しらないひと
この作品はフィクションです。
「知らない人から急に着信が来ると怖いよね。」
「まぁ、詐欺とかの可能性が高いからな。」
「そんな時、どうしてる?」
「俺は無視してる。」
「一切無視?」
「一切無視。」
「へぇ〜。めっちゃトルマリンじゃん。」
「どういうこと?」
「トルマリンの思い出ってある?」
「特に無いけど。」
「それは…残念だ。」
「………。」
「………。」
「………え、なに?」
「ん?」
「トルマリンの思い出が無いと残念なの?」
「思い出は少ないよりも多い方がよくない?」
「それは、まぁそうかもしれないけど。」
「そう。そんな風に言っちゃうところがキミがトルマリンになれない理由なんだよ。」
「別になるつもりもないのだが。」
「トルマリンになれない奴が猫目石になれると思うなよ!」
「思ってないのだけれど。」
「そうか。だからキミは、猫目石よりもターコイズが好きなんだね。」
「さっきからめっちゃ石じゃん。」
「石じゃないよ。宝石だよ。」
「大きく括れば石だろ。」
「いーや、石じゃないね。沙羅双樹だね。」
「盛者必衰の理。」
「粋だよね。」
「そうか?」
「知らない人から急に着信が来たとき、私は高速で平家物語を読むことで心の平穏を保っている。」
「アカデミック精神安定剤。」
「疑問超過の金とコネ。」
「違うね。」
「助走無用のニシキヘビ。」
「違うね。」
「沙羅双樹の花の色。」
「そこは当たってるんだ。」
「ショータイムワナビーゴーナウ。」
「全っ然違うね。」
「そう?」
「違うよ。」
「私は先生からこう習ったんだけど。」
「どこのどいつだそのダメ教師。」
「知らない人。」
「……………え?」
「ん?」
「いや………、え?」
「ん??」
「いやいやいや怖い怖い怖い。」
「大丈夫?カレージュース飲む?」
「何そのスパイシーな飲み物。」
「カレーって普通に食べるとめっちゃ美味しいのに、ジュースにすると急に不味く感じるのはなんなんだろうねぇ。」
「そもそもカレーをジュースにしないだろ。」
「先生はするって言ってたよ?」
「知らない人なんだろ?」
「うん。」
「知らないのに、先生、ってのは、どういうことだよ?」
「知らないアドレスから着信があって、無視してたら、デタラメ平家物語とかカレージュースとかの話を毎日送信してくるんだよ。だから、勝手に先生って呼んでる。」
「今すぐ着信拒否しろ。」
触らぬ神に祟りなし。