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第19話 『侯爵令嬢は自分の力の秘密を知る』

今度こそ10万字?いってるよね?大丈夫だよね?

しかし何年も毎日投稿している作者はすごいですね。リスペクトです。

自分まだ1ヶ月経っていないのに既にへとへとです。


一昨日からの体調不良が執筆に響いてます。

令嬢類最強!ほんとに書き上がるかな~。

今日のチェンジ!は説明回!

でも明日のチェンジ!はギャグパートです。頑張れアンナ!

 リリたち3人が人目を忍んで集まれる場所。

 リュシリュー家の王都の屋敷(タウンハウス)のリリの部屋。

 まだ1日経過していないはずなのに……


──私の部屋か……何もかもみな懐かしい。


 テーブルに着き感慨に浸っているリリの対面に座っているルルは対照的にわたわたしていた。


「バ、バレましたよね?」

「まあ、そうでしょうねぇ」

 焦るルルにのんびり返すリリ。


「ど、どうするんですか?」

「アンナどうしましょうか?」

 おたおたするルルに呑気にアンナに振るリリ。


「とうぜん王妃様に丸投げです!」

「そうねエルゼ様にお任せするのがいいわね」

 淡々としているアンナと飄々としているリリ。


「どうしてそんなに落ち着いてるんですかぁ!?」


 ルルは何か納得できないものを感じた。


「だいいちリリ様のお母さんだって薄情過ぎます。貴族の矜持だか知りませんが、娘が入れ替わったんですよ。それに気がついたなら心配してもいいじゃないですか!」


 ルルは立ち上がりテーブルをバンッと強く叩いた。ルルのこの激しい感情は家族から愛情を与えられなかった前世の傷口(トラウマ)である。


 それは前世で離婚直後の母の無情の沈黙。

 母の行き場のない怒りを向けられた怒り。


 前世の過程でルルは求めて得られなかった愛情。

 リリとメネイヤの愛情が見えない関係にルルは昔の自分を重ねてしまったのだ。


 感情が抑えられなくなったルルの頬を涙が流れ落ちた。

 ルルはハッとして椅子に座ると顔を隠すように俯いたが、嗚咽だけは隠すことができなかった。


 下に顔を向けるルルを見詰めていたリリは席をたちルルの横にそっと移動すると、何も言わずアンナがサッと椅子を用意してきた。


 そんなアンナに視線を送って礼を言って用意された席に着くと俯いているルルの堅く握られた拳にそっと手を乗せた。


 ビクッとルルは体を震わせる。リリに向けた顔は涙でぐちゃぐちゃになっており、リリとメネイヤとの関係がルルの過去の何か嫌なものに抵触したのだとは理解できた。


「リリ様ぁ、わた、し……だって、ヒック、愛してる・・だったら、心配したって、ヒック……優しい言葉かけてくれたって!こんなの……リリ様、ヒック・・かわいそ・・」


──きっと同情してしまっているのね。私と母とそして……過去の自分に。


 かなり取り乱している。ルルは何か愛情に敏感に、怯えて、飢えている。

 違和感はある。あのルミエン家でそれはとても溢れている。

 だけどルルには何か抱えている闇があるのだろう。とリリは思った。


 リリは優しくルルの頭を撫でて、労るようにその頭を胸に抱きしめた。


「大丈夫よルル。お母様は私のことをとても愛してくれているのよ」


「ヒック、ほ、ほんと、に?」


「ええ本当に。だってお母様すぐ私に気がついたでしょ。姿が変わって気づける人は普通いないわ。普段から私をよく見ている証拠。それだけ私のことを見ていてくれているのは愛情の深い証拠よ。厳しい方で誤解を受けやすいだけなのよ?」


 胸に抱かれていたルルはリリを見上げた。

 少し落ち着いてきたのか涙がだいぶん引いてきたようだ。


「ごめんなさい……勝手なことばかり」


「しようがないわ。お母様も私もとても不器用だから。お互い上手く愛情を表現できないのよ……ふふ、ルルはこんな私たちを心配してくれるのね。優しい()


