第14話 『侯爵令嬢はクラス改革を宣言する』
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──エルゼ様のおっしゃる通り。友達がいて、笑いあえれば退屈とは無縁です。
『退屈』
エルゼがよく使うこの言葉に対する彼女の想いは、単純に面白おかしいことが無いことを指しているのではないとリリは悟った。
『退屈』は人生の色を奪い白と黒だけの世界を作る。
『退屈』は人生が無味で無価値なものと思わせる。
『退屈』は人生を腐らせて人をも腐らせる。
そして『退屈』は人生から生きるために大切な活力を奪う。
──『退屈』しないことは『今を楽しむ』ことだけど、それだけの意味ではないのね。
今更ながらエルゼの想いを知って、リリは彼女がとても遠い存在のように思えた。「はたして私はあの方の様な素敵な王妃になれるかしら」と。
リリ達4人は、ひとしきり笑うと食後のお茶に手を伸ばしながら会話を続けた。
周りの男子生徒たちがチラチラと気にしていたり、気のない振りして聞き耳を立てているのはご愛嬌だ。
みな多感なお年頃なのだ。見目の良い女子が絡み合っている姿に興味を持つなという方が酷である。
カーラはそんな男子どもに気がついており、時折チラチラ(特にマリーを)見てくる男子にふふんと勝ち誇った様な、鼻先で笑うような何とも言えない視線を返して牽制し、慌てて視線を外す男子たちの姿を見て楽しんでいた。
「しかし意外ね。ルルがこんなに楽しい性格だったなんて!」
「まったくです〜。もっと早く仲良くなるべきでした〜」
「本当にそうね。これなら毎日楽しいわ」
「ルルさんは〜入学当初〜何か思いつめた感じで〜」
「うん。ちょっと取っ付き難かったかな?」
サラのゆったりした喋りに対し、カーラははきはきしている。そんな2人の会話はお互いを補完する様で息が合っている。対照的な2人だが昔からの知り合いらしく、仲はいいらしい。
「だけど〜マリーさんったら〜」
「ふふふ。最初からお構いなしにルルに絡むんだもの」
「わ、笑わないでな下さいまし!私はクラスを少しでも良くしたくって」
「分かってるって。マリーは凄くいい娘。頑張り屋さんだし」
カーラは少し憤慨気味のマリーの頭を撫でる。途端にマリーの顔が真っ赤に変わった。そのマリーの変貌を堪能したカーラの顔が少し曇った。
「本気でこのクラスを変えようとしていたのはマリーだけだった。そんなマリーを馬鹿にする奴らもいたけど。ゼルマイヤたちもそう!ルルがやっつけてくれてよかったわ」
「あれは〜胸がスッとしました〜」
「私が馬鹿にされる事はどうでもいいのですわ。それよりもクラスの状況を変えることの方が重要なのですわ」
マリーの力説にサラとカーラは顔を見合わせて溜め息をついた。
「本来このクラスは下位貴族にとっては優秀な部類が集まっているの」
「だから〜最初は喜んだんですけど〜」
シュトレイン学園では成績と爵位を基準にしてクラスを分ける。
成績は当然だが何故爵位を基準とするのか、それは伯爵位以上の子息は、基本的に幼少期より家庭教師から学ぶ者が少なくないからである。その結果、どうしても上位貴族と下位貴族では入学時の基礎学力に差がでてしまう。
しかし、それはあくまでも入学時である。
たんに勉強の機会のないだけで、才能溢れる若者は下位貴族にも数多いるのである。そこで、上位貴族と下位貴族を分け、行う講義もそれぞれに合わせたものにすることで、効率よく能力を伸ばすことを目的に爵位をクラス分けの考査に入れているのである。
つまりこのクラスの下位貴族は独力で学力を身に付けた成績優秀者なのである。逆に言えば伯爵位以上の子女は高位貴族にあるべき基礎学力が足りていないことを意味する。
一概に全てとは言えないが、伯爵位以上でこのクラスにいる生徒はゼルマイヤ・ダマルタンの様に性質の悪いことが多いのだ。
「一部の生徒たちの素行が悪すぎますわ!しかもその一部が高位貴族なんて許せませんわ!」
マリーも同意して憤慨し始めた。
「ノブレス・オブリージュ。お爺様がよくおっしゃっていましたわ。『貴族たる者、与えられたその身分に恥じない相応しい振る舞いを心掛けなさい』と。貴族は上位であればあるほど、皆の規範となるよう心掛けなければならないのですわ!」
ぐっと拳を握りしめて力説し決意するマリーを見て、リリは改めて好感を持った。
──前コラーディン伯爵様の薫陶を受けているのね。だからマリーはどこか正義感が強いのかも。いい娘ですが、貴族としては生きづらいかもしれませんね。
何とかしてあげたいとリリは思う。それ程にリリはマリーを好きになっていた。
彼女は見た目に反して努力家なのだ。そのことをリリは知っていた。
じつは、リリはマリーのことを前から知っていた。じっさい最初にリリの前にマリーが現れた時にそれ程面識のないマリーの名前を覚えていた。その理由は夜会で彼女が周囲に抜きん出て目立っていたからだ。
