第16話 『侯爵令嬢は既知との遭遇をはたす』
「それでは私はこれからリュシリュー様のところへ向かいます」
昼食も済み4人は今後の『マリークラス』について話し合い、ある程度の概要を取り決めたところでリリはおもむろにに立ち上がった。予定通りならばそろそろリュシリュー家の馬車が学園に到着する頃合いだ。
「分かりました〜」
「勧誘の方は任せて!」
「勉強会の開催が可能か先生に確認しときますわ」
軽く頷き略式でカーテシーをして皆の前を辞して、リリは学園内の馬車乗り場へ足早に向かった。学園での懸念があり、そのため急いでルルーシェ・ルミエンに接触する必要を感じていたからだ。
……そのせいでリリの去り際の綺麗な所作にマリーが目を大きく見開き驚愕の表情で見送ったことにリリは気がつかななかった。
そんなリリを急き立てる懸念、それは、
──間が悪い……
ちょうど目の前からやってきた。
ライルの側近その1、近衛騎士団長マスクル公爵の嫡男マクウェン・マスクルだ。
蜂蜜色の髪を刈り上げ、爽やかな顔をした……脳筋だ。全身鍛え抜かれた自分の筋肉を愛する真正の脳筋だ。しかし、その筋肉はサージェイには遠く及ばない。それなりの筋肉の脳筋だ。
「見つけたぞルミエン!殿下が……」
「これはマスクル様。それではご機嫌よう」
「おい待て!今会ったばか……なっ!速っ!」
何やら取り巻きMの筋にくん……もといマクウェン・マスクル侯爵令息が煩い。が、最後まで喋らせず構わず疾風の如く通過。
リリは更に加速する。歩いているはずなのに速い!
しかし、マクウェンを置き去りにしたリリの前方から新たなお邪魔虫が。
ライルの側近その2、王宮魔術師団長ワズマン伯爵の嫡子ミッシェル・ワズマンだ。
明るい赤髪に甘いマスク。さすがに王宮魔術師団長の息子だ魔力保持容量は大きい……が魔術の腕はイマイチだ。この男は顔だけのチャラ優男だ。いつも女の子に声をかける正真正銘のホスト系チャラ男だ。
「やあルミエン君。探したよ……」
「これはワズマン様。ご機嫌麗しゅうございました」
「え!?過去形!」
その顔で女の子に袖にされた経験が無いのか風になったリリを茫然と見送るミッシェル。リリは更に速度アップ。もはや走っているのと変わらない。
そして二度あることは三度ある。
ライルの側近その3、我が国の宰相ゲニール侯爵の跡取りムゥレン・ゲニールだ。
黒髪に切れ長の目。伶俐な顔つきに眼鏡をかけた切れ物を彷彿とさせる風貌……だけの見せかけ男だ。本人は冷徹なつもりでいるが涙もろい、情にもろい、ついでに意思もももろい、まごうことなき薄弱系お人好しだ。
「これはルミエン嬢……」
「こんにちは。そして、さようなら」
「扱いがぞんざい!?」
もはや突風となってぶっちぎるリリ。
──今ルルーシェの状態でライル様にお会いするわけにはいかないのです。
会えばルルではないことが露見するだろう。今はまだ状況が整理できていない。先にルルーシェと合わなければならない。
リリはルルが噂の通りライルと浮気しているとは思っていない。
今までの密偵からの情報、ルルの家族から薄々感じていたが、ライルの側近3人の呼び掛けで確定した。3人ともルルを『ルミエン』と呼んだ。ライルとルルを含めて5人でリリの前に来た時は甘く恋人に語りかけるように『ルル』と愛称で呼んいたのにだ。
──やはり浮気は演技!まさかとは思いますが爵位差を笠にしてルルーシェに浮気の演技の強要を!?
だとすれば由々しきことだ。ルルーシェはライルとの浮気の噂でクラスから、いや学園から孤立しているのだ。
が、リリはこの考えをすぐに否定した。
──いえ、人の良いライル様と人畜無害のあの3人にそのような真似はできませんか。
そして三度あることは四度あるもので……
あと少しで馬車乗り場へ到着するところで1人の男性と出会ってしまった。
輝くような金髪に深く美しい青い瞳。優し気で整った容貌ではあるが軟弱な雰囲気はない。先程のミッシェルのようなチャラ男ではない。
100人が100人とも正統派美男子と認めるだろうリリの前に立ったこの人物こそリリの婚約者ライベルク・シュバルツバイス王太子殿下……ライルである。
──どうしてライル様がこんなところに!
