友達
——翌日。
「ぼ、僕と友達になってよ!」
休み時間、僕は右斜め前の席に座る男の子に話しかけていた。
彼は半ズボンに薄いパーカー、頭に赤キャップといういかにも活発な男の子という身なりをして、何かよく分からないタイトルの漫画を読んでいる。
そんな僕には絶対合わない子に話しかけちゃったわけだけど、もう後戻りは出来なかった。
無理してでもここは明るく、かつ親切に振る舞って友達を作らないと……。
男の子は急に横から話しかけて来た僕に一瞬呆気に取られていたが、すぐに気を取り直した。
「えっと……お前は確か……」
「小鳥遊です!」
「お、おう。よろしくな小鳥遊。転校生だよな。……えっと、どこから来たんだっけ?」
「長野です!」
緊張してつい敬語になってしまった……。
こんなんじゃ駄目だ。もっと柔らかく……。
男の子は少し興味を持ったのか読んでいた漫画を置いて、僕の方に体を向け直す。
「へー。 随分遠いとこから来たんだなぁ。どうやって福井まで来たんだ? 車? それとも新幹線?」
「ひ、飛行機だよ」
……よし!普通に言えた!
「ヒコーキ!?」
「ヒコーキ乗ったのか?どんな感じだった?詳しく教えろ!!」
男の子は餌を目の前にした子犬のように目を輝かせて席を立ちこちらに顔を近づけてくる。
飛行機に乗ったことがなかったのか、さっきまでと打って変わったその勢いに僕は少しだけ仰け反ってしまった。
……でも友達と話すってこんな感じなのか。
人に興味を持たれるってなんか嬉しいな……。
「こう、ぐわーんってなって耳がキーンってなって超高かった」
僕は気分が乗ってきたからか不慣れにも身振り手振りを使ってわざと戯けてみせた。
以前の僕ならきっとこんなことはやらない。
現に今超絶恥ずかしい。
でもこのくらいしないと彼とはきっと仲良くしていけないし、他の誰も興味を持ってはくれないから。
「ハハッ、小鳥遊お前面白いな。 俺、原田 拓。拓でいいぜ!よろしくな!」
拓はニカッと笑いながら、手持ち無沙汰になっていた僕の右手を掴む。
「よ、よろしく!」
これが僕に初めて友達ができた瞬間だった。
嬉しい。たったその一言だった。
僕だって頑張ればこんなに簡単に友達ができるじゃないか。
しかも拓は初対面で気弱な僕に優しく接してくれた。
今までも拓みたいな人がいたかもしれないのに、ずっと自分の殻に閉じこもっていた僕が馬鹿みたいだ。
今日は早く帰って父さんに本当の報告をしよう。
ちゃんと……笑ってくれるかな——。