35:謝罪とお礼
夏休みの2日目にカイの家に遊びに行ってからしばらくが経った。
あの日はまるで夢のような時間だったとリオンはもうすでに思い出に浸っていた。
明るく可愛らしいお母さん、美味しいクッキー、いくらでも読める本や、賢いフーリー。
何をとっても最高だったのだ。
図書室で一人勉強をしていてふと顔を上げ外を見ながら思い出していた。
まだ生徒たちは夏休み期間中、学校にはほとんど人はいなく静かだ。
しばらく城の仕事もないようなので心穏やかにこの休みを過ごせることがリオンにとっての何よりの夏休みだった。
カイやサラ、アーロンがいないのは少し寂しいが、またもうしばらくしたら会えると思うとそれはそれで楽しみだ。
それに確かカイは明日には学校に戻ってくる予定だ。
カイにどんなお礼をしようかなと考えるが思い当たらない。
本人に会って聞いてみようかと窓から見える、エミリアの着ていたローブよりは少し明るめの木々を見ながら思った。
(この学校用の濃い青いローブも好きだけど、エミリアさんの緑色綺麗だったなぁ)
そんなことを考えた後、また手元の本に目をもどした。
***
「カイ、おかえり!!」
「あ、ただいま」
「あー静かな学校も好きだったけど、やっぱり友達いると嬉しいね」
そう言うとカイはフッと笑った。
荷物置いてくる、と言って一度寮に行った後食堂でお茶でも飲みながらと誘ったがカイはあっちの広場でと言ったのでリオンは先に食堂の裏の広場に向かった、
一人ベンチに座りご機嫌良くしばし待っているとカイがやってきた。
「リオン、ずっと寮だったよな?」
「うん。次の試験でカイを抜かせるように図書室に通い詰めてた」
ふざけながらリオンが言う。
「仕事どうだった?どんなことしたの?」
「たいした仕事じゃないよ。まだ見習いの扱い受けてるし」
「へぇ、カイが見習いなら私なんて雑用係だ。で、どんな仕事?」
ワクワクとしながらカイの回答を待つと、少しだけ彼は話すのを躊躇うような素振りを見せた。
「折角の休み期間なのに、リオンにあんまり良い思いさせないと思うんだけど。ただそのうち絶対伝えておきたいんだけど」
「え、なに?大丈夫。気になるから今言って」
「南の、ギールズに行ってきたんだ」
「え、いくら王都同士が近いとは言ってもまさか他国で仕事とは」
「それで、まぁ城の近くの仕事だったから色々と聞こえてくるわけだ。で、気になってちょっと探りを入れてた」
何のだ?とリオンは首を傾げた。
「やっとわかったんだ、あの植木鉢が落ちてきたり、『野犬』のことが」
その言葉にリオンはハッとした。
自分はもう死んだと思ったくらいの衝撃的な事件だったが、その後は何もなかったし随分と楽しい毎日を過ごしていたからか頭の片隅に追いやられていたのだ。
「わかったって、何が…?」
「あれ、どうやらギールズの王子が関わってたみたいだ。ちょうどあの事件があった頃、この国の国王が西のハンザと強めにコンタクトを取り始めていたようで。それを面白くないと思ったギールズの王子がリオンを探し出して……怪我をさせて傷物にしてしまおうと…。そうしておけば西への貢物はなくなるし、可哀想な王女を自分が……って」
カイのその言葉を聞いてゾッとした。
気持ちが悪い、なんてものじゃなく思わずリオンは自分の腕をかかえた。
それと同時にギールズの王子があの時なぜ魔術に興味があるとわざわざ言ったのか、意味がわかった。
「そっか……調べてくれてありがとう。けど、なんであれ以来何もなかったのかな…それがちょっと不思議で」
「俺が魔法使ったから。あの国にも何人かうちの雇ってる人間が行ってて。まぁ基本的にはそれぞれの契約に基づいて動いてるんだけど、うちの家の人間には絶対に逆らわないっていう約束になってるんだ。もし逆らったら…って脅しみたいなものだけど。だから使われた魔法が俺のものだって向こうで気づいたみたいで、手が引かれたみたい」
「え、じゃあほんとにカイのおかげで無事なのかわたし。…ありがとう」
「いや、お礼を言われることじゃない。むしろ俺はリオンに謝らなきゃならない。護衛の契約だったのに別でギールズと契約してたみたいで…リオンの元にあんなもの送ってきたのはうちの関係の人間なんだから……悪かった」
「いや、全然。むしろカイの家の関係の人だったから良かったよ。違ったらもっと厄介でしょう?」
そう言ってリオンはカイに向かって微笑んだ。
「ちゃんと……ギールズと契約してた人間、しめてきたから…」
カイがぼそっと言うので思わずリオンは笑ってしまった。
「なにそのしめたって。そんなことしなくて良いのに!カイが誰かをしめるなんて想像できないけど、見てみたかったな」
そうふふっと笑って言うと、カイは困った顔をした。
ギールズの王子の考えたことや指示したことは全く持って許せなかったが、あの一件の理由が思いの外あっさりとわかりリオンは随分安心した。
「う〜ん、なんかひとつスッキリした!ギールズの王子はちょっとあんまり良い印象じゃなかったからなんか納得した」
ひとつ大きな伸びをしてリオンは言った。
「あ、そうだ!私さ、カイにお礼したかったんだ」
そうだ。
カイにはあんなに楽しい思いをさせてもらったことのお礼をしなければならないことをリオンは思い出した。
その言葉にカイは、思い当たることは皆目見当がつかないようで頭の上にハテナがでていた。
「おうちに遊びにいかせてもらったお礼!」
「え、別に必要ないし……今話した話もあって、俺、リオンに謝らなきゃいけない立場だから……」
「それとこれとは別!でしょ?何かない?欲しいものとか、私にして欲しいこととか」
「だからいいって」
「むーん!そうじゃなくって、私が何かしないと気が済まないの!」
そう少しだけわがままを言うように言うとカイは流石に少しだけ考える素振りを見せた。
「……あの紅茶、どこから持ってきたんだ?」
「紅茶?あぁ、おうち持ってったのだよね?夏休み前にサラが街に出る時にくっついていって買ってきたの。あれがどうかした?」
「いや、母親、すっごい気に入ってほぼ独り占め」
そう呆れたようにカイは笑いながら言った。
「……リオン、街でるんだな。てっきり『家』行く以外出れないもんだと思ってた」
「まぁ、ほとんど出ないけど。というか一人じゃ何がどこにあるのか分からないからいけないし、何して良いかもわからないからサラと本当にごく稀に行くくらい」
それがお礼の何と関係があるのだろうと不思議に思いながらリオンはカイの言葉を聞いていた。
「じゃあ、行きたいところあるからつきあって」
「え?それだけでいいの?」
「あぁ、きっとリオンも楽しめるから」
「私も??何かよくわからないけど、良いよ!」
そうカイの行きたい場所に付き合うということがお礼の形となり、2日後に行くことになった。




