表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/84

14:花の笑顔の使い方


今年の夏は随分と暑い。

ここ数日はやっとその暑さも幾分か収まり始めたなと思うほどには落ち着いてはきていたが、外に出ればカンカン照りの太陽がまだ健在だ。


夏休み残り3日。

段々と学校に戻ってくる生徒たちも増えてくる頃だ。

リオンは数日前に帰省を終え学校に戻ってきたカイと2人で昼食を取りに食堂に来ていた。

少しだけ時間をずらせば人はまださほど多くない。



「ねぇ、おうちのこと聞いても良い?」


カイに話しかけたばかりの頃、彼は家の仕事について答えてくれなかった。

それがあったから極力家のことは聞かないようにしていた。

リオンだって話せないことがあるように、きっとカイも何かあるのだろうと。


さっきまでちょうどカイが帰省していた時のなんてことのない話を聞き出していたのでそういえばと聞いてみたくなったのだが、念のため断りを入れたのだ。


「家のこと?」


「うん。黒魔術っていうけどさ、ほんとに暗殺とか呪殺とかやるの?…あ、答えたくなかったら答えなくていいから!単純な興味関心でしか聞いてないから!」


そう聞くとカイは思案するような様子を見せた。


「……多分、想像してるようなものじゃない」


「どういうこと?」


「やろうと思えば、やれるけど」


「けど?」


そう聞くがカイはまた言葉を選んでいるのか黙った。


やっぱり聞くのは良くなかったかなとリオンが少し反省した時だ。



「おい、あの2人なんで一緒にいるんだ?」



リオンの後ろの方の少し離れた席に座っている男子生徒だろう人達の会話が耳に届いた。

話している全ては聞こえなかったが、自分とカイのことを言っているのだろうことは理解できた。

きっとカイと距離を取るようなタイプの人間だろう。あのカイとリオンがなぜ一緒にいるのかという話をしているのだ。


(なんだかなぁ)


どこにいったって人のことをあれこれ言う人はいるのだ。

それが城だろうが学校だろうが場所は関係ない。


「私から聞いといて途中でごめんなんだけどさ、ああいうの気になる?」


そう後ろの方に座っているだろう生徒のほうへ目配せをしカイに聞くと、カイも耳に入っていたのだろう。

チラッとそちらの方を気づかれないように見た後、リオンに向かって話し始めた。



「いや、別に。昔から後ろ指さされるのは慣れてる」


「それ、良いのかどうか、何とも言えないね」


リオンの顔に苦笑いが浮かぶ。


「でも、なんだかなぁ。私たちに聞こえてるのにも気づいてなさそうだし。やるなら聞こえないようにやるか、直接聞きにくれば良いのに」


そう言ってリオンは思考をぐるりと巡らした。


(よし、やるか)


リオンは話をしていただろう生徒たちの方に顔を向けた。

カイからはリオンの顔は見えない角度だ。


生徒たちは急にリオンが顔を向けてきたので、リオンから見てもまずいと言わんばかりの表情をした。


その瞬間だ。


リオンは満面の笑みを彼らに向けた。ついでにウィンクでも飛ばしておこう。


固まっていた生徒たちの頬がみるみる内に赤く染まっていった。

きっとしばらく他の女子生徒が可愛いなどとは思えないほどのものを見てしまったのだ。



その様子をリオンは確認し、カイの方に向き直った。


「何したんだ?」


「ん?何もしてないよ?」


そうおどけて言うリオンは確信犯だ。

鼻歌でも歌いはじめるのではと思うほどリオンはしてやったりの顔をしていた。


学校ではあまりその容姿を武器にというようなことはしないようにしているがどうにも居心地が悪くなってやってしまった。いい気味だ。



「……さっきの回答」


カイの言葉にパッと頭が切り替わる。


「使い方で変わる。何したかわかんないけど、多分今やったみたいに」



その言葉になんとなく理解をした。

笑顔も使い方だ。人を明るくさせる笑顔もあるし、口を止めさせる笑顔だってあるのだ。

そんなこと城で生き抜くために嫌ってほど使い分けてきた。



「あぁ、なんとなく、わかったかも」


使い方によっては黒魔術と言われるものも、そうではなくなる。どういうことかはいまいちわからなかったが、なんとなくリオンは理解をしたのだ。


「これ以上は、話すのキツイな」


そう小さく笑いながらカイがリオンに言う。

きっとそれ以上は聞くなと言うことだ。それならリオンも理解できる。自分にだって秘密はあるのだ。


けれどもカイがそんな話をしてくれたのが嬉しくなり思わずリオンの顔は綻んでいた。


「ふふっ、教えてくれてありがとう」



食事はすでに終わっていた。

2人図書室にそろそろ戻ろうと席を立ち、廊下を歩いている時だ。



「さっき、結局何したんだ?」


カイがリオンに聞いてくる。

最近は彼からリオンに質問してくることも増えた。それがなんともリオンは嬉しかった。


「え、気になるの?」


「気になるって言うか……」


言葉を濁すカイにリオンの悪戯心がつい騒いでしまった。

カイに気づかれないようにニヤリと笑った後、トントンと彼の腕をたたく。


「なに…」


リオンの方に顔を向けたカイの動きはそこで止まった。



「こういうこと!」


そうニヤニヤと笑うリオンはカイの数歩先を歩いていた。


動きを取り戻したカイはリオンから目を逸らしたまま、はあっとため息をついた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