その華やかな美貌が目を引いたのもあるが、それを引き立てる立ち振る舞いが素晴らしい。姿勢がまず良い。きっちり体幹を鍛えているのだろう。爪先から頭の天辺までぶれることのない優雅な歩み。ダンスではターンをしても軸が崩れない。
礼儀作法も申し分なく、会場で少し話した程度であったが彼女の印象は悪くなかった。
その夜会において若干16歳にして場を圧倒していた。学園の言動はちょっとアホっぽ……ずれているが。
それらのことを努力もなしに少女でしかない彼女ができるはずもない。表に見せない労苦を重ねていることは間違いなかった。
──それにカーラやサラも……
カーラもサラも頑張り屋なのだ。上を目指して努力している。この2人は子爵令嬢ではあるが、たいして裕福な家ではないらしく学園に入るまでの勉強は独学であったらしい。家庭教師も雇えない彼女たち下位貴族にとってこのクラスに入るには並大抵の労力ではなかっただろう。
──できればこのまま関係を構築していきたいのですが。
この頑張り屋さんの3人に好意を持った。
しかし、この関係はいつまでも続けられない。
何故ならこの関係は偽物だから。
今のルルは中身がリリだ。
彼女たちはルルと思って友達になってくれた。
元に戻ればリリは彼女たちとお別れである。
リリはチクリと胸に寂しさを伴う痛みを感じた。
そしてもう一つ問題が……
この状態で元にもどったらルルは大丈夫だろうか?
ルルがどういう魂胆でいるのか未だ不明だが、ルミエン家でのことを思い起こすと、リリは彼女がそんなにも悪い娘ではないと思えた。
だからこそルルには3人との友人関係を構築して欲しい。それはきっとルルにとってプラスになることだと思うから。
「仕方ないわよ。下位貴族にとって成績上位のクラスでも伯爵家の者にとっては成績の振るわなかった者たち」
「高位貴族のクラスから〜溢れた方々ですから〜素行もあまりよろしくないのですね〜」
「ううう、私も溢れた伯爵令嬢ですわ……」
落ち込むマリーの頭をカーラが優しく撫でると、ちょっと涙目をしたマリーが顔を赤くしながらカーラを上目遣いで見た。その途端、少しカーラが動揺したように見えた。あれは絶対に可愛いと思っている。
「令嬢の場合は少し話が変わるでしょ」
「学んできた内容も〜社交の知識や礼儀作法、ダンスあたりでしょ〜?」
マリーを慰めているのか、カーラとサラは言い繕うとマリーも同調して頷いた。
「貴族令嬢ですから当然なのですわ。貴女たちも同じなのではなくて?」
「私たちの場合は家が貧しいから、結婚よりもいい成績とって就職を考えているのよ」
「貧しい下位貴族は〜みんなそんな感じですよ〜」
「就職先でいい相手がいれば御の字ね」
マリーの様な高位貴族は多くの特権を与えられる代わりに、王家と臣民に義務と責任を負う。それがノブレス・オブリージュであり、高位貴族の令嬢たちは政略結婚をすることが基本となる。
しかし、カーラやサラのような下位貴族は一部例外を除き与えられる特権はそれ程でもない。だからこそ令嬢たちも政略結婚を求められることはあまりない。
「そうですね。上位貴族の令嬢は婚姻を目的としている方が多いですので、学園での成績はあまり考慮されていないのではないでしょうか?」
「そうよマリーは伯爵令嬢なんだから、花嫁修業の方が重要でしょ?」
「そうですよ〜。あれもこれも何てできませんよ〜」
リリの言葉にカーラとサラは同意を示したが、マリーはどこか納得のできないという顔をした。
「同じ高位貴族令嬢の立場であられるリリーエン・リュシリュー様は、学業も魔術も秀でていらっしゃいますわ。きっと並々ならぬ努力をなさっておいでですわ!」
そう言って強く主張したマリーは、しかしすぐに落ち込んだ表情になった。
「私は亡くなったお爺様に対して顔向けができませんわ。きっと努力が足りないのですわ。私は貴族の一員として恥ずかしいですわ」
多分努力が足りないのではなく、努力が空回りしているのではないかと、リリのみならずカーラもサラも思ったが、口にしたのは別のことだった。
「あの方は別格よ」
「侯爵令嬢にして〜王太子殿下の婚約者で〜」
「成績も学園一で魔術の腕も超一流」
「噂では〜魔天に名を連ねるとか〜」
「それでいて驕ったところもない温和な人柄」
「くわえて〜あの類まれな美貌ですよ〜」
「もういったい天はあの方に二物どころか何物与えているのか」
リリは照れた。
恥ずかしくなった。
居た堪れなくなった。
彼女たちは認識していないが本人が目の前にいるのだ。無自覚の誉め殺しだ。アンナからはよく容姿を褒められる。褒めちぎられる。褒められまくる。なんなら褒め言葉しか出ない。
しかし、相手はあの変態だ。特に感慨はない。そんなものだとしか思えない。なんなら聞き流してもいる。
しかし友人からの無自覚な褒め言葉は、彼女たちの心情がストレートに入っているので思った以上に心にくる!