「ちが、私は自分勝手で……」


 何か訴えようとしたルルの唇にリリは人差し指を軽く当てて封じた。


「この話はもうおしまい」


「はい、午後の講義を無断欠席してまで作った時間です。話を進めましょう」


 これ以上はこの話題はルルにとってよくないだろうとリリは話を切り上げ、アンナはその意を素早く正確に読み取った。


 一見すると冷たく感じるアンナの言動。しかし、これこそ彼女が相手を慮っている態度なのだとリリには分かっていた。


「さて、現状を確認しましょうか。アンナ、人格転移ではなく魂魄置換で間違いないのね?」


「魔術の痕跡である魔力残滓とリリ様の状況から見て間違いないかと」


「魂魄置換って何ですか?」


「『非定型魔術』の一つよ。体と魂を入れ替えるの。実験からして非人道的と禁忌術に指定されていたはずよ」


「『非定型魔術』?なんですかそれ」


 ルルは小首を傾げた。頭の上にクエスチョンマークが見えるようだ。


「このお馬鹿。リリ様の姿だと無駄に可愛いのが癪に障ります」


「うう、アンナさんの当たりが強いですぅ」


 2人のやり取りにクスクスとリリは笑った。アンナとルルは顔を見合わせてばつが悪そうだ。


「ルル、現在の魔術は2つの系統に分けられるの。『定型魔術』と『非定型魔術』よ」


 リリが説明を始めるとルルはコクコクと頷きながら聴き入る。


「魔術は大気中の魔力を具現化するものなのはわかっているわよね?その具現化には魔術言語と魔術構文が必要なの」


「はい。大気中の魔力さんたちに私たちは内包魔力を言葉にしてお願いすることで、大気中の魔力さんがそのお願いを聞いてくれるんですよね?」


 魔力を擬人化するルルの表現にリリは笑いながら頷いた。


「そうね。私たちの先人たちは火や水といった目に見える分かりやすい現象を次々と言語化したの。それを『定型魔術』と呼ぶのよ。古典魔術と言い換えてもいいわ」


「つまり言葉で説明しやすい現象ということですね。それじゃ『非定型魔術』というのは……」


「そう。よく理解できていない事象の魔術。こういった魔術は事象を解明できるようになったか、偶然に魔術言語を発見したかしないと構築できないの。医療魔術や身体補助魔術なんかもこれに入るわね。精神魔術もそうね。そして……」


「魂魄置換ですね」


 リリはこくりと頷いた。


「そう。魂魄なんてよく分からないものね」


「はい。ただ私たちが生まれるよりも以前に『魂』を表す魔術言語が発見され一時期研究が盛んになったそうです」


 アンナの補足にリリは「ええ」と肯定する。


「その時の研究から非人道的ではないかと禁忌に指定されたと聞き及んでいるわ」


「今では特別に許可を受けた研究者しか『魂』の魔術言語の使用許可がおりません」


「ということ。分かったかしら?」


 ルルは腕を組みウンウン唸りながら聴いていたが、手の平を拳でポンっと叩いた。


「つまり『非定型魔術』というのは新しい魔術や研究中のものなんですね。そして魂魄置換はそんな中でも研究が制限されていて殆ど分かっていないと」


「そう。一般的ではないし、情報は秘匿されているから私もよく知らないの。だからね……」


 リリは側に控えているアンナに視線を送った。この侍女は相変わらず表情を変えない。


「アンナ、貴女どうして魂魄置換だと断定できたの?」


 リリ自身も魂魄置換もしくは人格転移ではないかと当たりはつけていたが、なにぶん未知の領域だ。断定など無理である。


「じつは、私の知人にこの分野に詳しい者がおりまして、たまたま『魂』の魔術言語の痕跡を辿る術をご教授いただいていたのです」

──なんか苦しい言い訳ね。まあ、否定できるほどでもないけれど。


「それで、私の状況から判断できるのはなぜ?」


「その知人は魔術研究の熱烈な愛好家でして最新の魔術研究にも造詣がありまして、その者が言うには最近では魔力保持容量は魂に依存すると」


「あの~」


 ルルがリリやアンナの様子を伺いながらおずおずと手を上げた。


「体を鍛えると魔力保持容量が増えると聞いたことがあるんですが、魔力保持容量が魂に依存するならおかしいのでは?」


「脳筋どもが狂喜乱舞した説ですね。筋肉に内包魔力が蓄積されるという。は!愚物どもが」

──脳筋のアンナさんには皆さん言われたくないと思う……


 アンナの相変わらず口の悪い、切って捨てた物言いにルルは苦笑いした。


「生物や物質はもともとある程度大気中の魔力を呼吸や浸透で体内に宿すのです。筋肉が若干効率がいいというだけのこと。魂の魔力保持容量に比べれば雀の涙にも劣るもの。そうでなければリリ様がムキムキ筋肉でなければいけなくなります」


 ムキムキのリリを想像してルルはうげっと顔をしかめた。


「生物は魂に魔力の大半を蓄積するということね。その説は聞いたことがあります。体が入れ替わっても魔力保持容量は変わらない。だから私は普通に魔術が使用できたと?でも、ルル自身も魔力保持容量が大きい可能性もあるでしょ?」


「はい。とうぜん理由はそれだけではありません。リリ様は先ほどの襲撃のさいに御者に医療魔術をお使いになられましたね?現在の医療魔術では同時に別々の魔術を行使しなければならず1人で行うことができません。リリ様を除いて」


 確かにリリは何度か『並列魔術構文編纂(デュアルコンパイル)』を使用した。


「ええそうね。『並列魔術構文編纂(デュアルコンパイル)』がないと私にもあれは無理ね。もしかして魂と魔力の繋がりは並列魔術構文編纂(デュアルコンパイル)にも関係しているの?」


