関して隠していることがある。


 そのアンナがベルクルド商会のことを知っており、そのことを韜晦していた。そしてリリがベルクルドに疑惑を向けると、疑惑に異論を述べてきた。まるでリリに近づかせないように……

 ならばその両者に何かしらの関係性があっても不思議ではない。


──さて、アンナはいったい何を隠しているのかしら。


 リリはクスリと笑った。


 何か裏で策動していると思われる専属侍女。

 しかし、彼女はけっしてリリを裏切らない。

 それを分かっているからリリに不安はない。



 リリは専属侍女の隠し事にも怯まない。アンナはリリを裏切らないと信じているから…………


ルル「アンナさんついに本性を現しましたね!」

アンナ「ついにもなにも私に隠す本性はありません」

ルル「誤魔化しはききませんよ!」

アンナ「誤魔化してなどいません。なぜなら私は常に本性をさらけ出しているからです」

リリ「アンナはいつも自分をさらけ出しているものね」

アンナ「リリ様!!!(クンクン)芳しい!(スリスリ)滑らか!嗅覚、触覚のつぎは味覚!(レロレロ)」

リリ「それはダメよアンナ。絶対です!」

ルル「(それは本性ではなく欲望をさらけ出しているのでは)」


誤字脱字などご報告いただけると嬉しいです。

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