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第15話 『侯爵令嬢はマリークラスを設立する』




「私ルルーシェ・ルミエンはここに『マリークラス』の設立を提言します!」

「マ、マリークラスですの!?」



 動揺しまくるマリー。

 突然自分の名前を冠するクラス設立を提言されたのだから無理もない。



「はい!やる気のある級友を集めてクラスの学力を向上するのです」

「講義を受けられないなら自分たちで結集して対処するのね」

「独力よりも〜効率良さそうです〜」

「それはいいのですが何故『マリークラス』なんですの!?」



 マリーの訴え虚しく3人に話しは進んでいく。



「私思うんです。伯爵位の子女たちも現状に鬱屈(うっくつ)して腐っているだけではないかと」

「幼少期に家で学び自分の能力に自尊心もあったけど、学園に入ってみれば高位貴族最底辺のクラス。その現実に気持ちのやり場が無いのかもしれないわね」

「それが〜あんな受講態度になったんですね〜」

「ええ。家ではそれなりに勉強してきているのです。あの状態がもとからの彼らではないと思うのです」

「それは分かりましたわ。でも『マリークラス』である必然性は……」



 マリーの疑問は無視され、再び大きく頷いたリリはそのまま話を続ける。



「はい。ですから嫌がらせや学級崩壊をさせても自分たちが超えられてしまうという不安を与えるんです」

「彼らも嫌がらせではなく努力しないといけない事を認識させるのね」

「まあ確かに彼らの態度も変わる可能性はありますわね」

「そうだといいですね〜」

「少しずつ周囲を巻き込みましょう。少しずつでいいんです。そのうち嫌でも懸命になる必要が出ます」



 リリはエルゼとの組み手を思い出していた。



「彼らが努力することを思い出せば……人間がむしゃらになれば鬱屈した気分なんて吹き飛びますし、嫌がらせをする余裕も無くなります」



 ああ、エルゼ様は私に余計な事を考えないようにもさせていたんだ。と改めてリリはエルゼが飄々としながら心を砕いてくれていたのだと悟った。



「話しは分かりました〜ですが〜」

「ええ、問題があるわ」



 サラは相変わらずおっとり顔だったが、カーラは少し厳しい顔つきになった。その2人の様子にマリーは首をひねりキョトンとした表情になった。



「何ですの?良い案だと思いますわ」

「実現できればね」


「ルルさん。私も良い案だと思います〜。だけど〜」

「優秀な講師がいないわ」


「あと〜声を掛けても〜」

「私たち以外に集まる人がいるかどうか」


「大丈夫です!私に考えがあります」



 彼女らの懸念(けねん)はリリも理解していた。そして彼女らの懸念に対処する方法こそリリの一石三鳥の秘策に繋がるのであった。



「リリーエン・リュシリュー様にお越しいただきましょう!」

「「「はぁ!?」」」



 リリの発案に、間の抜けた声を上げて口を半開きにした淑女にあるまじき表情の3人の様子に、リリはしてやったりといった顔をした。



「3人の話から一部反感を持つ者もいるようですが、大半の生徒はリュシリュー様に崇敬(すうけい)の念をお持ちなのでしょう?もしあの方がご指導くださるとなれば」

「た、確かにリュシリュー様が教えてくださるとなれば参加を表明する生徒は多数いると思いますわ」


「そうね。講師の件も人集めの件も一気に解決するわね。でも……」

「どうやって〜お招きするのですか〜?」


「マリーにお願いしてもらう?」

「む、無理無理無理無理無理ですわ!」


「ダメ?夜会で面識があるのよね」

「そんなの二、三言声を掛けていただいただけですわ。私ごとき記憶しているはずありませんわ!」


「マリーも〜そうとう美人だけど〜?」

「私などリュシリュー様に比べたら有象無象の貴族令嬢ですわ。木っ端ですわ。塵芥ですわ。歯牙にもかけられておりませんわ」



 まあ実際は夜会でのマリーは目立ちまくって衆目を集めており、リリもその挙措(きょそ)の素晴らしさから彼女のことを記憶していたのだが。


 そんなことを知らない彼女らにとってリリは雲の上の存在だ。気安く接するのは無理であろう。


 しかし、ここで『リリーエン=ルル』を入れることが、この計画の最大のポイントである。この勉強会に『リリーエン=ルル』が参加できればリリと3人とに面識ができたという事実が生まれる。リリたちが元に戻った後もお友達になってくれるかもしれない。


 またルルの方も『リリーエン=ルル』として参加しておけば、元に戻った時に3人と仲良くしても違和感がないだろう。


 これは私たち(リリとルル)に友達ができるかもしれない瀬戸際なのだ!

 だから、リリは折れるわけにはいかない。



「お任せください!私に伝手(つて)がありますから」



 リリは自信満々に薄い胸を拳で叩き大見得を切ったが、まあ自分自身のことなので当たり前である。



「ですので3人には勉強会に参加して貰えるめぼしい人を集めて欲しいのです」

「分かったわ。現状に不満のある人は少なくないしね」

「はい〜。当てはこちらもありますから〜」

「私もそれについては了承いたしましたわ。ですが……」



 リリたち3人は頷きあったが、マリーはまだ納得がいかないことがあるといった体であった。



「……何故『マリークラス』なんですの?」



 これだけは認められない。

 いや認めてはならない。


 マリーは予感がした。

 ここを譲れば大変なことになると。

 だから元凶であるリリを詰問した。



「ルル。そのような名前は認められませんわ」



 この命名者はリリだ。自然とカーラとサラの視線もリリに向けられた。皆の注目を集めたリリは目を閉じて腕を組み、さも勿体ぶった雰囲気を醸し出していた。



──誤魔化せたと思ったのですが。まずいです。まさか勢いだったとは言えません。



 内心はこんな感じであったが……



──しかし、もはや『マリークラス』以外考えられません。ここは勢いに任せて説得しましょう!