 リリは口元を手で覆ってアンナの言葉を咀嚼するようにリフレインしながら思考する。


「魔術言語は魂の中で魔力から変換されるのではないか、というのが最新の知見なのだそうです」


「!!!」


「え?アンナさん、それと並列魔術構文編纂(デュアルコンパイル)とどう関係するんですか?」


「待って、アンナ。ちょっと待って。それが真実なら私の魂は……2つあるということ?」


「なんでそんな結論になるんですかぁ!?」


「リリ様。あくまで仮説です。じっさいはまだ分かっていない分野です」


「いいえ、それなら辻褄が合うわ」


 リリは自分のスキル並列魔術構文編纂(デュアルコンパイル)を使用していながらよく分かっていなかった。この理論上使用不可と考えられているスキル。リリ以外に使用できない力。その原因がとてもまずいものではないのか?とリリは思い始めていた。


「どういうことですか?並列魔術構文編纂(デュアルコンパイル)って同時に2つの魔術を行使するスキルなんですよね。だったら別に魂が2つなくても使う方法が……」


「無いのよ。過去に2つ以上の魔術を行使する方法が色々と模索されたの」


 ルルの疑問をリリは即座に否定した。


「代表的なのが魔術構文記憶編纂法。並列魔術構文編纂(デュアルコンパイル)に最も成功に近いと言われていた方法です。まあ、上手くいきませんでしたが」


「どんな方法なんですか?」


「魔術構文を文字列として扱うのではなく、2つ以上の魔術構文をあらかじめ絵のように記憶して、その記憶をもとに魔術構文を編もうとしたの」


──なんだか前世の右脳人間の映像記憶みたい。


 リリの話を聞きながらルルは前世の記憶に似た話があるなと思った。

 じっさいにこれに当たる。映像記憶もしくは写真記憶、直感像記憶とも呼ばれる能力だ。


「だけど、どちらも発動しないか、片方のみ発動するかのどちらかだったの」


「これにより魔術言語は単純に記憶や思考だけで発生させるものではないと証明されてしまいました」


「そしてもう1つ、誰もが思いついた魔術構文交差編纂法ね。これは2つに魔術構文を構成する魔術言語を交互に生成させる方法よ」


「ですが交互に生成した魔術言語は2つ目の構文の単語を生成した瞬間に1つ目がリセットされてしまったのです」


「そして1つ目を再び生成しようとすると2つ目が消えてしまう」


「上手くいかないものですねぇ」


 リリとアンナの解説にルルは呑気な回答を返した。


「ええ、だけど魂と魔力の関係が真実ならこれらの方法が失敗した理由になるわ。魔術構文交差編纂法なんて特にそうね。きっと魂の中で魔術言語を編んで魔術構文を作っているんだわ。いつも発動部位で綴っているとおもっていた魔術構文は魂の内で編んだものが表層に順次現れたもの……」


「どういうことですか?」


「魔力は毛糸、魔術言語は編み目、魔術構文は編み物ということよ。同じ毛糸で同じ編み棒を使って同時に2つの違う編み方と編み物を作ろうとしても無理でしょ?」


「つまり魂が2つあれば毛糸も編み棒も2組あるから同時に2つの編み物を作れるというわけですね」


 ルルにもリリの言わんとするところが理解できた。リリはこの魂と魔力の関係に関する知見はおそらく正しいと結論した。


「魂を2つ持つ存在しか並列魔術構文編纂(デュアルコンパイル)が使えないなら、ルルーシェ・ルミエンの体にいる魂はリリーエン・リュシリューのものであるという証左。つまり、私とルルの魂が入れ替わっていることの証明になるわ!」



 リリは魂が2つあっても困らない。けっきょく自分はリリーエン・リュシリューでしかないから…………

ルル「今日の話はいけません!」

アンナ「どうしたんですか?」

ルル「知恵熱がでそうです!作者も出しました!」

アンナ「そういう危険なセリフは吐いてはいけません」

ルル「だってこんなの『チェンジ!』じゃありません」

アンナ「ですが、今日の話は物語の根幹に触れる大事な部分なんで外せませんよ」

ルル「物語なんてどうでもいいんです!『チェンジ!』の存在理由はアンナさんの馬鹿話です!!」

アンナ「貴女わたしをそんな目で!!」


誤字脱字文章ミスなど教えてくださると助かります。

見捨てず読んでくださると嬉しいです。


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― 新着の感想 ―
[一言] 今回の話は自分には少し難しかったです^^; ルルと同じく知恵熱が出そうになりました。 でもこういう細かい設定は小説の醍醐味なので、 作者様のお好きなように書いてください♪
[良い点] リリに何やら秘密が!? これからの展開が楽しみです ただルルの言うようにアンナとの絡み希望w
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