さすがのリリも一国の王太子に先程のようなぞんざいな態度は取れなかった。
「これは殿下。このような場所でお会いできるとは恐懼の至り」
「ルミエン嬢。良いところであった」
──ライル様も『ルミエン』と。
もう確定だ。
ルルとライルは浮気をしていない。
しかし、ライルの思惑に予想はあるが情報が不足している。あまり話せばボロが出る。
「殿下、申し訳ございませんが、本日はこののち予定がございまして……」
リリは王太子の非礼にはなるが学園内でのことだと思い切った。
「そうか……それはすまないことをした」
本当にすまなそうな顔をするライルにリリはズキリと罪悪感を少し感じたが、現在の状況ではやむを得ない。
「それでは御前失礼させていただきます」
制服なので略式しかできないが、リリはなるべく所作に気持ちを乗せてカーテシーをすると気持ち急いでその場を離れた。
「え?リ…リ?」
礼の所作にライルは目を見開き、リリの後ろ姿を茫然と見送った。
魔術を使っているのかリリは歩きの筈なのにあっという間に視界から消えた。
「いや、確かにルミエン嬢だった、が……」
ライルはしばらく口元を手で覆ってその場に佇み黙考していた。
「そんなはずは……」
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色々な邪魔が入ったが、リリは無事(?)馬車乗り場に到着した。
遠目から車体の扉にリュシリュー家の家紋が施されている馬車が目に留まった。たった今到着したようだ。
中から見慣れた侍女が現れ、その手を借りて絶世の美少女が降りてきた。
黒より少し茶色に近い髪を引っ詰めて、隣の美少女に少し似た美しい面貌に眼鏡をかけた伶俐な印象を与える侍女服の女性。
絹の如く艶やかで滑らかな黒髪。澄んだそれでいてサファイアの如く深い青の瞳。制服から覗く手足は細く長く、その肌はきめの細かい白色。誰もが息を飲む絶世の美少女だ。
──じ、自分の姿を美少女と言うのは恥ずかしいものがあります。
内心の気恥ずかしいさを臆面にも出さず、リリは2人に近づき一礼した。今のリリーエン・リュシリューがルルーシェ・ルミエンとは限らない。
相手がどのような反応を示すかまずは様子見である。リリは顔見知りの侍女に声をかけた。
「ご機嫌よう。アンナ・ギムレット様」
今のリリは男爵令嬢でありアンナはギムレット子爵令嬢である。その立場をきちんと示し、リリはカーテシーをする。
リリに声をかけられたアンナは体をリリと美少女の間に入れ目を細めてリリを観察し始めが、すぐに警戒を解いた。
「ふむ……リリ様ですね」
「あら、お分かりになりまして?」
「当たり前です。何年リリ様の専属侍女やっていると思っているのですか」
リリーエン・リュシリューの方が硬直気味なのが少し気になったが、アンナとの接触した感触は悪くない。
「では、その姿がルルーシェ・ルミエンなのですね」
リリは頷きながら安堵した。
今のアンナのセリフには現在のリリーエン・リュシリューがルルーシェ・ルミエンであることを示唆しているからだ。
この体がルルーシェ・ルミエンと分かったということはリリーエン・リュシリューと入れ替わったルルから素性を確認したことに他ならないからだ。
──やっと会えましたねルルーシェ・ルミエン。1日と立っていないのに随分長く感じました。
リリは未知との遭遇も困らない。やっと会えたルルーシェはもう既知だから……
ルル(*´▽`*)「わーいやっとリリ様にお会いできたぁ」
アンナ( ノД`)「ううう……長かった」
ルル(o´▽`)「ホントですねぇ。1日立っていないのに3週間くらい経過した気分です」
アンナ(;゜Д゜)「ルルは相変わらず危険なぶっこみを……」
ルル(^O^)「あ、殿下と取り巻き3人も登場してる。殿下ステキですねぇ」
アンナ(-_-メ)「蛆虫どもが!あんな連中ルルにあげますよ」
ルルヽ( ̄▽ ̄*丿「えぇ!好みじゃないですぅ」
アンナ(`A´)「貴女ミジンコどもを篭絡してたじゃないですか!」
ルル(=´▽`=)「あれは契約だからなぁ。私ゲームでは王弟殿下オシでしたし」
アンナ( ゜Д゜)「30過ぎですよ!?ルルはオジサン趣味だったのですか」
ルル(´∇`)「包容力があってステキじゃないですかぁ」
アンナΣ(゜▽゜;)!!「(この娘あいてに親の姿求めて……)そ、そうね」
ルル(´∇`)「まあ、現実では遠慮しますけど!アンナさんにあげます」
アンナヽ(`Д´#)ノ「ルル!貴女というひとは!!」
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