13:休暇前
夏休みも目前の授業が終わった後のことだ。
「あ!カイ!図書室いくところだよね?一緒に行こう」
そう見慣れた後ろ姿を見つけ声をかけるとカイは振り返り肯定の頷きも拒否の首振りもなく立ち止まった。
「今日何やるつもり?」
リオンがカイの横に駆け寄って話しかける。
「休み前だし、娯楽」
「娯楽って?」
「前のあの本、読み込めてない部分多いから」
あの本とは特別申請を出して借りた本だ。きっとまた申請して借りたのだろう。
「なるほどなぁ。私も今日は娯楽にしようかな…調薬かなぁ」
「調薬?」
「うん、なんでも好きだけどわりと調薬好きなんだよね。薬師や医師がやるようなことをやってるのに、アプローチも、できあがるのも全然違うのって面白くない?」
「言わんとすることは」
自分の好きなものを理解してくれたようでリオンは少し嬉しくなる。
「カイは何が好き?」
そう聞くとカイは目線を上に彷徨わせた。
そしてその後眉間に皺が寄り始めた。
「考えたことないな」
「いや、そんな難しい話じゃなくない?」
「……知らないもの知ること」
「何それ、全部じゃん。案外カイって欲張りだね」
思わず笑ってしまう。
「そういえば、夏休みはどっかに行ったりするの?」
「家帰るくらい」
「ずっと?」
「2週間」
この学校の夏休みは3週間だ。ということは1週間は寮にいるということだろう。
「ふーん。じゃあ1週間は図書室来る?」
その質問にカイは首を縦に振った。
それを見てリオンはニコッと笑顔を向けた。
「じゃあ夏休みも勉強教えてもらおうっと」
そう言うとカイはまたそれかと言わんばかりの小さな苦笑いをリオンに向けた。
けれどもリオンは知っている。そんな笑い方をしたって、彼は嫌とは言わないし快くいつだって教えてくれるということを。
なによりもその苦笑いすら見せてもらえるようになったのだとリオンは少し嬉しくなっていた。
勝手にひっついているリオンを遠ざけたりせずになんだかんだで勉強仲間をやってくれているのだから、と。
1年の夏休みはずっと一人で図書室に通っていた。
城での仕事もたまにあったがただ淡々とした毎日が続いていた。だから今年は1週間だけでも一人ではないと言うことを知ってリオンは嬉しくなった。
(今年は城の仕事も少ないといいなぁ)
そんなことを思いながらカイと2人、いつもの窓際の席に向かった。