60:旅立ち①
鐘の音が街に鳴り響き、花吹雪が舞う。
街中に国旗と三角旗が飾られ、皆が浮き足立つ。
「うわー!想像以上に混んでるね」
サラが人の間から前の方を覗き込もうとしながら言う。
「サラの家の権力を持ってもこれか、すげぇな」
背の高いアーロンがその周りの様子を見ながら言う。
「リオンの晴れ姿、もうちょっと近くで見たかったなぁ」
そう今日はリオンがハンザに出発する日だ。
この国で結婚式はやらないため、王女の晴れ姿のお披露目と出発のセレモニーを兼ねたお祝いがされることになったのだ。
ちょうど城から出てきたリオンが乗り込む予定の馬車に向かって斜め右の位置に、サラの実家のツテを使って招待客席を確保したのだ。
「ったく、リオン、俺ら招待客扱いしてくれりゃあいいのによぉ」
「まぁ、色々あるんでしょ。ここ取れただけで十分だと思おう!……ねぇ、カイ……大丈夫?」
「ん?何が?」
「だってさ、好きな子の晴れ姿とかいなくなる姿見るなんてさ、しんどくないの?」
「……もう、全部置いてきたから」
そう言うカイの目は真っ直ぐと前を向いていた。
「お前も大変だなぁ。ま、さっさと次見つけろよ。あ、見た目はリオン並みは求めちゃ見つからんからくれぐれも気をつけろよ」
アーロンが笑ってカイにいうと、カイはフッと笑った。
管楽器のなる音が大きくあたりに響く。
その音にあわせ3人は城の方に目を向けた。
短めの階段の上にある重厚な扉が開かれ、城から現れた白いドレスに包まれた王女は、これまでみたどんな人よりも、花よりも、美しく、歓声が上がるはずの街は不思議と一瞬静粛に包まれた。
レースだけで作られたロングスリーブはリオンの滑らかな腕にしっとりと添い遂げ、フロントはその袖から続くレースが特徴となり、少し深めに入るVネックは艶やかなデコルテが輝くように見える。
腰元から広がるスカート部分は程よく広がり、袖のレースと同じレースのトレーンがリオンの後ろに続く。
敢えて流したのだろうゆったりと巻いたダウンスタイルの髪は、風もが祝うようにその髪を滑らかに靡かせている。
手に持つブーケは、この時期らしい白のラナンキュラスで柔らかな印象でまとめられていた。
そしてキュッと前を見る眼差しと、口元の笑みはその美しさの見せ方を完璧に理解している姿だった。
「うわぁ……リオンのこと美人とは思ってたけど、これは………」
サラが言う。
アーロンはもはや言葉を失って立ちすくんでいた。
少し離れたところにいるリオンがふとサラ達がいる方向に顔を向ける。
「おっこっち向いた?リオーーン!!」
アーロンがやっと動き、大きく手を振る。
だがリオンは気づかなかったのか、違う方向を向き、国民皆の様子を見ているようだった。
(目が、合った気がしたんだけどな…)
そうカイは思った。
(けど、気のせいか。それにあの顔は、もう……王女の顔か)
そう軽く笑って馬車に乗り込もうとするリオンを見送った。