──お友達に褒められるのがこんなにくすぐったいとは!
「皆さん、リュシリュー様もそんな何でも出来るわけではなく、きっと努力なさっていると思うのですが」
何とか話しの流れを変えようとしたが、それは悪手であった。
「そんなこと当たり前よ」
「あれだけ多才なのです。水面下で常人の努力を遥かに超越しているに違いないのですわ」
「間違いないです〜」
「口さがない奴らが才能に胡座をかいた高慢令嬢って言ってるけど」
「涼しい顔で表面に見せないだけですわ。私も見習いたいのですわ」
「尊敬ですよね〜」
「私の目標なのですわ。一度だけ夜会でお見かけしたのですが、その美しい装いで優雅にダンスをされるお姿はまるで女神の様で……」
「あ、その話し聞きたい!」
「あれは王宮の夜会で、私リュシリュー様に初めてお声をかけて下さったのですが……」
マリーたちの礼讃賛美が続く。
3人の無自覚精神攻撃にダメージを受け、ぐはっと血を吐きそうになるリリ。
──な、なんですか!私はこんな神格化されていたのですか!?
これでは遠巻きにされ友達ができないのも頷ける。自分のことながら、自分でもそんな人に近づくのは躊躇われる。
──エ、エルゼ様は偉大です。あの美貌、あのカリスマ、あの俊英ぶりで『赤猿』ですよ。親しまれつつ侮られない。あの域はもはや神域です。
自分には無理だとリリは再認識した。
──エルゼ様の真似は無理です。3人との友情、ルルーシェとこの3人との架け橋。何か良い手はないものでしょうか?
他にも彼女たちがせっかく努力して入ったクラスなのだ。この学級崩壊の現状も何とか助けてあげたい。問題は山積している。
う〜ん。う〜ん。とリリは悩む。
「やっぱりリュシリュー様は憧れます〜」
「憧れるだけではいけませんわ!私たちも相応の努力をしないと!」
「そうねぇ。リュシリュー様とまでいかなくとも勉強を何とかしないと」
「ですが~そのためには~講義の状態を改善しないと~」
悩んでいる間に3人の会話が進んでいたが、リリはこの言葉で天啓を受けた。
──これです!友情とルルとクラスの改善の一石三鳥の妙案!
「皆さんはリュシリュー様のことを尊敬なさっているのですね」
「もちろんですわ!」
「それにクラスの状況も改善したいと」
「その2つの関連性がよく分からないけど、そうね」
「今のままでは〜いけないと思います〜」
うんうんと腕を組んでリリは頷き3人の前に人差し指を立てて提案した。
「そこで提案です!皆さんで勉強会をしましょう」
「「「勉強会?」」」
「はい。クラスの状況改善のための第一歩です!」
そこで一息切ってマリーたちを順に見回しリリは高らかに宣言した。
「私ルルーシェ・ルミエンはここに『マリークラス』の設立を提言します!」
リリは学級崩壊でも困らない。むしろそれを利用します……
ルル「えへへへへ、あれ私のお友達」
アンナ「(友達のできない憐れな娘だったのですね)そ、そうですね」
ルル「お友達~♪お友達~♪」
アンナ「(あれはリリ様が……元に戻れば、あ、涙が……)よ、よかったですね」
ルル「嬉しいなぁ~前世含めて初めてです!」
アンナ「(あ、もうだめ、見ていられません!)ルル!私もお友達になってあげますよ」
ルル「え~アンナさん鬼畜だからいいですぅ」
アンナ「ルル!貴女という人は!」
誤字脱字報告や感想など頂けるとありがたいです!
拙い文章で申し訳ありませんが、今後ともよろしくお願いします!
拙著『令嬢類最強!?~悪役令嬢わたしより強い奴に会いに行く~』も併せて楽しんでいただけいると幸いです。