ふるきをたずね
この作品はフィクションです
「温故知新、という言葉があるね。」
「あるな。」
「古きを訪ね、新しきを知る、的な?」
「そんな感じだな。」
「つまり、過去に学んだことを再度覚え直し、そこから新たな学びを得る、ということなんだよ。」
「まぁ、そういうことか。」
「というわけで、」
「?」
「昨日食べたイチゴのショートケーキをもう一度食べることで新たな学びを得ようと思うが故に早く用意したまえ。」
「却下。」
「なんでよ!?」
「それはただ単にお前が食べたいだけだろ。」
「………はぁ〜〜〜。」
「なんだよ。」
「そんな浅はかな考えで、この私が行動すると思うのかね?」
「思う。」
「正解。」
「あっさり認めるじゃん。」
「食べたいんだもん〜〜〜。食べさせておくれよ〜〜〜。」
「あっさり本音言うじゃん。」
「本音で向き合うのは大事なんだよ。」
「まぁ、向き合ったところで、今日はショートケーキは出ないけどな。」
「なんでよ!?」
「…自分で言っておいて、全然温故知新出来てないな、お前。」
「………おん、こ…?」
「ド頭に自分で言っておいてもう忘れたのか?」
「私の頭は常に刷新と更新を繰り返してるからね。」
「それで数分前に言ったことを忘れてるなら、それは単なる欠陥でしかない。」
「忘れたのなら、また学べばいいんだよ。これこそ、温故知新!」
「そしてまた忘れるんだろ?」
「正解。」
「あっさり認めるじゃん。」
「でも楽しいんだよ。」
「何が?」
「忘れたことを学ぶ時、私は毎回新鮮な気持ちで学びを得ることが出来るんだよ。言い替えれば、毎食新鮮なお刺身を食べることが出来ているようなものなんだよ。」
「その例えはどうなんだろう。」
「そんなわけで、」
「どんなわけで?」
「私にイチゴのショートケーキを」
「却下。」
「なんでよ!?」
「学ばないねぇ、お前は。」
「こんなに温故知新を大切にしている私に、学びが足りないと?」
「いや、なんていうか…、そういうのとは違う次元な気がする。」
「なるほど。つまり異世界転生だね。」
「なんでそうなる。」
「異世界転生するなら、あれがいいかな。猫。」
「猫になりたいのか?」
「猫ってよく寝るじゃん?」
「その印象はある。」
「睡眠って大事じゃん?」
「大事だな。」
「………な?」
「何が?」
「よし。今日も大変に温故知新な一日でした。」
「どこが?」
「明日もしっかり、ちゃんこ維新していきましょう。」
「温故知新な?」
「………おん、こ…?」
「もう忘れたのかよ。」
ショートケーキもちゃんこ鍋も美味しいね。