16:救いと約束①
夏休みが開け、授業もはじまりしばらくが経った頃だ。
リオンはひとり教室から図書室へと向かっていた。
カイも行くかなと彼の方をチラリと見たら先生と話をしていたので先に出てきたのだ。
少し前に、3年生にだけ許されているというこの学校伝統のパーティーも終わり、学校の中の雰囲気も秋の季節と同じく少しだけ落ち着いてきている。
「リオンちゃん、ちょっといいかな?」
聞き慣れない声に呼び止められ、リオンは足を止めた。
顔を見たがどこの誰かわからない。
けれど雰囲気からして上級生だろう。
誰ですかなんて聞くのは流石に失礼かと思いリオンは無言でその声をかけてきた男子生徒を見た。
身長はアーロンよりは高くない。
カイよりは少し高いか同じくらいだろうか。
焦茶の髪にキレ長の目元で、端正な顔立ちだ。
女子生徒に聞いたらきっと好きなタイプと言う人は何人かはいるだろう。
「今度の休み、予定ある?」
「え?」
「よかったら、遊びに行かない?」
どこの誰かわからないがどうやらデートのお誘いなのだろう。
名乗りもせず急に誘ってくるとは自分に自信があるのか。
「えっと予定は…」
ない。いや、ある。
図書室に行くと言う予定は毎週末入っているのだ。
けれどもないと言って万が一図書室にいるところを見られたらどうしようかと思案する。
試験前でもないのにも関わらず図書室で勉強することを予定と言えるのかどうかは人によって判断は分かれるだろう。
そのくらいは流石にリオンもわかっている。
「ない?なら、遊びにいこう?」
正直、誰かわからない人となど遊びに行きたくない。
こういうものはどう答えたら良いのだろうとリオンは考えていた。
「えっと…予定…」
嘘をつくのは悪いなと思うし、だからと言って行きたくない。
こうやって誘ってくるのだからきっとリオンに何らかの好意があるのだろう。
城でのこういうことは慣れているが、学校内となるとどう扱うのが正解なのかいまいちまだよく分からない。
この前の食堂のような件なら相手にどう思われようが構わないが、ちゃんと面と向かって話しかけてくる相手を無下にするのも申し訳がない。
「じゃ、約束ね」
そう言ってリオンの肩にその男子生徒は手を乗せた。
「あ、えっと予定が…」
そう言おうとした時だ。
なんてタイミングが良い。
カイがちょうど図書室に向かって歩いてきた。
「あ、カイ!」
そう呼び止めるとカイはリオンに気づき少し離れたところで足を止めた。
「今度の休みだったよね?図書室で魔法植物の復習しようって言ってたの」
一瞬カイは何もない上の方へ目線を向けた後、コクンと頷き返してくれた。
「ということで、すみません。予定あったんです。それでは失礼します」
そう緩やかに笑ってリオンはカイの隣に行き図書室へ向かっていった。
さきほどの生徒から見えなくなったところでリオンが口を開く。
「助かった。ありがとう」
「なんかよく分かんなかったけど、あれで正解?」
「大正解!本当、こっちが誰か知ってる体で話しかけてくる人、困るんだよね」
「……あの人、4年生で学年長やってる人だったけど…」
学年長をやるような人は大体頭も良く人当たりも良く人気があり、他の学年にも知られている人が多い。
リオンも一度やらされそうになったがそんな目立つ役職はたまったものじゃないので丁重にお断りした。
それにこんなにも人のことを覚えないリオンがやるべきことではない。
仕事じゃなければ人を覚えるのが苦手なのだ。
「あ、そうなんだ。全然知らなかったや」
「頭良いだろうから、勉強教えて貰ってるのかと思った」
「え、それはない。誰かわかんないもん」
その言葉にカイは一瞬驚いたような顔をした後、小さく笑った。
「なんで笑うの?」
「いや、俺に話しかけてきた時、誰かわかって声かけてきてたのかなって思って」
「うーん、言われてみればちょっと怪しかったな。その日の朝にミーナに教えてもらったから」
そう笑いながらリオンは言った。
「けど、カイより頭良い人なんてこの学校にいないでしょ?」
その言葉にカイは首を傾げた。
「謙遜は不要だよ!私がそう思ってるんだからそうなんだよ!って、あ、既成事実作るために今度の休み、よろしくね」
そうカイに言うと、ちょっと笑ったまま、わかったとだけ答えてくれた。
カイと話し始めたのはこの春先だ。
一緒にいることが多くなり、リオンは、カイは随分と優しい性格をしているのだなと思っていた。
彼はリオンの頼みを今のところ断ったことはない。
一方的にリオンが話しかけたのが最初ということもあり、友達だと言い切れる自信はまだないが、なんにせよ勉強仲間として認めてくれているのだろうことは十分にわかってきたのでちょっとリオンは嬉しくなった。




