みかん
この作品はフィクションです。
「みかんって美味しいよねぇ。」
「美味しいな。」
「みかんってなんであんなに美味しいんだろうねぇ。」
「何でだろうな。」
「やっぱあれかね。かん、って響きがいいからなのかね?」
「響き?」
「そう。」
「音の?」
「そう。」
「…どういうこと?」
「例えばさ。みかん、が、みさん、だったらさ。どう?」
「………なんか、酸っぱそう。」
「みかん、が、みぱん、だったら、どう?」
「………なんか、炭水化物みたい。」
「みーちゃんだったら?」
「名前っぽい。」
「ミトンだったら?」
「えーと………、…手にはめるやつ?」
「ミトコンドリア入りミトコンドリアだったら?」
「一時停止。」
「なんぞ。」
「みかんがなんで美味しいのか、って話だったよな?」
「それ以外有り得ないんだよ。」
「だとしたらダメじゃん。みーちゃんとかミトンとかミトコンドリア入りミトコンドリアとか、最早脱線しすぎててダメじゃん。大事故じゃん。朝のワイドショーの速報じゃん。」
「おはようございます。」
「おはようございます。」
「早速ですが速報です。」
「お願いします。」
「我が家の朝食が朝七時から朝六時半に早まりました。これにより、睡眠時間が削られるという緊急事態に陥っております。」
「一時停止。」
「あのね、同居人ね、なーんーでー急に三十分も時間が早まったのかね、その説明をね、して欲しいんだよ。それが消費者のね、正直な声なんだよね。」
「嫌な感じのコメンテーターするなよ。」
「で?実際のところはどうなんだよ?噂の彼女との恋のあれやこれやは。」
「どこから出てきたそんな話。俺に彼女なんていないだろ。」
「あ…………。…ごめんなさい。」
「マジなトーンで謝罪するのやめて?」
「なんで?」
「リアルに傷つくから。」
「あ…………。…ごめんなさい。」
「わざとか?」
「わざとだ。」
「やっぱり。」
「ま、それはそれとして。なんで朝御飯の時間が早まったんだよ?」
「出勤時間が早くなったから。」
「それで早めた、と?」
「そう。」
「理不尽な。」
「何が。」
「睡眠時間が三十分削れるってことが、どういうことかわかっているんだよ?」
「三十分早く寝ればいいだろ?」
「盲点だった。」
「納得の早さ世界ランカーかよ。」
「つまりあれだね。全体的に前倒しにしなさい、と。そういうことだね?」
「まぁ、そうだな。」
「みかんも全体的に前倒しにして、まかん、にしなさい、ってことだね。」
「なにその悪魔の世界みたいな響き。」
「漢字で書くと馬肝。」
「肝臓は大切だよね。」
二度寝の30分ってめっちゃ気持ちいい。