 そこは王太子妃候補である。

 リリは交渉術にも長けている。


 交渉は綿密な事前準備が重要だが、時としてアドリブも必要になるのだ。もっともらしい言い訳など秒で捻り出せる。


 リリは席から立ち上がるとマリーの横まで近づきガシッとマリーの両肩を掴んでリリはマリーの目を覗き込むように見詰めた。交渉せっとくには言葉と演出が重要なのだ。



「マリー、クラスが一丸になるためには仲間意識が必要です。クラスに名前をつけることで、同じクラスに所属する仲間だと意識させるのです。そうすれば不思議と人には連帯感が生まれるのです」



 一気に捲し立て、カーラとサラに「そうですよね?」と同意を求める。その気迫と何となく説得力のあるセリフに押されて2人はコクコクと頷いた。


 相手てきに反論の余地を与えてはいけない!

 さらにリリの言い訳は続く。



「その証左に他のクラスを見てください。同学年なら『殿下クラス』とか、上級生では『マルチーニクラス』とか。連帯感の強いクラスはそのクラスの顔とおぼしき人名で呼ばれています。つまり我がクラスの顔マリアヴェル・コラーディンの名前が必要なのです!」



 リリの婚約者の王太子ライベルク(愛称ライル)は成績優秀で人当たりも良い人格者と見られており、女生徒を中心に人気がある。そのため『殿下クラス』と呼ばれている。当然この学年トップのクラスだ。因みにリリもこのクラスだが妃教育で滅多に学園にいないので名前は使われなかった。


 また、2つ上に学園きっての俊英と呼ばれる伯爵令息ムルティ・マルチーニがおり、『マルチーニクラス』と呼ばれてやはり学年トップのクラスである。



「その2人と並べられるのはきついですわ!」


 だが、マリーもさる者。

 簡単には言い包められはしない。

 徹底抗戦の構えだ。


 しかし、ここでマリーにとって思わぬ伏兵が現れた。



「だけどルルの言い分も頷けるわ」

「そうですね〜。名前は確かに大事です〜」

「だからって私に名前でなくてもよろしいのではなくて!?」



 カーラとサラは乗り気のようだ。

 もう一押しだとリリはほくそ笑む。

 エルゼに毒されているリリは少し悪い顔だ。



「マリーの名前でなくてはいけないのです」

「どうしてですの?」

「それは……」



 もったいぶって溜めを作るリリに、ゴクリと生唾を飲み込む3人。



「マリーが1番可愛いからです!!」

「意義なし!」「意義なしです〜」


 即答するカーラとサラ。



「何ですのその理由は!?」

「可愛いは正義と私の知人が言ってました!」

 その知人はアンナです。


「意味が分かりませんわ!」

「古今東西、旗印は見目が良いのを据えるものだと私の知人が言ってました!」

 それもアンナです。


「普通そういうのはカリスマや能力で決めるのではありませんの?」

「人を惹きつけるのはカリスマでも能力でもない。顔だと私の知人が言ってました!」

 アンナしかいません。


「その知人は絶対におかしいですわ!」


 マリーの至極当然な反論。

 その点はリリも否定できない。

 リリも常々そう思っているから。


 しかし、交渉においては自分の主義主張などどうでもいいのだ。現在の主張をいかにして通すかなのだ。その主張が正しいか誤っているかなど二の次三の次、なんなら四以降になくてもよい。


 既に場は温まっている。

 勝機!

 リリはここで勝負にでた。



「議決します!」

「承認!」

「承認です〜」

「断固拒否ですわ!」


「満場一致で私の提言は受理されました。ここに『マリークラス』の設立を宣言します!」

「私は承認していませんわ!?」



 マリーの意見は聞いていない。

 リリは高らかに宣言をした。


 カーラとサラがパチパチと拍手をしている横で無視されたマリーが涙目だ。


 こうしてリリの機略によりマリーの犠牲を払って『勉強会でクラス改革!ついでに友達何人できるかな?計画』別名『リリ(ルル)の友人補完計画』が始動したのだった。



 リリは詰問されても困らない。マリーが一番困ってます……



ルル「うへへへへ。友達いっぱ~い」

アンナ「いけません。ルルが『現実が判らない夢の住人』になってしまいました」

ルル「嬉しいなぁ♪嬉しいなぁ♪」

アンナ「このままでは『夢と現実の狭間の国』から帰ってこれなくなります!」

ルル「んふふふ。リリ様、マリー、カーラにサラ。みんな私のお友達ですぅ」

アンナ「しっかりしなさい!そっちに行ってはダメです!現実に戻ってくるのです!私に還りなさい!」

ルル「あ~アンナさんだぁ。アンナさんも友達にしてあげるからこっち(狭間)においでよぉ」

アンナ「絶対イヤです!!!」


夢と現実の狭間の国を知りたい方は『超天使ロ女バトラ☆エンジェル』(八割れネコ様)を参照してください。

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― 新着の感想 ―
[良い点] マリークラス! すごくいいですね(*´∀`) このままお友達グループになってほしい!
[気になる点] 中盤の方で 『また、2つ上に学園きっての俊英と呼ばれる伯爵令息ムルティ・マルチーニがおり、『マルチーニクラス』と呼ばれてやはり学年トップのクラスである。 「その2人と並べられるのは…
[良い点] 何気にリリがひどいw でもまあマリークラスしかないですよね 後書きのルルとアンナがいつもいい感じですd(^_^o)
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